ひなたの待つ
駒橋高校の文化祭も駆けつけた零。
ファイヤーパーティーの炎を眺めながら
ふたりの間で交わされる言葉とは――。
季節は実りの秋。
「天才」に異様な嫉妬を燃やす「元天才」棋士、
重厚な棋風に経験という厚みを増したベテラン、
一筋縄ではいかない相手との対局を通じ、
零は確かな成長を遂げていく。
「羽海野チカの世界展」の来場者特典で配布した
幻の「13.1巻」より『あかりの銀座物語』も収録!
銀座に集う人たちが紡ぐあたたかい物語です。
桐山くん(桐山零)はひな(川本ひなた)にようやく気持ちが伝わりました。ようやくです。よかったです。
獅子王戦、桐山くんは元天才と言われている野火止あづさ(のびどめあづさ)六段と対局です。野火止六段は研究と勉強を重ねても序盤で全てが台無しになってしまいます。桐山くんは勝ち進んでいくにつれて知らない局面に到達するのが早くなっているのを感じています。そこはまっ暗な部屋で、そこからはてがかりもなく、自分の判断だけを頼りに進みます。次の一歩が崖なのか平らな場所なのかわからない恐怖と常に向き合いながら一手一手指していきます。良い手を指したと思ったのに、その一手が絶望的な一手になったりする対局の描き方が面白いです。
野火止六段に勝利した桐山くんは、田中太一郎(たなかたいちろう)七段との対局です。
桐山くんは研究して用意して来た戦法をあっけなく崩され、すぐにまっ暗な部屋に到達してしまい、焦りとパニックと恐怖の中対局は進みます。なんとか勝利を手にします。しかし桐山くんは初めて怖い勝ち方というのを経験します。
桐山くんが将棋に対する焦りと必死さの自分の考えを説明して、林田先生が桐山くんに迷いなく言う言葉がかっこよかったです。
感情を取り戻し、居心地のいい安心できる居場所を見つけた桐山くんは今後どう将棋と向き合うのか楽しみです。
●154 星のふる夜に 1
桐山くんはひなが送ったメッセージにあった冷やし白玉とあべ川もちを食べて、ひなと歩きます。桐山くんのクラスの出し物を見に行って、後夜祭「ファイヤーパーティ」が行われる校庭に行きます。
大きな焚火を見ていると、桐山くんのクラスの小池君と山下君が話しかけてきます。小池君と山下君はひなをみつけて、桐山くんに彼女がいるとからかいます。ひなは必死に違うと否定します。桐山くんはひなに、
「ちがわないよ というか違わなくなりたい ひなちゃん 君が好きだよ」
と言います。
●155 星のふる夜に 2
焚火の熱さなのか、桐山くんの告白なのか。ひなの顔はまっ赤です。
ひなは桐山くんが初めて家に来た時のこと。桐山くんのために居心地のいい安心して力の抜けるそんな場所を作ってあげたいと思ったこと。存在がどんどん大きくなって、今度は桐山くんが居場所を守ってくれたこと。ひなは桐山くんに会ったときからこれまでを思い返します。
桐山くんとひな互いにしっかりと思いを確認し合います。
●156 あづさ1号 1
野火止あづさ六段。桐山くんの対局相手です。
野火止六段は一旦思考が始まると止まらない性格のようです。現在、桐山くんや二階堂が登場してから「元天才」という扱いを受けてしまい、もう一度返り咲くため闘志を燃やしています。
●157 あづさ1号 2
野火止六段は自分には天から与えられた力があると思っていました。
しかし、二階堂に敗北し、武器だと思っていたものを次々に失います。
世間の注目は桐山くんや二階堂にばかりいってしまい、野火止六段は終わったと言われてしまいます。そこから立ち直り、桐山くんとの対局に挑みます。
●158 あづさ1号 3
野火止六段の対局中の思考が面白いです。たくさん研究して勉強して挑んだのに、序盤で想定していない一手を指され涙目になりながら、それでも自分の棋力を信じて突き進んでいきます。
●159 あづさ1号 4
野火止六段は集中し過ぎると服を脱いでしまうという癖があります。
野火止六段の奇行は桐山くんに影響を与えません。
桐山くんは集中していくと頭の中から音が消えていくという現象が起きます。その現象を感じると次の一手はこれまで経験した、研究勉強した中にはないことを知るようです。
●160 あづさ1号 5
桐山くんの頭の中では音が消えると、自分がまっ暗な部屋に行きつく映像が浮かんでいるようです。まっ暗な部屋から先は手探りで自分の判断だけを頼りに進んでいかなくてはいけません。
桐山くんの判断した一手が、野火止六段を追い込みます。
野火止六段は息苦しさを感じながらなんとか一手を指します。
しかし、桐山くん次の一手はさらに野火止六段を窮地に立たせます。
桐山くんが勝利します。
桐山くんはまっ暗な部屋にいるとき、浮遊しているような、身体が消えてしまいそうになる感覚の中対局しています。これまではそれでもかまわないと思っていたのに、ひなが送って来たメッセージを読み、彼女の笑顔を見ると、現実に引き戻されます。ひなの存在で、桐山くんは戻ってこられていることを生きていることを実感できます。
●161 道 1
桐山くんは心が穏やかになりすぎないように、自分に集中と言い聞かせます。
次の対局は田中太一郎(たなかたいちろう)七段です。
●162 道 2
桐山くんは研究して戦術も準備して来たのに、あっさりと田中七段に崩されてしまいます。
野火止六段との対局のときと立場が真逆の展開です。
桐山くんは焦る心を抑え、冷静に指そうとします。
しかし、田中七段は手を緩めません。
●163 道 3
桐山くんはなんとか集中して指したいと思います。しかし、集中しきれません。
なのに音が消え、まっ暗な部屋がやって来ます。その早さに桐山くんは呆然とします。
●164 道 4
桐山くんは焦りから混乱しかけます。立ち直れたのはひなのおかげでした。なんとかこらえて勝利します。勝ったのに、こんなに怖い勝ち方は初めてで不安に襲われます。
●165 道 5
翌朝目が覚めると昨夜はあんなに不安だったのに桐山くんは起きて朝食を摂れた自分に驚きます。
これまでなら不安に襲われたら何も食べられなくなって体調を崩して、そのまま何週間も戻れないという感じでした。
学校で桐山くんは林田先生に、図太くなったと話します。
林田先生は、桐山くんのまっ暗な部屋の話を聞き、
「アウトプットばかりでインプットが追いつかなくてバランスが取り戻せない感じか?」
と答えに詰まっていた桐山くんに正確に分析してみせます。
桐山くんはおにぎりを食べたことで将棋に対して図太くなれたのはもしかして泥水でも雑草でも食べられれば何でも必死でかき集めてた頃には戻れないのではという考えを話します。
だから、と言う桐山くんの言葉を遮り林田先生は、
「桐山 先に言っとく!! そのおにぎりは絶対手放すな」
と桐山くんをずっと見てきたから強く言います。教師としても将棋を愛するファンとしても完全にダメなことなのに桐山くんを思うとそう言わずにはいられなようです。
桐山くんを思いやる林田先生がかっこいいです。
●166 道 6
桐山くんは、勝たなければ、強くなければ、将棋で力を示さなければ僕には何も残らないから!! 勝てなければ僕はただの役立たずだ!!、とずっと考えているようです。
順位戦B級2組第六局に敗北し今期昇級はかなり苦しくなります。
暗い気持ちで帰ろうとすると、田中七段に声を掛けられ、飲み屋で二人で話をします。
田中七段は昔桐山くんのお父さんと対局したことがあって、その頃の話をします。そして、桐山くんと対局して不思議な気持ちにだったよ、と話します。
「だから 何というか 君は ここまで本当に…… 本当によくがんばったんだな」
と田中七段は桐山くんの背中にそっと手を当てます。
桐山くんはその手の温もりで父との記憶がよみがえります。
田中七段と別れ、桐山くんは橋の上でぼんやり父の声を思い出していると、メッセージが届きます。
あかり、ひなた、モモと林田先生がもんじゃ焼きを食べているので来ないかという誘いです。
店に入り、ひなの隣に座ると、
「れいちゃん おなかへってるでしょ? 何食べる?」
とひなが桐山くんの背中に手を当てて話しかけます。そこでも父の温かかった手を思い出します。
桐山くんは家族の温かさを失くし、たくさんの人の温かさを手に入れました。人の温かさによって将棋の世界でこれから失くすかもしれないものがあるかもしれない。そして、ひなの笑顔という絶対に失いたくないものを抱えて、桐山くんはこれらの感情を全部受け止めてこれからの人生を歩いていくのだと考えています。
●Special Episode
銀座の「バー美咲」でのお話です。
ハイカロリーな食べ物をお腹いっぱい食べてしまい、あかりのドレスのボタンがはじけ飛んでしまい、あかりは伯母の美咲から美味しい料理を禁止されてしまうというお話です。
続きます。
羽海野チカ 3月のライオン 15巻
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