2019年4月18日木曜日

森本梢子 アシガール 12巻

若君と唯は戦国の世で生きていく決断します。

唯の若君と一緒ならどこでもいいという覚悟に、若君への思いの大きさを感じます。

戦国時代で生きていくなんて困難のほうが多いはずなのに。

何度も離れ離れになっていたから、最後はもう二度と会えないという終わりにならなくて、二人が結ばれるという結末は本当によかったなと思います。



若君は唯の両親に唯を自分の生きる時代永禄の世に連れて行きたいと申し出ます。

「この忠清 生涯 妻はひとりと決めております 何があろうと一命をかけて唯を守り抜くとお誓いいたす」

この言葉に唯の両親は、

「唯をよろしく お願いします」

と唯が戦国の世に生きていくことを認めます。



若君と唯が黒羽城から姿を消して二か月が過ぎています。

再び若君と唯は戦国の世に戻ってきます。

山中に到着します。

山を越えて緑合(ろくごう)に行かなくてはいけないこの場所に到着したのはどうしてだろうと思っていると、悪丸が現れます。

悪丸と会うために若君と唯は山中に到着したのでしょうか。

悪丸は黒羽城に残してきた若君の愛馬吹雪を取り返してきたのです。

悪丸は馬番の隙をついて吹雪を連れ出したと誇らしげに言います。

出発しようとしたら、馬泥棒の悪丸に追手がかかります。

若君と唯は戦国に戻って早々追手から全力疾走で逃げます。



若君と唯と悪丸の道中は一旦置いておいて、緑合の様子について描かれます。

阿湖姫は松丸家に戻らず成之を慕い、羽木家の者とともに緑合へ歩いて向かいます。

緑合に着くと、松丸家の状況が届きます。

阿湖姫は松丸家が織田に降り、羽木家同様領地から退去したとことを知ります。


一行が緑合に到着して十日後。

忠清が黒羽城で病のため急死したという知らせが入ります。

殿も羽木家家臣も若君の死を鼻で笑います。

皆が口をそろえて唯之助がうまくやったと言い、二人は近いうちに戻るだろうと確信し、家中にいっそう団結力が生まれます。


ひと月が過ぎます。

みな仲良く力を合わせて働いています。

阿湖姫は成之と顔を合わせることは増えるものの、なかなか二人きりで話す機会が作れない状況を寂しく思います。

でも、阿湖姫は成之のほうから話しかけてくれるのを待つことにします。


緑合に松丸義次がやってきます。

義次は織田方より阿湖姫の縁組の話があって、姫を連れ戻すために来たと言います。

殿と義次の間で話が進みます。

阿湖姫は何も言わない成之を見つめます。

成之は阿湖姫に、悪い話ではない、ここにいても光が見えない苦労ばかりの暮らしより、織田方に嫁いだほうが安らかに暮らしていけるでしょう、と義次の言うようにするようすすめます。

義次は阿湖姫に明日にでも発とうと言います。


その夜、阿湖姫は悲しみにくれます。

阿湖姫の頭の中に唯が出てきます。

唯ならどうするだろうと考え、意を決して成之の部屋を訪れます。

成之を呼び、

「私と共に 逃げて下さりませっ!!」

と大きな声で言います。

心より大切に思う人と、幸せに暮らしたいと思いを成之に伝えます。

阿湖姫の決意に成之は心を動かされ、父上と義次殿を説得する、共に生きていこうと約束します。

緑合は領地が小さく、住まいも足りておらず、皆肩を寄せ合って暮らしているといってもいいくらいで、誰がどこにいるかなどすぐわかってしまいます。

内緒話などできないくらい人であふれています。

殿にも義次にも成之と阿湖姫の会話は筒抜けです。

その他の人たちにも二人の会話は聞かれてしまい、すぐに緑合に住む人々全員が二人の関係を知ることになります。

殿も義次も成之と阿湖姫を祝福します。

成之と阿湖姫が結ばれ、あとは若君と唯が戻るのを待つばかりです。




若君と唯と悪丸の山越えは過酷でへとへとになりながら緑合へたどり着きます。

羽木家の人々は若君が無事に戻り歓喜しています。

殿と御月の叔父上様(御月晴永)と若君と唯と家老たちのやりとりが笑えます。

若君と唯の住まいが完成し婚礼の儀を行い初夜を迎えます。




現代では歴史の木村先生が唯の自宅を訪れます。

唯は結婚して外国に行ったということになっています。

木村先生は羽木家のその後のことで驚くべき発見があったので知らせに来たといいます。

速川家にとって何より知りたい唯のその後です。

木村先生は羽木家について話します。

羽木家のお殿様羽木忠高は名を御月忠永と改め、羽木家は生き延びたと言います。

忠高が御月忠永だとすると、その後を継いだ御月清永が忠清になるが、確証は取れていないと言います。

御月家の家系図が残っていて、それを見ると清永の正室は天野氏となっていて、尊と両親がおそらくこれが唯だろうと思い、唯が乱世を無事生き抜いたのだと知ります。




戦国の世に戻ります。

藤尾が唯に身の回りの世話をする渡瀬を紹介します。

渡瀬は顔は笑っているのになぜか怖い。

そんな人です。

唯は渡瀬と上手くやっていけるのでしょうか、楽しみなところです。

唯は450年という時を超えて、出会うはずのない人と出会い、結ばれるはずのない人と結ばれたことを迷い、許されることなのだろうか、と立ち止まって考えてみます。

でも、ここで生きることを自分で決めたのだから、できることを精一杯やって生きていこうと覚悟するところで終わります。




番外編

其之一 天野の兵法

天野家と吉乃の二人の息子が連携して、なし崩し的に吉乃が信近と一緒になることを了承させるという作戦を行う話です。

男衆5人の思いが一致して、協力しあって成ったことが面白いです。

吉乃は初めあたりから天野信近の心に気づいていたから、5人の仲の良さに決意したのかもしれません


其之二

成之の心の変化が描かれています。

大将としての采配と度胸、優しさと大きな責任を背負っている若君を比較してもおよそ肩を並べることができないと感じ、臣下として支え、兄として弱音を吐ける場所になるような存在になろうと心を変える成之がかっこいいです。

若君と唯は成之だけではなく羽木家の多くの人々の心を変えたんだろうなと思える話です。


其之三 ひどく腹を立てている若君

唯と初めて出会った場面の少し前が描かれています。

1巻で若君が寝そべっていたのは理由があったんだと、唯と出会って戦や奪い合いや殺し合いを避けるということがより明確になったんだなと思う話です。

若君は毒キノコをしいたけだといって食べようとした小僧が唯だったと気づいたら、どんな顔をするんだろう。

どこかで唯が若君に毒キノコの話をしてほしいなと思います。



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2019年4月16日火曜日

森本梢子 アシガール 11巻

どうやって唯がもう一度戦国の世に行くのか、については尊がやってのけるというのは想像出来ました。

でも、どうやって行くのかわかりませんでした。

まさか尊が未来の尊に託すとは驚きです。

若君を救出できて、現代で二人で過ごして、唯の思いも叶い、面白かったです。

二人で戦国の世に戻って生きていく、どんなことが起こるんでしょうね、続きが楽しみです。




唯が現代に戻ってきて四か月になろうとしています。

すこし痩せて、髪が伸びています。

唯は若君に触れられた髪を切りたくないようです。



唯が現代に戻ってきた夜、家族は戦国の世での様子を聞き、両親はとにかく唯が現代に戻って来られたことに安堵します。

尊は若君を守れなかったことで唯が別人のようになってしまって、見てるのも辛いので、もう一度戦国の世に行けるものなら行かせてあげたい、しかし、それをすれば両親がまた心配するし、もしかすると今度こそ会えなくなるかもしれないと思い、家族と若君と羽木家の人々とすべてが幸せになる方法はないものかと考えています。



学校で唯は歴史の木村先生に呼び止められます。

羽木家についてまたまた新発見があったというのです。

唯が見せてもらったのは羽木忠高(殿)から野上元丞(野上衆の棟梁)へ宛てた礼状です。

木村先生が推測すると羽木家は城と名をなくし、新しい地で生き延びたらしいというのです。

唯は黒羽城の人々は何とか生き残れたことを知ります。

それともうひとつ、木村先生は大手山の平生寺で羽木忠清(若君)の墓が見つかったというのです。

忠清は永禄四年に死んだことは間違いないようだと言います。

唯は若君と別れてすこし後に、死んでしまった事実を知っても必死に涙をこらえます。



その夜唯は家族に、明日大手山の平生寺に行って、墓が若君のものか確かめてくると言います。

両親は落ち着いて話す唯に恐怖します。

唯を心配して尊が一緒について行きます。



翌日、平生寺に着くと尊は寺の住職らしき人物に、最近見つかったという墓について聞いてみます。

「ああ、羽木忠清の墓ですね」

と案内してくれます。

住職は石塔に案内します。

しかし、その墓は忠清の墓というわけではなく、忠清の死から四十年以上後につくられたもので、骨はないと言います。

唯は、

「それじゃっ 誰のお墓かわからないでしょ!!」

と若君である可能性を否定しようとします。

住職は、

「いえ つい最近 この寺を建てた奇念上人の書付が出て来たんです」

と言います。

唯は奇念の名が出て、この墓が若君のものであると納得するしかなくなり、四か月間ずっとこらえていた涙が一気にこみ上げてきます。

尊は奇念が残したという書付を見せてもらいます。

書付には忠清は永禄四年の二月に黒羽城にてとあります。

若君は唯と別れてから三ヶ月、まだ何かがあったと考え、尊はピンッと閃きます。



バスでの帰り道。

唯は泣き尽くして瞼が腫れあがっています。

尊は書付をみたことで閃いたアイデアについて考え込んでいます。

一人黙々と一点見つめで思考する尊は、視線を感じて我に返ります。

唯が何か考えごとをしている尊をじっとりねっとり見つめています。

「尊 どしたー? 何か思いついてエキサイトしてる?」

ものすごく期待しているような様子では唯は尊に尋ねます。

尊は、

「いや 別に… やっぱ 少し… 疲れたかも」

と気のない返事をします。

普段の唯ならここで尊に何か言いそうなのに無言です。

唯は無言で尊を見つめます。

尊はなにも言わない唯がいつもの感じと違うので怖いようです。

尊は閃いたアイデアがうまくいくかどうか全く自信がないので、唯に何も言わないで一人でアイデアを温めます。




戦国の世の若君は捕らえられ、織田家武将相賀一成の与りとなり、織田方の先鋒として西美濃の加地城攻めを命じられています。

戦での能力の高さを評価され、相賀一成の娘婿として迎えられようとしています。




尊は研究室で閃いたアイデアについて考えます。

尊の思いついたアイデアとは、未来の自分に託すというものです。

未来の自分に新しいタイムマシンに盛り込む機能のリストをノートに書き出します。

○ひと晩で往復できるようにする

○2人同時に移動可能

○時空への影響を最小限にし、亀裂を起きにくくする

○到着場所を設定可に

○省エネ性能アップにより、燃料の消費を抑える

これらの機能を備えた起動スイッチを未来の尊が現代の尊の研究室に本日午前3時14分に送る、とノートに記します。



尊の目の前に起動スイッチが現れます。



尊は急いで唯を起こしにいきます。

真夜中に尊の研究所に家族が集まります。

尊は両親に説明します。

両親は起動スイッチが使えるとして、今戦国の世に行って大丈夫なのか、と尊と言い合いになります。

隣から向坂さんがやって来ます。真夜中なのに起きていたのか、早寝早起きなのかはわかりません。

向坂さんは唯の両親にとって悪いようにはならない、と言います。

唯はもう一度若君の元へ行くことができるとわかり、うれしさで涙を流します。

唯は若君とどうしても離れたくなかったこと、どんな怖いことになっても一緒にいたかったこと、現代に戻ってもう一度若君を助けられる方法があるとするなら、それは尊に頼るしかないということ、でも若君は別れ際に、尊に無理を言ってはならぬと言ったのでずっと何も言わず我慢していたことを告白します。

そして、唯はもう一度機会を手にすることができて尊に感謝します。

気合を入れて、いつもの唯に戻ります。




羽木忠高は緑合(ろくごう)という土地に移る決断をします。

家老の天野信茂は若君を人質に取られ、先祖が築いた土地を捨て緑合に移るというので、気落ちしもう何も身が入らない状態です。




唯は自分でハサミで前髪を適当に切り、持って帰ってきた甲冑を身につけ、もう一度若君に会える喜びを噛み締め、戦国の世へ向かいます。

起動スイッチで到着したのは山の中で、どこだかわからないところです。

唯の後ろから、

「誰じゃ!」

と声をかけられます。

唯にとって聞き覚えのある声です。

唯は、

「おふくろ様!?」

と言うと、おふくろ様が現れたので驚きます。

皆も唯が無事であったことを喜びます。

気落ちしていた天野信茂も唯の姿を見て完全復活です。

唯は状況を聞き、若君が別の女と婚礼させられそうだと知ると急いで若君の救出に向かいます。



黒羽城に着くと、門は固く守られています。

場内に入るのは難しそうです。

唯は強行突破しかないと動き出そうとしたら、のど元にチョップを食らいます。

覚えのある痛みです。

唯はあやめさんと再会します。

あやめさんは唯がこれから何をするかわかるらしく、力になってくれます。



あやめさんと場内に侵入し、唯は若君と再会します。

若君は唯の登場に驚きます。

あやめさんと唯は舞を隠れ蓑にして若君を城門まで連れ出します。



若君は再び唯に会えて嬉しかったと言います。

しかし、若君は自分は逃げるわけにはいかないと唯一人で逃げるように言います。

唯は起動スイッチが改良されたこと、羽木家の人々は皆緑合に向かったので大丈夫であることを説明します。

追手がやって来ます。

唯は、

「早く!! 私につかまって」

と若君に言います。

若君は唯を抱きかかえ、追ってきた相賀一成に、

「相賀殿 妻が迎えに参ったゆえ 忠清は月に行かねばならぬ 志津姫すまぬ ご容赦下され」

と言い残し、唯とともに追手の目の前から姿を消します。




尊の研究室では、尊と両親が目の前に唯と若君が現れ、上手くいって二人が揃って帰ってきたことに感動して泣いています。

唯は見事若君を連れて戻ってきます。

家に戻ります。

唯にとっては若君が自分の家にいて家族と普通に話す光景は初めてのことです。

唯は若君の姿を見つめています。

湯上がりの若君にテンションが上がり、再会出来た喜びを噛み締めています。



朝、目が覚めると唯はすぐ飛び起きて昨夜の出来事を確認するため一階へ駆け下ります。

庭でジャージ姿の若君が朝の鍛錬をしているのを見て、夢ではないことを確認します。



唯は現代で若君と一緒だったらやりたいと思うことを実現させていきます。



夕食で、父親が若君の父であるお殿様に会ってみたいと言い出します。

すると、母親は自分は吉乃様に会って礼を言いたいという話なります。

尊は家族が起動スイッチがこれから何度でも使えると勘違いしていることに気づき、次が本当に最後になることを伝えます。

若君は黙って尊の話を聞いています。



尊は若君が現代で生きていくことを考え始めているように思えています。

両親も向坂さんもそのつもりでいろいろ調べています。

そんな中、唯は絶好調です。

唯は若君としてみたかったあれやこれを全部叶えようと若君を連れ回します。

尊が呆れるほど唯は舞い上がっています。



ある日、唯と若君は黒羽城蹟を訪れます。

木村先生とばったり出会います。

木村先生は羽木家のその後がわからないと言います。

若君はショックを受けます。

その夜、尊は台所へ行くと、若君の部屋から唯の声が聞こえ、二人が一緒にいるところを目撃します。

そっと、自分の部屋に戻ろうとすると、

「次の満月に二人で戦国に戻りましょう」

という唯の声が聞こえます。

唯は若君がどうするべきかずっと考えていたようです。

二人で戦国の世に戻るため、唯は現代で若君としたいことして、見せたいもの見、全てやり尽くしていたのです。

尊だけでなく母親も唯と若君の会話を聞いています。

若君は、

「唯 お前はまこと 大たわけじゃ」

と唯の覚悟をしっかりと受け止めます。

続きます。



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2019年4月14日日曜日

森本梢子 アシガール 10巻

唯が若君を守るため、羽木家が生き残るため奔走します。

唯の奮闘ぶりに、なんとかして羽木家を守ってほしい、若君と無事難局を切り抜けてほしいと願うばかりです。




「すごくいいこと思いついた」

という唯が持っている武器は、

まぼ兵くん

金のけむり玉

でんでん丸

起動スイッチ

の4つです。

唯は4つの道具を駆使して、すごくいい作戦を実行するためどのようにして殿を説得しようか考えます。



唯が思案していると、部屋から甲冑を身に纏った家老四人じいちゃんばかりが出てきます。

唯のおじじさま、天野信茂は、

「夜討ちじゃ」

戦わずして負けを認めることはできないと、城の外へ出て、高山に奇襲をかけると言うのです。



唯が止めるのも聞かず、四人のじいちゃんは城壁の抜け穴から出ていきます。

ただちに唯は悪丸とともに救出に向かいます。



四人を城に連れ戻します。

千原元次だけ亡くなってしまいます。

話を聞きつけた殿がやってきて勝手な行動をした家老を叱責します。

しかし、殿は天野信茂の話を聞くと、明日城を出て戦う覚悟を決めます。

近くで聞いていた唯は殿を全力で止めます。

若君が言ったことを伝えると、殿は戦うことをあきらめ、唯の逃げるための策を聞いてみることにします。



唯の秘策(すごくいいこと)を聞くため、天野信近、成之が集まります。

唯は自信満々に、城の北の門から逃げるという策を語ります。

殿、信近、成之は唯の策があまりに単純で言葉が出ません。

北の門から城を出たとしても、北には野上衆がいて、野上衆と羽木家はこの五十年ずっと争っていたから、高山軍と野上衆に挟まれ逃げられないと言います。

唯は野上衆については、若君がつい先日和睦の交渉に成功したことを言おうとしたその時、部屋に野上衆棟梁野上元丞の倅、野上元継が入ってきます。

元継が仔細を話し、野上衆は羽木家の力になると表明します。



殿は羽木家総勢で城から即刻退去する決断をします。

なんとか唯の計画したとおりになります。



どうにか全員で城から逃げることは決まったものの、唯は城を出た後のことについて、不安を感じます。

城に戻ることはできるのか、城での暮らしがなくなってしまいどうするのか、とめどなく不安がこみ上げてきます。

奥の女たちは藤尾様を中心に城を出ると決まったのだから気持ちを切り替え、城を出る準備を大急ぎで始めています。

そんな様子を見て唯は、前に進むしかないと、迷いがいくらかやわらぎます。



さらに奥からは阿湖姫に声が聞こえてきます。

唯は阿湖姫のところへ行き、松丸家に戻ることを引き止めたのに、今のような状況になったことをわびます。

阿湖姫は、

「阿湖はもう 羽木家の者になったつもりでおりまする」

と唯に責任はないと言います。

唯と阿湖姫が話しているところに成之がやってきます。

成之は阿湖姫と話すために阿湖の元にやってきたはずなのに、唯がいたからなのか、またいつもの皮肉交じりの言葉を発します。

培った性格はなかなかそう簡単には治りません。

成之は言ったあとに後悔したと思います。

早く思ったことを思ったまま素直に話せるようになれればいいのにと思います。

阿湖姫は勇気をだして、

「阿湖はもうっ 成之様の妻になったつもりでおりまするっ」

まっすぐ成之を見つめ、顔を真っ赤にして大声で宣言します。

成之は阿湖姫の言葉に面食らいます。

それでも平静を装いつつ、

「阿湖殿 もしここを生き延びることができたならば その時は必ず」

と言います。

阿湖姫にとっては何よりの返事です。

成之が立ち去ると、阿湖姫は立っていられずその場にへたり込みます。

唯は阿湖姫をほめます。

本当に姫様なのによく頑張ったと思います。



成之は野上元継に呼び止められます。

元継は小垣の様子を探って若君が小垣城に籠城していることをがわかったと言います。

若君と言う言葉が聞こえて唯は、成之と元継の会話に入ってきます。

唯は今すぐ小垣へ行かなきゃとあわてます。

元継は小垣へ行く野上衆だけが知る道があるので、唯が行くのなら案内すると言います。

成之は唯の気持ちを汲み、唯の城の者たちを逃がす手立てを自分が引き受けようと言います。

唯は成之に、

「本当に 心 入れ替えたのね ありがとう!!」

と言います。

成之は唯の存在が生き方を変えるきっかけになったのをわかってはいても認めたくないようです。

唯に感謝されたのだから、もう少し表情をくずしてもいいのにな。

成之にはもう少し時間が必要です。



唯は成之に城のことを任せ、小垣に向かいます。

満月の夜まであと四日です。



小垣までの山道あるいて三日、小垣城を目前にして、城が陥ちたと知らせが入ります。

明日の朝、若君が敵に降るというのです。

満月の夜より一日早いです。

とにかく急いで小垣城へ向かいます。

最後の金のけむり玉を使い城までやってくると、城門の前には竹の柵が施されてあり城門にすら辿り着けません。

唯はでんでん丸を使って、力づくで城の中に侵入しようとします。

覚悟を決め、行動しようとしたその時、横から蹴りを食らい唯は地面にたたきつけられてしまいます。

その衝撃ででんでん丸が壊れてしまいます。

最後の武器も使えなくなった唯の目の前に槍がつきつけられます。

唯は、終わった、と呆然としていると、

「待て」

と声がかかります。

唯に槍をつきつけた兵は

「…あ これは 若君様」

と言います。

若君という言葉に唯は、待て、と言う声が聞こえた方を向くと、若君は若君でも忠清ではなく、高山宗熊が立っています。

宗熊がいたことで、唯は命拾いします。

宗熊に陣幕へ連れて行かれた唯は、若君を逃がすよう求めます。

宗熊は忠清との約束を反故にして申し訳ない気持ちではあっても、織田方に逆らえず、唯に申し出を断ります。

それならばと唯は、自分を城の中に入れてほしい、開城の期限を一日だけ延ばしてほしいと言います。

宗熊はそれだけは叶えてやりたいと、織田方に交渉し、意地を見せ、唯の要望を受け入れさせます。



唯は起動スイッチのみを持ち、場内に入ります。

城の中では若君と木村政秀が話しています。

唯に若君のいつもと変わらぬ笑い声が聞こえてきます。

唯は若君の姿を見ると、こらえていた涙をこぼします。

再会した唯は若君の胸に飛び込んでいきます。


再会をかみしめているのに、木村が唯に黒羽城の状況を教えてくれと、邪魔をします。


黒羽城では、成之と悪丸二人が残り、全員城を出て安全を確保するまでまぼ兵くんで時間を稼いでいます。



唯は若君と二人きりになりたいのに、木村政秀がなかなか部屋から出て行ってくれません。

唯は開城の期限を一日延ばしたことを報告します。

唯は若君に起動スイッチを示し、

「明日の満月の夜の次の朝です」

と言います。

そして唯は本来なら五日前に執り行われるはずだった婚礼を行いたいと言います。

木村は、

「そうか! それはよい」

と言います。

若君は、

「待て 唯… すまぬがそれはできぬぞ」

と婚礼を挙げることはできないと言います。

木村が若君に唯のわからない何かを話すと、若君は婚礼に納得します。

木村と若君が交わした会話から、若君がどこの所に説得されたのか唯と同じくわかりません。



唯と若君は婚礼の儀式を終え、お床入りです。



唯の三度目の閨チャレンジです。

唯は若君の抱きしめられ、あるはずのこと、あってほしいこと、したいことをあれこれ思い浮かべ、そのどれもが一緒にはできないことで悲しくなり泣いてしまいます。

若君は唯の気持ちを感じ取り、さらに強く抱きしめます。

唯は優しく髪をなでられながら若君を感じて眠りについてしまいます。



唯が目を覚まします。

眠ってしまったことを悔みつつ唯はあわてて若君を探します。

若君はすでに着替えていて月を眺めています。

唯は起動スイッチを手に取り、若君に、

「若君 一生のお願い どーしても聞いて欲しいお願いがあります」

と若君に言います。

若君は、

「唯 わかっておろう それは聞けぬ」

と言います。

若君はどれだけ説得してたとしても承諾はしない、そして、唯に起動スイッチを使って現代に戻るよう言います。



唯は甲冑に着替え、うつろな目で若君に心の中で語ります。

若君は唯に気持ちを先読みし、

「唯 あまり尊をいじめるなよ」

と言います。

唯はビックリします。そして、

「はい」

と言います。



唯は不本意ながら、起動スイッチを抜きます。

消える間際、

「でも若君!! 若君はまだ一生分私を抱いておられぬからね てゆーか 一生分も何も 結局 一度も 抱いておられんから…」

と涙をこらえて叫びます。

唯の姿が消えます。

若君は唯に言葉に笑い、月を見上げます。

唯が若君を守りたいと思う以上に、若君は唯を守りたいと思っていることが伝わります。



しばらくの別れになるのでしょうか。

今生の別れになってしまうのでしょうか。

新しく文献が発見されて、若君の消息を知る展開はちょっと切ないです。




番外編は二本、若君の初陣、若君の現代の暮らしぶり、です。



若君の初陣

13歳の若君の最後の台詞、

「わしは女子が戦場に来るのはすかぬ」

数年後には、

「はて、そのようなこと申したか?」

ととぼけそうです。

成之だけでなく、若君も唯と出会って生き方を変えた一人なんだと思える台詞です。



若君の現代での暮らしぶり

尊の小姓っぷりが板についています。

若君は歴史の本から、無益な戦いを避け、守れる命があるかを考えているところや、

人の得て不得手を上手に伸ばしてあげようとするところが本当にかっこいいです。

続きます。



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