2023年4月14日金曜日

音久無 黒伯爵は星を愛でる 6巻

エスターの心を変えたのはレオンでもクリスでもなくアリス(アルジャーノン)でした。

アリスの言葉が母メグ、双子の兄アルジャーノンの言ったことを思い起こさせ、自分の本当に望むことを選びます。




エスターはしゃがみ込み、レオンが吸血鬼の巣窟である黒薔薇城に危険を冒してまで逢いに来てくれたことに嬉しさと会いに来てはいけないという感情で揺れ動きます。



クリスがやって来ます。エスターが額を抑えていたので、

「おでこ どうかした?」

と言います。

エスターは顔を紅くして、

「いっ いいえ なんでも!」

と隠すように大きな声で言います。

クリスは、

「他の男にさわらせてはダメだと言った筈だろう」

と言って、エスターの手を取り、

「謀反者が出てしまったから今夜はもうお開きだ」

と言います。

「君を襲って ウィンターソン当主に返り討ちに逢った彼女だよ」

とエスターに起こった一部始終を知っています。

エスターは彼女(エヴァ)に罰はやめてあげてくださいと言います。

クリスはエスターの願いを聞き入れます。


エヴァは全然反省などしていません。クリスに会い恐ろしい目に会わされるかも知れなかったのに免れたにもかかわらず、レオンやエスターを悪く言います。

イオンという吸血鬼はエヴァを宥めようとします。

エヴァはまた何かしそうです。

イオンはエヴァにダンピール(エスター)がクリス様付きのメイドになるらしいと言います。


クリスは吸血鬼が言うことを聞かないので、エスターをそばに置くことにします。

エスターは不満げです。

クリスはそんなエスターに構うことなく、最初の仕事を言いつけます。

「君の最初の仕事は私に吸血されることだ おいで その覚悟をしてメイドになったのだろう?」

とエスターを試します。

エスターは震えながら差し出されたクリスの手を取ります。

クリスはエスターの首筋に牙を立てます。

エスターは恐怖で涙し、心の中でレオンの名を呼びます。

首に刺さったかと思われた牙が抜かれます。

エスターは何事かとクリスを見ると憐れむような表情をしています。

クリスは震えるエスターに何を思ったのでしょう。

執事のクライヴが部屋に入って来て、

「お戯れも そのあたりに」

と言います。クリスは、

「そうだね 冗談だよ エスター」

と言います。

エスターはクリスにからかわれたのだと分かり、震えが収まります。

クリスはエスターに何か仕事ができるまで隣室で待機するよう言います。

エスターはキッチンに人手が足りないからそちらに行くと言います。

クライヴはエスターが邸をうろうろすると調和が乱れるので控えてと言います。

エスターは邪魔ならこのお邸から出て行きますと立ち上がります。

クリスに腕を掴まれ、引き寄せられると、エスターは唇を奪われます。驚きに目を見開きます。口の中に血の味を感じます。クリスの胸を押して離れます。

「それが君の血の味だ 甘くて美味しいだろう?」

とクリスは言います。

エスターはクリスの頬を打ちます。

クリスはそのダンピールの血の匂いに吸血鬼が色めき立つので、守るために部屋でおとなしくしていてくれと言います。

エスターは、

「…クリス様なんて 嫌いです」

と言い残し隣室に消えます。


翌日エスターはメイドとしてクリスの部屋の掃除や身の回りの準備をします。クリスの邸に居る以上何かしないといけないと考えています。

クリスはエスターの笑顔に笑みをこぼします。



エスターはクリスと共に舞踏会に参加します。

会場ではエスターはギルモア侯爵令嬢として紹介されます。

ギルモア侯爵という名に懐かしさを覚える者、エスターを見て可愛いと言う者、ダンスに誘おうという者様々います。

クリスとエスターがソファーに座っていると、一人の男性が二人の前に歩み出てきます。

「ご機嫌よう 公爵閣下 そしてエスター嬢 私はヴァレンタイン伯爵 レオン・J・ウィンターソンと申します 愛らしいお嬢さん 私と踊って頂けませんか?」

と申し出るのはレオンです。

エスターは王子様が現れたようだとレオンを見ます。

エスターはレオンの申し出を受け、社交界デビューにレオンと踊ります。

エスターにはダンスが一瞬で終わったように感じたようです。音楽が終わると、もう終わってしまった、と物足りなさを感じています。

レオンはエスターの手を取り庭に出ます。エスターを他の男と踊らせたくないからなのとゆっくりとふたりで話をしたいからです。

レオンは名前を呼んでくれないエスターに、

「ねぇ エスター もう一度俺にチャンスをくれないか 今度こそ 正式に 俺の花嫁になって欲しい 帰って来てくれないか エスター」

とひざまづいて求婚します。

エスターは顔を赤らめ言葉が出ません。

クリスがやって来ます。

「こんなところで抜け駆けかい? 妬けるなぁ エスターは私の花嫁候補なんだけどな」

レオンはクリスを睨みます。会話の後、エスターの髪にさした薔薇の花を取り、白い薔薇の花を髪にさします。

「これから毎晩 俺はあなたに逢いに舞踏会へ通う 毎晩口説き倒す あなたも毎晩 その薔薇を挿して来てくれ 俺の本当の花嫁になるかどうか その薔薇が枯れるまでに答えを出して欲しい 待っているよ」

と言います。そして、エスターのダンスカードの全曲に名前を書きます。

レオンはクリスに、

「ごきげんよう公爵閣下 私のエスターが下衆な吸血鬼に襲われないようしっかり護衛して下さいね」

と言い、去ります。



夜、エスターは部屋に戻るとレオンの言った言葉を思い起こします。レオンに答える言葉は決まっています。

「待っているよ」

と言う言葉が胸を締め付けます。



舞踏会でエスターはレオンとだけ踊ります。踊り終えると庭に出ておしゃべりします。

それが連日続きます。


アルジャーノン(アリス)はレオンに進展を期待しているのに変化がないことにうんざりしています。

レオンは毎晩エスターと他愛のない話をして楽しい時間を過ごすことが出来て機嫌がいいです。

アルジャーノンはひとりじれったそうにしています。

レオンは切り札はあると余裕を見せます。

アルジャーノンはそれなら自分のやり方でちょっと突っついてみよかと思うと、何か考えがあるようです。エスターのことを一番知っているからこそやらなきゃいけないことがあると言います。


そろそろレオンがエスターにさした白薔薇が枯れようとしています。

エスターは答えを迫られています。

その日の舞踏会もレオンとエスターは踊った後庭に出ておしゃべりを楽しんでいます。

2人の会話にアリスが入って来ます。後ろからクリスも来ています。

アリスは急にエスターの恋敵を演じ始めます。エスターの心に何かを芽生えさせたいようで、揺さぶりをかけます。

レオンもクリスもアルジャーノンが何をしたいのかわからずハテナマークが浮かんでいます。

アリスはエスターとレオンとクリスからすこし離れて二人で話をします。

アリスはレオンからプロポーズされたと言います。

エスターは驚きます。

アリスはレオンが欲しいのは「ダンピールの女」で自分もエスターと同じダンピールだから当然だと言います。

「レオンは私が貰っておくから じゃあね」

と言ってレオンのところに戻ろうとします。

エスターは、

「レオンを愛していないひとに レオンの花嫁になって欲しくはありません」

とアリスではレオンが幸せになれないと言います。

アリスは、

「私と戦うの? 私に譲るの?」

と言い、

「ねぇ エスター 欲が無い君にひとつ忠告しておく 本当に欲しいものができたなら余計なことは考えず ちゃんと欲しいと言わないとダメだ」

と言います。

エスターはアリスの言葉で母メグや双子の兄アルジャーノンが言ったことを思い出します。


邸に戻り、エスターは答えを出します。クリスの部屋を訪れお暇を頂きたいと言います。

クリスは最後にお茶に付き合ってくれないかと言います。

バルコニーでお茶をし、エスタは以前指の傷の手当てをしてくれた時のリボンのお礼に新しいリボンを贈ります。

クリスは手当てに使ったリボンも返して欲しいと言い、エスターは返します。

話していくとエスターはクリスの年齢が気になります。

クリスはメグのおばあさんのおばあさんよりもずっと長く生きていると言います。

エスターはメグと言われ、クリスに母を知っているのかと尋ねます。

クリスはメグがこの邸でメイドをしていたと言います。

エスターは母が貴族の邸で働いていたのは知っていました。クリスの邸だと知り驚いています。

クリスは昔を懐かしむような表情をし、

「私の好きなひとはみんな私の手をすり抜けてしまう…」

と言い、少し引きとめようとします。

エスターは決めた答えを変えることはせず、すっきりした表情で、

「私はもうここにはいられません 私はクリス様の大切なひとの代わりにはなれません 私にとってレオンの代わりもまたいないように」

と言います。

クリスはエスターを柔らかな表情で見つめます。



翌日の舞踏会。

レオンはエスターを探します。しかし見当たりません。

ひとりの女性がレオンの前に立ちます。エスターです。

「ご機嫌よう ヴァレンタイン伯爵 大切なお話があります お庭でお待ちしております」

と言い、会場を出て行きます。


レオンはすぐ後を追います。庭に出てエスターと名前を呼ぶと、エスターはすぐに来るとは思っていなくて、なんとか心を整理し、話し始めます。

「…頂いたお花… 散ってしまいました だから お約束通り私は『答え』をお伝えしなければ…

―――私はダンピールです 伯爵の妻になったらこれからもきっとウィンターソン家にご迷惑を掛けてしまう… それは絶対にいやなんです だから だから 私は…」

と言うところで、頭にキンと耳鳴りが響きます。吸血鬼です。

エスターは話を止め振り返ります。

「気配が…」

と言います。

レオンがエスターのそばに立ちます。

エスターは吸血鬼の気配を探ります。

「うしろ… 7時の方角です――――!」

レオンは忍ばせていた銃を取りだし、エスターの言う方向に銃口を向け引き金を引きます。後ろにはクリスがいました。

クリスはギリギリで弾をよけます。

「あっ ぶないなぁ もう少しで顔に穴が空くところだったよ」

と言います。

レオンとエスターを吸血鬼が囲います。

「エスター 俺から離れて端に寄っているんだ」

とレオンが言うと、

「いいえ! 私は伯爵の眼です これが私の役目です」

と言い、先程の続きを話し始めます。

「私はきっと ウィンターソン家にご迷惑を掛けてしまう… だから 

それ以上にお役に立つと決めました あなたの妻として胸を張って隣に立ちたいんです ずっとずっと一緒にいたいです だからレオン お願いです 私と結婚して下さい!」

レオンは置かれている状況も忘れ、エスターの言葉に呆然とします。すぐに笑みを浮かべ、

「ああ、喜んで 結婚しよう エスター」

と返します。

2人の話を聞いていたクリスは問題が残っているのではないか、ウィンターソン家が内部分裂してくれるのは吸血鬼としては大歓迎だがね、と言います。

ゲイリーがやって来て、

「そこは ご心配には及びませんよ 公爵閣下」

と言い、ウィンターソン家の長老全員からエスターを妻に迎える許可の念書をもらったと言います。

クリスはおどけたように、吸血鬼ハンターとダンピールの組み合わせは吸血鬼にとって脅威だと言い、引き上げていきます。



エスターはレオンの馬車に乗り邸に戻ります。



翌朝、エスターがそばにいるのでレオンは幸せの絶頂にいるかのようです。

エスターはどこかぎこちない様子で、レオンから目を逸らしがちです。朝食時も役目を果たせるよう頑張るとなぜか妙にやる気を見せます。

レオンはそんなエスターを見てあとで近所の公園に散歩に行こうと誘います。


公園のベンチでレオンはようやくエスターが何を思っているか理解します。

レオンは思いは伝えているつもりなのに、伝わっていなかったことが分かり、はっきりとエスターにわかるように思いを伝えなくてはと、

「あなたが好きだ 愛してるエスター 俺の花嫁になって欲しい」

と誤解しようもないほどまっすぐに思いを伝えます。

エスターとレオンはようやく思いが通じ合います。


夜、レオンは結婚前に行っておかねばならない場所があると言います。

執事のノアも大仕事が控えていると言います。

ふたりが結婚するにはまだ乗り越えなくてはいけない障害があるようです。




クリス(ギルバート公爵)はエスターを守るのと同時にレオンとエスターの関係をより深いものにするため、嫌われ役を買って出たように思えます。アルジャーノンにも気づけないクリスの思いが描かれるといいなと思います。


巻末のレオンの邸の使用人たちがレオンとエスターの恋の行方を気にしているのが面白かったです。シェフですらも気になっていて口には出さないのにお祝いを込めてディナーを豪華にしているのも面白かったです。

続きます。



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