2017年10月30日月曜日

あきづき空太 赤髪の白雪姫 3巻

「よほど何かゼンに必要とされるものがあなたにはあるのだろうね」
「…人の目にも明らかなものがあるかどうか 私には答えられません」



●第9話
イザナ殿下に問われ、白雪はどうあるべきか考えます。
ゼンに必要とされるもの。
誰が白雪を見ても納得のできるものは持っていません。
ゼンの友人。
宮廷薬剤師見習い。
ウィスタル城において、白雪が明らかにできる身分はこの2つです。
白雪は今後どうすべきか悩みます。

ゼンの元に厄介な知らせがやってきます。
ウィスタル城にタンバルン王国のラジ王子がやって来るというのです。
第1話で白雪を愛妾にしようとしたラジ王子です。
イザナ殿下がこのタイミングでラジ王子を国に招待するというのです。
ゼンは兄イザナが何の理由もなくこのタイミングでタンバルンの王子を招待したとは思えません。ゼンはイザナの真意を探ろうとします。

白雪はゼンの手紙でラジ王子がウィスタル城にやって来ること知ります。ラジ王子の到着は20日後。白雪の動揺はさらに大きくなります。

イザナとゼンでラジ王子を出迎え、ゼンはラジに挨拶します。ラジにとってゼンは弱みを握られているので二度と会いたくない人物です。言葉がしどろもどろです。
白雪は城内でラジと対面する機会はなく、その点では安心です。しかし、イザナとゼンとラジの間で何が話されるのか、白雪は気になって仕方ない様子です。

白雪の様子を見て、オビが中の様子をのぞいてみようと、白雪の手を取り、兵の警備をすり抜けて、茶会が催されている会話が聞き取れるところまで連れて行きます。

イザナはゼンの前で(おそらく白雪が近くにいることを確認した上で)、ラジに白雪のことを尋ねます。
ラジはゼンとの約束を守ろうとするあまり、周囲をざわつかせる爆弾発言をしてしまいます。
それを聞いたゼンは焦ります。ラジを連れ出し、二人で話をします。
ラジは状況が飲み込めていません。ただ、自分の立場が悪くなるのだけは避けたいらしく、白雪を自分が迎えてもいいとゼンに言います。
ゼンはラジの申し出を断ります。
白雪がここにいたいという思いをゼンが叶えているだけだといいます。
この先のことはわからない。
今できることをする。
そのために人は動く。
と、ゼンは言います。

白雪がクラリネス王国に来たのは、ゼンの近くにいたいため。
ウィスタル城にいられるのは白雪がゼンから必要とされているからではなく、ゼンの名によっていられるという事実。
この先、白雪はゼンに何を与えることができるか。
白雪はイザナに何も答えられませんでした。そして何度も自分に問いかけます。


●第10話
白雪はゼンと会い、話し、次第に方向性が見えたような気になります。
怯まなければいい。
今できることは怯まなければいいと思うこと。後で答えはついてくるはず。白雪はそう思うようになります。

ゼンは昔の記憶を振り返ります。イザナの手腕に恐れ入り、気持ちを新たにした出来事です。
イザナの言葉にゼンの身体には熱い衝撃が走ります。
兄がいずれクラリネス王国の王になる。
その時、弟であるゼンはどうありたいか。
ゼンの決意はあの時のまま、今も実現させるため日々鍛錬に励んでいます。

ラジ王子の投げた爆弾発言はウィスタル城内のあらゆる場所で話題になっています。
白雪にとって居心地の悪い状況になりつつあります。

イザナはゼンが白雪を側に置くことは特に不快に思っている訳ではないようです。
ゼンが白雪を大事にしすぎていることに懸念しているようです。
イザナは王族を取り巻く諸侯がゼンの評価を落としかねない要素は事前に排除したいと考えているようです。
しかし、ゼンはイザナに反発します。そんなゼンに対してイザナはどこかうれしそうです。ゼンの成長を喜んでいるようです。

ラジ王子は、ゼン、イザナとの会談に精神がすり減り胃が痛くなり、治療室に向かう途中で白雪に出くわしてしまいます。
白雪と交わした会話はラジにとって変化する大きなきっかけを与えることになります。

白雪とラジの会話を聞いていたイザナは白雪にもう一度、
「あなたはラジどのといるのが向いてると思うなあ 俺のような男がいる国は嫌だろう」
とつきつけます。
今度の白雪はイザナに怯むことなく、
「私はタンバルンに帰るつもりはありません」
「ゼンと会えた国です」
と答えます。
イザナの表情がやわらかくなります。

イザナはどうして白雪がゼンの側にいることについて、しばらく様子を見ようと思ったのかは直接描かれていません。何がそうさせたのだろう? ラジと白雪の会話に何か思うことがあるのかもしれません。


●第11話
ゼンと白雪の仲を探ろうとする勢力がひっきりなしに白雪を監視しています。
白雪を通じて、ゼンとつながりを持とうとする者たちがいくつも現れはじめました。
そこでゼンはオビに白雪の護衛を指示します。
オビは第3話でハルカ侯爵の指図で白雪を脅した前科があります。
白雪はゼンが言ってきたことなので、やや警戒心を持ちつつ、薬室の仕事を手伝ってもらうようになります。

オビは白雪を見て、言葉を交わして、ゼンが側に置こうとする理由がなんとなくわかってきます。オビは前の雇い主であるハルカ侯爵が近くにいるのに、どうしてゼンに仕える気になったのだろうかと不思議でした。
オビはゼンや白雪やミツヒデや木々を見ていると面白そうだという理由で居座っただけだという独り言で、オビもゼンや白雪と同じものに惹かれて、そんな二人を見ていたくなって、自分ができる役割で力になろうとしているんだなと思いました。

ゼンはオビに城内における肩書、身分を与えます。
クラリネス第二王子付伝令役。
オビがゼンの意向により白雪の護衛についていることを、白雪に関心を持つ家に知らしめるという効果は絶大で、白雪の監視はなくなりました。


●第12話
新展開です。
仲裁の申し出があり、ゼンは訴え内容から当事者同士の話し合いが妥当という判断を言い渡しました。
訴えは領民が領主に対し、鳥を保護してほしいというものです。

白雪とリュウが薬室の外で仕事しているとろこにオビが現れすこし話していると、どこからともなく青と緑の鳥が飛んできてリュウの側で羽を休めます。リュウは集中すると周囲の音が一切遮断されるので、鳥の羽音など聞こえるはずはなく、視界に急に鳥が現れびっくりしてしまいます。
鳥はキハルが王城に一緒に連れてきたキハルの友人ポポです。
ポポが存分に羽を広げられるようこの広い場所に連れて来たようです。
先ほどのゼン殿下の仲裁の判断が望ましい結果を生まなかったので、部屋に閉じこもっているより外で沈んだ気持ちをなんとか変えたいという思いもありそうです。くやしさを必死にこらえています。

キハルは白雪を見つけ、赤い髪に驚き、白雪の隣の先ほどの仲裁の場にいたオビに気がつきます。
キハルは仲裁の判断が気に入らず、
「位の高い人間は位のない人間を相手になんかしないのよ」
とゼンやブレッカ子爵に直接は言えない腹立たしい気持ちを吐き出します。
白雪は何があって、キハルがそんなことを言うのかはわかりません。
だけど、
「それは ゼン殿下の人柄を指す言葉ではないよ」
白雪は知っていることに対して違うことはきちんと否定します。
白雪の言葉にオビは不意を突かれたようで、彼女はいつでもどこでだってゼンのことを自分が知っているくらい知ってほしいと思っている事に気づきます。

キハルは誰かに聞いて欲しくて、白雪とオビに王都にやって来た理由を話し始めます。

ゼンは感情としてはキハル、領民たちに協力したい思いです。領民の肩を持つことは干渉になるので口出しできません。できないことが腹立たしそうです。

キハルから事情を聞いた白雪は、ゼンと同じ思いで鳥を守る手立てはないか探ります。白雪に笛を使って鳥を操る技術でどうにか救うことはできないかと持ちかけられ、オビはゼンに白雪が言ったことは伏せて、笛を使い鳥を操る技術を話します。

オビの話からゼンは、一晩考え、仮に意のままに鳥を操ることができるなら、遠く離れた場所との連絡手段に使えはしないかと、鳥を保護できる可能性を探ります。

翌日、ゼンはブレッカ子爵とキハルを再び呼び、昨夜考えたことをキハルに伝え、可能であることを聞くと、その日のうちに長距離間で鳥を飛ばす考試を行いたいと提案します。

キハルは鳥の保護につながるかもしれないゼンの提案に希望を託します。ただ、城の中にキハルが信頼でき、協力してくれそうな人がいません。キハルは白雪を指名します。

考試内容は、

城より西に直線で役10キロの地点――馬で往復40分を要するココクの見張り台に文書を持たせた鳥を飛ばし見張り台にいる者がその文書を受取署名をした後鈴をつけ城へ帰す
これらを確実に25分以内に行う事
条件を全て満たせば認定とし 満たせぬ場合は白紙とする


ザクラも考試の証人として立ち会っています。ザクラはこの考試より、白雪が参加していることに興味を持ちます。
白雪が考試に参加することを知ったブレッカ子爵はキハル・トグリルに、
「殿下のご友人を味方につけるとは考えたなあ トグリル」
「まったく小賢しいことだ」
と吐き捨て、あきらめの悪いヤツだと言わんばかりに態度です。
しかし、ゼンはブレッカ子爵の態度に穏やかに対応します。
ブレッカ子爵は、
「……では殿下 私もココクの見張り台に同行させて頂きたい」
「疑うわけではありませんが… 娘らに不正があっては殿下の面目が立ちますまい」
ゼンへの不快感を隠そうともしません。

一連のブレッカ子爵の言動に反応したのはザクラです。ザクラが言うまでもなくゼンの側近のミツヒデと木々はブレッカ子爵への怒りを必死にこらえています。
オビは、
「やれやれ…… 動きづらいのね国の人間ってーのは」
そんなミツヒデと木々の様子をみて、感想をもらします。

ブレッカ子爵が白雪を共にココクの見張り台に来たのは、白雪に取引を持ちかけるためでした。
ブレッカ子爵の取引を白雪は当然拒絶します。
自分の価値観が世の常識と信じているブレッカ子爵は白雪が取引に乗ってこないことに逆上し、白雪の首から提げている鈴、キハル・トグリルの飛ばした鳥ポポが飛んできて、帰すときにつける鈴をひきちぎり、湖に投げ捨ててしまいます。
ブレッカ子爵はなんとしてもこの考試を失敗させる気です。
ブレッカ子爵は時間まで白雪が何もできないように見張り台の部屋に閉じ込めてしまいます。

白雪はキハル・トグリルの鳥を守りたい思いと、ゼンのために動きます。
白雪が閉じ込められた部屋は見張り台の最上階で、湖に向かって窓があります。窓は簡単に開けることができます。白雪は窓を開け身を乗り出し、湖に向かって飛び降ります。


白雪の台詞がかっこいいです。白雪のゼンに対する思いはブレがありません。
続きます。


あきづき空太 赤髪の白雪姫 3巻
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2017年10月28日土曜日

森本梢子 アシガール 6巻

唯は毎日、尊に燃料はできたか、学校の歴史の木村先生に羽木家についてその後何かわかったか、と聞き続けています。

尊は早く完成させるから、邪魔しないでと言います。

木村先生は唯に怯えています。唯の姿を見かけると、さっと存在を消し去ろうとします。それでも唯は木村先生を見つけると、人間離れした速さで木村先生に近づき羽木家について聞こうとします。

木村先生は歴史的な発見ではなく、小垣市の古戦場を発掘調査している知り合いが持ってきたという面白いものを唯に見せてくれます。

古い写真です。

木村先生は写真に写る人物が唯に似ているからと見せてくれたのです。

唯には見せられた古い写真が何であるかわかっています。自分の部屋の写真立てに入れていた写真です。

写真は若君が戦国時代に持っていったのです。


自宅で家族に木村先生からもらった古い写真を見せます。

父親はこの写真がどこでみつかっのか唯に聞きます。

唯は小垣城のあった所の近く、戦場のあとで見つかったと言います。

尊と両親はそれぞれの考えを話します。

尊は若君がうっかり落としたんだと言います。

父親は若君がいらなくなったから捨てたんだと言います。

母親は若君がおじーちゃんになるまで肌身はなさず持っててくれたと言います。

家族は涙ぐんでいる唯がさらに悲しまないように言います。



夜、唯は夢を見ます。

若君の素敵な笑顔が出てきます。

若君の素敵な笑顔は唯に向けられたものではなく、べつの女子に向けられています。唯は女子の後ろ姿で松丸阿湖だと確信し、嫉妬の炎に燃えます。

ふと屋根に目を向けると、刺客が若君を銃で狙っています。銃が放たれた音で唯は目を覚まします。



唯は本当に爆発したような気がし目が覚めます。

外から、

「尊!!」

と声が聞こえます。

唯は尊に何かあったと、庭の実験室に急いで行きます。

実験室が派手に爆発を起こして無残な姿です。

両親は残がいをかき分け尊を探します。唯は尊がもしかしたら…とただ見守っています。

厚い扉をこじ開けて防護服を着た尊が出てきます。無事です。

父親は尊を叱ります。

尊は、どうしてももう一度唯を若君に会わせてあげたくて燃料を作るのに無茶をして実験室を爆発させてしまったといいます。

母親が無茶をして燃料づくりに失敗して全部壊してしまったのねと言うと、尊は機械は壊れたけど燃料はできたと言います。

2回分。行って帰ってくる分の燃料ができたと言います。

唯はもう一度戦国時代に行けると分かり歓喜します。

両親は唯が戦国時代に行くのは大反対です。

尊は唯があきらめそうにないし、何年かかっても行く気だし、その時までずっとあのTシャツを着る気だし、と言います。


尊の台詞に、読み返してみると唯は現代に戻ってきてからずっと若君が着ていた変なプリントのTシャツを着ていました。気がつきませんでした。


両親が止めるのを振り切って、唯は戦国時代へ行く準備をします。

尊は唯のために新たな道具を発明します。金のけむり玉という煙幕の強力版で、百メートル四方を一時間真っ白にすると言うものです。

出発する準備万全の唯を見て両親はあきらめます。

ただし、母親は必ず帰ってくると約束してと言います。

唯は素直にわかったと言います。懐剣を抜きます。

抜いてから唯は、

「あっ でも お母さん もし 帰って来なくても心配しないでね だって ほら その時は 首尾よく 若君と結婚したってことじゃん?」

と言い、さっきの、わかったという言葉はどこに行った? という台詞を言い終わらないうちに姿が消えます。

両親はあきれ、尊は、お姉ちゃんはあーでなきゃと、目を閉じて姉らしさを噛みしめています。



唯は戦国時代に戻ってきます。5か月ぶりの戦国時代のなつかしいにおいに、本当に戻ってこられたことに感動しています。

すぐにでも若君に会わなくてはと黒羽城に向かいます。

走っていると、

「ぎゃあああ」

と悲鳴が聞こえてきます。

唯は恐る恐る声のした方へ行くと、黒装束の男たちに襲われている集団を見つけます。必死に抵抗しています。

唯は尊が作ってくれた金のけむり玉を早速使い、駕籠の集団を安全な場所まで連れていき救います。

唯は助かったとお礼を言われます。

駕籠の中から声がして、

「私からも礼を申します 履物を」

と、駕籠の中から出てきたのはかわいい姫です。

唯は話をしていくと姫が、松丸阿湖だと知ります。

唯は想像していた松丸阿湖と違うので、もしかしたら若君が阿湖姫に会うと好きになるかもしれないと不安になります。若君に会わなくてはと黒羽城の城門にやって来ます。

門番は婚礼が終わるまで誰も入れてはならぬと唯を通してくれません。


唯は天野の邸に行き、おふくろ様に会いに行き5か月間の状況を説明してもらいます。

唯はおふくろ様に若君の婚礼を阻止しに来たと言うと、おふくろ様に若君がご承知なされたことだから邪魔をしてはなりませんと言われます。戦国時代の人たちといろんな関係性ができた今、唯は自分の意思だけを押し通すことはできないと涙します。

どうすることもできない唯は、あと1か月は現代に帰ることができないし、天野の家で若君を祝うのはつらすぎるので、梅谷村に行くと言います。

一人で大丈夫かというおふくろ様に唯は、子供のいないお人好しの六助夫婦に泣きついて、ご飯毎日食べさせてもらうと言います。

おふくろ様の眉毛はつり上がっています。


唯はトボトボと梅谷村までの道を歩きます。休んだり、ぼーっと考え事をしたりしながら歩いていると、馬が走る音が聞こえてきます。

何だ? と音がするほうを見ると、若君です。

大声で、

「若君ィィィ!!!」

と叫びます。

若君は馬をとめます。自分を呼ぶ声が唯に似ていたからです。

もう一度、唯は若君と叫ぼうとしたら、

「若君様!」

と若君が来た方から女子の声が聞こえます。

唯は声の方を見ます。若君も見ます。

阿湖姫が馬に乗って若君の後を追って来たのです。

唯は小さくなって隠れます。

若君と阿湖姫は少し話し、城の外は危ないから城に戻ろうといいます。

唯は若君と阿湖姫の後ろ姿を見送ります。唯にはとてもお似合いのふたりに映ります。

若君は阿湖姫との城までの帰り道に、昨夜高山の刺客に襲われたことをたずねます。阿湖姫は危うく皆殺されるところを唯之助と申す者に救われたと言います。

若君は唯之助という名を聞いて静止します。どのような年格好だったかと聞きます。阿湖姫の話す唯之助は若君にとって心当たりがありすぎる人物です。

先ほどの、「若君ィィィ!!!」という声も気になり、もう二度と会うことはできないとあきらめていたのに、少しの可能性が生じだと思います。

阿湖姫の従者がやって来て、若君は阿湖姫を従者に任せ、また来た道を戻ります。


若君と阿湖姫を見送った所で唯はひとり泣いています。阿湖姫はかわいいし、若君を祝えないし、とどうにもならない愚痴をブツブツつぶやいて、ようやく梅谷村に向かおうという気になります。

草むらから出ていこうとすると、若君がじっと唯を見ています。

阿湖姫と二人で城に向かったはずの若君が唯の目の前にいます。

唯は若君にびっくりします。

若君はいるはずのない人がいるのだから唯と比べものにならないほどびっくりしていると思います。

唯には自分をじっと見る若君の表情が怒っているように見えています。

ところが、若君は唯を抱きしめます。

若君は唯に再び往き来できるようになったのかと聞きます。

唯は尊は二回って言ったからあと一回です、と言います。若君に触れることができて幸せそうです。

若君は、

「では帰れるのじゃな」

と言います。唯はハッと我に返り、嘘をつかれて現代に帰ってしまった前回のタイムスリップを思い出し、

「若君!! 今また どうやって私を帰そうかなって思ったでしょ!!」

と言い、立ち上がります。池へ向かって走っていき、池に懐剣を投げ捨てます。

若君は唯の行動に驚き、池に入って懐剣を探そうとします。

唯は若君を引き止めます。

「私 決めたんです!! 今度若君に会えたら もう あっちには帰らないって! ずっと若君の側にいるって! 会えなくなるのはもう二度と嫌だからっ」

と、婚礼の邪魔をしに来たと若君に言います。

「されど」

と若君は唯の家族のことを思い、言葉を続けようとするけど、

「わかってます!」

と唯が若君の言葉を遮り、

「お家のために松丸家との縁談断れないんでしょ? いいんです! 婚礼の邪魔をしに来たけど それはもうあきらめました!」

唯が戦国時代に来た理由が分かり若君の口元はゆるみます。

若君は唯に松丸家との婚礼は行われないと言います。そして、唯のほほに手をそえて、

「お前がこれほどの覚悟で戻ったからには 他の者を娶ろうとは思わぬ」

と言い、顔を近づけてきます。

唯は目をつぶる場面だと目を閉じて待っています。


間の悪いことにこの場面に小平太が登場します。

小平太は若君に城に戻るように言います。松丸家より婚礼を見合わせたいと言ってきていると伝えます。

若君は予想通りの事態に平常心です。

小平太の邪魔によって唯がずぶ濡れになってしまい、若君は自分の射籠手を唯に着せてあげます。

若君の様子に小平太がなぜ? という顔をします。


唯は天野のおふくろ様のところに戻ります。黒羽城までの道で急な展開をおさらいします。冷静にあった事ひとつひとつ考えてみるとプロポーズされたことに気づきます。

おふくろ様は唯が梅谷村に行くと言ったのに、戻ってきた上に若君にも会ったと知り、唯を叱ります。



阿湖姫は松丸家の世話役石倉から明日の婚礼を取り止めると言われます。黒羽城内で大変な噂を耳にしたからだと言います。

忠清(若君)様は羽木家の家督を継ぐ気はなく、兄の成之様に譲りたいと申しているという噂です。

阿湖姫はそれでも構わぬと言います。

かめと石倉は忠清様が跡目ではないとなると婚礼は取り止めとなり帰ることになると言います。そして、松丸家と羽木家との盟約も破棄になると言います。

阿湖姫は落胆します。



唯は厩にやって来ます。仲間は久しぶりの再会もそこそこにいつもの仕事にかかるよう言います。

阿湖姫が厩に若君を追いかけるため馬を借りたお礼にやって来ます。

唯は阿湖姫と名前が聞こえ、コソコソとその場から逃げ出そうとします。

阿湖姫は後ろ姿で唯之助であると気づき、声をかけます。唯が羽木家の者だと知ります。もう一度会って礼をしたかったと、馬番の組頭に唯を連れて行ってもいいかと許可を取ります。


唯は困った表情です。阿湖姫は話してみるととてもいい子です。

唯はつらくて、阿湖姫に特に若君の話の相談をされるとどう答えていいものか困ります。

唯は阿湖姫に帰り際には明日も来てほしいと言われ、断りきれなくて曖昧な返事で去ります。



翌日、唯は阿湖姫に今日は用事があって城下に行きますと言います。阿湖姫は唯に一緒に連れて行ってほしいと言います。

唯は連れて行くことにします。


城下にはたくさんの高山の間者が潜入していて、隙あらば阿湖姫をさらおうと狙っています。

もうすぐで目的地に到着というところで、高山のスパイに阿湖姫がさらわれてしまいます。

唯はなんとか阿湖姫を奪い返します。逃げるにも阿湖姫の足が遅くて逃げ切れそうにありません。注意深くまわりを観察すると、阿湖姫を狙っている者がそこらじゅうにいます。

唯と阿湖姫はなんとか隠れます。唯は着ているものを交換しようと言います。唯は自分が姫のふりをして阿湖姫を狙っている者を引きつけるから、阿湖姫は安全になったら城に戻ってくださいと言います。

唯は着ているものを脱ぐと、阿湖姫が、

「こ…こなた 女子…か?」

と言い、女子だと阿湖姫にバレてしまいます。

唯は阿湖姫の格好をして逃げます。高山のスパイは姫を見つけたとじわりじわり追い込むつもりです。

唯は絶妙の距離をつくり、逃げ続けています。高山のスパイは唯に追いつけない理由がわからないようです。

唯は捕まることはないと油断してしまいます。挟み撃ちされて高山に捕えられてしまいます。



夜になって黒羽城では阿湖姫がいないと大騒ぎになります。

若君は城下を探すよう指示します。

阿湖姫が男のなりで戻ってきます。阿湖姫は若君にことの次第を報告します。

阿湖姫からもたらされた話に唯之助が絡んでいることで、若君は冷静さを失います。自ら馬に乗り唯を探そうとします。

家臣は若君に唯が高山の手に落ち捕えられれば、男であるとすぐに分かり、その場で切り捨てられているだろうから、無闇に探しても無駄だと言います。

若君はそう言われて冷静さを取り戻し城に戻ります。


若君は阿湖姫を呼び、2、3質問をします。そして、高山は唯を阿湖姫だと思い、城に連れて行ったと確信します。



二日が過ぎます。

松丸家より阿湖姫の兄義次が黒羽城にやって来ます。

羽木の殿と若君が義次に会います。

義次は二日前に高山宗鶴より書状が届いたといいます。

高山の嫡男宗熊と阿湖姫の縁組を承知していただきたいという内容です。

義次は阿湖姫はここ黒羽城にいないのかと聞きます。阿湖姫が黒羽城にいることを知り、父に急ぎ使いを出し、高山の申し出を断るようにすると言うと、若君が少し待ってほしいと言います。


若君は唯を救うため、一計を案じます。


若君は義次が滞在している部屋を訪れます。

義次は阿湖姫から真相を聞き出していて、助ける手立てがあるなら協力すると申し出ます。

若君は義次にそのことについて頼もうと思っていたので、協力してもらうことにします。

若君は義次に、高山に、

「縁組を承知する」

という内容の返書を急ぎ送るように言います。つづいて、その書状に

「ただし」

「その前に 姫の無事を確かめたいゆえに 二男義次を遣わしたい」

と付け加えてほしいと言います。


若君は義次として単身で高山の城に向かうつもりです。

唯奪還作戦がどう展開してくのか楽しみです。

続きます。



森本梢子 アシガール 6巻
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●関連リンク
集英社 アシガール

2017年10月26日木曜日

やまもり三香 椿町ロンリープラネット 1巻

売れっ子作家と作家の自宅に住み込みで家政婦として働く高校生の話です。

大野ふみは高校生です。父親と二人暮らしで日々節約に努め家計を引き受けています。

ふみは夕食の準備を終え、父親の帰宅を待っています。
帰ってきた父親は浮かない表情で玄関に立っています。
父親は友人の連帯保証人になっていて、借金を肩代わりしなくてはならなくなり、返済のためにすぐにでもお金が必要でまぐろの遠洋漁業船に乗ることになった。そして、いま住んでいる部屋も引き払わなくてはならなくなった、というのです。

ふみは住む家を失います。
父親はツテを頼り、紹介されたのが作家の家の住み込みの家政婦でした。

ふみは紙に書かれた住所に行きます。出てきたのは無愛想な男性で、ふみはその男性が作家の木曳野暁(きびきのあかつき)だと知り驚きます。
木曳野暁は無愛想で、不規則なリズムで生活しています。
ふみが夕食を作っても、
「いらない」
といい、積極的に話しかけても相手にされず、一緒に暮らしていけるか自信がなくなりかけてしまいます。
ふみは住んでいた元のアパートの前で佇んでいます。

木曳野暁はふみを紹介してくれた出版社の担当編集であり、幼馴染である金石悟郎(かねいしごろう)からふみの身の上を聞かされます。

木曳野暁はふみを雑に扱いすぎたと思い、ふみを迎えに行きます。
木曳野暁と大野ふみのふたりの生活が始まります。


ふみにとって、木曳野暁は捉え所のない、気難しい人です。
木曳野暁は朝食を不機嫌な表情で食べ、ふみが話しかけても黙々と食べ続けます。食べていたかと思うと急に立ち上がり、
「籠る」
とだけ言い、仕事場に入っていきます。
ふみはこの家で自分は邪魔な存在なのではないかと思ってしまいます。

ふみは掃除をしていると、木曳野暁の本を見つけます。先生の本を読んだことがなく、ペラペラページをめくっていくと、いつの間にか物語に没頭してしまいます。
ふみは木曳野暁があまりに面白い物語を書くのですこし見直します。

担当編集の金石悟郎がやって来て、ふみは木曳野暁が打ち合わせしている所に居合わせます。
金石は〆切に間に合わせるために、今回は妥協して、次にいい引きを持ってきてはどうかと提案します。
木曳野は妥協はしたくない、自分の中で納得のいかないモノを通したくない、〆切は守るからもう少し考えさせてほしいと、譲れないところをはっきりと主張します。
金石も木曳野のそういう姿勢を知っているので余計なことを言ったかもしれないと木曳野の思うようにやらせようとします。
ふみは二人のやり取りの中で、木曳野の言ったことが格好良いと思います。作家としてそういう思いがあるんだと感心していると、木曳野に呼ばれ、物語で行き詰まっているところを打開するヒントのようなものを求められます。
木曳野から出された問に、ふみはなんとか返答します。
木曳野の表情が険しくなります。朝食のときと同じ表情です。そして、ブツブツとひとりごとを言い、何かがつながったようで、ふみの両肩に手を添え、
「でかしたぞ 娘!!」
と爽やかな笑顔で言います。
ふみは問われてた答えに対して怒られると思っていたのに、自分の言ったことが何らかの手助けになったようだと思い、ホッとします。
金石はふみに、
「変わった奴で 時々 理解し難い時もあるけど 根は単純でただの仕事バカだから まあ よろしくね」
と言います。
木曳野の朝の険しい表情やブツブツ言うひとりごとは、ただ物語を面白く、納得いくものにするため、真剣に考えている時の証拠だったのです。
ふみは自分のことが邪魔だとかいうことではなくてよかったと思います。

木曳野は仕事を終え、居間に来ると、遅い時間なのにふみが起きています。ふみが自分の作品を読んできます。
ふみが物語の感想を言うと、木曳野は少し照れます。
ふみは木曳野がそんな反応をすると思わなかったので、また違った一面をのぞけたことで、この生活が楽しいものになりそうだと予感します。


ふみは洗濯物を取り込もうと庭に行くと、見知らぬ男が立っているのを見つけます。男はふみの下着を盗ろうとしています。下着ドロボーです。
なんとかしようと、角材を手にドロボーを追っ払おうとします。
ところが、ドロボーは恐れることなく、か弱そうなふみに近づき、腕をつかみます。
ふみは怖くて声も出せなくなります。助けてと心の中で叫んだその時に木曳野がふみとドロボーの間に割って入り引き離します。
ドロボーは男が出てきたので、分が悪いと逃げ出します。
木曳野は新聞の勧誘だと勘違いしています。
ふみがドロボーだというと、木曳野は追いかけていき、こてんぱんにやっつけてしまいます。
木曳野はふみに言います。
「オレが守ってやる 頼れ」
ふみはこれまで感じたことがないくらい安心感を感じます。

生まれてはじめて男の人に守られたという経験でふみは木曳野に対して恥ずかしそうです。
ふみの恥ずかしいという気持ちが木曳野との関係をギクシャクさせ、その気持は次第にドキドキするものに変わっていきます。


ふみは初めはこれから一緒にやっていける気がしなかったのに、ぶっきらぼうな木曳野暁のふとしたときに見せる優しさに表現し難い気持ちになり、それが何なのかわからず戸惑ってしまいます。

フキダシの心の声と絵から受け取れる感情の変化を想像するのが楽しい作品です。


やまもり三香 椿町ロンリープラネット 1巻
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2017年10月24日火曜日

森本梢子 アシガール 5巻

唯は羽木家の殿に拝謁が許されます。粗相のないようにと天野様に忠告されたのに、殿の前で、

「お殿様 お目通り叶いまして きゅーちゃくしごくに存じまする」

多分、耳で音で言葉をぼんやり覚えたんだと思います。もしくは天野様の発音が聞き取りにくかったのかなと思います。唯は粗相のないようにといわれたので大きな声ではっきりと言います。

さらに、

「皆々様にも きゅーちゃくしごくに存じまする」

と一所懸命に間違えています。

唯は殿からの何かしらの褒美を楽しみにしています。

殿は唯に苗字を許すと言います。唯には事態が飲み込めません。

「今日より 林勝馬と名乗るがよい」

唯はそれのどこが褒美なのかわからないといった様子です。何だかわからないまま殿に、ありがとうございます、とお礼を言います。

唯のわからなさを理解しているのは若君ただひとりだけです。

若君は小さく笑い、

「よかったの 勝馬」

と唯に言います。



殿は、めでたい、と唯にひとさし舞えと言います。

唯は踊れと言っていることがわかり、これなら得意だというとっておきのダンスを披露します。唯のダンスにみな静まり返ります。見たこともない動きに驚いています。

この時代の人たちには早すぎで先取りしすぎです。

若君は唯のダンスに笑いをこらえています。



若君は天野信近に唯とおふくろ様と三之助、孫四郎が不自由なく暮らせるようにしてくれと頼みます。

信近はおふくろ様(吉野殿)に恋心があるため、張り切って若君に、唯をひとかどの武将に育ててみせると意気込みを表明します。

若君は、いや、ひとかどの武将に育てるとかではなく、暮らしに困らないようにと言葉を添えたつもりが、いらない言葉を発してしまったと困り顔です。

若君の表情から唯もよからぬことが起こりそうだと感じ取ります。



唯に小平太と剣術の修行が始まります。唯は厳しすぎて若君に泣きつきます。

若君は、

「…いっそのこと 女子であると明らかにして奥に入って暮らすか?」

とからかいます。

唯がドキドキしていると、小平太がやってきて邪魔が入ります。

小平太に見つからないように逃げよううとする唯に若君は、

「明日も参られよ 馬で遠乗りに出よう」

と誘います。

唯が立ち去ろうとする時、世話役が若君に文を持ってきます。

鐘ヶ江の姫からの文だと聞こえ、唯は、奥のどこかに鐘ヶ江の姫がいたことを思い出します。唯にとってはすっかり忘れていた未解決の問題です。

若君は、

「今宵参る そう伝えよ」

と言います。

若君の言葉を聞いた唯は半泣きです。



鐘ヶ江の娘ふきの若君に対する一方通行の思い、若君の現代で知った感覚を胸中で明かすところが面白いです。




唯は眠れぬ夜を過ごします。城の中に入ることができないので城門の前で知った顔が出てくるのを待っています。

小平太が出てきて、唯は若君の昨夜の様子をたずねます。教えてくれるわけもなく、唯は途方に暮れます。

唯は部屋の中でくさくさするしかすることがなく、おふくろ様に諭されても全く気分は晴れません。

おふくろ様はそろそろ梅谷村に帰るといいます。

唯もここにいても若君を独り占めできるわけがないし、他の姫のことを考えると落ち込むだけなので、おふくろ様と一緒に梅谷村に帰ろうかなといいます。

おふくろ様は、

「何を申す お前は若君にお仕えするのではないのか」

と残るように言います。



夜になっても唯はまたヘコんでいます。ぼんやり庭を眺めていると何か話し声が聞こえてきたので、誘われるように行ってみると、グイッと手を引かれ、尻もちをついてしまいます。

唯の手を握ったのは若君で、唯に、

「静かに」

といい、口をふさぎます。

唯は状況にドキドキします。そして、若君がどうして庭に隠れているんだろう?と思っていると、

「見つかるとうるさいことになる 信近がおる」

と若君が唯に言います。

見てみると、天野のおやじ様(信近)とおふくろ様がふたりで何か話しています。

おふくろ様が梅谷村に帰ると聞いて、信近がおふくろ様を引き止めています。

さらに聞いてみると、信近が求婚し、おふくろ様が即断っています。

信近は考えてみてくれと言い、立ち去ります。

一部始終を見ていた若君は、信近の性格を知っているので笑っています。

楽しそうな若君を見て、唯もときめいています。

目と目が合い、

「ところで唯 今日は何故来なかった?」

と若君が唯に聞きます。

若君は唯に会うために来て、信近の場面に遭遇したみたいです。

若君は遠乗りに出ると言ったのに来ないから具合が悪いのかと思って来たと言います。

唯は若君を見つめ、コロコロ表情を変えながら、言葉にできない思いを心の中で爆発させています。

若君はそんな唯の様子が変なので帰ろうとします。

唯は勇気を振りしぼって、

「私っ… 若君が鐘ヶ江の所に行くのが嫌だ- 嫌なのだー」

と涙を流しながら若君に訴えます。

唯の様子がおかしい理由が腹を立てていたんだと若君にもようやくわかります。

若君は昨夜、鐘ヶ江の所に行った理由を唯に話します。

唯は若君が言う人違いだというのがどういうことなのか、いまいち理解できません。

どういうこと? と聞こうとすると同時に屋敷の方から緊迫した声が聞こえてきます。

「城よりお召がかかってござる!!」

「小垣より早馬が参っております」

「また戦になるやもしれません」

唯の顔つきが先程までとガラリと変わります。

今日は永禄二年十一月一日。あと二か月で永禄二年が終わります。唯はなんとしても羽木家の滅亡を食い止めたいと思っています。

若君は唯に、

「案ずるな 大丈夫じゃ」

優しく言います。



小垣城の政秀からの報告によると、高山は戦の準備をしているといいます。

殿は報告を受け、季節を考え、すぐには攻めて来ないだろうと言います。

反対に、若君はすぐにでも攻めて来ると言います。若君はこの戦の結果を知っています。

小垣には若君自身が出陣すると言います。

成之が入ってきて、殿に小垣への出陣は自分に命じてくれと言います。

殿は小垣への出陣は成之に命じます。



天野じいに話を聞いた唯は若君のもとに走ります。



若君は小平太に備えるように命じます。

小間使いが若君に文が届いていると言います。若君はまた鐘ヶ江の娘かと思っていると唯が書いたものです。

会って話がしたいという内容の手紙です。



唯は若君と会った時のことを考えながら歩いていると、

「おうい 唯之助」

と声をかけられ、返事をすると、みぞおちを殴られてしまい気絶してしまいます。

成之のところの坊主の仕業で、また唯は連れ去られてしまいます。



唯は成之の屋敷に連れて行かれてしまいます。

成之は唯に媚薬を使います。媚薬が本当に効いてしまうと大変なことになってしまいます。



若君は唯の手紙に書いてあるとおり、唯に会いに来ますがどこにも唯の姿がありません。

若君は小平太を呼びつけ、唯之助がどこに行ったか聞きます。

小平太は若君が唯之助に会いに来たというのがわかりません。

唯之助を見たという者が、成之のところの坊主如古坊に担がれてどこかへ行ったと言います。

若君は兄上の名が出てきて胸騒ぎを覚えます。急いで成之の屋敷に向かいます。



成之の屋敷では、唯が目を覚まします。

媚薬が効いているのか、唯は成之を若君だと思い違いしています。

「近う寄れ」

という成之の言葉に素直に従う唯は、小垣の寺で若君に言われた時のように、ぴったりと寄りそいます。



若君が成之の屋敷に到着し、中に入ると、唯が成之を見つめているのを目撃します。

若君は成之が唯を抱き寄せようとすると、少しムッとして、唯の腕をつかみ、グッと自分の方に引き寄せ唯を抱えます。

若君は成之に唯を連れて帰る了解をとると、成之の屋敷をあとにします。



唯は目の前にいた人が若君だと思っていたのに、腕を引っぱられ、抱きしめられた人の顔を見るとまた若君なのにびっくりしています。

若君に手を引かれ、どういうことかわからない唯は、正気に戻ります。

唯は若君に言うつもりだった大事な話をしようすると、若君から、

「たわけ!!」

と怒鳴られてしまいます。

唯はびっくりします。唯には若君が何で怒っているのかわかりません。




数日が過ぎます。

若君はぼんやりしています。

天野のじいが若君の様子を伺いに来ます。酒でもと若君にすすめます。

若君は酒をみつめ、小垣の寺でのことを思い出します。唯が酒を飲めないことを思い出します。

若君は小平太を呼び、成之の側にいる坊主如古坊をつれて参れと命じます。



唯はまだ若君が怒っている理由がわかりません。泣きながら庭でしょんぼりしています。

孫四郎がかまってほしくて、唯の背中によじのぼってきます。

唯はそれどころじゃないのにと言いながら、仕方なく立ち上がろうとします。

背中にいた孫四郎の重みが急になくなり、唯は振り返って見ると若君が孫四郎を肩車して立っています。

若君は唯にあやまります。呼びつけた如古坊から何もかも聞き出したのです。

若君は唯に少しだけ自分の気持ちをもらします。

明日は満月です。唯が現代に帰る日です。

若君は唯を見送ると言います。唯はすぐに戻ってくるのに、と言います。

すこし間を置いて、若君は唯に小垣の寺で会ったときの姿になってほしいと言います。

唯はオシャレしてデートだと、先程まで悲しみに暮れていたのがウソのように喜んでいます。




若君は成之の屋敷を訪れます。

成之は謀り事のすべてを若君に知られて、観念した様子です。

若君は頼みごとがあって来たと言います。小垣への先陣の役目を譲ってほしいと言います。

成之は羽木家を裏切った自分に殿が任せるはずがないと言います。

若君は今度の戦に勝ち、羽木家が生き残り、新しい年を迎えることができたら、羽木家の跡目を成之に譲りたいと父上に言上すると言います。

成之の顔色が変わります。信じられないと言い放ちます。

若君は静かに出陣する、この城と父上を頼みますと言い席を立ちます。

成之は若君を引き止め、なぜだと尋ねます。

若君はもう戦はしたくない。戦に出ぬ大将など無用でしょうと言い、去っていきます。




唯は城下の市場の北にある猿楽一座「一笠座」の娘あやめに会いに行きます。あやめに小垣の夜のようにまた女の装いにしてほしいと頼みます。



夜になり、唯は若君を待ちます。あやめに言われた通り女らしい振る舞いに気をつけています。

若君がやって来て、唯の姿を見ると、

「ハハハハ 確かにあの時のふくじゃ」

と笑います。唯は着物を着て女らしくしているから、そういう反応はおかしいんじゃない? と心の中で思います。

若君は人目についてはやっかいだというので、峠まで行こうといいます。

唯は若君の愛馬吹雪の引き手綱を持ち、駆けていきます。

若君はしばらく沈黙して唯が走っている様子を見ていると、

「待て待て これではあまりに様にならん」

と、唯の手をつかみ、持ち上げ、自分の前に座らせます。

唯は興奮しています。夢に見ていた状況なのかもしれません。



若君は峠までの道のりで、今度の戦の先陣を務めることになったこと、戦で必ず敵を止めて守り通し、生きて新年を迎え運命を変えてみせると言います。若君が歴史を変えることができたかどうか、唯に現代に戻って見ていてほしいと言います。

唯は若君の言い方に不自然さを感じます。唯は戦には自分も一緒に行くのに何を言っているんですかと返します。

若君には唯の言葉が何よりうれしそうです。

唯は、

「絶対若君を守ってみせます。そのために来たんですから」

顔を赤らめて、拳をにぎり、言います。



そろそろ時間です。

先に馬から降りた若君は唯をじっと見つめながらそっと抱きかかえるようにして降ろします。

唯は若君があまりに見つめるのでここでも何かおかしいなと感じます。

若君は唯が怪しんで現代に戻るのを拒むと困るから、

「戻って来る時は 今度こそ 腹を決めて参れよ」

と名残惜しさと本心を隠そうとします。

若君は唯にむこうに帰ってから読んでくれと文を渡します。

唯はラブレターだと信じ、むこうに行ってじっくり読もうと、懐剣を抜きます。

若君は用意していた言葉があったみたいで、唯が何のためらいもなく懐剣を抜いたので、慌てて言います。

若君の前から唯の姿が消えます。




現代では尊と両親が若君を戦国時代に送ってすぐ唯が戻ってくることになります。

唯はあやめに着物を着せてもらい、カツラをかぶせてもらったので、戻ってすぐに家族は唯かどうかはわからなかったようで、振り向いて唯の顔を見てようやく安堵します。



唯は家族に来月戦国時代に行ったらもう帰らないからと言います。

尊は来月はもう戦国時代に行けない、燃料がからっぽで今回戻ってくるのが最後なんだと言います。

尊は唯に若君には説明したのに聞かなかったの?と聞き返します。

唯は唖然とし、驚き、怒り、青ざめます。

唯は若君からもらった手紙を思い出し、読もうとします。しかし、昔の字体で書かれている文字は唯には読めません。

お隣の向坂先生が尊の実験室に入ってきます。

向坂先生は大学の名誉教授で専門は日本古典文学なので若君の文を読むことができます。

尊は向坂さんが若君が羽木九八郎忠清なのではないかと思っていたことに驚いています。

唯は若君がじいと呼んだ人物がお隣の口うるさい向坂さんのことだと判り、若君の文を早速読んでもらいます。

文の内容は、唯が現代に帰る直前に若君に感じた不自然さが全部理解できるものです。

唯はもう二度と若君に会うことができない悲しみで泣き崩れます。




翌日、唯は学校に行きます。友達は唯が学校に1か月ぶりに登校してきて体調を心配しています。

唯は悲しみを引きずっていて魂が抜けた状態です。

友達は唯のしおらしい様子に病気だったんだと納得します。



唯にいないひと月の間にいろいろ変わっています。

席替えがあり、転校生がやって来ています。

唯の席の隣に転校生がいて、転校生が唯に挨拶してきます。

転校生は高木邦彦という男の子です。彼は唯に興味があるみたいで話しかけます。

唯は相槌を打つだけで、高木に関心がありません。

唯は部活には行かず、まっすぐ黒羽城跡に向かい、石垣を見つめ若君を思います。

唯は高木から声をかけられます。

高木はなぜかはわからないけれど黒羽城跡が好きだといいます。

唯は高木がもしかしたら若君の生まれ変わりなのではと考えます。




唯は帰宅し尊に若君の生まれ変わりを見つけたと言います。

話を聞いて尊は唯に若君の生まれ変わりだと決めつけるには材料が足りなすぎると言おうとするのを遮って、母親が、

「早く見つかってよかったね」

と言います。母親は唯が若君のことを何かでまぎらわせるなら、今は何だっていいと思っています。




翌日、唯は友達に高木に告白すると言い出します。

友達は1か月ぶりに学校に来た唯が以前とは様子が違うことを心配しているのに、次は告白すると言い出し、別人ぶりに驚きます。

唯は高木を若君の生まれ変わりだと思いこんで、若君に会えない辛さをまぎらわせようとするけど、若君の生まれ変わりだと思い込める大前提の根拠がなくなり告白をやめにします。



唯は帰り道、唯がいなかった1か月の間に若君に一目惚れした女の子に出会います。

女の子は唯を姉か妹だと勘違いして、忠清さんにケーキを作ったのでみなさんで食べて下さいと気合の入ったケーキを唯に手渡します。

唯は家で手渡されたケーキを見ると、豪華なケーキでどうしたらこんなケーキを渡さるのかと想像すると怒りがこみ上げてきています。

唯は若君がいなかった戦国時代での1か月の大変さを思い出し、もう怒ることのできない若君に激怒しています。

唯は尊が若君は全く興味なさそうだったよと言っても、唯が見た女の子が可愛い感じの子だったので、若君は少しくらいは興味があったはずだと尊の言うことを否定します。

尊が若君と交わした話をして、ようやく唯の期限は直ります。

よく考えてみると唯は若君にもう会えないのだから、若君のことで機嫌を悪くしても仕方ないと、気分を上げ下げしている自分を反省します。

唯はふとあることが頭に浮かびます。燃料切れと言ったタイムマシンの燃料って何? ということです。燃料が溜まればまた若君のところに行けるんじゃないの? と尊に聞きます。

尊は燃料ができるのは3年後だと言います。

唯はそれまで待ってる、燃料ができたらすぐ戦国時代に行くと言いいます。

唯の決意に尊は燃料が完成して戦国時代に行っても若君がもういないかもしれないと言おうとしたら、母親が入ってきて、尊の代わりに若君の身に起こるかもしれないことをはっきり唯に言い、燃料が完成しても戦国時代には行ってはいけないと言います。



新しい年を迎えます。

唯は初日の出に若君の無事を祈ります。

唯は若君が、

「必ず生き抜く 見ていてくれ」

と言ったことを考えます。

どうすれば見ることができるか考えます。

唯は若君の無事は、学校で歴史の木村先生から知らされます。

羽木家は滅亡せず、永禄三年を迎えたというのです。

若君は歴史を変えたのです。証拠というのが、松丸義秀から羽木忠高に宛てた手紙だと言います。

手紙の日付が永禄三年の四月。この新たな発見はまるで歴史が変わったみたいだと木村先生は言います。

唯は若君が約束したとおり運命を変えたことに喜びます。

喜んだのもつかの間、唯は手紙の内容にひっかかります。

縁組という言葉です。分からず木村先生に聞くと、羽木忠清と松丸家の姫との結婚話だと言います。

唯はおふくろ様が言っていたことを思い出します。

「若君様は松丸家の阿湖姫様とご婚約されておったが 羽木家と高山の間で戦が起こった時 ご縁組の話もなくなったそうじゃ」

唯は松丸阿湖という姫がいたことを思い出します。

歴史が変わったということは、なくなった話が復活するということです。

鐘ヶ江の娘ばかりに気を取られていて、すっかり松丸阿湖のことを忘れていた唯は、最大の危機になんとしても早く戦国時代に行かなくてはとあわてます。

続きます。



森本梢子 アシガール 5巻
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2017年10月22日日曜日

森本梢子 アシガール 4巻

尊は実験室で姉の唯が無事に戻ってくるのを待っています。

そろそろ3分が経ちます。

尊はまず戦に巻き込まれて唯に怪我はないか確認しなくちゃいけないし、戦の結果や、秘密兵器「まぼ兵くん」は役に立ったのか、目的は果たせたかなど聞きたいことはたくさんあります。



なのに、戻ってきたのは姉の唯ではなく、着物を着た見知らぬ人男性です。

尊は混乱します。

確かに唯が持っているはずのタイムスリップの起動スイッチである懐剣を手に握っています。

よく見ると着物がほんのり血で滲んでいます。意識はありません。そして、「尊へ」と書かれた手紙を見つけます。

もしかして、横たわる意識のない目の前にいる人は、唯の言っていた若君ではないと頭によぎりながら読んでみると、嫌な予感は的中しています。

唯は瀕死の若君を現代に送って、尊に丸投げします。



見た感じで、かなり危ない状況で考えてる時間はなさそうだと判断し、救急車で病院に搬送します。

尊は若君が手術中、唯がとった行動について考えます。無茶し過ぎで、唯は仮にという考えがどうしてできないのか、ひらめいたらすぐ行動してしまう唯を戦国時代にいかせるんじゃなかったと後悔します。



こうなったら、まずは若君に元気になってもらうしかありません。

若君の手術は成功します。

尊は一旦帰宅します。両親に唯が帰って来られない理由を説明しなくてはいけないというもうひとつの問題も解決させなくてはなりません。



数日後、尊は病院に若君の様子を見に行きます。若君の意識は戻っています。尊は若君を見てあらためて唯が一目惚れしたことに納得します。

若君は尊が唯の弟だと知り、状況をたずねます。

唯が若君に何も話さず、現代に送りこんだことを知り、尊は全部本当のことを話します。

若君は自分のいた世から450年後の世界にいると言われ信じることができません。



若君は無事退院し、速川家に世話になります。若君は唯の部屋で過ごします。

若君は戦国時代とは異なる生活様式を見て、

「唯は何故足軽のなりをして戦に出ようと考えたのじゃ?」

と尊にたずねます。

「若君の命を守りたい一心です」

と答えます。



三週間が経ち、若君は城に帰ると言い出します。尊が病院で言ったことは信じていませんでした。

実際に目で見てもらおうと尊は若君を黒羽城跡に連れて行きます。ここが本当に450年後の世であるとわかってもらうためです。

若君は黒羽城跡の石垣を見て、ようやくここが自分のいた世から450年後の世であることを理解します。

そこで若君は疑問を持ちます。

唯が自分を救うため永禄の世に行ったということは、自分の死が近いということかと尊にたずねます。

尊は言葉に詰まりながら、若君にこれから起こること、歴史の知識を全部伝えます。



尊の言ったことが受け入れられず、若君は落胆します。唯のことを思い出します。唯が歴史を変えることが出来ると信じているなら、若君も己の力で運命を変えてみようと前向きになります。



戦国時代の唯は若君が戻ってくるのを待っています。3分程度で戻ってくるはずだと思って待っているのに、1時間経っても若君が戻りません。不安になっています。



現代では今夜が満月という日の早朝に若君が高熱で起きることができません。病院へ連れて行くと再手術になります。

今夜の満月で若君が戦国時代に戻れなくなってしまいます。



戦国時代の唯はでんでん丸で眠らせた医者の宗庵と天野様が目覚める前に若君の寝所から出ていきます。

天野様の意識が戻ります。目の前にいた若君の姿が消えてなくなっています。捜索が始まります。



騒ぎになり、唯の不安は増していきます。もしかして、若君は助からなかったのか、1か月では完治しなかったのかなど考えながら、それでも次の満月の夜にはきっと帰ってくると信じようとしています。

長い1か月です。



黒羽城から殿がやって来ます。若君の父です。兄の成之も来ています。成之は殿に忠清(若君)の捜索を自分が行うことを申し出ます。

唯はその様子に怒りを感じます。しかし、成之にひと睨みされると、唯は自分の置かれている状況が不利であることに気づき、1か月静かにしているべきだと考え、大人しくしていようとします。



唯は黒羽城に戻ります。持ち場の厩で過ごします。どこも若君が消えた話題ばかりです。

仲間が唯に、

「唯之助 逃げろ!!」

「取締方がお前を捕えにくるぞ!!」

と言います。

唯を高山方の間者だといって捕らえようとしているというのです。

唯は成之の仕業と確信します。

唯の逃亡生活が始まります。



行く先々には立て札が立てられ、唯の手配書が出回っています。

唯は若君と来た眺めのいい場所に行きます。まだ満月まで2週間あります。唯は若君を思うと涙ぐんできます。

人の気配がして振りむくと、天野様が白装束で座っています。懐剣を握り、自害しようとしています。

唯は若君は次の満月の夜に帰ってくるから、切腹するのをとどまるよう説得します。



現代の若君は回復し、速川の自宅に戻っています。こちらも、満月の夜から2週間ほど経っているのではないかと思われます。

若君は唯の身を案じています。



天野様は唯を自分の邸に連れてきます。唯は次の満月まで天野邸で身を隠すことになります。



2週間が過ぎ、満月の日がやって来ます。

今夜、若君が戻ってくると信じている唯はウキウキしています。

そこへ水を差す出来事が起きます。

唯が世話になっていた梅谷村のおふくろ様が捕えられてしまいます。取締方が唯の行方を聞き出すためです。

もしかしたら、ひどい取り調べをされるかもしれない、と唯は見に行くと、おふくろ様が後ろ手に縛られ連行されています。

唯はあわてて奉行所に向かいます。



おふくろ様は解放され、唯は牢に入れられてしまいます。

唯は若君が戻ってくるのを信じて待っています。

翌早朝、飯を届けに来た使いの者に若君が戻ってきたかをたずねると、戻っていないと言われます。

唯は夜には現代から吉田城に戻ってきて、もうとっくに黒羽城に着いているはずだ思っていたのに、もしかして、死んでしまったのかと思います。

夜は寒くて、薄着だった唯は気力が限界に近づいています。



現代の若君は見知らぬ女の子に見初められたり、尊と好みのタイプなど話したりと穏やかな日々を過ごしています。

満月の夜。別れの日です。

尊と両親は涙ぐんでいます。

尊は若君にタイムスリップに使う燃料が残り少ないことを伝えます。

あと2回。

若君が戦国の世に行って、唯が現代に戻ってきたら燃料がなくなってしまうというのです。

唯が現代に帰ってきたら、もう戦国時代には行けないというのです。

若君は少し考え、

「ご案じめさるな 唯のことはわしが必ず 無事 御父母のもとへお返しする」

と言います。

若君は懐剣を抜き戦国時代に戻っていきます。



若君は吉田城に戻ります。すぐに着替え、黒羽城に向かおうとします。しかし、大雨で橋が壊れていて黒羽城へ行くには迂回していくしかなく、馬でも半日かかってしまう距離です。



黒羽城では、殿の前に気力の果てた唯が連れてこられます。唯は昨夜の寒さも重なって風邪をひいてしまい、熱で朦朧としています。

唯を見るなり、殿は哀れに思い、帰してやろうとします。

そこに成之が登場し、殿に唯の罪をでっちあげ、若君が消えたのは唯の犯行だと進言します。さらに、唯が正体を偽っていると言い、証拠を見せるため着物を剥ぎ取るように言います。

理由は分からず、言われたとおり控えていた者が唯の着物を脱がせようとしたその時、外から大歓声が沸き起こります。

急いで殿の元にやって来た者が、若君が戻ったと報告します。



若君が元気な姿で戻ってきて、殿はひと安心します。

若君はあらかじめ作っておいた事の経緯を殿に説明します。殿に説明しながら、若君は横目にぐんなりとした者が視界に入り、見てみると唯であることが分かります。

若君はやや取り乱して唯に駆け寄り、抱きかかえます。

フラフラの唯は若君から抱きしめられている気がしながら、意識が遠のいていきます。



目が覚めると唯は、ふとんの上で寝ていました。どうしてこういう状況になったかよく思い出すことができません。

おふくろ様から声をかけられ、事の成り行きを聞かされ、唯は意識が途切れる直前の出来事は夢ではないことが分かり、本当に若君が戻ってきたので安心します。

唯は自分が着替えていることに気づきます。おふくろ様が着替えさせてくれたのだと知ります。唯はおふくろ様が自分が女であることをずいぶん前から知っていたのだと知ります。

おふくろ様は、

「狭い家で寝起きを共にしておったのじゃ とうに知っておりました」

と言います。おふくろ様の回想する1コマが描かれています。唯の寝相の悪さにおふくろ様が呆れている場面が面白いです。



唯は回復していきます。いろんな人が見舞いにやって来て、唯の顔めがけて扇子をパタパタとあおいでいきます。

小平太がやって来ます。唯は若君がどうしているかを教えてもらいます。小平太は若君から唯に渡すよう言われた手紙を渡します。

手紙を読み、同封された写真を見て唯は大興奮します。

その後、唯は冷静に写真に写っているような場面は自分は見ることができないともしみじみ思います。

唯は戦国時代にいるのに若君に会えなくて、家族を羨ましがります。

唯は寝てはいられなくなり、障子を開け、外の景色でもと思ったら、若君が立っています。

若君はスッと唯の寝所に入ってきます。

唯は会いたい人がいきなり目の前に現れて戸惑いながらも若君の元気な姿をようやく見ることができて嬉し泣きします。

若君は唯、尊、そして二人の両親に感謝し、懐剣を唯に返します。

唯は懐剣で尊からの手紙に書いてあった燃料のことを思い出し、若君にたずねます。

若君は尊との会話で唯の気持ちは知っていても、本人から聞いたわけではありません。

若君は燃料は1回分だといえば、唯はどう答えるのか、唯の気持ちを知りたいみたいです。

唯は、

「だったら もう家に帰ることはあきらめます」

と答えます。

若君は自分の気持ちを唯に明かしません。

「尊はあと2度使えると申しておった」

と言います。若君は尊と両親にした約束を守ります。



「家ではみな案じておる 次の満月には必ず帰って またここへ参れ」

若君はどんな表情で唯に言ったんだろう?帰したくない気持ちを押し殺す若君の表情は想像しにくいです。

続きます。



森本梢子 アシガール 4巻
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2017年10月16日月曜日

森本梢子 アシガール 3巻

速川唯は現代に戻ってきます。弟の尊は唯が赤い甲冑を着ていて、明らかに出世していることにびっくりしています。尊は身を守るために渡したでんでん丸は唯の表情からよからぬことに使ったと確信しています。



千対三千。

尊は唯にそんな戦は絶対に勝てないと言いきります。

しかし、唯は若君(羽木九八郎忠清)を守るために必死なので、尊に高山に対抗できる秘密兵器を作ってと頼みます。

尊は姉のためになんとかしてあげたいから、戦場となる場所の地形、敵味方の陣形、状況などの説明を唯にしてほしいのに、唯はちんぷんかんぷんです。

尊は何もないところから敵方の高山をビビらせる方法を考えようとします。



唯は尊に聞かれて、戦の状況がわかっていないことに気づき、自分なりにどうすればいいか考えてみます。

唯の考えている姿は近づき難いです。背筋はピンと伸びて、どこか遠くを見ています。靴下には膝の下と足首に紐が結ばれています。足軽ではなく、若君を守る武士のようです。

唯が真剣に考えているかは疑問が残るところですが、若君を守りたいという思いと心構えは伝わってきます。



唯は歴史の木村先生に戦がどうすれば羽木方が勝てるのか聞いてみることにします。

唯は帰宅して、聞いたことを尊にそのまま伝えます。

「お互いあきらめずがんばろう!!」

と秘密兵器のことは尊に丸投げし、唯はいざというとき若君をかついで逃げられるように体力と筋力をつけるため走り続けています。



尊は頬がこけるほど研究に没頭して秘密兵器を作り上げます。

尊は唯に「まぼ兵くん」と名付けた道具を渡します。

唯は尊に作ってもらった「まぼ兵くん」を持って戦国時代に行きます。



タイムスリップする前にいた若君はもういません。唯はもうひと目見たかったなと思いつつ、悪丸を探します。

唯は「まぼ兵くん」を悪丸に持たせ、敵方の背後にある立木山に行き、今から言う通りに使ってほしいと頼みます。

悪丸は、

「わかった」

とだけ言い、走っていきます。唯は悪丸の気のない返事に不安になりながら、朝を迎えます。



戦が始まり、鉄砲の音が響きます。羽木軍は劣勢です。

若君は巻き返しのため、敵の高山軍の中央を突くと一騎で駆けていきます。

この場面が1巻の冒頭につながるんだと思います。

唯は若君のもとに駆けつけます。



若君と唯は二人で敵の本陣に突っ込んでいきます。一気に敵陣を駆け抜け立木山に登ります。

若君の首を挙げようと高山方はかなりの数で追ってきています。

逃げ切れないと思った若君は唯に、腹を切る、言います。

唯はそんなことはさせない、と山のどこかにいるはずの悪丸に、

「早くやれェ!!」

と叫びます。



悪丸がまぼ兵くんのスイッチを押します。

高山軍に羽木軍の援軍が来たと思わせることに成功し、若君と唯は命をとりとめます。

高山軍は退却していきます。

唯は尊が作ったまぼ兵くんとサッカー観戦のつながりをここで理解します。

若君も唯は傷つくことなく、敵方も傷つけることなく救うことができて、唯はホッとします。



若君は唯に、

「今のは何事じゃ?」

と訊きます。

唯はうまく説明できそうもないので、白を切ろうとします。

ふと目をやると、唯は若君の左手が出血していることに気がつき、尊に注意されたことを思い出し、早く手当てしなければと、場所を移し、話を遮ります。

尊が持たせてくれた消毒液で若君のけがの部分を消毒します。

若君は正面に座る唯の顔を見つめます。見覚えのある顔だなと、もっとじっくり見たくなり、右手で唯の顎をくいと上げ顔を凝視します。

唯は、これは目をつぶる場面に違いないと、目をつぶります。すると、

「ふく…?」

若君の言葉に、唯は正体がバレたと慌てます。

一瞬で様々思案した挙句、白を切り通すしかないと思い、

「ふ…ふくとは 何のことでござろうか?」

唯は顎をしゃくれさせ、必死に別人だと主張します。

ふくだとバレるわけにはいかない唯は、さっきの高山兵が退却したきっかけの大歓声を持ち出します。

唯は「ふく」だとバレたくないけれど、まぼ兵くんのこともうまく説明がつけられないので触れたくなかったのに、混乱してしまって持ち出してはいけない話題を自らしてしまい絶体絶命です。

若君はじっと唯を見つめます、

唯は思い切り怪しまれているのに、若君に見つめられてうれしそうです。



唯に救いの手が舞い降りてきます。



崖の上から声がします。見上げると天野様です。

天野様は殿の命令で三百の兵を引き連れて山にいました。

若君は天野のじいに唯のお陰だと言います。

天野様は唯のほうを見ると、悪丸とかけくらべをして勝った小僧だと覚えていて、そのことを若君に伝えます。

若君は唯がかけくらべで悪丸に勝った血走りなのだと知ります。

天野様は今回の働きで、唯に御馬番という役を与えます。

唯は若君と一緒にいられるという目的の地位まで出世して満足そうです。



若君は唯に、

「これより急ぎ山を下り敵の背後を突く」

ともう一度戦場に戻ると思いもしないことを言います。

命拾いしたところなのに、本当に行くの? (行きたくないな)と唯は思います。

若君のもとに側近の小平太が到着します。

戦況の報告がなされ、高山軍は引き上げていると聞き、若君も引き上げることにします。



黒羽城に戻ります。

城に着くまでの若君と天野様の会話を聞いて唯は落ち着きません。

唯は鐘ヶ江の娘が城にいることを知り、天野様が若君を囃し立てているのを見てなんとかしなくてはと思っています。

唯は若君と一緒に城の中に入ろうとすると、門番に止められてしまいます。唯は城の中に入ることができません。

唯は若君と一緒だと思っていたのに、若君の馬と一緒だと知り落胆します。



唯は若君の馬を世話しなくてはいけないのに、経験がなくて世話できません。より簡単な所へ追いやられ、唯は馬糞を1か所に集める係にされてしまいます。



どうにか城に入ることはできないか。

唯は門番に掛け合います。まったく相手にされません。



唯はあれこれ考えていると、若君によく似た後ろ姿を見かけます。全力で駆けていきます。唯が声をかけ、男が振り返ると若君ではありません。似ているけれど違います。男は羽木成之といい、若君の兄です。成之は何か企んでいるようです。



唯はどうにもならない日々を過ごしているところに、

「これ 唯之助」

と声をかけられます。

干草の上で居眠りしていた唯は、ぐずぐずした返事をします。

「たわけ わしじゃ」

若君が来ています。唯は驚いてしまいます。

「遠乗りにゆく ついて参れ」

と若君は唯に言います。

唯は初デートだと喜んでいます。

若君は愛馬吹雪で、唯は走っています。唯の想像と現実の差が面白いです。



眺めのいい場所に到着します。

崖のような場所で、ずっと下のほうに川が流れています。

崩れやすいと若君が言うのに、唯は覗き込もうします。

足をかけた場所が本当に崩れ、危機一髪のところで唯は若君に抱えられるようにして助けられます。



若君は天野のじいに唯之助をどこで見つけたのか尋ねます。

天野様は小垣出兵の時の様子を話します。

若君の中で唯之助と「ふく」が一致しました。若君は唯をようやく見つけることができます。



唯は仲間と雑談していると、若君がお呼びだと言われます。

若君の所へ行くと、人払いをされ、二人きりになります。



若君は紅梅餅という京の菓子を食べさせようと呼んだといいます。

甘いものが全くない生活をしていたから唯は美味しそうに餅をほおばります。

久しぶりの甘いお菓子にがっついてしまった唯は、若君に恥ずかしい姿を見られてしまったと思い、話題をふります。

唯は小垣の寺で夜、若君と話をした、戦はいけないという話をもう一度します。

若君は黙って唯に話を聞いています。



「ところで まだ 腹は決まらぬか」

急な若君の言葉に唯はゆっくりとどういうことか考えます。

どこかで聞いたような台詞です。

唯はゆっくり記憶をたぐらせていくと、その言葉を若君の口から聞いた場面を思い出します。

唯は若君に全部バレてしまっていることに気づきます。

あわてて、その場から逃げ出してしまいます。



干し草の中に潜り込んで、唯は若君の言葉を思い出します。

うれしいやら、はずかしいやら、悶絶していると、なにか声が聞こえてきます。

若君が… という言葉が何度か聞こえてので唯は、干し草から顔を出して、

「何の話 してるんですか? 若君様がどうかされたんですかぁ?」

と口を挟みます。

密談しているのは若君の兄上の側にいる坊主と家来です。

二人は密談しているのがバレて、慌ててその場を去っていきます。

唯は、

(「絶対 何か 悪いこと考えてる」)

(「やな予感がする…」)

と警戒します。



羽木と高山の和議締結の日。

唯は若君のお供ができると思っていたのに、若君は輿で行くと聞かされ、城に残る事になります。

坊主と成之の家来が話す内容のところどころが聞こえていた唯は、もしかしたら、和議の場で若君のお命を狙おうとする奴がいるのではと推測します。

若君の一行の中に成之の家来の姿が見えます。唯はあの人は誰だと聞くと、高山の使者だというので、いよいよ自分の予測は当たっていると顔を青ざめます。

唯は若君一行をとどまるよう言おうと、走り出します。横から唯を呼ぶ声が聞こえ振り向くと、成之の側にいる坊主が現れます。

唯は坊主にみぞおちを殴られ、気絶してしまいます。

坊主は唯を担いで運び、干し草の中に放り投げます。

若君の兄の成之が仕組んだことのようです。



唯が目を覚ましたときには、すでに月がのぼっています。

唯は何だったかなと考えると、若君が危ないことを思い出します。

急いで用意をして、仲間に、若君が行った吉田城への行き方を聞き走っていきます。



吉田城に着くと、門には篝火が焚かれ、ただごとではない様子です。

唯は門番に何かあったの? と尋ねます。

「若君が… 何者かの矢を受けて… 深傷を負われた」

と唯の嫌な予感が的中してしまいます。

唯は愕然とします。

(「どーしたらいいの!?」)

と見上げると今夜は満月です。



唯はでんでん丸を使って、若君が寝ている部屋にたどり着きます。

唯は顔が真っ白で動かない若君にしがみついて泣きじゃくります。

「これ 唯之助… そこ… は痛い…」

若君は弱々しい声で唯に言います。

なんとか話せたので唯は若君に、懐剣を持たせます。

「この懐剣を持って! 抜いてください!! 早く!!」

「何…故…?」

唯の言うことがわからない若君は言います。

唯は手紙を袷にさし、

「大丈夫です! 向こうには弟がいますからこの手紙を弟の尊に渡して下さい!」

若君は唯に言われたとおり、懐剣を抜きます。起動スイッチが作動します。

「お前…は あの夜の… ふく…であろう?」

「は はい… 実は… そうです ごめんなさい…」

「……… まことの名は…?」

「唯です 速川唯」

唯の前から若君の姿が消えます。



ようやく若君がふくと唯之助が同一人物だと知り、唯が若君を守るため近くにいられるようになったのに離れてしまいます。

続きます。



森本梢子 アシガール 3巻
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2017年10月14日土曜日

森本梢子 アシガール 2巻

尊の予感は的中しました。唯は戦場で初めて見る光景に気を失ってしまいます。

唯は若君に会えました。

噛み合わない会話で唯のことを笑う若君がかっこいいです。



戦の準備のため集合せよと言われた場所に行ってみると、すでに一人ひとり所属する部隊がきちんと決められていて、唯は回状に名前のない者が羽木家の者として紛れ込むのは難しいことを知ります。



唯は偉そうなじーさんをみつけ、直談判して戦に参加したいと申し出ます。

唯は小荷駄隊という役を手に入れます。小荷駄隊とは兵糧や飼葉などを運搬する部隊です。



小垣というところまでまる二日歩き続けていると、銃声がきこえます。唯は若君の危機なのかもと急いで駆けつけます。

砂埃でまわりが見えなくて、それでも唯は若君を探します。

唯は戦の壮絶さを目の当たりにし気絶してしまいます。



気がつくと唯は荷車に乗せられていて、気を失っている間に戦は終わっていて、味方が見事に勝利したことを知ります。

その夜は寺で野営となり、戦勝祝いの宴が催されます。

唯はどこかに若君がいるのだろうと寺の壁を見つめています。そこに猿楽一座の娘あやめが通りがかり、唯に声をかけてきます。



唯はあやめから今夜鐘ヶ江久政の娘が若君の元に行くという情報を知ります。あやめから聞く話は唯にとって不吉なことばかりです。じっとしていられない唯は寺に侵入し鐘ヶ江の娘が若君のもとへ行くのを阻止しようとします。

あやめは唯が女子だと知り、協力すると言います。



唯はカツラをかぶり、化粧をして、姫っぽい格好をして寺に潜入し、若君と会うことができます。

現代の唯の感覚が余程気に入ったのか、唯が去った後、

「面白い……」

と若君はつぶやきます。



あやめは若君にただ会って話をしただけで戻ってきた唯を叱ります。そして、若君の側にいたいのであれば、側室になるほうが早いのではないかと言います。

唯は戦の時若君の近くにいなきゃ意味がないとつっぱねます。

あやめは唯に若君の側にいたいのであれば、天野家に士官すべきだと助言します。



翌朝、出立の準備が整い、若君は小平太に昨夜の唯について、

「腹が決まれば来い」

と伝えよと言います。

小平太は唯を若君の元に案内したので、唯の顔を見ています。

「わからぬ 若君の女の好み… いや何でもない」

なぜ? どうして?という思いがあふれ出ています。



黒羽城に戻り、唯は天野様と呼ばれているじいさんを見つけます。

唯は若君の近くで働きたいから小平太のところの足軽として雇ってほしいと願い出ます。

天野様は、

「あきらめろ」

といい去っていきます。

諦める訳にはいかない唯は馬に乗った天野様を追いかけます。

唯は馬に並走して天野様に訴えます。

天野様は馬に追いついてみせた唯の足に驚き、ひとつ提案します。

「千原家の足軽 悪丸とかけくらべをせい もし悪丸に勝てば お前の願いを聞き入れてやろう」

足の速さに自信がある唯は、勝つ気満々です。天野家の具足を身にまとい、かけくらべの始まりです。



唯は悪丸を応援している仲間の妨害にも負けず、圧倒的に勝利します。

敗けてしまった悪丸は千原家を追い出されてしまいます。唯は悪丸が気の毒だと天野様にうちで雇ってあげましょうよと願い出ます。千原に勝った天野様は機嫌がよく、悪丸も召し抱えることになります。



城でも唯と悪丸のかけくらべは噂になり、若君の耳にも入り、小平太と話題になります。

唯之助の話をしていると、鐘ヶ江久政の娘が明日到着するとの知らせが入ります。若君はまた唯に会えることを楽しみにしています。



唯は梅谷村に戻ろうします。悪丸がついてきます。悪丸は唯に家来になるといいます。唯は帰る家も家族もない悪丸を梅谷村に連れて行きます。



おふくろ様は唯が天野家の赤揃えを着て戻ってきたことに驚きます。そして、大男悪丸が唯について来たことに、

「それは また 変わりものじゃの」

と唯が短期間に成長する姿に驚いています。

唯は天野家から支度金をもらっていて、城下の市場でそのお金でお米、あずき、着物を手に入れおふくろ様に喜んでもらおうと差し出します。しかしおふくろ様は唯の支度金の使いみちに説教します。

おふくろ様は唯を叱ったものの、みんなが寝静まって、自分のために買ってきた着物を眺め唯の心遣いに感謝しています。



城では若君のもとに鐘ヶ江の娘が到着します。若君と鐘ヶ江の娘の対面です。

再会を楽しみにしていた若君は鐘ヶ江の姿を見るなり別人であることに動揺します。

隣で小平太もびっくりしています。

先夜、小垣の寺で会った「ふく」という女子ではなく、「ふき」と名前さえも違います。

ふきはあの夜は急なめまいがして気を失ったのだと言います。

てっきり、唯が来るものだと思っていた若君は言う言葉が見つかりません。落胆した気持ちは表に出さず、若君はふきに下がるよう言います。

若君は小平太と二人きりになると別人であることを問いただします。

小平太にもあの夜見た女子とは別人であることは説明できません。でも、あの夜あった唯よりもふきのほうがしとやかなのでふきにすればいいのではと若君にすすめます。

若君はつまらんと言い捨てます。

若君の興味は唯に向いています。



二回目の出陣です。

今度の戦はこれまでで最も厳しいもので、状況を聞くと唯にもわかるほどの危険さです。

千対三千。

羽木家は圧倒的に不利な状況です。

唯はひらめきます。その日の夜は満月です。尊になんとかしてもらおうと考えます。唯は現代に戻ります。

続きます。



森本梢子 アシガール 2巻
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2017年10月12日木曜日

ななじ眺 ふつうの恋子ちゃん 1巻

夏目恋子(なつめこいこ)は「ふつう」ということに並々ならぬこだわりを持っている高校生です。

二宮剣(にのみやつるぎ)はおよそ欠点が見当たらない高校生です。

可愛い系の美形で、身長183センチ。性格いい。頭いい。運動できる。モテる。そろいすぎています。

恋子はふつうだと思っていた自分の生き方がふつうではないことに気づき、気づかせてくれた剣を意識するようになります。

剣はこれまで出会った女の子の誰とも違う恋子が気になり、これが恋ということなのか? と恋子を意識し始めていきます。

なんでもなかったふたりが偶然出会い、互いを気にし始め、距離が少しずつ縮まっていきます。




夏目恋子は「ふつう」に異常なほどこだわりを持っています。それは家族からの影響が大きいようです。

父親はなく、三人暮らしです。

母は家庭料理屋「なつめ」を営む癒し系美人女将です。モテ女、恋多き女です。娘達に隙がない女は全然ダメよ~。隙ってなんなら何より大事。隙こそモテよ。と恋について語っています。

姉愛子(あいこ)は母を見てきてお母さんみたいにはならないと意地を張っているようです。恋子が言うには地味でダサくて好きがなさすぎ、恋をする気ゼロの性格です。

恋子は母のようにも姉のようにもならない、「ふつう」の人生を生きていくを決めています。恋子は母が言うには無難に育った、派手でもなく、地味でもなく、美人でもないけど、ブスでもないそうです。見た目はふつう。成績もふつう。恋多きわけでもなく恋無きわけでもなく、ふつうに恋して、ふつうの彼氏がいます。



恋子には佐藤くんというふつうの恋子にはぴったりなふうつの彼氏がいます。

いつものふつうのキス。恋子はふつうがしあわせだと信じています。

二宮剣はそんな恋子と佐藤くんの前に現れます。特に何か話すわけではなく、恋子の髪にくっついている枯れ葉を佐藤くんに気づかせるこなくさり気なくとってあげます。

恋子にとって二宮剣は顔は知っているけど話したことはなく、階層が違う男の子です。

恋子のいう階層とは、同じクラスでも互いに触れることはない人達のことみたいです。

恋子にとって違う階層にいる男の子二宮剣は、なにか気になることがあるのか恋子に視線が止まります。

恋子は人気者の二宮剣はこれからたいへんな恋をして苦しむのだろうなと思っていて、自分は安定第一、ふつうに生きていくことを再確認します。



そんなふつうの恋子に事件が起こります。

二宮剣からメッセージが届きます。内容は佐藤くんが浮気しているというもの。そしてその場所も添えられています。

恋子は二宮剣が指定した場所に行ってみます。佐藤くんが見知らぬ女とキスしている場面に遭遇してしまいます。

恋子に二人の会話が聞こえてきます。

「来月の泊まり楽しみ 付き合って一年だね」

恋子は言います。

「浮気・・・? 私付き合ってまだ3ヶ月ですけど?」

恋子は浮気相手は自分のほうだと知り、呆然とします。

涙が流れてきます。



帰宅し、恋子は、

(「ふつうがいい」)

(「ふつうなのがしあわせ」)

(「なのに ふつうだと思ってた佐藤くんとの恋がふつうじゃなかった」)

佐藤くんに別れようとメッセージを送り、髪をバッサリ切ります。



翌朝、佐藤くんが恋子の家の前で待っていて、別れたくないと言います。

恋子は許すことにします。

二宮剣は近くで二人の様子を見ています。

学校に着いて、二宮剣は恋子を教室から連れ出します。

二宮剣は恋子にあきれている様子です。

恋子は知りもしない二宮剣に言われっぱなしがくやしくほっといてと言います。

二宮剣は、

「あんた しあわせじゃなさそうな顔しってからだ」」

恋子をほっとけない理由を言います。

恋子は信じられないという表情です。

「しあわせじゃ… なさそう……?」

二宮剣は言います。

「うん なんか かわいそうな顔」

恋子は怒りがこみ上げてきます。

「私は しあわせだし かわいそうなんかじゃない」



教室に戻ると、恋子は異なる階層のクラスメイトを見ます。

漫画家デビューが決まり興奮している子。失恋してそれでも前向きになろうとする子。

恋子はそんな人達を見てすごいなと思います。すごいなと思うけど…。恋子はほどほどなのがしあわせなのだと言い聞かせようとします。



翌日、いつものように佐藤くんは恋子を迎えに来ていて、いつものように一緒に学校に行こうとします。

でも、この日は違っていました。

佐藤くんは恋子のことを夏目さんと呼んでいたのに、今日は「恋子」と呼んできました。

恋子は呼び名が変わって違和感を感じます。

そして、いつものようにキスしようとする佐藤くんに嫌悪を感じ走り去ります。

やっぱり二宮剣は恋子の近くにいて、恋子を引き止めます。二宮剣はどうして見ているんだろう?何が気になるんだろう。

恋子は二宮剣に、

「あんたの言う通りだったかもしれない」

と言いいます。

「私 しあわせじゃないのかもしれない」

「私 私 かわいそう~!」

二宮剣は涙がこぼれ、鼻水もちょっと出ている恋子を見つめ、小さく吹き出します。



恋子は学校まで二宮剣と歩きながら、思ったことを話します。

二宮剣は恋子の話をするときにコロコロ変わる表情に、

「なんだ 案外いろんな顔するんだね」

とまた小さく吹き出して笑います。



恋子は歩きながら、他のことを考え始めます。

恋子は二宮剣と話しているところを誰かに見れでもしたらたいへんなことになってしまう。二宮剣は人気者だから巡り巡って一人ぼっちになってしまうかもしれないと思い慌てます。

ふつうを目指している恋子は二宮剣に、

「これからは自力でまたしあわせを探します ほんと もう 構わないで…!」

と言い、その場で別れます。



恋子は佐藤くんのことは自然消滅でいいや。はいおわり。と区切りをつけます。

恋子は平和な気持ちで満たされている気分になります。

平和な気持ちを吹き飛ばす出来事が起こります。

二宮剣が誰かとケンカしているという声が聞こえてきます。

恋子は見に行くと、二宮剣は佐藤くんと言い合っています。

恋子は自分のことで揉めていると思い二人の間に割って入ります。

恋子は佐藤くんには、

「佐藤くん やっぱ終わろう ごめんね」

二宮剣には、

「か・か・わ・る・な!」

と言います。



恋子は帰宅すると家に二宮剣がいることに驚きます。

母がバイトに二宮剣を採用していたのです。

二宮剣がどうして夏目恋子を気にするのかと不思議でした。

二宮剣はバイト先の娘が同じクラスの子だと分かり、声をかけようかと思っていたら、佐藤くんとの場面に出くわし、気にしていたら、恋子のいろんな表情が剣の何かに引っかかったということだろうと思います。



恋子は二宮剣が母の店でバイトしていることを同級生に知られてはいけないから、

「このこと学校では内緒にいといてよね!」

と二宮剣に言います。

二宮剣は人気者で、バレたらファンから何をされるかわからないと恋子は思っています。

恋子の気持ちも知らず、二宮剣は、

「そんときは守るじゃん」

とさらっと言います。



恋子は二宮剣の言葉にときめいてしまいます。

でも、絶対に表情には出しません。

そして、ふつうを死守するため、なんでもない風を装うことを決めます。



恋子はベッドに寝転んで、つらつら考えながらうたた寝してしまいます。

恋子の部屋に二宮剣が女将さんに言われ、何か食べ物を持ってきます。

恋子は気持ちよく眠っています。

二宮剣はどうしようか考えていると、

「いけません 王子様… 私は庶民です…」

「ふつうの… ふつうにょ ひとなんでしゅ… ちゅるぎおーじしゃま……」

恋子の恥ずかしい寝言を聞いてしまいます。



恋子は目が覚めると、机の上に二宮剣が書いたと思われるメモを見つけます。

壁の「ふつう」と書いた習字を見つめます。恋子は多分見られただろうと恥ずかしい気持ちでざわざわしています。



翌朝、恋子は学校に行くと、下足室で二宮剣から、

「習字 やってたの?」

と言われ、やっぱり見たんだと、もしかしたらという思いが一瞬で崩れてしまいます。



恋子は二宮剣がどうして自分にかまってくるのかがわからず、訊いてみることにします。

すると、

「なんでだろう」

二宮剣は本当にわからないようです。

恋子は、

「それって もしかして 恋?」

つい二宮剣に言ってしまいます。とても恥ずかしそうです。



そんなことを気にしているうちに恋子は自分のほうが二宮剣のことを気にしていることに気がつきます。

ふつうでありたい恋子は気にしているのは気のせいだ言いきかせます。



言いかせようとしているのに、二宮剣は恋子に、

「なんか 気になる」

と言います。

恋子は、

「それって やっぱり 恋というやつでは」

とふつうはどこに行った? と思えるようなことを言います。

「うーん わからない ちゃんと 恋したことないし」

「!! でっ でもっ だったらそれが初のとかっ」

などと言い合っていると、二宮剣がなんの前触れもなく恋子のおでこにキスをします。

完全に恋子はふつうじゃいられなくなってしまいます。

気になっている人にそんなことされて、恋子はどうなってしまうのか楽しみです。

続きます。



ななじ眺 ふつうの恋子ちゃん 1巻
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2017年10月6日金曜日

森本梢子 アシガール 1巻

戦国時代、女子でありながら足軽として戦に参加し、若君を守ろうとする物語……。かと思っていたらそうではありませんでした。



主人公の速川唯は現代の高校生です。弟の尊(たける)が発明したタイムマシーンのスイッチを知らずに押してしまい、戦国時代にタイムスリップします。

唯はそこで出会った若君、羽木九八郎忠清に一目惚れします。

唯はなんとか元の時代に戻ります。しかし、唯は現代に戻っても若君のことが忘れることのできない存在なってしまいます。

学校の歴史の先生に訊くと、唯が行ったその年に羽木家は戦に負け、滅亡してしまうことを知ります。

過去の出来事なのにいてもたってもいられなくなる唯は、若君の笑った顔がもう一度見たくて、出来ることなら、歴史を変えてでも自分自身で若君を守りたいと、もう一度戦国時代にタイムスリップします。

唯は若君を守ることが出来るのか、まずどうやって若君に会うことが叶うのか、今後が楽しみです。



速川唯は16歳の高校生。平成生まれのまるでやる気のない女子高生です。そんな唯がおそろしいほどやる気満々、成り上がる気満々になる物語です。



唯は歴史の授業など完全に爆睡していてきいていなし、遅刻、忘れ物、居眠りの常習犯。勉強はやる気はこれっぽっちもありません。



特に熱くなれるものがなく、友達との会話もどこか自分とは違うことのように感じているます。

おしゃれや流行にもまるで関心なし。

食欲はあってよく食べます。大きな保温弁当箱を愛用しています。

恋愛にも関心がなく、好きな男の子もいません。

特技は走ること。足だけはものすごく速いです。見ている人が感心するほど速く、体力もあります。だからといって部活に燃えているわけではありません。

まるでやる気がなく、何の目標もなく、ただなんとなく毎日を過ごしています。だけど心のどこかで自分のすべてをかけられる「何か」を見つけたいようです。

唯はそんな女子高生です。



唯は部活を終え帰宅すると、夕食はステーキが待っていました。唯は部活でヘトヘトになるまで走ったから空腹で、たぶん部活がなくても空腹で、すぐにでも目の前の肉を食べたいようです。しかし、母親に制され、弟の尊(たける)を呼んでくるよう言われます。



尊は自宅の庭にある物置を研究室として使っていて、ほとんどの時間を物置の中で過ごしています。

唯は食べたいのを我慢して尊を呼びに行きます。

物置の戸を開けると、尊が目を閉じて正座しています。膝下には懐剣が置かれ、まるで今から切腹をするかのような姿です。

唯は事態が飲み込めず、懐剣を取り上げ、尊を説得しようとします。



尊は落ち着いて唯に事情を説明します。

尊はタイムスリップを実現する発明に成功したというのです。

唯は弟の話が何を言っているかわからないから、ぼんやり聞いています。

尊は本当に成功したか確かめるため、自ら実験台になって試そうとしていたところだと言うのです。

そんな尊の話を聞きながら、唯は手に取った短刀を鞘から抜きます。

尊はあわてて唯に、

「何やってんの!! 出しちゃダメだよ!! それはっ タイムマシンの起動スイッチだ!!」

と叫びます。

唯に姿は次第に薄くなり、消えてしまいます。



唯は気を失っていたようで、目が覚めると山中にいました。

見上げた空にはとても美しい満月が浮かんでいます。

足音が聞こえ、唯は

「ん?尊?」

と目を向けると、

「こりゃっ ここで寝るなと言うたじゃろーが!!」

甲冑を着たむさくるしい男が立っています。

唯は慌てて起き上がり状況を把握しようと周囲を見回すとあちらこちらに甲冑を着た男がいます。

唯は大河ドラマで見たことがある足軽だと思いました。

尊との会話を思い出します。

(「タイムマシンが完成したんだ」)

(「計算では戦国時代まで約20秒で移動できる」)

(「いざとなったら戦国の世で生き延びる自信がなくて--」)

唯は何を言っているんだ尊は。と思っていたのに、本当に戦国時代に来てしまったのだと考えにいたるのです。



唯は懐剣を見つめ、

「それはっ タイムマシンの起動スイッチだ!!」

と尊が言ったのを思い出します。

懐剣を鞘から抜いてタイムスリップしたのだから、元に戻せば現世に戻れるはずだと刃を戻してみます。

尊のいた実験室には戻れません。

それじゃあ、懐剣をもう一度鞘から抜けばいいのでは? と唯は再び抜いてみます。

現代に戻れません。

唯は何度試してみてもダメでした。



唯は学校から帰ってきた制服のまま戦国時代にタイムスリップしてしまったのに、暗がりということもあり、足軽の集団は誰一人唯の格好の不自然さに気がつきません。



どうしていいかわからないので、唯は足軽の集団に紛れてついて行こうとします。

起動スイッチの懐剣を手につっかけで他の足軽と同じように歩く唯の姿は笑ってしまいます。



唯は甲冑を手に入れ、それなりに足軽集団の仲間に混じります。

誰にもバレずにすむかと思っていたのに足軽たちが唯を見たことがないと怪しまれ騒ぎになってしまいます。

唯は問いつめられ適当に「唯之助」とかいうそれっぽい名を名乗ります。足軽の一人がそれっぽい名をぼんやり記憶していて、孫兵衛のせがれじゃな?という話になり、なんとかその場をしのぎます。



山を出て城が見えてきます。なんとか戻ることができて皆安堵しています。

唯は嘘がバレてしまうのを恐れて、見計らって集団から逃げ出します。

唯は夕食を食べず一晩中歩いていたから、空腹で走ることができず、その場にうずくまってしまいます。視界に、地面に生えているキノコを見つけます。

すこしまっ赤で、いいえ、かなりまっ赤で、白い模様のある、唯が考えるにはしいたけ、パッと見ただけで確実に毒キノコだとわかるキノコです。

食べられるしいたけのはずだと言い聞かせ、毒じゃない、毒じゃない、と一口かじろうとしようとしたその時、

「毒じゃ」

と声がきこえ、振りむくと、綺麗な男の人が唯の横で寝そべって唯の様子を伺っています。



唯はひと目その男の人を見るなり、

「しっ…しし 心の…臓がっ… ば…爆発しそうなんですけどっっ」

と一瞬で恋に落ちてしまいました。



唯はお腹ペッコペコなはずなのに、何にも情熱を傾けられないのに、若君をひと目見た途端に身体の内側が爆発しそうなくらい夢中になってしまいます。



若君は唯がいた足軽集団に合流し、城までやって来ます。



唯は大切なことを忘れてしまっていました。

どうして足軽集団から逃げたのか。正体がバレたらただじゃすまないからです。

さきほどの孫兵衛の家族が迎えに来ていて、足軽の一人が唯に、

「おーい 唯之助! おふくろ様じゃ! 迎えに出てくれたぞ」

と対面させたのです。



おふくろ様は機転の効く女性で、唯は孫兵衛の家に厄介になります。

唯はするすると馴染んでいける能力というか特技、優しくしてもらえる運を備えています。



ずっと世話になるわけには行かず、唯は城に行き、若君に会い、何か働けるところをみつけようとします。

そんな簡単に城の中に入ることはできず、唯は門番にあしらわれてしまいます。



うまくいかず山道をとぼとぼ歩いていると、唯は城を見下ろせる場所で立ち止まります。

若君に会えない。

唯は満月をぼんやり眺めながらひとりで恋い焦がれています。

満月をぼんやり見ていたら、唯は忘れていた大切なことを思い出します。



(「このタイムマシンは満月の日に一回だけ片道しか移動できないんだ」)

(「だから一度行ったら次の満月の日まで--」)



懐剣を取り出し、満月の今夜、元の世界に帰れることを思い出します。

世話になった、戦国の世のおふくろ様、三之助、孫四郎に感謝しつつ、若君様にもう一度逢うことができなかったことを心残りに思いつつ、

「若君様ァァァァ!!!」

と叫びながら、懐剣を鞘から抜きます。



唯の目の前を若君が馬で通ります。

もう会うことなんてできないと決めつけていたのに、唯はひと目もう一度会うことができました。

姿が消える前に、気持ちを伝えたくて若君の元へ走っていきます。

起動スイッチはすでに入っているので、ゆるやかに唯の姿は消え、現世に戻ってしまいます。



研究室の尊は姉の唯の姿に驚いています。

唯は尊が目の前にいることで現世に戻れたと思い、1ヶ月も家を留守にしていたため、両親が心配しているだろうと尊の制止をふりきって家に駆け出していきます。

ひと月ぶりの再会なので唯の感情は昂ぶっています。

しかし、唯のテンションとは裏腹に両親は平静であまりにいつもどおりです。



唯はわからずにいると、母親が、

「それより早く食べなさい。せっかくのステーキが冷めちゃったよ」

とテーブルの上にあるステーキをみます。

唯が食べ損なって、戦国の世で毎晩食べたくて食べたくて夢に見たステーキがテーブルの上にあります。食べてみるとステーキはまだほんのり温かいです。

口一杯にステーキを頬張りながら唯は尊に目で問いかけます。



唯は食事の後、尊に説明してもらいます。

唯に起こった30日間の出来事は尊以外誰も知りません。

唯にいつもの日常が戻ってきました。



再び唯は戦国時代の若君の元に行く決意をします。

唯が行った時代のその年に羽木家が滅亡するという歴史の事実を知り、いてもたってもいられなくなったのです。

いままで見向きもしなかった近所にある石垣は黒羽城の石垣で、羽木家はずっとずっと昔に滅亡しています。

唯は羽木家の若君に確かに会い、話し、身体中が熱くなる初めての感覚を体験しました。

若君が戦に敗れて殺されてしまう。唯はいてもたってもいられません。



尊は唯が戦がどういうものか分かっていないことを心配しています。

どうやって唯は若君にもう一度会って、若君を守ることができるのか展開に期待です。

唯にそんなことができちゃうのかな?



唯は再び戦国時代にやって来ました。

リュックにはおふくろ様にお米と三之助、孫四郎にお菓子とゲームをつめて孫四郎の家族のもとに向かいます。

おふくろ様はたくさん持ってきたお米は自分たちは一食分のみ取り、残りを村の人達に分けてあげます。唯は十分な食べものがないこの家族のためにお米を持ってきたのに、惜しげもなく分け与える様子に初めは理解できずにいました。

すこしすると唯はおふくろ様の行いに感心していきます。

唯の住む村に回状が回ってきました。

戦のため村の男は足軽として出陣せよというものです。

「戦が始まる」

唯は若君に会えると支度を整えます。

続きます。



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