2023年5月6日土曜日

森本梢子 アシガール 13巻

平穏な暮らしは戦国の世では難しいです。戦を避けて通ることはできません。

若君の危機を救うため唯が走ります。

唯の弟尊は勇気を出して戦国の世にやって来ます。

唯は現代に戻り、尊は戦国の世で生きていかなくてはならなくなります。

現代っ子の尊が戦国の世でどう過ごしていくのか楽しみです。




唯が二人の侍を従えて山中を走っています。

久蔵(きゅうぞう)という侍は唯の走る速さについていけず、足が限界になり脱落します。

もう一人の惣左衛門は必死に唯に追いつこうとします。しかし惣左も限界らしく足が上がらずつまずいてしまいます。

唯は、

「惣左衛門!! しゃんとせい!!」

とげきを飛ばします。惣左はあやまる事しかできません。

唯も緑合(ろくごう)に来てから、走っておらず、息が上がっています。体力が落ちていて体が重いと感じています。でも、緑合のみんなのため、若君のために走らなくてはと頑張ります。惣左を必死に説き伏せ、息を整え再び走ります。



半年前に戻ります。半年の間、緑合(ろくごう)は平穏な日々でした。

唯が部屋を抜け出し、庭から若君のところへ行くと、若君は髪を切っているところでした。

唯は若君の長い髪が好きで、髪を切った小姓に目を剥いて怒ります。

小姓は唯の形相に驚いています。唯のような奥方なんて初めて見たんだと思います。

若君が唯を宥めると、唯はすぐに機嫌がよくなります。

小姓はなんなんだこの生き物はというような目で唯を見ながら、若君の髪を結っています。

小平太がやって来て、

「若君 殿のお呼びにございます」

と知らせます。

若君は唯に、

「では 行って参る」

と言い、唯のもとを去ります。

唯はキリッとした若君の表情のあまりのカッコよさに見惚れています。息が荒くなり興奮していると、小平太が、

「奥方様」

と静かに切り出し、庭から表に入りこんでは駄目、家臣の前に慎みなく出るものではない、と小言を言い始めます。

唯はさっきまで夫のカッコよさに惚れ惚れしていたのに、小平太の小言で気分を台無しにされてむすっとしています。

小平太が、

「渡瀬殿に言い付けますぞ」

と言います。

唯は腰元の渡瀬(とせ)が苦手なようで、小平太の言うことに歯向かわず部屋に戻ります。


部屋に戻ると唯はまず部屋を抜けだしたことが気づかれていないか渡瀬を探します。

見回しても居ないようなのでよかったと安心したところに、

「唯様 お戻りなさいませ」

と渡瀬がどこからか現れ笑顔で言います。

部屋を抜け出したことが渡瀬にバレてしまったので、何も言わず、和歌の書き写しの続きを始めます。



若君と兄成之が父忠高に呼びだされます。

御月晴永が忠高に御月家を継いで欲しいと言う申し出があって、どう思うかというものでした。

若君は羽木の名を捨て御月家を継ぐことが我等の乱世を生き抜く唯一の道だと答えます。

兄成之も羽木の名を残せば御月家に害を及ぼす恐れがあると若君に賛成のようです。

父忠高は息子たちの考えに少し不満があるようです。



唯は和歌の書き写しの後は琴のお稽古をさせられています。

音が鳴りません。苦戦しています。唯が琴を弾けるようにはならないと思ってしまいます。

若君が唯のところにやって来て、琴のお稽古が中止となり唯はほっとします。

若君は唯に父が話した内容を話します。唯は、

「そうか!! 歴史から羽木家の名前は消えるけど 御月家として生き残るんですね!」

と言います。

若君も唯と同じ考えで父上に言ったものの不快にさせてしまったと言います。

唯は思いにふける若君を察して明るく、御月と名乗るのもいいですよと言います。

若君は口元をほころばせます。みんなが生き残るため何でもしようと決めたのだからと言い聞かせたのかもしれません。



羽木忠高は羽木の名を捨て御月家の家督を継ぐ決断をします。

殿の忠高は御月忠永、若君忠清は清永と名を改めます。

成之と阿湖姫の婚礼が行われます。

唯の後ろに控える渡瀬が面白いです。

渡瀬は自分以外が唯のことを言うのは許せないと思っていて、主人に対する思いが他の人とは違うところがいいな思います。

唯は家臣のほとんどが阿湖姫をほめるので、若君もそうなのではないかと思い、珍しく落ち込んでいます。

二人のやり取りが微笑ましいです。



若君は成之と小平太とともに緑合を巡視しています。

のどかだという小平太に、若君は、

「この平穏今しばらく続いて欲しいものだが」

と言い、成之は、

「やはり織田が来るとお思いで?」

と若君に問うと、

「必ず」

と応えます。

織田軍が攻めて来たら御月軍はひとたまりもないと小平太は言います。

若君は小平太に、部隊を編成し訓練するよう指示します。

成之は、織田に降伏せよ、と言われれば、城を明け渡すのかと問います。

若君は、

「織田信長との関わりは 陣列には加わるが臣下にはならぬという独立の形を通さねばならぬ その方では兄上にお知恵を絞っていただかねばならぬ」

と言います。成之は与えられた役割を果たそうと身を引き締めます。



織田の使者がやって来ると知らせが入ります。若君の予想よりはやいです。

天野信近(のぶちか)は殿に、

「近々 織田家より参る使者は志喜正綱(しきまさつな)と申すなかなかの切れ者だそうにございます」

成之は、先代の楽安寺の御隠居様御月晴永に城主として使者に会ってもらおうと提案します。殿は、

「使者に会うて何をせよと申すのじゃ」

と問うと、

「何も ただ… お年もお年でござりまするゆえ 少々お耳が遠くなっておられても致し方ないかと」

ととぼけた対応をすればと言います。

若君は成之の案に、

「ハハハハ それは良い さすが兄上じゃ」

と賛成します。

殿も良いかもしれぬと成之の案で使者に臨みます。


夕食、若君は唯に織田家の使者に城主として御隠居が出てくる話をします。

唯は御隠居の今の生活を知り、若い側室を抱えた自適な生活を送る御隠居が理解できないという姿勢を見せます。

若君は唯の表情を見て、まずいと思ったのか、唯に同調する姿勢を見せます。面白い場面です。

渡瀬とつゆの二人は側に控えています。唯は、

「ねえ 渡瀬とつゆもお膳持って来て一緒に食べればいいのに」

と言います。

若君は笑って、

「ハハハ それは良いの」

と言います。

渡瀬は、

「とんでもございません」

と言い、つゆは、

「よろしいのでございますか?」

と立ち上がろうとします。

渡瀬がつゆを叱って、実現はしません。この場面が好きです。唯がいるからこその場面だなと思います。



織田家の使者がやって来ます。

御隠居が城主となり使者志喜正綱と会います。

のらりくらりとかわそうとしているのがバレているようで、それでも初めての会談は志喜正綱が仕掛けてくるようなことはありませんでした。

ただ志喜正綱は若君には、本心を聞かせて欲しいといいます。

若君は、

「志喜殿は戦のない世を見たいと思われぬか? わしは戦のない世を皆に見せてやりたい ただ それだけにござる」

と言います。

志喜正綱は

「我が殿には『和睦は なった』 とだけ申し上げましょう」

と言い緑合を去ります。

これから何が起こるかを知っている若君は選択を迫られます。

戦が始まります。



御月家に出陣の命が下ります。

殿は若君を呼び、

「『川の水が引いた今が好機ゆえただちに小垣へ向け出発されよ』と志喜殿より申して参った」

と言います。村上城を攻めるというのです。

村上城は高山宗鶴の居城でした。織田家に城を明け渡した後、織田家家臣 脇信政(わきのぶまさ)が城に入り守っていました。しかし、今は地侍の室谷与十郎(むろやよじゅうろう)が村上城を攻め落としそのまま居座っています。

高山親子は尾張の最も北の皆木城の守備を命じられていて、殿はおそらく戦に明け暮れているだろうと言います。


若君は唯のところに行き、明朝出陣すると言います。

唯は急いで仕度しなきゃと立ち上がります。

若君は、

「此度の戦 お前を連れては行けぬ」

と言います。

唯は約束したのにと引く気はないようです。

若君は強い口調で、

「たわけ!! その様な場所にお前を置いておくと思うか!!」

と城でおとなしくしておれ、と言い軍議に向かいます。


軍議を終え、若君は唯のところに戻ってくると姿がありません。

唯は実家に帰りますと書置きをして家出します。

唯の行き先は天野のおふくろさまのところです。

おふろさまに叱られて唯は仕方なく若君を送り出します。



若君が戦に出てから、唯は食欲もなくなります。すぐ降伏するって言ったのに十五日が過ぎます。

渡瀬が、

「唯様 お方様がお呼びにございます」

と知らせます。

唯は母上様の部屋に向かいます。部屋からにぎやかな声が聞こえてきます。

部屋では母上様が冗談を言い、皆を笑わせています。

「誰より気丈に振る舞い 残された者達を慰め 励ますのが ご正室としての務めであろう」

唯は母上様から正室としてどうすべきか学びます。

母上様が唯に声を掛けます。阿湖姫も部屋にいます。母上様は唯と阿湖姫の二人は夫が出陣するのはこれが初めてだから気にかけているようです。二人に小垣から知らせが来て、村上城の室谷がようやく降伏し城を明け渡すと申して来たと言い、あと数日で戻ってくるから安心するように言います。


夜。唯はようやく若君が帰って来るので元気を取り戻ります。縁側で月を眺めていると、表が騒がしいのに気がつきます。渡瀬に聞くと、

「さあ 唯様がお気にされることではございません」

とそろそろ寝てくださいと言います。

つゆが、

「奥方様 何やら急な知らせのようにございます」

と言います。

唯はこんな時間に、もしかして小垣で何かあったのでは、と表に向かいます。



表では天野信近が背平村の庄屋、三郎兵衛と平助と名乗る者の話を聞いています。

平助は村上城下で捕らえられ、なんとか逃げ出せた際に若君をだまし討ちにするという会話を聞いたと話します。

天野信近は小垣へ早馬を出すよう命令します。

しかし、緑合から馬で駆けても小垣までは一日半かかり、手遅れになると言われます。

柿市惣左衛門という足の速い侍が天野信近に進言します。

「馬では通れませぬが 緑川を渡り古見原を抜けて小垣へ行けば半日ほどは早く着くかと」

と近道があると言います。

それならばと、旧御月家の家臣が柿市惣左衛門と久蔵の二人に小垣へ行くよう言います。

「待って下さい!」

と唯が部屋に入って来ます。

「父上 私も行かせて下さい」

と唯は天野信近にお願いします。

天野信近は御月家の嫡男の正室にこのようなことさせるわけにはいかないと言います。

「若君にも殿にも申しわけが立ちませぬ」

と言い、少しの沈黙の後、

「と 申したところで 行くのであろう」

と唯を見据えます。

「はい!」

唯は力強く返事をします。

柿市惣左衛門が、

「お待ち下さい」

と横槍を入れます。

「恐れながらそれはご遠慮いただきたい 奥方様が遅れられれば我らの足も止まりまする」

と言います。天野信近が即答で、

「それはない」

と言います。足も止まりまするの「る」が言い終わらないくらいで天野信近は言ったと思います。

唯は時間がないから柿市惣左衛門は先に出発してと言い、準備して追いつくと言います。


柿市惣左衛門と久蔵は走りながら、

「惣左 か様に急いで… 奥方様を待たぬでもよいのか」

「奥方様の同行など迷惑千万 先に川を渡ってしまおう 舟がなければ あきらめて お戻りになろう」

「なるほど それもそう」

と話していると、

「あーーー ごめんなさーい 待っててくれたんですね さあ ここからは全力で行きましょう」

と唯は柿市惣左衛門と久蔵を抜き去り走って行きます。

冒頭の場面につながります。



竹藪を抜け、城が見えます。小垣です。

唯は柿市惣左衛門に尋ねると、

「は…はい た…確かに…」

もう倒れる寸前の様子で応えます。

「じゃあ ここからは先に行くね」

と言うと、

「お待ちをっ わ…私もお供致しまする」

と頑張ります。

唯が足がつって走れそうにないことを言うと、柿市惣左衛門は、

「申しわけ… ございませんっ な…何と 不甲斐無い… 若君様にも申しわけなく…かくなる上は柿市惣左衛門 腹をかっさばいてっ」

と面倒なことを言い始めます。

唯はそれっぽいことを言って切腹を止めさせ、一人で小垣へ走ります。久しぶりに走ったせいか限界を感じています。

小垣の物見櫓で唯を見つけ、成之のところへ案内します。

「唯殿! いかがなされた」

「成之っ… 若君は!? 若君はどこ?」

「殿と志喜殿と東村上の本陣におられます 本日 午の刻 城 受け取りのため 村上城に出向かれる」

「ダメ!! それっ 行っちゃダメです!! 降伏するってのは大うそです! 城受け取りの時討ち取るって! そして若君をっ 若君を人質にするって!!」

唯の話を聞くと、成之はすぐさま使い番に東村上の本陣に知らせよと指示します。

「馬を飛ばせば東村上の本陣までは一刻余り 必ず間に合いましょう ご案じなさいますな」

と唯を見ると、唯は倒れてしまいます。



夜、若君が戻って来ます。

若君は成之に命拾いした、と言います。唯は? と尋ねると、

「…は 奥の間に」

と成之は応えます。そして、医師が話があると伝えます。

若君が奥の間へ入ると、唯は真っ青な顔で眠っています。

医師は唯が身籠っていると言います。

若君は、そうであったか、と喜びます。

しかし、医師は、

「お胎の御子はおあきらめ頂いた方がよろしいかと存じます お脈も弱く お体も冷えきっておられますゆえ おそらくここ数日のうちにも御子のお命は…」

と唯の状態を説明します。

若君は、仕方ないと、唯の命が大事だと言います。



現代。

尊は研究室で着物を着て、膝の前に起動スイッチを載せた三宝を置き、なにやら決断できずに正座しています。

起動スイッチが完成したようです。ちゃんと動くのか。戦国の世に行くのは怖い。頭の中はいろんな思いが巡ります。

そして満月の夜、あとは刀を抜くだけです。

なんとか大丈夫(なはず)だと言い聞かせ刀を抜きます。

次の瞬間、

「やっっ 曲者!!」

と背後から聞こえびっくりして起動スイッチを落とします。

尊は刀を突きつけられます。

「さては 室谷の刺客!!」

刀を尊に突きつけているのは小平太です。

尊は震えています。

「小僧! 何者じゃ!」

小平太は尊の胸ぐらを掴み、持ち上げます。

「小平太 何を騒いでおる」

若君の声がします。

「はっ 怪しい童が」

と言います。尊は、

「若君ぃ!?」

とすがるように声を出します。

若君が障子戸を開けて出てきます。

「あ゛~~~~!!」

尊は若君がいて声にならない声を上げます。

「……… 尊!?」

若君は尊がいるので驚いています。

「この者をご存じで?」

小平太は若君に問います。

「唯の実弟 わしにとっては恩人でもある」

若君が言うと、

「これは ご無礼を」

と尊をおろします。

若君は小平太に誰も近づけるなと言うと尊に、

「尊 よう参った 今宵 お前が来たのも天のはからいであろう」

と言います。

尊は何が何だかわからないまま、部屋に案内されます。

奥の間で唯が眠っています。

「お姉ちゃん!! どーしたの!?」

若君から説明を受けます。若君は唯を現代の病院で治療を受けさせたいと言います。

唯が目を覚まします。尊がいるのでびっくりします。

若君は唯に現代の病院で治療を受けるよう言います。

唯は若君と離れ離れになるのは嫌だから行かないと言います。

若君は子を身籠っていると言います。

唯は赤ちゃんを思うと治療を受けた方がいいと判断し若君の言う通り、尊に代わって現代に戻ることにします。

唯は起動スイッチの刀を抜き、現代に行きます。

尊は唯を救うためとはいえ、自分が戦国の世に残されて、どうやって姉が戻って来るのか見当もついていません。




姉唯と違い、繊細な現代っ子の尊が戦国時代で暮らせるはずはなく、心配しかありません。

続きます。



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