藍里凪(あいざとなぎ)は相座武士(あいざたけし)の妹でした。
武士は毎報音楽コンクールで公生が弾いたピアノによって、自分の進むべき道を見失ってい、スランプに陥っていました。
凪としてはどうにかして兄武士にエールを送りたくて有馬公生(ありまこうせい)のまわりをうろうろ偵察し、瀬戸紘子(せとひろこ)の弟子となって、兄の力になろうとしていました。
宮園かをり(みやぞのかをり)の放った一言は公生に相当な傷を負わせてしまいました。公生はなにも身に入らず、うつむいてばかりです。
澤部椿(さわべつばき)は公生とかをりの事情を知らないので複雑な思いを抱えています。
渡亮太(わたりりょうた)は公生にかをりのお見舞いに行こうと誘います。公生からはそっけない返事しか返ってきません。
「行かない」
渡は何度も公生を誘います。
「行かないってば!!」
公生が強い口調で誘いを拒むと、渡が公生を追いつめようとします。
公生はしゃがみこみ、両手で顔を覆いながら、先日の夜、かをりと交わした会話の一部始終を渡に打ち明けます。
「僕は何も言えなかった どんな言葉をかけたらいい?」
渡はここ数日、公生の様子がおかしいと感じていました。ようやく公生の抱える苦しみを知った渡は、やさしく自分の考えを伝えます。
公生は一人でカヌレを持ってかをりの病室にやって来ました。何を話せばいいか、言葉がでません。ただ、かをりの問いかけに短い返事で返すだけです。
公生にとってかをりの言葉は胸をしめつけられるほどつらいものでした。
公生はかをりに忘れることなんてできるわけがない、いろんな景色を見せてもらいました。なのに、かをりはすべて忘れちゃえばいいんだよと公生に言います。
公生にとって大事なかをりと見た景色を忘れろと簡単に言われたことは、動揺を通り越し、怒りに変わっていきました。
弱気になったかをりに、買ってきたカヌレを公生自身が平らげてしまい、
「いじけた奴に喰わすか カヌレがかわいそうだ!!」
「君は無責任だ そんな奴もう知らん!!」
公生は言いたいことを言って、病室から出て行きました。
かをりにとって、お見舞いにやって来る人は優しく励ましてくれる人ばかりだったと思います。
かをりは突然怒って言いたいだけ言って帰ってしまうお見舞いなんてみたことがなかっただろうから、公生の意外な行動に吹き出して、弱気だった心がいくぶん元気になったと思います。
公生はたくさんのものをくれたかをりに何かしてあげたいと、あることを思いつきます。
公生は凪に彼女の通う中学校の学祭「くる学祭」に自分を出してほしいと頼みます。
凪は公生の申し出に驚きはするものの、すんなり承諾します。
その日から凪の生活は一変します。目標ができてレッスンにも力が入ります。演奏する曲目が決まり、くる学祭に向けて猛練習の日々です。
公生の音が日を追うごとに変わっていき、凪は公生の音にふさわしい音を出せるよう必死で追いかけます。技術が足りなくて、開いていく差を縮めることができません。
凪は耐え切れなくなり、紘子に家でこらえていたものがあふれだし、トイレにこもってしまいます。
紘子は公生のときと同じ失敗をくり返してしまったと悔やみます。紘子は凪を説得して抱きしめます。紘子は凪に演奏家なら誰もが感じる怖さ、怖さを乗り越えた先に待ってるもの、努力が報われる瞬間があることを話します。
「くる学祭」当日。
緊張する凪とそれをほぐそうとする公生の場面がとてもいいです。
公生が凪に「くる学祭」に出してほしいと頼んだ理由はかをりのためでした。
凪は公生の覚悟に何か変わるかもしれないと信じ始めます。
出番がやってきます。
出だしは最高の入りで、凪は安堵します。公生はすでにいつもと違っていて、ピアノの音が聴こえてくることにすら、自分の集中が足りていないと感じ、より集中を高めようとします。
公生の音が変わります。
いつも公生の音を近くで聴いていた凪でさえも背筋に緊張が走るほどの変わり様でした。
凪は公生の音にすくんでしまいそうになります。
くる学祭での主役は凪で、公生はあくまでサポートという位置づけなのに、公生の音は凪にガンガン圧をかけてきます。
必死に練習した日々は無駄にはなりませんでした。練習のときとの違いに圧倒されそうになりながら、凪は一歩踏み出します。
ありったけの君で 真摯に弾けばいい
凪は直前に公生に言われたとおり、ありったけで弾く覚悟を決めます。
必死に公生の音に喰らいついていきます。
凪を知る人は皆、驚きを隠せません。
凪自身も感じています。必死になってピアノと向き合った時間は無駄ではなかった。すべての時間が生きている。
凪は兄の武士から聞いていた公生というピアニストに抱く印象が変化します。
会場にいる観客が完全に二人の音に支配されています。
凪にとって公生との演奏は兄武士への思いが込められています。今では、陳腐ですと言っていた公生の言葉を信じています。
武士は観客席から凪の演奏を眺めている自分に問いかけます。武士はピアニストがいるべき場所を凪に教えられました。
演奏が終わり、凪はやり遂げた手応えを感じます。公生にあいさつだよとうながされるまで、その感覚を全身で感じているようです。
立ち上がり、観客のほうを向くと、歓声と悲鳴が巻き起こり、これまでに見たことのない風景が凪を待っていました。
凪は紘子の言うチャラになる瞬間というものを体験しました。
凪の公生を見つめる表情が笑顔でよかったです。
公生はこの演奏を渡に、携帯でかをりに聴かせてほしいと頼んでいました。
病室で受話器越しに聴こえてくる公生のピアノ。かをりは静かにベッドで聴いていました。
公生の音が変わり、それに触発されるかのようにかをりは立ち上がり、ヴァイオリンを構える姿勢をとり、頭の中に音をイメージして指を動かし始めました。
公生のピアノはかをりを動かしました。
武士も立ち止まることをやめ、あがいてみる決意をしました。
後日談が面白かったです。
ガラコンサートで公生のピアノに刺激を受けたヴァイオリニストの三池俊也は、凪と同じ中学校の生徒で、くる学祭の公生と凪の演奏を当然彼も観ていました。
三池と凪はこれまで接触することはありませんでした。突然三池から凪を呼び止め、公生との関係を探ってきます。
凪にとってはもう当たり前のことが、三池にとって羨ましくてたまらない。くやしい思いを凪にぶつける三池が面白かったです。
病院の屋上での公生とかをりの会話は、ここでも公生はかをりとは音楽だけでしかつながっていないと思っているみたいだと思えました。
未練が生まれたのは君のせいだ
かをりの思いは不安にしかさせません。
続きます。
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