2023年5月30日火曜日

あきづき空太 赤髪の白雪姫 21巻

●102

休暇最終日。

ゼンとミツヒデと木々は王城ウィスタルの城下で食事しています。

宿に泊まろうかと言うミツヒデに、ゼンは王城の自室で目覚めたいと言います。

朝、ゼンはハキと会い、執務室に行きます。

木々にルーギス家当主アマキゼとヒサメが訪ねてきたと知らせが入ります。

木々とヒサメの結婚の話が進められます。

ゼンがイザナに会いに行き、ウィラント城に行くと伝えます。



●103

ゼンは木々の結婚の話が進んでいるので、ウィラントに一緒に行けるのかと訊ねます。

木々は、

「お供します 殿下」

と返事します。


イザナ陛下は正式にゼンをウィラント領領主補佐に命じます。


オビと白雪に王城から書状が届きます。



●104

書状にはゼンがウィラントに行くこと、木々の婚約などが書かれています。


オリンマリスの新しい種を登録するのに何と名付けるか会議が行われます。

新種の名前はフォスティリアスに決まります。


王城の薬室長ガラクから白雪とリュウに指令状が届きます。

リュウはリリアス赴任は三月後の春までで一度王城に戻るよう書かれています。

白雪はフォスティリアスの普及のため拠点をめぐり陛下よりの役目を終えるまで、引き続きリリアス赴任とすると書かれています。

イザナ陛下からの言葉も書かれてあり、薬室の全員にオビが読み上げます。

シダンは道の管理者に許可を取って広める役目は白雪とオビに任せます。

リュウは迷います。



●105

リュウはキリトに相談し、ラタにも相談します。シダンとも話して、白雪とオビに思いを話します。



●106

リュウは白雪とオビにフォスティリアスを広める旅に一緒に行きたいと言います。

王城の薬室長ガラクにリュウからの書状が届きます。

ガラクからの返事が来て、リュウは白雪とオビに許可が出たと言います。



●107

フォスティリアスの申請の結果が出ます。新種と承認されます。

早速、出発に向けて話し合われます。

まずリリアスでマキリに会い、街道にフォスティリアスを植える許可を得ます。

マキリはいい結果を期待すると言います。

白雪はウィラント領で人のつながりを得ることも、フォスティリアスの普及させることと同じくらい大切なことだと考えます。

白雪とオビとリュウはフォスティリアス普及のため出発します。

続きます。



あきづき空太 赤髪の白雪姫 21巻
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2023年5月28日日曜日

あきづき空太 赤髪の白雪姫 20巻

●96

白雪はリリアスでゼンと会えるのがうれしいようです。


ゼンと白雪はオビが女性と会っているのを目撃します。二人は気まずくて隠れてしまいます。

オビはしばらくすると一人でどこかへ向かいます。

ゼンは白雪に、

「よし つけるぞ」

と言い二人で後を追います。

オビは天幕街の櫛屋に入っていきます。

ゼンと白雪は茶屋で休憩します。

オビは店から出て来てゼンと白雪のほうには歩いて来ます。

「奇遇ですねぇ お二人さん」

と尾行していたのに気づいています。

三人で酒場に行きます。

オビは二人をからかっていました。

オビが会っていた女性についてと隠していた理由を話します。

すると白雪が、

「ゼン オビ 話しておきたい事がある セレグでの事ではっきりと知った 何かが起こった時 それぞれに役割も領分もあって踏み入れられない場所がある事 だけど 別の場所に居てもこうして同じ場所にいても私は皆の方を必ず向いているからね」

と言います。

「だから… その」

と言うとゼンが、

「という事は手を伸ばしさえすればいつでも掴んでくれるのか?」

と言い、手を差し出します。

オビが手を差し出し、白雪が二人の手に重ねます。

白雪が階下を見ると、ミツヒデと木々がいます。



●97

ミツヒデと木々が合流します。

白雪がアルコールで寝てしまいそうなので、オビが部屋まで送ります。

木々がゼンに報告があると言います。

「ゼン 前に話した通りミツヒデに求婚して振られたよ」

と言います。

ちょうとオビが戻って来ます。

ゼンもオビも驚いています。

ゼンは木々と二人で話そうと席を外します。

オビは酔いが醒めたと言い、ミツヒデに何を言うべきかわからないようです。

木々はゼンに胸の内を話し、ミツヒデを頼むと話をするよう言います。

戻ってきたゼンは、

「ミツヒデ! 俺に話はあるか?」

と言います。



●98

酒場を出て、木々とオビは二人で話します。

オビは木々の話を聞いたのだからと自分の思いを話し、今後も何も変わらないと言います。


ゼンはミツヒデの思いを知ります。思い詰めるなと言っても時間がかかるようです。


翌日、ミツヒデは木々と朝食を摂ります。



●99

ゼンは訓練に参加し、白雪とオビは薬室の掃除をします。

午後は白雪とリュウと木々が一緒にお昼ご飯を食べます。

夜はゼンと白雪は地図に書かれた飯屋に向かいます。



●100

飯屋と思って来てみたら宿屋でした。

ゼンと白雪はゆっくりくつろぎます。

吹雪になり、外に出られません。今晩はこの宿に泊まることになります。



●101

宿屋はミツヒデと木々とオビが企んだことで、ゼンと白雪に合流し、別々に泊まります。

休暇が終わります。

続きます。




あきづき空太 赤髪の白雪姫 20巻
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2023年5月26日金曜日

あきづき空太 赤髪の白雪姫 19巻

●90

ゼン、白雪、オビは馬に乗ってリリアスに向かいます。



●91

雨が降って来て、雨宿りをしていると、他にも雨に降られて人が入ってきます。三人組の男性です。

一人目の男性はゼンと他愛のない言葉を交わします。

二人目の少年はゼンを見てどこかで会ったような気がすると言います。

三人目の少年、

「あ ゼン殿下」

と言います。

ゼン殿下と言われたゼンは目の前に立つ少年が誰なのかわかりません。

一人目の男性と二人目の少年はゼン殿下と聞こえて水滴を拭う手が止まります。

ゼンは三人目の少年をよく見てみます。そして、リュウだと気がつきます。背が伸びていて驚いています。

「リュウか!?」

というゼンの声に白雪が振り返ります。

二人目の少年はキリトで、キリトはオビを見つけ、

「あーーーっ あれ!? オビの兄ちゃんじゃん」

と叫びます。

オビは雨宿りで入って来た人物が危険ではないことを判断し、奥で静かにしていると、その一人がリュウだったのであとの二人が誰なのかわかったようです。頭から布をかぶり顔を隠して、ラタがゼンとどう接するのか反応を楽しんでいたようです。ラタがゼンだとわかった時の様子を見て笑いをこらえています。


ゼンはリュウとラタとキリトと一緒に近くの街まで行きます。

街へ入りいろいろ話していると、今夜は野営しようという話になります。



●92

セレグ騎士団基地ではミツヒデとヒサメが事件のことや互いのことについて話します。

木々は自分の邸に行ってミツヒデとヒサメを待っています。

セイラン邸についたミツヒデに木々はに求婚します。

ミツヒデは断ります。



●93

セイラン邸で収穫祭が催されます。

夜、ミツヒデは木々に思いを話します。

セイラン伯とヒサメも聞いています。

ミツヒデのゼンがいて木々がいる、ゼンを守るという気持ちをできる限りの言葉で木々に伝えます。



●94

ミツヒデのゼンを守るという誓いへの思い、ゼンを失うことへの恐怖を味わったこと、木々とセイラン伯とヒサメは痛いほどミツヒデの思いを感じ取ります。

木々は何かを決めたようです。



●95

リリアスに到着します。

ゼンはしばらくリリアスに滞在することを、帯は帰還したことを兵舎に伝え、薬室に向かいます。

白雪は薬室に戻ったことを報告します。

鈴とユズリはオビの横にいる男性が誰なのか知りません。

ゼンは自ら名乗ります。

鈴とユズリはオビが主と呼ぶ人物が誰なのか知らなかったので、主と言うのがゼン殿下であること、オビに身分に衝撃を受けます。


白雪とオビがゼンに自分たちがよく行く場所を紹介します。

続きます。



あきづき空太 赤髪の白雪姫 19巻
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2023年5月24日水曜日

あきづき空太 赤髪の白雪姫 18巻

セレグで起きた事件解決です。

ゼンがハルトに代わりウィラント城の城主になる時、ツルバとタリガのベルガット家はゼンを支える大きな力になれていればいいのになと思います。




●84

木々とオビとツルバはセレグの基地が見える所まで来ています。基地は篝火をたいているかのように明るいので異変を感じ取ります。


トウカはツルバ、タリガ、ゼン全てを消してしまわなければ、今後やっかいな事になると考えています。


ゼンは周囲の刺客は倒します。

基地の中あらゆる場所に刺客が侵入しています。

ゼンはタリガにどうやって部屋を出たと訊きます。

タリガはトウカと話すため見張りを薬で眠らせたと言います。

ゼンはトウカはどうしていると、トウカの部屋に急ぎます。

部屋の扉は閉じられています。

ゼンはタリガに真相を聞き出していると、篝火に薬が仕込まれていて、兵士たちの意識が遠のいていきます。すぐにその場から離れます。全員が多少の薬を吸いこんでしまい、意識が落ちそうになります。

ゼンとタリガは周囲に殺気を感じます。

タリガは、

「……ゼン殿下 ベルガット家というのは最早北での支配力を再び手にする為だけに存在しているのです」

トウカが姿を現します。剣を手にしています。


木々とオビとツルバが戻り、団長にベルガットの仕業だと証明する証拠を手渡し、ゼンのもとに向かいます。何人もの刺客が行く手を遮ります。

「木々!! オビ!!」

大きな声がします。ゼンです。

木々もオビもこの先にゼンがいるのがわかります。

オビは木々にここは任せて早く主の所に行くよう言います。

木々が急ぎます。木々に並走するようにミツヒデが合流します。

二人そろってゼンのところへ走ります。



●85

ゼンとセレグ騎士団とタリガは劣勢に立たされます。

何とかしのいでいると、ミツヒデと木々が間に合います。

ミツヒデは傷だらけのゼンを見て我を忘れそうなほど怒りの形相です。

ミツヒデはトウカを切りつけます。



●86

オビとツルバがやって来ます。

ゼンはタリガに声をかけます。タリガはツルバが生きているので安心します。

トウカは服毒を試みます。ツルバに阻止され、トウカは気を失います。

刺客も全滅し、緊張が解けたのかゼンは気を失います。


全員の回復を待ちます。



●87

近衛兵団ランカは王城ウィスタルに戻り、イザナ陛下にセレグでの事件を報告します。

イザナはランカが青ざめる程恐ろしく不機嫌です。

ゼンが王城に戻ります。イザナに会いベルガット家の処分について意見します。

イザナは考慮すると言い、ゼンは下がります。


イザナはベルガット家当主トウカを幽閉し、領地の半分を没収、伯爵位剥奪します。没収した領地の所有権はウィラント城城主ハルトに移されます。ツルバは子爵位を継ぎベルガット家の当主となります。しかし、ツルバとタリガは当面の間謹慎処分という措置をとられます。



●88

ゼンは白雪に会いに薬室を訪れます。薬室長ガラクから白雪は書庫にいると言われ、書庫に入ります。

扉が開く音がして白雪は誰かが入ってきたのだと作業を止め見てみるとゼンが立っています。

目が合うと白雪は目にいっぱいの涙を浮かべます。

白雪にゼンを力で守ることはできないので、無事に帰って来るのを願いただ待つことしかできないので、とても忍耐のいることだったと思います。

ゼンは白雪に会ってようやく身体の力を抜くことができたようです。



●89

束の間の休暇です。

ミツヒデと木々は別行動です。

ゼンと白雪とオビの三人でのんびり過ごします。




トウカは完全にベルガット家優勢で計画が進んでいたのだから、油断せず一気に片付けなくてはならなかったのに、わざわざ完全に敗北するためにセレグに来たように思えます。彼の悲願があと少しで達成できたはずなのになと思います。

続きます。



あきづき空太 赤髪の白雪姫 18巻
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2023年5月22日月曜日

あきづき空太 赤髪の白雪姫 17巻

●78

ヒサメはベルガット家から木々に縁談と聞いて、婿候補が襲われているのに木々に縁談を持ちかけることに疑問を感じます。

セイラン伯はそもそもベルガット家との縁談など慎重になるところと言い、事件が起こっていること、セレグ騎士団にベルガット家当主の弟二人が在籍していることなど偶然とするには集中し過ぎていることで受ける気はないと言います。

木々はヒサメのルーギス伯爵家との縁談の話が進んでいると、ベルガット家に返事して欲しいと言います。

詳細を聞いたセイラン伯は、この縁談話が広まれば、ヒサメに巻き込むことになるがいいのかと訊きます。

ヒサメはこそこそと何か企んでいる輩が食いついてくれれば、セレグ騎士団としても望むところですと言います。


ゼンとミツヒデはツルバとタリガに会いに行きます。

話をしていると、木々とヒサメがやって来ます。

木々はツルバにあとで二人で話がしたいと言います。


ツルバはタリガに木々がヒサメと縁談話が進んでいるという話しをしてきたと言います。

タリガは兄上はどうするかなと言います。

ツルバは近い将来ゼンがウィラント城城主となり、北の目付け役になるはずだから、木々と婚姻関係があるかどうかはベルガット家にとって大きいと話します。


ゼンはヒサメにツルバとタリガについて話し、気をつけろと言います。話していると、丘に煙があがったと知らせが入り、ヒサメの隊が向かいます。

煙があがっている周囲を調べようとしたら、林の中から矢が飛んできます。

ツルバを狙った矢はタリガがかばい肩を負傷してしまいます。


セレグの基地にウィスタルから近衛兵団の急使がやって来ます。



●79

ヒサメはツルバとタリガに基地に戻れと命令します。そして、

「僕が戻るまで動かず待て」

と言います。

ヒサメは矢が飛んできた方向を見ます。同じところから矢が飛んできてヒサメも肩を負傷します。林の中の狙撃手を追います。


セレグに来た近衛兵団はゼンに貴族襲撃事件の首謀の疑いでミツヒデの身柄を拘束すると言います。

ゼンは冷ややかな表情でそんなわけないと否定します。

ヒサメとツルバとタリガが姿を見せます。

ヒサメはゼンに丘であったことを報告します。

近衛兵団のランカは証言と証拠があると言います。

ミツヒデは剣を渡します。

動けるゼンと木々の二人で誰が仕組んでいるのか、本当の首謀者を探します。ツルバとタリガを監視しています。

ツルバは見張りの目をかいくぐり城の外に出て人と接触します。

「追う?」

と言う木々に、ゼンはヒサメが話した放たれた矢でタリガが負傷した時ツルバとタリガの表情を気にしていたことを思い出します。ゼンは、

「いや、無駄だろう」

と言います。

ゼンは人をよく知ろうとする人物なので、ふたりが何を語るかまずはそこからだと言います。

そこにオビが合流します。



●80

リリアスで伝令を受けたオビは白雪に護衛をつけて、ゼンのために情報収集をしながらセレグに急ぎます。ゼンと木々にベルガット家とトーズ家を徹底的に調べる必要があると報告します。

鳥がオビに止まります。遠くにいる仲間と通信するために訓練された鳥で文書を携えています。オビは文書の内容に目を通すと、

「主! 木々嬢! ベルガットの当主がこっちに向かっているらしい!」

と言います。

ゼンはツルバとタリガに会いに行き、隠していることがあれば話せと命令します。

ツルバは心当たりはないと答えます。



●81

ゼンが去ったあと、ツルバとタリガには自分たちに起こった事、ミツヒデと木々に起こった事について話し合います。ツルバとタリガが初めて自分たちの意思で行動しようとしていること、ベルガット家という一族についてのここに至るまでの経緯、二人がベルガット家から距離を取ろうとしていることが描かれます。

ツルバとタリガはあるべき主の姿を目の当たりにして、考えが根底から異なるベルガット家当主であり兄のトウカの命を奪う決心をします。

ツルバは基地の外へ出ます。



●82

タリガはゼンに呼ばれ話をします。


ツルバはトウカの命令で動く刺客からトウカの居場所を聞き出そうとします。刺客との戦闘になります。思った以上に数が多くて苦戦します。

オビと木々が助けに入ります。

ゼンは基地でタリガを、木々とオビはツルバを監視していたようです。

木々とオビとツルバは三人で刺客を全滅させます。


ツルバは木々にミツヒデの剣を奪ったのはベルガット家当主トウカだと言います。

そして、その狙い、木々の縁談の件についても話します。

木々はツルバに剣を突きつけ、ゼンに何も知らないと言ったじゃないかと迫ります。

ツルバは兄トウカを消すしかなくなったからだと答えます。

オビは木々がどう動くのか静かに待ちます。木々が剣を鞘に納めると、オビが走り出します。

木々はしゃがみ込むツルバに目線を合わせ、

「私は殿下と殿下の宝を守りに行きます」

と言います。

オビは馬を引いて来ていて、木々とセレグの基地に走ります。

ツルバも決意しセレグに向かいます。



●83

ゼンとタリガが話していると、トウカが基地に着いたと報告を受けます。

ゼンはタリガに、ツルバが戻ったら、ベルガット家のトウカ、ツルバ、タリガを王城に移送すると言います。

タリガはツルバがまだ戻っていないことに呆然とし、戻らなかった場合に打ち合わせたことを実行しようとします。


タリガはトウカに会いに行きます。全てを明らかにする証拠を渡すからツルバを返して欲しいと言います。

トウカはここでゼンを始末しようとします。


基地に火の手があがります。

ゼンは基地の中に刺客が侵入していると報告を受けトウカに会いに行こうとします。


タリガは剣を手に取りゼンのもとに向かいます。刺客と戦っているゼンを見つけ、

「殿下は…! あなたは戦わないで下さい」

と言います。

ゼンは、

「――剣を持っているのならば ここを守る役目がある 誰が仕掛けたのか知る役目もな ミツヒデ・ルーエンの誇りを踏みにじる為のものだとしたら尚更だ」

と言います。

タリガはゼンの言葉に身震いします。そして、気持ちを吐きだします。難解な表現です。

ゼンは、

「失いたくないものを数えるな タリガどの 身動きが取れなくなるぞ 二人の事情は知らない だが 今話したのは タリガどのとツルバどのには願いがあるという事じゃないのか だったら それは枷ではない 進む為のものだ 前を見ろタリガどの 二人何かを変えたいのなら 望みは守り抜け 何がなんでもな」

と言います。

続きます。



あきづき空太 赤髪の白雪姫 17巻
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2023年5月20日土曜日

あきづき空太 赤髪の白雪姫 16巻

●72

リリアス学問街薬学の館

天幕街の風呂に行って疲れを取り、やって来る風邪の流行に備えて身体を休めます。

北の冬は厳しく、すぐに体調を崩す人が続出します。

薬の調合に緊張する白雪にリュウが師匠から聞いた話を教えます。

みんなで連携して病人の治療にあたります。

リュウは兵士から医師ではないと思われていると知り、頼りないと思われているのはだめだと考えます。

リュウは白雪とともにさらに成長していくつもりでいます。



●73

オリンマリスの王城薬室への報告はシダンが書くことになります。

雪道にオリンマリスの花を咲かせる努力は続きます。

十数か月が過ぎます。

リリアス

白雪とリュウとオビは慣れた様子で日々を過ごします。

ずいぶんゼンには会っていません。


王城ウィスタル。

イザナがゼンの寝室を訪れます。

ゼンはまだ寝ています。人の気配を感じて目を覚ますとイザナがいてびっくりします。

イザナは、

「この城を出てウィラント城に行く気になったら言いなさい」

と言います。

イザナはゼン、ミツヒデ、木々が揃ったところで、

「しばらくセレグを拠点に動け」

と命じます。



●74

ウィラントの城にはハルトがいてここ十数年安定してます。

北の大貴族ベルガット一族が支配していた土地をハルトが変え、リリアスのアールリオン家と二大体制を築き、王室が少しずつベルガットの影響力を排除している状況です。いずれ、ハルトに代わりゼンがウィラントにおいてその役目を継ぐようです。

セレグという場所はそのウィラント城となにか関係がありそうです。

イザナはゼンに力を示させたいようです。

ゼンとミツヒデと木々は途中、ヒサメと会い、一緒にセレグに向かいます。

ヒサメはゼンにセレグ騎士団にベルガット家の者が在籍していると話します。

ゼンはなぜセレグにベルガットなのか、会ってみて判断しようとします。



●75

セレグに到着し、ミツヒデと木々はベルガット家のツルバ・ベルガットとタリガ・ベルガットから挨拶を受けます。

ツルバとタリガはその後ゼンに挨拶します。

ゼンは品定めされているような気がします。

ツルバとタリガは企てがあるようです。



●76

夜、ゼンはひとりでツルバとタリガに会いに行き、話します。

ヒサメは急に求婚しに行くと言い出します。



●77

ヒサメの求婚する相手は木々です。

ミツヒデは冷静ではいられません。

翌日、木々はヒサメの求婚の理由を話します。

セイラン家(木々)に婿をと言っていた五人の内三人が何者かに襲われたと言います。

襲ったものはベルガット家に関係するのではないかとヒサメは睨んでします。


リリアス

オビのところにミツヒデが首謀の疑いがかかっていると知らせが入ります。



●特別編

リリアスに巳早と鹿月がやってきて白雪とオビに会い、食事をして去っていきます。

続きます。



あきづき空太 赤髪の白雪姫 16巻
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2023年5月18日木曜日

森本梢子 アシガール 16巻

最終巻です。

ずっと唯を追いかけたくなる作品でした。若君のため、家臣のため、我が子のため、たくさんの喜怒哀楽にぶつかりながら走り抜けてきました。楽しい作品です。

尊がいてこそ成り立つ物語でした。だからこそ尊が戦国の世に行って戻れなくなってしまう展開が面白くて仕方なかったです。




三之助は敵方を足止めするため作戦を練ります。地図で松相峠の登り口を示し、悪丸に敵の軍勢が坂を登りきったところで、まぼ兵を使用するよう言います。そうすれば、敵方が待ち伏せに遭ったと思い慌てるだろうと言います。

悪丸は、

「わかった」

と言います。

敵を慌てさせて時間を稼ごうという作戦です。もしも、敵がまぼ兵を突破して来たら、次はけむり玉を使うと言います。けむり玉は敵が大池の東の道に来た時使うと言います。

唯は、

「わかった」

と言います。悪丸の真似をしているのでしょうか。

唯は三之助の作戦に感心し、けむり玉を使う前にまぼ兵で敵は逃げていくよと言います。

三之助は、

「………………だといいのですが」

とそう簡単にはいかないだろうと考えているようです。


悪丸は三之助の指示通り、松相峠でまぼ兵を使用します。

敵兵は伏兵がいたと驚き、退却していきます。


唯は物見櫓からその様子を観察していて、敵が退いていくのを確認し、皆に伝えます。

旧御月家の家老佐久重盛は知らせを聞き、安堵したと言います。

天野信茂(じい)は気を抜くのはまだ早いとたしなめます。

一日目の夜を乗り切ります。



二日目の朝、物見に行った武士が戻ります。唯と小垣まで走った柿市惣左衛門です。

惣左衛門は、

「敵は黒羽城の相賀一成 兵の数はおよそ五千 破城槌に梯子など確かに城攻めの用意をしておりました」

と報告します。

唯は、相賀と聞き、

「私たちが羽木家って バレたんだっ… しつこく追って来たよ」

とじいに言います。

じいは相賀一成の心境を読み、

「これは信長への謀反」

だと判断します。

もう一人、武士がやって来て、

「敵の軍勢が戻って参りました! 再び松相峠を越え緑合へと進んでおります」

と報告が入ります。

唯は立ち上がり、

「私 ちょっくら敵を足止めしてくる その間に仕度をして城の守りを固めて」

とじいに言い、

「うむ 承知いたした」

と言います。

佐久は若君の奥方がどうやって? という思いです。


唯はけむり玉を背負い大池に向かいます。

敵が相賀だと知り、一度まぼ兵を見てるから慣れたんだと悔しそうです。

唯は大池で敵兵を充分に引きつけ、けむり玉を破裂させます。あたりは一気に霧に包まれます。

相賀勢は池にハマる兵士が出て、身動きが取れなくなります

唯は敵方の足止めに成功します。しかし、時間にして三、四時間。日暮れには相賀の軍が緑合城城下に来てしまうので、今晩どう切り抜けようかということで頭がいっぱいです。



若君は京の御所で官位を賜り、夜は信長の屋敷に招かれています。

若君と信長が話していると、

「無礼つかまつる! 御月様 緑合より急使にございまする緑合」

と小姓が使者を連れてきます。

使者は久蔵です。彼も唯と共に小垣に走った武士です。

殿は、

「おお 久蔵か いかがした」

と言うと久蔵は、

「緑合に五千の軍勢が進軍中!! 昨日午後には松相峠を越えて迫っております!」

と言います。

和やかだった雰囲気が一気に張りつめます。



けむり玉の効果が切れ、大池で足止めを食っていた相賀勢は隊列を整え、唯の予想よりも遅れて緑合に到着し、城を囲みます。

羽木家の武士は戦う気満々です。

しかし、唯はこの数で城を守ることはできないと考えています。



相賀一成は一気に攻めると強気の姿勢です。

家臣は使者を送るべきだと言い、相賀は思い止まります。


緑合城にやって来た使者は唯と天丸を人質に差し出せと要求します。

唯は怒ります。しかし、源三郎が最後の一人まで死力を尽くすと言うので唯は冷静になります。

佐久が息子の嫁と孫を連れてきます。相賀は唯と天丸の顔を見た事が無いので、むつと彦太郎を身代わりにすると言ってきます。

唯は断ります。若君が言ったことをそのまま拝借し、さも自分が考えたかのように言って断ります。

唯はこの先の歴史がどうなるかわかっているので、みんなを守るため、天丸と二人で相賀方に行くと言います。

源三郎はお供すると言います。渡瀬とつゆも言います。

唯はこの城で待っていて欲しいと言います。自分と天丸は助かることはわかっています。しかし、ここでお供の者を連れて行けば、その者がどうなるかわからないからです。

じいがやって来ます。じいはお供すると顔を真っ赤にして、駄目だと言うなら腹を切りますと覚悟を見せます。

唯はじいもどうなるかわからないので連れて行きたくありません。でも本当に腹を切りそうな勢いに負けて、じいは連れて行くことにします。



若君が戻ります。

源三郎は状況を説明します。

若君は今すぐ出陣し、黒羽城を攻めると言います。

源三郎は、

「奥方様は 『私と天丸は必ず無事に戻れるとわかってるから誰も来てはだめ』 とそう申されました」

と言います。

それを聞いた若君は少し冷静さを取り戻します。

「そう…申したか」

と言います。若君が自ら戦に出る理由と、唯がとった行動の理由が同じだから複雑な心境のようです。



相賀一成がどうしてこのような行動に出たのかが描かれます。

唯と天丸は相賀一成と会います。

用意したという部屋に行ってみると、見張りがいて四方を竹矢来で囲んだ牢屋のような所でした。



若君は黒羽城が望める場所に来ています。近くの寺で逗留しています。

緑合から使者がやって来ます。

相賀の使者がやって来て殿に供に信長を攻めないかと協力を求めてきて、殿は申し出を受けたと言います。

若君は殿の思惑がわかっているようです。


信長は緑合を攻めてきたのが相賀一成であると分かると、ただちに出陣し、城を全部焼き払うよう命令します。


夜、寺で身体を休めている若君に、源三郎が、

「黒羽城に軍勢が攻めて参りました!」

と知らせます。

織田の手勢が二千と少なく、何か策があるに違いないと、若君は城下へ急ぎます。


じいは唯を起こし、戦が始まるから身支度をせよと言います。


信長は火矢を黒羽城に放ちます。

火の手が上がり、城の中の人達は大混乱です。



若君は唯を助け出そうと城に入ろうとします。しかし、門が焼け落ちて通路が塞がれ中に入ることができません。一旦、織田陣の場所まで退きます。燃える黒羽城を見つめながら、唯と天丸の無事を祈ります。

信長が、

「生まれ育った父祖の城が燃え落つる様を見るは苦しかろうの」

若君に話しかけます。

「我等の素性存じておられましたか」

と若君は信長が羽木であることをやはり知っていたのだとわかります。

信長は黒羽城を良い城だと誉め、相賀の様な小心者も城の力が己の力だと錯覚し、謀反を企むのだと言います。そして、妻子が城の中にいることを知り犠牲にして火矢を放ったことに対してあやまる気はないと言います。



唯とじいは必死に竹矢来を抜こうとします。しかし素手ではびくともしません。

じいは唯の懐剣を手に取ります。鞘から抜くと懐剣は起動スイッチが動作しています。

唯は空を見上げます。満月です。このままでじいと天丸が現代に行ってしまいます。焦っている唯はふと思い直します。火の手が近づいてきてどうしようもない状況なので、起動スイッチが動くのは幸運なことだと気がつき、じいに、

「じい!! じい!! よく聞いて!! 説明してる暇がないけど今から大変なことが起こる!! とにかく落ち着いて対処してね びっくりすると思うけど大丈夫 むこうには尊がいるから 両親もいるし とにかく天丸を 天丸を…頼みます」

と言います。言い終わると、じいの姿は消えます。

じいの姿が消え、唯はひとり取り残されてしまいます。



現代で尊は起動スイッチの研究をしています。

起動スイッチの機能をノートにまとめています。

その日もメモに機能を追加しています。

「自然と燃料が蓄積されてる機能」

をメモに書いたので、唯が持っていた懐剣の起動スイッチが動いたのでした。



現代。

唯の両親は赤ちゃんの泣き声が聞こえて目を覚まします。

父が懐中電灯を持って庭に出ると、誰かにねじ伏せられてしまいます。

母は駆けつけてきた尊に警察を呼ぶよう言います。

尊は父を抑え込んでいる人物の顔を見ます。

「あなたはっ 天野の御爺様!!」

とじいが庭にいることにびっくりします。

じいは声をかけてきた人物が尊だとわかると安全な場所だと警戒を解きます。

尊は抑え込んでいるのは父親だと伝えると、じいは手をほどきます。

じいの背中に背負った赤ちゃんが泣き始めます。

母は赤ちゃんを見て、

「あのっ… 天野さま… ということはもしかしてその赤ちゃん 唯の… 唯と若君の赤ちゃん… じゃないの? 久永ちゃん!?」

と言います。


天丸はミルクを飲んで眠ります。

尊はじいに何があったのか訊きます。

じいの話によると唯は黒羽城の奥の座敷牢に閉じ込められていて、信長によって放たれた火矢で城は燃えていると言います。両親が唯の無事を聞くと、途中から記憶がなく唯がどこではぐれたかわからないと言います。

尊は唯がじいに何も説明せず、現代に送ったのだと理解します。



若君は城が燃えているのを見ています。

「いつまでそうして待つつもりじゃ 未練な男じゃ」

信長は若君にあの猛火の中逃げるのは無理だと言います。

若君は、

「唯は常の女子ではございませぬゆえ 必ず生きて戻ります」

と言います。

信長は、

「ほう 面白い ではわしもしばしここで見届けてやろう」

と言います。



現代の早川家。

天丸が来て十日で家の中の有り様ががらりと変わります。じいも生活に馴染んでいます。

尊はじいにここは四五〇年後の世なのだと説明します。じいは沈黙のあと、

「……左様か」

と言い、

「わからぬが わからぬでよい」

と、天丸が無事であればそれだけでいいと言います。

炎上中の黒羽城の座敷牢の中にいて逃げられずにいる唯を助けに行くのは尊です。



唯は煙で苦しそうです。庭にうずくまっています。座敷牢から音がします。見てみると黒い人影があります。敵なのか味方なのかわからず、咳き込んでいると、

「お姉ちゃん!! よかったー 生きてる」

と声が聞こえます。声で黒い人影が尊だとわかります。

「尊ぅ!? 尊ーーっっ 来てくれたのー!? だけど びびったよー そのかっこナニ!?」

尊は甲冑に似せた防火服を着ています。リュックから同じものを取りだし唯に渡します。

唯は呼吸ができるようになり持ち直します。

尊と唯は銀の火消し玉という発明品で火を消火し座敷牢を出ます。城の外に出ようと橋に向かいます。しかし橋は焼け落ちていて渡ることができません。

唯は抜け穴を思い出し、そこから城の外に出ます。



「若君ぃぃぃ!!」

唯の声がします。若君は声のする方を見ると唯が立っています。

唯は若君に抱きつきます。

「今度ばかりはもうダメかと思いましたー」

と言う唯を、少し離れたところで尊が見ています。尊は感動の場面なのに喜べません。若君と唯のそばに信長が立っていて、唯を凝視しているからです。

小平太と源三郎がやって来ます。

「おおっ 唯之助!!」

「奥方様 ご無事で!! して 和子様はっ …天丸様は!?」

唯は、

「大丈夫よ じいと一緒に安全な所に逃がしました」

若君が、

「安全な所?」

と訊きます。

「若君 心配ありません」

と尊が若君に声をかけます。

「天丸もじじ様も無事です 二人ともめちゃくちゃ元気ですよ」

若君は、

「…… では… なるほど 左様か」

と尊がいるので唯が言ったことを理解します。

信長は唯が生きて戻ったことに驚いています。唯に、

「これは信長の負けじゃ 褒美をやろう 望みのものを申してみよ」

と言います。

「…… あの… それじゃ 家を焼かれた城下の人たちを助けてあげてください」

と唯が望みを言うと、

「…なに? ふんっ それが望みか つまらぬ 馬引けい!!」

と信長は唯に背を向けます。火矢を放てと命じた本人なのに、家を焼かれた人たちを助けてと言われ、気分を害してしまいます。

唯は望みのものと言われたのに却下され、慌てて別のもの、金銀財宝をお願いします。

「たわけ もう遅いわ」

とそれも却下されてしまいます。

信長はさすがに大人げないと思ったのか、若君に、

「清永 おぬし 北山の野上衆とは懇意であったな 今は斎藤の動きに気が抜けぬゆえ 敵を増やしたくはない 野上元丞に信長の軍門に降るよう説けるか」

と言います。

「…は おそらく」

と応えると、

「よし なれば野上のことはぬしに任せよう 首尾よういけば黒羽城を与える ただし 黒羽城の再建はならぬ 唯之助 褒美じゃ」

と却下した代わりの褒美なのか、唯が黒羽城を望むだろうと考えていたのか、はわかりません。信長は黒羽城を若君に与えるつもりでいたのかもしれません。

この出来事で御月家は黒羽城と緑合合わせて二十万石の大名として幕末まで続いてくのでした。



緑合に戻った若君と唯は尊が持って来た現代で撮った動画を見ています。

天丸と楽しそうに過ごす両親、現代での生活を何の抵抗もなく楽しむじいの動画です。

若君と唯はそれを見て笑っています。

尊は若君に相賀一成はその後どうなったのかと尋ねます。

若君は自害したと言います。

それを聞いた唯は衝撃を受けます。


夜、唯はひとりで尊が撮った動画を見直しています。

若君が声をかけると、唯は、戦国の世があまりにも恐ろしすぎて、天丸は現代で育ってほしいかもと今の気持ちをもらします。子を思う親としての気持ちを知り、戦国の世で生きていくと話した時の両親の気持ちを考えると涙をこぼします。



翌日、若君と唯は殿に天丸とじいの無事を伝えます。

殿は唯を信頼しているので深くは追及しません。

若君は殿の心遣いに感謝します。

殿は天野信近に黒羽に行って領民を助けよと命じます。


唯は民の間で急に人気が上がります。

人質として黒羽城に入り、燃え上がる城から天丸を避難させ、自らも無傷で脱出したこと、信長を感服させ、黒羽城を取り戻したことが噂話しとして広がったためです。

尊は唯の評判をききつけ、ひとりだけ無表情です。

歴史の本当の立役者は、表には出てこないものなのかもしれないと思いました。


夜、若君は唯に、

「わしは明朝黒羽へ発つ」

と言います、どうしてと訊く唯に、

「民を放っておけぬ それに 満月には天丸が戻って来るしの」

と言います。

唯はハッとします。天丸とじいが戻って来るのは黒羽城だったと思い出したようです。若君のなんとも言えない間が面白いです。

唯は、

「私も行きます!!」

と言います。



若君が黒羽に戻ると領民は歓喜します。

唯は若君の行列を後ろの方から見ています。

満月の夜、じいと天丸が戻って来ます。天丸の反応が面白いです。


緑合。

尊が現代に戻る日。準備を整え研究室を出て夜空を見上げていると、尊が出てくるのを待っていたのか吉乃が声をかけます。

唯も尊も吉乃には感謝してもしきれません。



尊は現代に戻ります。

時空の歪みはさらに大きくなっていて、これ以上の行き来はかなり危険なことになると尊は考えます。

クリスマス。若君と唯がやって来ます。

二人でイルミネーションを見ながら、唯は若君に覚悟について話します。若君は、

「わしはまこと良き妻を娶とうた」

と抱きしめます。

次の満月、若君と唯は戦国の世に帰っていきます。

尊は二人が無事戻れたであろうと信じ、起動スイッチの研究に励みます。



時間は進み、15、6年後の戦国の世がすこし描かれます。

三之助(天野信尊)は26歳、孫四郎(天野信勝)は24歳になっています。

天丸(御月久永)は15歳になっています。容姿は清永(若君)に性格は唯に似ていて腕白な青年に成長しています。

天丸と三之助が現代に行くお話です。

城攻めを命じられ大将に任じられた久永は、なんとか手柄を立てたいと、全ての采配を任されている三之助の言うことをきかず、奇襲をかけようと供の者一人を連れて陣幕を出て行きます。

三之助は久永の行動は読めているので、すぐに救出に向かいます。

久永は敵に見つかってしまい、鉄砲で狙われます。放たれた弾は一発目は外れ、二発目は三之助が身を挺して久永を救います。三之助は肩に被弾し落馬します。

久永は勝手に行動して三之助を負傷させてしまったことを悔やみます。母から言われたことを思い出します。

「肌身離さず身に着けていなさい そしてもし万一追いつめられて逃げ場を失うようなことになったら これを抜いてみなさい 物は試しって言いでしょ」

と懐剣を抜いてみます。

久永は悔やんでも悔やみきれない表情のまま、三之助とともに姿が消えます。


久永の供の者と孫四郎が久永と怪我を負った三之助の最後にいた場所に行ってみると、久永と三之助は何事もなかったように、しかも小綺麗な姿で笑顔で立っています。

久永はさっきまでとは別人のように、供の者と孫四郎に頭を下げ、皆の命を守り抜く、学問もまじめにやると言い出します。

孫四郎と供の者は不思議そうに久永を見ます。

三之助は唯之助に似て単純でまっすぐな性格だと笑っています。




若君と唯がクリスマスに現代にやって来て以降、どちらも行き来していなかったように思えます。

久永と三之助が現代にやって来たとき、尊は三十代前半です。三之助は尊を見て、その逆もすぐに互いが分かったのでしょうか。久永と三之助は現代に行って、尊と両親(祖父母)に会って何と言われたのでしょうか。ひと月の間の様子が見たいです。

久永と三之助は、若君が見た現代の景色を見てどう思ったのだろう。久永が心を入れ替えるきっかけは誰の言葉だったのでしょう。三之助は尊から再び沢山の知識を頭に叩き込んで戦国の世に戻っていったんだろうな。

この出来事も歴史の必然だったのでしょうか。時間移動の物語を読んだり観たりするといつもこんなことを考えてしまいます。

終わりです。




森本梢子 アシガール 16巻
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2023年5月12日金曜日

森本梢子 アシガール 15巻

唯と信長のやり取りが面白かったです。唯にほんの少し歴史に興味があれば、興奮する場面なはずなのに、まったく興味がなく、若君一筋なところが面白いです。

尊が現代に戻り緑合城の歴史博物館を訪れて、資料を見て感動しているところが好きです。過去に行って、誰かに影響を与えたことが後世にまで残っているなんて機会があったらこんな気持ちになるのだろうなと想像します。




信長は若君に自ら出向いてきたのに縁談を断るなんてことはないだろうなと言います。

部屋の雰囲気はピリピリしています。

若君は信長の申し出を受けるつもりはなく、拒否しようと話そうとすると、

「あっ お待ちをっ 」

と声が聞こえてきます。

「これ!! 何を騒いでおる!」

殿が言います。

襖が開くと涙目の唯が立っています。

若君は、

「唯…」

目の前に姿があるのに驚いています。

尊は声が出せないので、心の中で叫んでいます。

殿は、

「唯之助っ… こなた 身籠っておったのか!!」

とこの場に唯が現れたことより、お腹の膨らんだ姿に驚いています。

唯はお腹に手をやりながら、のしのしと若君の前まで歩いて行き、その場に座り込みます。位置的には殿と信長の間に座り、若君を正面に座ります。

信長は部屋に入って来たおかっぱの女子が清永(若君)の正室だと知り、忠永(殿)がその女子を唯之助と呼ぶのが不思議そうです。

尊は場の雰囲気を無視して座る唯に心の中でツッコみを入れています。

信長を無視して、唯は若君に、

「えっ 縁談って… 何それ どーゆーこと!?」

と言います。若君はたぶんどうやって戻って来たのかを聞き出したいのに言えなくて、唯、と名前だけつぶやきます。

殿は唯に子ができたことを知らされず、若君を叱ります。

若君はうまく辻褄を合わせ説明します。

若君の説明に納得した殿は、唯に、

「でかしたぞ 唯之助!」

と言います。

唯は涙ぐみながら若君に、夫が再婚しようとして酷いと言います。

若君は少し焦っています。

殿が、

「唯之助 もうよい 客人の前じゃ 今は下がっておれ」

と言うと、唯はすいませんと言いつつも、

「でも ひどくない?」

と信長に同意を求めます。

尊は誰に話しかけているのかわかっているのかと心の中で叫びます。

信長は黙っています。尊、殿、志喜殿、小平太、若君に緊張が走ります。ようやく、

「まったくもって ひどい」

と言い、

「清永 おぬし けしからん男ぞ」

と笑い始めます。

「それならそうと早う申せ 無駄足を踏ませおって」

と若君に笑顔で言います。

信長は唯にも、

「唯之助と申したな これはわしが少々強引であった すまぬ」

と言います。信長が謝ります。信長は新しいもの、変わったもの、珍しいものに興味があり、この時代にはいないであろう女子が若君の正室あることを面白がっているようです。海道一の手弱女を世話しても、断れないよう圧力をかけても、従わない若君と若君しか見ていない唯に興味が増しているようです。

「良い子を産めよ」

と言い、唯は、

「あ はい どーも」

と、どうでもいいような言い方で返事します。


信長が帰り、唯は尊を責めます。

「尊!! あんたが付いていながらどーしてこんなことになったのよ!!」

唯は尊には目を見開いて怒ります。

唯は自分の居所に行きます。

渡瀬とつゆが唯がお腹を大きくして帰って来たので驚きます。

夜、若君は唯と二人きりになって嫌な思いをさせたと謝ります。



唯がどうやって戦国の世に戻ることができたのかが描かれます。

起動スイッチが作動しなかったので、次の満月にもう一度挑戦します。しかし、作動しません。その次の満月も同じ結果です。

それからすこし過ぎて、歴史の木村先生が早川家にやって来ます。木村先生は桐の箱に入っていた古びた紙を唯と両親に見せます。

古びた紙に書かれた字は尊のものであることがわかり、木村先生に感謝します。

尊が書いた説明書を読み研究室の機械を組み立て、燃料が溜まるのを待ちます。燃料が溜まり、満月の夜、起動スイッチが動作し唯は戦国の世に行くことができます。


唯は小垣城に戻って来ます。

唯がいきなり現れたのを見て高山家の小姓が大声を上げます。

宗熊と家臣が、

「これ!! 何ごとかっ」

と部屋から出てきます。

小姓は、

「そっ… そこにっ 人が… いきなりっ」

と驚きのあまり尻もちをついてます。

唯は、

「あっ 宗熊!?」

と言います。

宗熊は、

「おお 唯殿か」

と唯が突然現れても驚くこともなく、笑顔で応じます。

「どうして 宗熊がここにいるの?」

と聞くと、宗熊の家臣が動揺しつつ、

「いやっ それは当方がお訊ねしたきことっ」

と、どこから入って来たのか、なぜそんなにくだけて話せるのかを聞きたそうです。

宗熊は、

「久しぶりじゃのう よう参られた」

と言います。

宗熊の対応に家臣は、なぜ平然としているのだと言いたげです。

部屋に入り、唯は、

「それじゃ今は宗熊殿が小垣の城主なのー ひと晩だけお世話になります 朝になったらすぐ御月へ帰るんで 柔らかめのお布団と朝ごはんがあればいいんで」

と遠慮することなく宗熊に言います。

「相わかった」

なにも疑問に思うことなく宗熊は返事します。

家臣は自分がおかしいのかと思ったのかもしれません。諦めて、唯に、

「それはなりませぬぞ 今 途中の村で大規模な百姓一揆が起こっておりますゆえ危のうございます」

と言います。

唯はすぐに小垣を出られず、8日が過ぎて、高山兵に護衛され、駕籠にのって緑合に向かいます。

そして、緑合の館に着いてすぐ、若君の縁談の話を聞いたのでした。



翌日、唯が戻ったと聞き、天野信茂が駆け足でやって来ます。唯のお腹が大きいことを泣いて喜んでいます。

尊は御月家の人々に大切にされていることが知れて安心しています。



唯は尊の姿が見当たらないので孫四郎に、どこにいるのか聞くと、

「けんきゅーしつじゃ」

と応えます。

唯は新しく小屋が建っているのを見つけます。中に入ると尊は書き物をしています。小屋の中は見慣れた光景です。

「何… やってんの?」

「何って 研究だよもちろん」

といろいろ作ってたら、若君が建ててくれてのだと言います。

尊の研究から出来上がった発明品は緑合の人々に恩恵を与えています。

三之助は尊の助手として、いろいろ学んでいます。

尊の戦国の世での生活はこれで終わります。



男の子が誕生します。名前は天丸と名付けられます。緑合は大騒ぎです。



小平太とつゆが縁組します。

小平太の稲妻に打たれたような衝撃を感じる表情や吉乃の二人をくっつけるための策が面白いです。



御月家は穏やかな日々が続いています。

信長の推挙で帝から官位を賜ることになり殿と若君は都に行くことになります。

唯と天丸はお留守番です。



殿と若君が不在の時に緑合領内に敵が侵攻してきます。

天野信茂は偵察を送り、城の守りを固めるよう指示します。

唯にも軍勢が緑合に向かっていると知らされます。

若君が戻るのは早くて明後日。それまで緑合を守らなくてはいけません。

三之助が唯に、尊が残していった発明品を見せます。

敵を足止めするため、三之助と悪丸の三人で準備を始めます。

続きます。



森本梢子 アシガール 15巻
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集英社 アシガール

2023年5月10日水曜日

森本梢子 アシガール 14巻

現代っ子の尊は戦国で大変な目に遭っています。

ご飯が合わない。走れない。虫がいて眠れない。鍛錬がつらい。唯とはなにもかもが反対で面白いです。

戦国の世にあるもので工夫して何かを作ろうとしているのは尊らしいなって思います。

どうやって尊は現代に戻るのでしょう。続きが楽しみです。




現代に戻った唯はお隣さんの向坂さんがたまたま発見し、唯の両親に知らせ、救急車で病院に搬送されます。

現代医学で唯は4日で退院します。

自宅に戻った唯は、両親とぐちゃぐちゃに散らかっている尊の研究室を見ます。

「これで動くのかしらねぇ」

という母に、

「大丈夫だよ 私がちゃんと戻って来たんだし」

と唯は楽観的です。

次の満月まで1か月あります。



戦国の世。

尊は真剣を突きつけられ、初めて弱っているお姉ちゃんを見て、頭が混乱していました。唯を現代に送ってから、ようやく冷静になります。冷静になり、自分が戦国の世に残されたことに気づき、帰る方法もわからず青ざめます。

若君は、

「尊 か様なことに巻き込んでしまい相すまぬ」

と言い、

「明朝には緑合に送らせよう 信近と吉乃へ文を書くゆえ それをたずさえて行け わしが戻るまで天野の家でゆるりと過ごすがよい」

と、尊の不安を取り除こうとします。

尊は、

「いやいやいや 待って下さい!! そんなの無理!! 僕はお姉ちゃんのようにはできません!! 苦手なんです!! 知らない人の家で暮らすなんて絶対無理です!!」

と切羽詰まって言います。

若君は、戦の最中で、明朝には再び出陣すると言い、尊は若君と戦に行くか、緑合の天野の家に行くか選択を迫られます。

「僕 戦にします! 連れてって下さい!」

若君は常に側についていてやれないと言い、小平太と源三郎を呼び、二人に尊に目を配って欲しいと言います。

「はっ」

「承知いたしました」

と小平太と源三郎は引き受けます。

尊は、

「ホント… す…すみません よろしくお願いします」

と頭を下げます。


翌朝、尊は災難続きです。

出された朝ごはんのにぎりめしが食べられません。馬に乗れません。姉唯のように走れません。

東村上の本陣に到着したときには尊は小平太に担がれています。

若君はヘロヘロの尊に大丈夫かと声を掛けます。

「あ… はい 迷惑かけて… すみません」

声はなんとか出せるようです。

「では 参るぞ 父上にご報告せねばならぬ」

尊は若君の小姓としてついて回るようです。

若君は尊にでんでん丸を渡します。尊が受け取ろうとすると

「こら!! たわけ!! 何をしておる!!」

「こうじゃ!! 下から!! 両の手で!!」

と小平太と源三郎が片手で受け取ろうとする尊を目を剥いて怒ります。

「あ… すみません」

心の中では、うるさいな、と思いながらも、謝って言われた通りでんでん丸を両手で下から受け取ります。

若君は笑っています。


殿に会いに行くと、志喜正綱もいます。

若君は唯の状況を説明します。

志喜殿は唯のおかげで命拾いをしたと若君に感謝を伝えます。

城攻めについて話し合います。

殿は明朝にも全軍で一気に攻め込むと言います。

若君は城内の民らが巻き添えになると消極的です。

志喜殿は兵糧も残り少ないと他に手が見当たらないと言います。

話をしていると、

「御免 殿 ただ今 尾張より援軍が到着いたしました」

と報告が入ります。

「援軍」

志喜殿が尋ねると、

「は! 高山宗鶴殿 宗熊殿 御父子が参られました」

と言います。

殿と若君と小平太と源三郎と尊は、高山、と聞き緊張が走ります。

「はて? 援軍など請うた覚えはないが」

と志喜殿が若君に言うと、

「速やかに お帰りいただきましょう」

と高山父子を帰らせようとします。

高山宗鶴はすでに皆がいる部屋まで来ていて、

「いやいや 喜志殿 我ら軍を率いて参ったのではござらぬ 信長様はこう申された 『どうやら御月殿と正綱が村上城を攻めあぐねておるようじゃ その方が行って知恵を貸してやってくれぬか攻め口は建てた本人が一番よう知っておろう』 とそういう次第にござる 取り急ぎ供回りの者を連れ参りました」

と言い、志喜殿と御月殿を見ます。

殿忠永を見て、宗鶴は、

「なっ!!! きっ きっ… 貴様!! 何故ここにっ…!! 志喜殿!! この者は はっ」

と言ってバタッと倒れます。

一同驚きます。若君は尊に目をやります。尊はでんでん丸を鞘に戻しています。尊が宗鶴をでんでん丸で気絶させたのでした。

若君は尊に親指を立てて、「いいね」と笑顔を送ります。



翌朝、

高山宗鶴は村上城攻めに知恵を貸します。昨夜、宗鶴と忠永で話し合いがもたれ、協力することになったようです。村上城には抜け道があり、その道から城に侵入し奇襲をかけることができると言います。

若君は、奇襲を自らがやると言います。そして本隊は正面から攻撃し、城の中の民を逃がして一気に攻め上がるという作戦でいくことが決められます。

軍議を終え、尊は若君に思うところがありつつ沈黙しています。

若君も尊の考えがわかり、

「誰かが行かねばすまぬ戦じゃ」

と言います。


尊も鎧兜を身につけ、若君と共に奇襲作戦に同行します。

宗熊が城の抜け道に案内します。

しかし、村上城の見張りの敵兵に見つかり、矢が飛んできます。奇襲がバレてしまいます。

尊は目の前で味方の兵が矢で倒れる様を見て、気を失います。

若君は小平太と源三郎に一気に攻めると命令し、自ら先頭に立ち抜け穴から城に入ります。

若君はでんでん丸を駆使し、次々と敵兵を気絶させていきます。城の内部に潜入することに成功し、正面の門にいる本体に合図の矢を送ります。

本隊は正面の門を破り、一気に城を制圧し、室谷与十郎を生け捕りにします。


尊は宗熊に背負われ、若君の配下の兵に運ばれ、いろんな人に背負われ、最後は悪丸に背負われて緑合に運ばれます。

目が覚めると、布団の上にいました。

尊は側で看病してくれている女性に気がつきます。

「ここ… どこ?」

と尋ねると女性は、

「緑合の天野家の屋敷にございますよ」

とこたえます。

尊は、

「それじゃ… もしかしてっ あなたは天野吉乃さんですか?」

と言い、女性は、

「ま ホホ 左様にございます」

と言います。

尊は起き上がり、唯がお世話になったこと、両親が感謝していること、若君のそばで迷惑ばかりかけてしまったことなどを話します。

吉乃は若君が話したことを聞かせ、その後食事を摂るように説教します。

尊はまず生きることだけ考えることにします。


食事を終え、尊は若君に会いにいきます。若君の覚悟を知り、一日でも早く唯を若君の元へ戻す方法を考えなくてはと心に決めます。



若君は渡瀬とつゆに、しばらく唯は戻らないことを伝えます。唯が戻るまでいつも通り奥を守って欲しいと言います。

尊は天野家に世話になります。唯が天野の人達から信頼されいると知ります。



現代。満月です。

唯は出発する準備を整え、笑顔で起動スイッチの刀を抜きます。

両親と他愛のない話をします。

いつもならすぐに唯の姿が消えるはずなのに、一向に音沙汰がありません。

唯が気がつきます。別れ際の若君の淋しそうな表情がもう戦国の世には戻れないことがわかった上で、唯を現代に送り出したというのを今になって理解します。

母は尊は戻って来るから大丈夫だと言います。

父は御月家の家系図を見たから大丈夫だと言います。

しかし、唯は研究室の無残な状態を見て、どうやって戦国の世に戻ることができるんだろうと落胆します。



戦国の世。

尊は墨と筆で書き物をしています。

孫四郎は尊にかまってほしそうです。

三之助は尊が書いている見たこともない記号のようなものに興味を持ちます。

尊は三之助に丁寧に説明すると、すぐに三之助は理解し、さらに深めようとします。

尊は三之助と話したことによって、ある考えが浮かびます。若君に会いに行き、運まかせの地味な作戦と前置きし説明します。

唯が戻るためには現代で尊が分解した機械を組み立てて動かし燃料を作ってもらうしかないと言い、

「組み立て方法や操作方法をできるだけ詳しくわかり易く お姉ちゃんでも猿でもわかるように書いてみたんです」

と説明書を若君に手渡します。

若君は説明書に目を通しながら、

「猿でもか」

とつぶやきます。面白いです。笑ってしまいました。

尊は説明書をどうやってお姉ちゃんに届けるのか、その方法がわからなくて困っていたと言います。

唯の学校の歴史の木村先生が持って来た書状を思い出したと言います。その書状は木村先生が持って来るまで457年間誰の目にも触れず眠っていたということになり、その書状とともに説明書を入れておけば、もしかしたらお姉ちゃんに届くかもしれないという作戦を思いついたと言います。

若君は尊が書いた書状の内容を見て、御月家の菩提寺楽安寺の蔵の中にその書状はあると言います。

早速若君と尊は楽安寺の蔵に行って、説明書をおきます。二人は唯にこの説明書が届くよう祈ります。



蔵に説明書を入れて、4か月が過ぎます。

唯はまだ戻りません。

尊の髪はずいぶん伸びています。

若君はこの間信長の命で2度出陣しました。2度目の出陣では信長と共に阿久城を攻め取りました。

戻った若君に尊は信長はどんな人物か尋ねます。

若君は現代でゲームで見た信長とはまるで似ていなかったと言います。そして、信長は高山宗鶴に村上城、宗熊に小垣城を与えたと話します。

尊は高山父子はほとんど活躍していないのにと不平をもらします。

若君はいずれ唯が戻るのは小垣城になるので、織田家の家臣だと騒ぎになるから、宗熊が城主ならその心配はなくなるから安心だと言います。

若君と尊は唯が戻ることは疑いないことだと思っています。ただいつになるのかまったくわからないようです。

ふと尊は御月の家系図にあった若君の正室の名が女(天野氏)となっていたことが気になって、

「天野家は他にお年頃の娘さんっていませんよね?」

と尋ねます。若君はいないと言い、尊は唯が後何年も戻らないと言うことにはならないと安心します。


と思っていたのに。


若君は殿から呼び出しを受けます。

殿は信長から妙な文が来たと言います。若君の嫁を世話したいという内容です。

殿は丁寧に断りの返事を使者に持たせたと言います。


2日後。


志喜殿がやって来ます。

殿と若君が会うと、志喜殿は若君の正室について尋ねます。

若君は元気だと言います。

会いたいと言うとここにはいないと言い、何処にいるのかと言うとそれは申せませぬと返します。

志喜殿は本当は正室はもうこの世にはいないのではないかと切り出します。

若君は、

「左様なことは決してござらぬ!!」

と強い口調になります。殿は、

「志喜殿 これはいったい何の詮議じゃ!」

と不快感をあらわにします。

志喜殿は信長が強引に話を進めようとしていると言います。若君の後妻にというのが吹山城主天野守影殿のご息女菊姫だと言います。

廊下で会話を聞いていた尊は、天野という名が聞こえてあたふたします。

若君が断わろうとすると、志喜殿は、

「信長様は清永殿を気に入っておられる が それ故にご油断もなされぬ そういう御方じゃ」

と言い、要求を飲まねばどうなるかわからないから、慎重にご返答なされよと助言します。



若君の後妻の件を耳にした天野信茂は怒り狂っています。旧御月家の家臣は姫を迎えてはいかがかと進言します。

若君は穏やかに弓の稽古をしています。尊はそわそわして様子を見守っています。

織田家から使者がやって来ます。

殿と若君は使者を迎えると、使者は信長本人です。信長自ら若君を説得するためやって来ました。

尊は信長のまとう空気感に圧倒されます。

一方で西の館に高山宗熊がやってきます。

「これは宗熊様 突然のお越しいかがなされました?」

「うん 清永殿はおいでか」

「いえ ただ今は本丸の方へ 織田家の使者に面会されております」

「織田の使者? すると、また出陣か?」

「いえ… それが縁談にございます」

縁談と聞こえて宗熊の後ろから、

「縁談って 誰の?」

と声がします。小姓が声の主を見て、

「あ!!!」

と驚きの声を上げます。

続きます。



森本梢子 アシガール 14巻
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2023年5月6日土曜日

森本梢子 アシガール 13巻

平穏な暮らしは戦国の世では難しいです。戦を避けて通ることはできません。

若君の危機を救うため唯が走ります。

唯の弟尊は勇気を出して戦国の世にやって来ます。

唯は現代に戻り、尊は戦国の世で生きていかなくてはならなくなります。

現代っ子の尊が戦国の世でどう過ごしていくのか楽しみです。




唯が二人の侍を従えて山中を走っています。

久蔵(きゅうぞう)という侍は唯の走る速さについていけず、足が限界になり脱落します。

もう一人の惣左衛門は必死に唯に追いつこうとします。しかし惣左も限界らしく足が上がらずつまずいてしまいます。

唯は、

「惣左衛門!! しゃんとせい!!」

とげきを飛ばします。惣左はあやまる事しかできません。

唯も緑合(ろくごう)に来てから、走っておらず、息が上がっています。体力が落ちていて体が重いと感じています。でも、緑合のみんなのため、若君のために走らなくてはと頑張ります。惣左を必死に説き伏せ、息を整え再び走ります。



半年前に戻ります。半年の間、緑合(ろくごう)は平穏な日々でした。

唯が部屋を抜け出し、庭から若君のところへ行くと、若君は髪を切っているところでした。

唯は若君の長い髪が好きで、髪を切った小姓に目を剥いて怒ります。

小姓は唯の形相に驚いています。唯のような奥方なんて初めて見たんだと思います。

若君が唯を宥めると、唯はすぐに機嫌がよくなります。

小姓はなんなんだこの生き物はというような目で唯を見ながら、若君の髪を結っています。

小平太がやって来て、

「若君 殿のお呼びにございます」

と知らせます。

若君は唯に、

「では 行って参る」

と言い、唯のもとを去ります。

唯はキリッとした若君の表情のあまりのカッコよさに見惚れています。息が荒くなり興奮していると、小平太が、

「奥方様」

と静かに切り出し、庭から表に入りこんでは駄目、家臣の前に慎みなく出るものではない、と小言を言い始めます。

唯はさっきまで夫のカッコよさに惚れ惚れしていたのに、小平太の小言で気分を台無しにされてむすっとしています。

小平太が、

「渡瀬殿に言い付けますぞ」

と言います。

唯は腰元の渡瀬(とせ)が苦手なようで、小平太の言うことに歯向かわず部屋に戻ります。


部屋に戻ると唯はまず部屋を抜けだしたことが気づかれていないか渡瀬を探します。

見回しても居ないようなのでよかったと安心したところに、

「唯様 お戻りなさいませ」

と渡瀬がどこからか現れ笑顔で言います。

部屋を抜け出したことが渡瀬にバレてしまったので、何も言わず、和歌の書き写しの続きを始めます。



若君と兄成之が父忠高に呼びだされます。

御月晴永が忠高に御月家を継いで欲しいと言う申し出があって、どう思うかというものでした。

若君は羽木の名を捨て御月家を継ぐことが我等の乱世を生き抜く唯一の道だと答えます。

兄成之も羽木の名を残せば御月家に害を及ぼす恐れがあると若君に賛成のようです。

父忠高は息子たちの考えに少し不満があるようです。



唯は和歌の書き写しの後は琴のお稽古をさせられています。

音が鳴りません。苦戦しています。唯が琴を弾けるようにはならないと思ってしまいます。

若君が唯のところにやって来て、琴のお稽古が中止となり唯はほっとします。

若君は唯に父が話した内容を話します。唯は、

「そうか!! 歴史から羽木家の名前は消えるけど 御月家として生き残るんですね!」

と言います。

若君も唯と同じ考えで父上に言ったものの不快にさせてしまったと言います。

唯は思いにふける若君を察して明るく、御月と名乗るのもいいですよと言います。

若君は口元をほころばせます。みんなが生き残るため何でもしようと決めたのだからと言い聞かせたのかもしれません。



羽木忠高は羽木の名を捨て御月家の家督を継ぐ決断をします。

殿の忠高は御月忠永、若君忠清は清永と名を改めます。

成之と阿湖姫の婚礼が行われます。

唯の後ろに控える渡瀬が面白いです。

渡瀬は自分以外が唯のことを言うのは許せないと思っていて、主人に対する思いが他の人とは違うところがいいな思います。

唯は家臣のほとんどが阿湖姫をほめるので、若君もそうなのではないかと思い、珍しく落ち込んでいます。

二人のやり取りが微笑ましいです。



若君は成之と小平太とともに緑合を巡視しています。

のどかだという小平太に、若君は、

「この平穏今しばらく続いて欲しいものだが」

と言い、成之は、

「やはり織田が来るとお思いで?」

と若君に問うと、

「必ず」

と応えます。

織田軍が攻めて来たら御月軍はひとたまりもないと小平太は言います。

若君は小平太に、部隊を編成し訓練するよう指示します。

成之は、織田に降伏せよ、と言われれば、城を明け渡すのかと問います。

若君は、

「織田信長との関わりは 陣列には加わるが臣下にはならぬという独立の形を通さねばならぬ その方では兄上にお知恵を絞っていただかねばならぬ」

と言います。成之は与えられた役割を果たそうと身を引き締めます。



織田の使者がやって来ると知らせが入ります。若君の予想よりはやいです。

天野信近(のぶちか)は殿に、

「近々 織田家より参る使者は志喜正綱(しきまさつな)と申すなかなかの切れ者だそうにございます」

成之は、先代の楽安寺の御隠居様御月晴永に城主として使者に会ってもらおうと提案します。殿は、

「使者に会うて何をせよと申すのじゃ」

と問うと、

「何も ただ… お年もお年でござりまするゆえ 少々お耳が遠くなっておられても致し方ないかと」

ととぼけた対応をすればと言います。

若君は成之の案に、

「ハハハハ それは良い さすが兄上じゃ」

と賛成します。

殿も良いかもしれぬと成之の案で使者に臨みます。


夕食、若君は唯に織田家の使者に城主として御隠居が出てくる話をします。

唯は御隠居の今の生活を知り、若い側室を抱えた自適な生活を送る御隠居が理解できないという姿勢を見せます。

若君は唯の表情を見て、まずいと思ったのか、唯に同調する姿勢を見せます。面白い場面です。

渡瀬とつゆの二人は側に控えています。唯は、

「ねえ 渡瀬とつゆもお膳持って来て一緒に食べればいいのに」

と言います。

若君は笑って、

「ハハハ それは良いの」

と言います。

渡瀬は、

「とんでもございません」

と言い、つゆは、

「よろしいのでございますか?」

と立ち上がろうとします。

渡瀬がつゆを叱って、実現はしません。この場面が好きです。唯がいるからこその場面だなと思います。



織田家の使者がやって来ます。

御隠居が城主となり使者志喜正綱と会います。

のらりくらりとかわそうとしているのがバレているようで、それでも初めての会談は志喜正綱が仕掛けてくるようなことはありませんでした。

ただ志喜正綱は若君には、本心を聞かせて欲しいといいます。

若君は、

「志喜殿は戦のない世を見たいと思われぬか? わしは戦のない世を皆に見せてやりたい ただ それだけにござる」

と言います。

志喜正綱は

「我が殿には『和睦は なった』 とだけ申し上げましょう」

と言い緑合を去ります。

これから何が起こるかを知っている若君は選択を迫られます。

戦が始まります。



御月家に出陣の命が下ります。

殿は若君を呼び、

「『川の水が引いた今が好機ゆえただちに小垣へ向け出発されよ』と志喜殿より申して参った」

と言います。村上城を攻めるというのです。

村上城は高山宗鶴の居城でした。織田家に城を明け渡した後、織田家家臣 脇信政(わきのぶまさ)が城に入り守っていました。しかし、今は地侍の室谷与十郎(むろやよじゅうろう)が村上城を攻め落としそのまま居座っています。

高山親子は尾張の最も北の皆木城の守備を命じられていて、殿はおそらく戦に明け暮れているだろうと言います。


若君は唯のところに行き、明朝出陣すると言います。

唯は急いで仕度しなきゃと立ち上がります。

若君は、

「此度の戦 お前を連れては行けぬ」

と言います。

唯は約束したのにと引く気はないようです。

若君は強い口調で、

「たわけ!! その様な場所にお前を置いておくと思うか!!」

と城でおとなしくしておれ、と言い軍議に向かいます。


軍議を終え、若君は唯のところに戻ってくると姿がありません。

唯は実家に帰りますと書置きをして家出します。

唯の行き先は天野のおふくろさまのところです。

おふろさまに叱られて唯は仕方なく若君を送り出します。



若君が戦に出てから、唯は食欲もなくなります。すぐ降伏するって言ったのに十五日が過ぎます。

渡瀬が、

「唯様 お方様がお呼びにございます」

と知らせます。

唯は母上様の部屋に向かいます。部屋からにぎやかな声が聞こえてきます。

部屋では母上様が冗談を言い、皆を笑わせています。

「誰より気丈に振る舞い 残された者達を慰め 励ますのが ご正室としての務めであろう」

唯は母上様から正室としてどうすべきか学びます。

母上様が唯に声を掛けます。阿湖姫も部屋にいます。母上様は唯と阿湖姫の二人は夫が出陣するのはこれが初めてだから気にかけているようです。二人に小垣から知らせが来て、村上城の室谷がようやく降伏し城を明け渡すと申して来たと言い、あと数日で戻ってくるから安心するように言います。


夜。唯はようやく若君が帰って来るので元気を取り戻ります。縁側で月を眺めていると、表が騒がしいのに気がつきます。渡瀬に聞くと、

「さあ 唯様がお気にされることではございません」

とそろそろ寝てくださいと言います。

つゆが、

「奥方様 何やら急な知らせのようにございます」

と言います。

唯はこんな時間に、もしかして小垣で何かあったのでは、と表に向かいます。



表では天野信近が背平村の庄屋、三郎兵衛と平助と名乗る者の話を聞いています。

平助は村上城下で捕らえられ、なんとか逃げ出せた際に若君をだまし討ちにするという会話を聞いたと話します。

天野信近は小垣へ早馬を出すよう命令します。

しかし、緑合から馬で駆けても小垣までは一日半かかり、手遅れになると言われます。

柿市惣左衛門という足の速い侍が天野信近に進言します。

「馬では通れませぬが 緑川を渡り古見原を抜けて小垣へ行けば半日ほどは早く着くかと」

と近道があると言います。

それならばと、旧御月家の家臣が柿市惣左衛門と久蔵の二人に小垣へ行くよう言います。

「待って下さい!」

と唯が部屋に入って来ます。

「父上 私も行かせて下さい」

と唯は天野信近にお願いします。

天野信近は御月家の嫡男の正室にこのようなことさせるわけにはいかないと言います。

「若君にも殿にも申しわけが立ちませぬ」

と言い、少しの沈黙の後、

「と 申したところで 行くのであろう」

と唯を見据えます。

「はい!」

唯は力強く返事をします。

柿市惣左衛門が、

「お待ち下さい」

と横槍を入れます。

「恐れながらそれはご遠慮いただきたい 奥方様が遅れられれば我らの足も止まりまする」

と言います。天野信近が即答で、

「それはない」

と言います。足も止まりまするの「る」が言い終わらないくらいで天野信近は言ったと思います。

唯は時間がないから柿市惣左衛門は先に出発してと言い、準備して追いつくと言います。


柿市惣左衛門と久蔵は走りながら、

「惣左 か様に急いで… 奥方様を待たぬでもよいのか」

「奥方様の同行など迷惑千万 先に川を渡ってしまおう 舟がなければ あきらめて お戻りになろう」

「なるほど それもそう」

と話していると、

「あーーー ごめんなさーい 待っててくれたんですね さあ ここからは全力で行きましょう」

と唯は柿市惣左衛門と久蔵を抜き去り走って行きます。

冒頭の場面につながります。



竹藪を抜け、城が見えます。小垣です。

唯は柿市惣左衛門に尋ねると、

「は…はい た…確かに…」

もう倒れる寸前の様子で応えます。

「じゃあ ここからは先に行くね」

と言うと、

「お待ちをっ わ…私もお供致しまする」

と頑張ります。

唯が足がつって走れそうにないことを言うと、柿市惣左衛門は、

「申しわけ… ございませんっ な…何と 不甲斐無い… 若君様にも申しわけなく…かくなる上は柿市惣左衛門 腹をかっさばいてっ」

と面倒なことを言い始めます。

唯はそれっぽいことを言って切腹を止めさせ、一人で小垣へ走ります。久しぶりに走ったせいか限界を感じています。

小垣の物見櫓で唯を見つけ、成之のところへ案内します。

「唯殿! いかがなされた」

「成之っ… 若君は!? 若君はどこ?」

「殿と志喜殿と東村上の本陣におられます 本日 午の刻 城 受け取りのため 村上城に出向かれる」

「ダメ!! それっ 行っちゃダメです!! 降伏するってのは大うそです! 城受け取りの時討ち取るって! そして若君をっ 若君を人質にするって!!」

唯の話を聞くと、成之はすぐさま使い番に東村上の本陣に知らせよと指示します。

「馬を飛ばせば東村上の本陣までは一刻余り 必ず間に合いましょう ご案じなさいますな」

と唯を見ると、唯は倒れてしまいます。



夜、若君が戻って来ます。

若君は成之に命拾いした、と言います。唯は? と尋ねると、

「…は 奥の間に」

と成之は応えます。そして、医師が話があると伝えます。

若君が奥の間へ入ると、唯は真っ青な顔で眠っています。

医師は唯が身籠っていると言います。

若君は、そうであったか、と喜びます。

しかし、医師は、

「お胎の御子はおあきらめ頂いた方がよろしいかと存じます お脈も弱く お体も冷えきっておられますゆえ おそらくここ数日のうちにも御子のお命は…」

と唯の状態を説明します。

若君は、仕方ないと、唯の命が大事だと言います。



現代。

尊は研究室で着物を着て、膝の前に起動スイッチを載せた三宝を置き、なにやら決断できずに正座しています。

起動スイッチが完成したようです。ちゃんと動くのか。戦国の世に行くのは怖い。頭の中はいろんな思いが巡ります。

そして満月の夜、あとは刀を抜くだけです。

なんとか大丈夫(なはず)だと言い聞かせ刀を抜きます。

次の瞬間、

「やっっ 曲者!!」

と背後から聞こえびっくりして起動スイッチを落とします。

尊は刀を突きつけられます。

「さては 室谷の刺客!!」

刀を尊に突きつけているのは小平太です。

尊は震えています。

「小僧! 何者じゃ!」

小平太は尊の胸ぐらを掴み、持ち上げます。

「小平太 何を騒いでおる」

若君の声がします。

「はっ 怪しい童が」

と言います。尊は、

「若君ぃ!?」

とすがるように声を出します。

若君が障子戸を開けて出てきます。

「あ゛~~~~!!」

尊は若君がいて声にならない声を上げます。

「……… 尊!?」

若君は尊がいるので驚いています。

「この者をご存じで?」

小平太は若君に問います。

「唯の実弟 わしにとっては恩人でもある」

若君が言うと、

「これは ご無礼を」

と尊をおろします。

若君は小平太に誰も近づけるなと言うと尊に、

「尊 よう参った 今宵 お前が来たのも天のはからいであろう」

と言います。

尊は何が何だかわからないまま、部屋に案内されます。

奥の間で唯が眠っています。

「お姉ちゃん!! どーしたの!?」

若君から説明を受けます。若君は唯を現代の病院で治療を受けさせたいと言います。

唯が目を覚まします。尊がいるのでびっくりします。

若君は唯に現代の病院で治療を受けるよう言います。

唯は若君と離れ離れになるのは嫌だから行かないと言います。

若君は子を身籠っていると言います。

唯は赤ちゃんを思うと治療を受けた方がいいと判断し若君の言う通り、尊に代わって現代に戻ることにします。

唯は起動スイッチの刀を抜き、現代に行きます。

尊は唯を救うためとはいえ、自分が戦国の世に残されて、どうやって姉が戻って来るのか見当もついていません。




姉唯と違い、繊細な現代っ子の尊が戦国時代で暮らせるはずはなく、心配しかありません。

続きます。



森本梢子 アシガール 13巻
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2023年5月4日木曜日

羽海野チカ 3月のライオン 16巻


12月。年末に向けて、

冬が本気を出して来る季節。

クリスマス。そして年越し。

川本家で過ごす3年目のお正月は、

ジグソーパズルを皆で囲んで。

時に惑いながらも、あたたかな幸せをかみしめてゆく。

零と三姉妹の日々はゆっくりと、着実に進んでゆく。

一方、白熱する獅子王戦・決勝トーナメント。

零、二階堂、重田…互いに高め合い、

切磋琢磨を繰り返して来た島田研の弟子たちが、

盤上で熱い火花を散らす――。




宗谷名人の将棋の外での顔が知ることができて面白かったです。

二階堂五段の桐山くんを分かろうとしている過程の描き方が好きです。




●167 冬の鈴音

12月。クリスマスです。

桐山零は文化祭を機に小池君と山下君の三人で机を合わせてお昼を食べるようになります。

クラスメイトは桐山くん以外はほぼ受験を控えていて、クリスマスだと浮かれる余裕はありません。小池君と山下君は受験がない桐山くんをうらやましがります。

桐山くんは林田先生にその話しをします。すると、

「ハハハ 言ってやりゃよかったのに その代わり『中学生の時から働いてました』って んで あまりの辛さに学校の階段で転職雑誌読んで泣いてたって!!」

と林田先生はからかいます。

桐山くんは高校に入り直してやってみたかったことがひとつでもできて、この選択をしてよかったと満足そうです。

桐山くんはひな(川本ひなた)とクリスマスプレゼントを買いに行きます。

ひなはジグソーパスルを買います。冬休みはこれでみんなで遊ぶのが楽しみだと言います。



●168 月の雨 1

宗谷名人が描かれます。勝つことを20年続けている棋士の日常が描かれています。

実家は京都で祖母と住み込みで生活する母子と四人で暮らしています。



●169 月の雨 2

母子はたまちゃんとひびきと言います。母子が宗谷名人の祖母の家で暮らすようになった経緯と、宗谷名人が祖母の家で暮らすようになった経緯が描かれています。



●170 新しい年 1

年が明けます。桐山くんは川本家を訪れます。

年末は屋台の手伝いをして、新年はクリスマスに買ったジグソーパズルで遊びます。



●171 新しい年 2

桐山くんはジグソーパズルを絵柄で組み合わせるのではなく、製造方法からピースのカットした型のラインを頼りに組み合わせを推理してできることを見つけます。そこから驚くような速さでピースが埋まっていきます。

このペースでいくと今夜中にジグソーパズルが完成するから一気にやってしまおうということになります。

そうなるとお菓子が足りないとあかりとひなが言い出し、モモをお風呂に入れている間に桐山くんとひながお菓子を調達に出掛けます。



●172 新しい年 3

お菓子を買いに行く道で桐山くんとひなはたくさん話をします。

去年のお正月のこと、その前にお正月のこと、高校を卒業してからのこと、ひなが桐山くんのことを心配していること、桐山くんはそんなことを考えてくれるひなに泣くくらいうれしいこと。

ひなは、

「逃げない」

「一緒に考えよう」

「かわりばんこにはげまし合いながら歩いて行こう」

と言います。

桐山くんは、どこへでも行ける切符でどこかへ行ってしまいたい思いはひなの言葉で消えて行きます。

両手にたくさんお菓子を抱え帰宅します。

パズルは午前5時くらいに完成します。

あかりは箱の裏に記録を書きます。

「こうしておくと いつでも思い出せるでしょ? その時 誰がここにいて どんな風に一緒に過ごしたか」

桐山くんにとって今年のお正月は心に残るものとなったようです。



●173 新しい年 4

ご近所にパズル仲間がいます。

パズル仲間の花田さんの家に行き挨拶し、ジグソーパズルを交換します。

帰宅し、交換したパズルの箱を開けてみると裏に記録が記されています。

花田さんのタイムがずいぶん更新されています。

あかりとひなはメラメラと闘志が燃え上がります。

ひなは桐山くんのちょっとした変化に気がつきます。

桐山くんは将棋のことが気になっていて、帰ることになります。

あかりとひなは桐山くんにおにぎりを渡します。



●174 冬の匂い 1

幸福感に包まれている桐山くんは将棋に対してますます意欲が増していきます。

二階堂五段と重田五段の対局があり、勝った方が桐山くんと対局することになるので、桐山くんは将棋会館に見に行きます。

控え室には田中七段、島田八段、三角(スミス)六段がいます。

島田八段は獅子王戦決勝トーナメントで誰が勝ち上がってきても島田研の弟分と対局することになり、うれしいやら困るやらと言っていると、愚痴が始まります。

田中七段、スミス六段も参戦し三人で楽しそうに話しているの見る桐山くんはこの空間がとても好きだと思っています。



●175 冬の匂い 2

三日月堂であかりはおじいちゃんにひなたと二人で三日月堂を継ぎたいと言います。

美咲おばさんがやって来て、桐山くんを巻き込んで店を拡張計画する妄想で盛り上がります。いろんな場所ででいろんな楽しい話で盛りあがり明るい雰囲気があふれています。

桐山くんは帰宅し、二階堂五段と重田五段の対局の棋譜を並べ一手一手考えながら楽しんでいます。



●176 冬の匂い 3

あまりに夢中で棋譜を並べていて、ご飯を食べていないことに気がつき、冷蔵庫を開けるとひなのおにぎりが一つも無いこと知り、一体何日川本家に行っていないのかと考え、川本家に向かいます。

家に入ると、ひなは作業をしています。

あかりからひなのことを聞いた桐山くんはひなと話します。



●177 冬の匂い 4

桐山くんはひなにおにぎりのお礼をします。

ひなは新たなおにぎりを作ろうといいます。しかしすぐに、

「あ …… でも… いっぱい作ったら……… また… いっぱい来なくなってしまう?」

と桐山くんが頑張っているのを台無しにしたくなくて会いたくても我慢してたと言います。

桐山くんとひなはいろいろと約束を取り決めます。その交わす言葉ひとつひとつがうれしくてたまらないようです。

同じ夜の島田八段の様子が描かれます。

島田八段は重田五段が負けたので会館を出て帰宅を急ぎます。重田五段が島田八段の家に来て、負けたことを明け方まで話すのに付き合いたくないから電気を消して居留守しようと考えています。家に着くと玄関先に寒そうにして重田五段が座って待っていました。

島田八段は帰れとは言えず、重田五段を家に入れます。お腹を空かしているので食事を用意してあげると、

「ええ~~ 冷凍うどん~~!?」

と出された食事に不満を漏らします。島田八段は、

「じゃ 喰うなよ」

と言うも、重田五段は舌打ちして大きなため息をついて、

「いただきます」

と言って食べます。



●178 道~みち~ 1

二階堂五段は自宅で優雅にお茶をしながら対局を振り返っています。

次は桐山くんと対局です。

桐山くんの初手は重田五段との対局を再現したいようです。



●179 道~みち~ 2

二階堂五段は桐山くんの姿勢に桐山くんに対して思考を巡らせます。恋人ができて将棋に対して心を占める割合が減るのではないかと心配しています。しかし、対局を通じて桐山くんの姿勢を理解していきます。この描写がすごく面白かったです。

続きます。



羽海野チカ 3月のライオン 16巻
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2023年5月2日火曜日

羽海野チカ 3月のライオン 15巻

ひなたの待つ

駒橋高校の文化祭も駆けつけた零。

ファイヤーパーティーの炎を眺めながら

ふたりの間で交わされる言葉とは――。

季節は実りの秋。

「天才」に異様な嫉妬を燃やす「元天才」棋士、

重厚な棋風に経験という厚みを増したベテラン、

一筋縄ではいかない相手との対局を通じ、

零は確かな成長を遂げていく。

「羽海野チカの世界展」の来場者特典で配布した

幻の「13.1巻」より『あかりの銀座物語』も収録!

銀座に集う人たちが紡ぐあたたかい物語です。




桐山くん(桐山零)はひな(川本ひなた)にようやく気持ちが伝わりました。ようやくです。よかったです。

獅子王戦、桐山くんは元天才と言われている野火止あづさ(のびどめあづさ)六段と対局です。野火止六段は研究と勉強を重ねても序盤で全てが台無しになってしまいます。桐山くんは勝ち進んでいくにつれて知らない局面に到達するのが早くなっているのを感じています。そこはまっ暗な部屋で、そこからはてがかりもなく、自分の判断だけを頼りに進みます。次の一歩が崖なのか平らな場所なのかわからない恐怖と常に向き合いながら一手一手指していきます。良い手を指したと思ったのに、その一手が絶望的な一手になったりする対局の描き方が面白いです。

野火止六段に勝利した桐山くんは、田中太一郎(たなかたいちろう)七段との対局です。

桐山くんは研究して用意して来た戦法をあっけなく崩され、すぐにまっ暗な部屋に到達してしまい、焦りとパニックと恐怖の中対局は進みます。なんとか勝利を手にします。しかし桐山くんは初めて怖い勝ち方というのを経験します。

桐山くんが将棋に対する焦りと必死さの自分の考えを説明して、林田先生が桐山くんに迷いなく言う言葉がかっこよかったです。

感情を取り戻し、居心地のいい安心できる居場所を見つけた桐山くんは今後どう将棋と向き合うのか楽しみです。




●154 星のふる夜に 1

桐山くんはひなが送ったメッセージにあった冷やし白玉とあべ川もちを食べて、ひなと歩きます。桐山くんのクラスの出し物を見に行って、後夜祭「ファイヤーパーティ」が行われる校庭に行きます。

大きな焚火を見ていると、桐山くんのクラスの小池君と山下君が話しかけてきます。小池君と山下君はひなをみつけて、桐山くんに彼女がいるとからかいます。ひなは必死に違うと否定します。桐山くんはひなに、

「ちがわないよ というか違わなくなりたい ひなちゃん 君が好きだよ」

と言います。



●155 星のふる夜に 2

焚火の熱さなのか、桐山くんの告白なのか。ひなの顔はまっ赤です。

ひなは桐山くんが初めて家に来た時のこと。桐山くんのために居心地のいい安心して力の抜けるそんな場所を作ってあげたいと思ったこと。存在がどんどん大きくなって、今度は桐山くんが居場所を守ってくれたこと。ひなは桐山くんに会ったときからこれまでを思い返します。

桐山くんとひな互いにしっかりと思いを確認し合います。



●156 あづさ1号 1

野火止あづさ六段。桐山くんの対局相手です。

野火止六段は一旦思考が始まると止まらない性格のようです。現在、桐山くんや二階堂が登場してから「元天才」という扱いを受けてしまい、もう一度返り咲くため闘志を燃やしています。



●157 あづさ1号 2

野火止六段は自分には天から与えられた力があると思っていました。

しかし、二階堂に敗北し、武器だと思っていたものを次々に失います。

世間の注目は桐山くんや二階堂にばかりいってしまい、野火止六段は終わったと言われてしまいます。そこから立ち直り、桐山くんとの対局に挑みます。



●158 あづさ1号 3

野火止六段の対局中の思考が面白いです。たくさん研究して勉強して挑んだのに、序盤で想定していない一手を指され涙目になりながら、それでも自分の棋力を信じて突き進んでいきます。



●159 あづさ1号 4

野火止六段は集中し過ぎると服を脱いでしまうという癖があります。

野火止六段の奇行は桐山くんに影響を与えません。

桐山くんは集中していくと頭の中から音が消えていくという現象が起きます。その現象を感じると次の一手はこれまで経験した、研究勉強した中にはないことを知るようです。



●160 あづさ1号 5

桐山くんの頭の中では音が消えると、自分がまっ暗な部屋に行きつく映像が浮かんでいるようです。まっ暗な部屋から先は手探りで自分の判断だけを頼りに進んでいかなくてはいけません。

桐山くんの判断した一手が、野火止六段を追い込みます。

野火止六段は息苦しさを感じながらなんとか一手を指します。

しかし、桐山くん次の一手はさらに野火止六段を窮地に立たせます。

桐山くんが勝利します。

桐山くんはまっ暗な部屋にいるとき、浮遊しているような、身体が消えてしまいそうになる感覚の中対局しています。これまではそれでもかまわないと思っていたのに、ひなが送って来たメッセージを読み、彼女の笑顔を見ると、現実に引き戻されます。ひなの存在で、桐山くんは戻ってこられていることを生きていることを実感できます。



●161 道 1

桐山くんは心が穏やかになりすぎないように、自分に集中と言い聞かせます。

次の対局は田中太一郎(たなかたいちろう)七段です。



●162 道 2

桐山くんは研究して戦術も準備して来たのに、あっさりと田中七段に崩されてしまいます。

野火止六段との対局のときと立場が真逆の展開です。

桐山くんは焦る心を抑え、冷静に指そうとします。

しかし、田中七段は手を緩めません。



●163 道 3

桐山くんはなんとか集中して指したいと思います。しかし、集中しきれません。

なのに音が消え、まっ暗な部屋がやって来ます。その早さに桐山くんは呆然とします。



●164 道 4

桐山くんは焦りから混乱しかけます。立ち直れたのはひなのおかげでした。なんとかこらえて勝利します。勝ったのに、こんなに怖い勝ち方は初めてで不安に襲われます。



●165 道 5

翌朝目が覚めると昨夜はあんなに不安だったのに桐山くんは起きて朝食を摂れた自分に驚きます。

これまでなら不安に襲われたら何も食べられなくなって体調を崩して、そのまま何週間も戻れないという感じでした。

学校で桐山くんは林田先生に、図太くなったと話します。

林田先生は、桐山くんのまっ暗な部屋の話を聞き、

「アウトプットばかりでインプットが追いつかなくてバランスが取り戻せない感じか?」

と答えに詰まっていた桐山くんに正確に分析してみせます。

桐山くんはおにぎりを食べたことで将棋に対して図太くなれたのはもしかして泥水でも雑草でも食べられれば何でも必死でかき集めてた頃には戻れないのではという考えを話します。

だから、と言う桐山くんの言葉を遮り林田先生は、

「桐山 先に言っとく!! そのおにぎりは絶対手放すな」

と桐山くんをずっと見てきたから強く言います。教師としても将棋を愛するファンとしても完全にダメなことなのに桐山くんを思うとそう言わずにはいられなようです。

桐山くんを思いやる林田先生がかっこいいです。



●166 道 6

桐山くんは、勝たなければ、強くなければ、将棋で力を示さなければ僕には何も残らないから!! 勝てなければ僕はただの役立たずだ!!、とずっと考えているようです。

順位戦B級2組第六局に敗北し今期昇級はかなり苦しくなります。

暗い気持ちで帰ろうとすると、田中七段に声を掛けられ、飲み屋で二人で話をします。

田中七段は昔桐山くんのお父さんと対局したことがあって、その頃の話をします。そして、桐山くんと対局して不思議な気持ちにだったよ、と話します。

「だから 何というか 君は ここまで本当に…… 本当によくがんばったんだな」

と田中七段は桐山くんの背中にそっと手を当てます。

桐山くんはその手の温もりで父との記憶がよみがえります。

田中七段と別れ、桐山くんは橋の上でぼんやり父の声を思い出していると、メッセージが届きます。

あかり、ひなた、モモと林田先生がもんじゃ焼きを食べているので来ないかという誘いです。

店に入り、ひなの隣に座ると、

「れいちゃん おなかへってるでしょ? 何食べる?」

とひなが桐山くんの背中に手を当てて話しかけます。そこでも父の温かかった手を思い出します。

桐山くんは家族の温かさを失くし、たくさんの人の温かさを手に入れました。人の温かさによって将棋の世界でこれから失くすかもしれないものがあるかもしれない。そして、ひなの笑顔という絶対に失いたくないものを抱えて、桐山くんはこれらの感情を全部受け止めてこれからの人生を歩いていくのだと考えています。



●Special Episode

銀座の「バー美咲」でのお話です。

ハイカロリーな食べ物をお腹いっぱい食べてしまい、あかりのドレスのボタンがはじけ飛んでしまい、あかりは伯母の美咲から美味しい料理を禁止されてしまうというお話です。

続きます。



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