尊は実験室で姉の唯が無事に戻ってくるのを待っています。
そろそろ3分が経ちます。
尊はまず戦に巻き込まれて唯に怪我はないか確認しなくちゃいけないし、戦の結果や、秘密兵器「まぼ兵くん」は役に立ったのか、目的は果たせたかなど聞きたいことはたくさんあります。
なのに、戻ってきたのは姉の唯ではなく、着物を着た見知らぬ人男性です。
尊は混乱します。
確かに唯が持っているはずのタイムスリップの起動スイッチである懐剣を手に握っています。
よく見ると着物がほんのり血で滲んでいます。意識はありません。そして、「尊へ」と書かれた手紙を見つけます。
もしかして、横たわる意識のない目の前にいる人は、唯の言っていた若君ではないと頭によぎりながら読んでみると、嫌な予感は的中しています。
唯は瀕死の若君を現代に送って、尊に丸投げします。
見た感じで、かなり危ない状況で考えてる時間はなさそうだと判断し、救急車で病院に搬送します。
尊は若君が手術中、唯がとった行動について考えます。無茶し過ぎで、唯は仮にという考えがどうしてできないのか、ひらめいたらすぐ行動してしまう唯を戦国時代にいかせるんじゃなかったと後悔します。
こうなったら、まずは若君に元気になってもらうしかありません。
若君の手術は成功します。
尊は一旦帰宅します。両親に唯が帰って来られない理由を説明しなくてはいけないというもうひとつの問題も解決させなくてはなりません。
数日後、尊は病院に若君の様子を見に行きます。若君の意識は戻っています。尊は若君を見てあらためて唯が一目惚れしたことに納得します。
若君は尊が唯の弟だと知り、状況をたずねます。
唯が若君に何も話さず、現代に送りこんだことを知り、尊は全部本当のことを話します。
若君は自分のいた世から450年後の世界にいると言われ信じることができません。
若君は無事退院し、速川家に世話になります。若君は唯の部屋で過ごします。
若君は戦国時代とは異なる生活様式を見て、
「唯は何故足軽のなりをして戦に出ようと考えたのじゃ?」
と尊にたずねます。
「若君の命を守りたい一心です」
と答えます。
三週間が経ち、若君は城に帰ると言い出します。尊が病院で言ったことは信じていませんでした。
実際に目で見てもらおうと尊は若君を黒羽城跡に連れて行きます。ここが本当に450年後の世であるとわかってもらうためです。
若君は黒羽城跡の石垣を見て、ようやくここが自分のいた世から450年後の世であることを理解します。
そこで若君は疑問を持ちます。
唯が自分を救うため永禄の世に行ったということは、自分の死が近いということかと尊にたずねます。
尊は言葉に詰まりながら、若君にこれから起こること、歴史の知識を全部伝えます。
尊の言ったことが受け入れられず、若君は落胆します。唯のことを思い出します。唯が歴史を変えることが出来ると信じているなら、若君も己の力で運命を変えてみようと前向きになります。
戦国時代の唯は若君が戻ってくるのを待っています。3分程度で戻ってくるはずだと思って待っているのに、1時間経っても若君が戻りません。不安になっています。
現代では今夜が満月という日の早朝に若君が高熱で起きることができません。病院へ連れて行くと再手術になります。
今夜の満月で若君が戦国時代に戻れなくなってしまいます。
戦国時代の唯はでんでん丸で眠らせた医者の宗庵と天野様が目覚める前に若君の寝所から出ていきます。
天野様の意識が戻ります。目の前にいた若君の姿が消えてなくなっています。捜索が始まります。
騒ぎになり、唯の不安は増していきます。もしかして、若君は助からなかったのか、1か月では完治しなかったのかなど考えながら、それでも次の満月の夜にはきっと帰ってくると信じようとしています。
長い1か月です。
黒羽城から殿がやって来ます。若君の父です。兄の成之も来ています。成之は殿に忠清(若君)の捜索を自分が行うことを申し出ます。
唯はその様子に怒りを感じます。しかし、成之にひと睨みされると、唯は自分の置かれている状況が不利であることに気づき、1か月静かにしているべきだと考え、大人しくしていようとします。
唯は黒羽城に戻ります。持ち場の厩で過ごします。どこも若君が消えた話題ばかりです。
仲間が唯に、
「唯之助 逃げろ!!」
「取締方がお前を捕えにくるぞ!!」
と言います。
唯を高山方の間者だといって捕らえようとしているというのです。
唯は成之の仕業と確信します。
唯の逃亡生活が始まります。
行く先々には立て札が立てられ、唯の手配書が出回っています。
唯は若君と来た眺めのいい場所に行きます。まだ満月まで2週間あります。唯は若君を思うと涙ぐんできます。
人の気配がして振りむくと、天野様が白装束で座っています。懐剣を握り、自害しようとしています。
唯は若君は次の満月の夜に帰ってくるから、切腹するのをとどまるよう説得します。
現代の若君は回復し、速川の自宅に戻っています。こちらも、満月の夜から2週間ほど経っているのではないかと思われます。
若君は唯の身を案じています。
天野様は唯を自分の邸に連れてきます。唯は次の満月まで天野邸で身を隠すことになります。
2週間が過ぎ、満月の日がやって来ます。
今夜、若君が戻ってくると信じている唯はウキウキしています。
そこへ水を差す出来事が起きます。
唯が世話になっていた梅谷村のおふくろ様が捕えられてしまいます。取締方が唯の行方を聞き出すためです。
もしかしたら、ひどい取り調べをされるかもしれない、と唯は見に行くと、おふくろ様が後ろ手に縛られ連行されています。
唯はあわてて奉行所に向かいます。
おふくろ様は解放され、唯は牢に入れられてしまいます。
唯は若君が戻ってくるのを信じて待っています。
翌早朝、飯を届けに来た使いの者に若君が戻ってきたかをたずねると、戻っていないと言われます。
唯は夜には現代から吉田城に戻ってきて、もうとっくに黒羽城に着いているはずだ思っていたのに、もしかして、死んでしまったのかと思います。
夜は寒くて、薄着だった唯は気力が限界に近づいています。
現代の若君は見知らぬ女の子に見初められたり、尊と好みのタイプなど話したりと穏やかな日々を過ごしています。
満月の夜。別れの日です。
尊と両親は涙ぐんでいます。
尊は若君にタイムスリップに使う燃料が残り少ないことを伝えます。
あと2回。
若君が戦国の世に行って、唯が現代に戻ってきたら燃料がなくなってしまうというのです。
唯が現代に帰ってきたら、もう戦国時代には行けないというのです。
若君は少し考え、
「ご案じめさるな 唯のことはわしが必ず 無事 御父母のもとへお返しする」
と言います。
若君は懐剣を抜き戦国時代に戻っていきます。
若君は吉田城に戻ります。すぐに着替え、黒羽城に向かおうとします。しかし、大雨で橋が壊れていて黒羽城へ行くには迂回していくしかなく、馬でも半日かかってしまう距離です。
黒羽城では、殿の前に気力の果てた唯が連れてこられます。唯は昨夜の寒さも重なって風邪をひいてしまい、熱で朦朧としています。
唯を見るなり、殿は哀れに思い、帰してやろうとします。
そこに成之が登場し、殿に唯の罪をでっちあげ、若君が消えたのは唯の犯行だと進言します。さらに、唯が正体を偽っていると言い、証拠を見せるため着物を剥ぎ取るように言います。
理由は分からず、言われたとおり控えていた者が唯の着物を脱がせようとしたその時、外から大歓声が沸き起こります。
急いで殿の元にやって来た者が、若君が戻ったと報告します。
若君が元気な姿で戻ってきて、殿はひと安心します。
若君はあらかじめ作っておいた事の経緯を殿に説明します。殿に説明しながら、若君は横目にぐんなりとした者が視界に入り、見てみると唯であることが分かります。
若君はやや取り乱して唯に駆け寄り、抱きかかえます。
フラフラの唯は若君から抱きしめられている気がしながら、意識が遠のいていきます。
目が覚めると唯は、ふとんの上で寝ていました。どうしてこういう状況になったかよく思い出すことができません。
おふくろ様から声をかけられ、事の成り行きを聞かされ、唯は意識が途切れる直前の出来事は夢ではないことが分かり、本当に若君が戻ってきたので安心します。
唯は自分が着替えていることに気づきます。おふくろ様が着替えさせてくれたのだと知ります。唯はおふくろ様が自分が女であることをずいぶん前から知っていたのだと知ります。
おふくろ様は、
「狭い家で寝起きを共にしておったのじゃ とうに知っておりました」
と言います。おふくろ様の回想する1コマが描かれています。唯の寝相の悪さにおふくろ様が呆れている場面が面白いです。
唯は回復していきます。いろんな人が見舞いにやって来て、唯の顔めがけて扇子をパタパタとあおいでいきます。
小平太がやって来ます。唯は若君がどうしているかを教えてもらいます。小平太は若君から唯に渡すよう言われた手紙を渡します。
手紙を読み、同封された写真を見て唯は大興奮します。
その後、唯は冷静に写真に写っているような場面は自分は見ることができないともしみじみ思います。
唯は戦国時代にいるのに若君に会えなくて、家族を羨ましがります。
唯は寝てはいられなくなり、障子を開け、外の景色でもと思ったら、若君が立っています。
若君はスッと唯の寝所に入ってきます。
唯は会いたい人がいきなり目の前に現れて戸惑いながらも若君の元気な姿をようやく見ることができて嬉し泣きします。
若君は唯、尊、そして二人の両親に感謝し、懐剣を唯に返します。
唯は懐剣で尊からの手紙に書いてあった燃料のことを思い出し、若君にたずねます。
若君は尊との会話で唯の気持ちは知っていても、本人から聞いたわけではありません。
若君は燃料は1回分だといえば、唯はどう答えるのか、唯の気持ちを知りたいみたいです。
唯は、
「だったら もう家に帰ることはあきらめます」
と答えます。
若君は自分の気持ちを唯に明かしません。
「尊はあと2度使えると申しておった」
と言います。若君は尊と両親にした約束を守ります。
「家ではみな案じておる 次の満月には必ず帰って またここへ参れ」
若君はどんな表情で唯に言ったんだろう?帰したくない気持ちを押し殺す若君の表情は想像しにくいです。
続きます。
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