「勝つ理由が無い」とかいいながら負けると苦しいのは何故だ。桐山は将棋に対する中途半端さに思い悩む日々を過ごしていた。川本家との交流の中で明るいひなたの笑顔に元気づけられる。そんな彼の前に義姉・香子が現れる…。
様々な人間が、何かを取り戻していく優しい物語です。
桐山零は一年遅れで高校に編入しました。高校で担任になった林田先生の趣味は将棋で、将棋世界という雑誌を講読していて、零の名前は知っていました。
林田先生は編入してきた生徒の名前が同姓同名で、実際に会うと桐山零五段本人で職員室で驚いてしまいます。
なぜ高校に? そんな疑問もあってか、林田先生は先生と生徒というより零のいろいろなことの相談相手になっています。
桐山零は高校生といっても対局が最優先で、学校の行事はほとんど参加できません。
零は自分の居場所を見つけるためには自分の力だけで生きていくことが必要で、それができれば居場所を見つけるの難しくない、と思っていました。
幸田の家を出て、一人暮らしをはじめ、一年目はこれまでの貯金で対局をこなしてきました。二年目、初めて二連敗をくらい昇級の目がなくなってしまいます。
零は行き着く先がどこかわからなくなってしまいます。
そんな零の苦しみを林田先生は気付いていて、元気づけようとしてくれます。
学校の帰り道、零は買い物に来たひなに出会います。一緒に商店街へ行き、ひながファストフード店のドリンクを眺めているのに零が気づき、ふたりでファストフード店に入ります。二人で話していると、ひなが突然赤面し慌て始めます。ひなの憧れの先輩高橋勇介が店に入ってきました。高橋はひなに気づき、零はひなに気を利かせて一緒に座ることをすすめます。さらに零は邪魔になると席を立とうとしましたが、ひなが無言でジャケットの裾を引っ張り、引き止めます。ふたりきりになると緊張して何も話せないから零に居てほしいようです。
ひなは極度の緊張で、ドリンクを握りしめすぎて中身が飛び出しダウンを汚してしまいます。急いで化粧室に走り去っていき、零は高橋とふたりきりになってしまいました。
他人と話すことに慣れていない零は、気まずいながらも何か話さないと、とあれこれ考えていると、高橋のほうから話しかけてきました。
高橋は零のことを知っていました。零にたいして疑問に思っていたことを尋ねます。零は高橋の真剣な表情を見て、思っていることを素直に答えました。伝わるかどうかはわかりませんでした。高橋は零の言ったことを自分なりに解釈し、その理解で合っているかと零に返します。零は、「…うん」と答えます。自分の気持が誰かに伝わることがこんなにもうれしいことなんだと気づいた瞬間でした。
この場面がとても好きです。
もう少し話したそうな高橋は、待ち合わせていた友人が来て席を立ちます。零ももう少し高橋と話したかったみたいで、また会う約束をします。
「また」はすぐやってきました。土曜日に川本家でごはんを食べながら話すことになりました。ひなは姉のあかりを頼りにしていたのに、土曜日の夜は急に叔母の店を手伝うことなって、晩ごはんはひなが作らなくてはならなくなりました。
ひなはカレーを作りました。高橋の一口目にみな緊張が走ります。豪快に口に運び、豪華なトッピングに満足しているのを見て、ホッと一安心します。
高橋は零にききたいことがあると、録画した映像を見せます。テレビに映し出されたのは二階堂の顔。零は飲み物を吹き出してしまいます。モモもひなも二階堂を知っているので、驚きます。そのあと映しだされたのは対局する零の姿。モモもひなも零が将棋を指すことは知っていました。部活で将棋を指していると言われていたので、プロとして将棋を指している零を見るのはこれが初めてでした。
勝つ理由がないといいながら、負けると苦しいと感じる零を、本当に元気をくれたのは二階堂でした。零は映像の二階堂の熱い激励よって目が覚めます。
零は棋士の世界に立っていられることがどれだけすごいことなのかに気がつきます。
40年戦い、生き残ってきた松永さん。個人的な事情で将棋に集中できない安井さん。
零は彼らと戦って、将棋に対する姿勢を改めて考えます。
零は溜まっていたいらだちや怒りを吐き出すように叫びます。誰に訴えるでもなく、ひとりで空に向かって叫びます。
孤独になったのは零のせいではありません。勝つために勉強し努力するのは将棋の世界で生きていくためなのに、勝つほどに孤独感は増していきます。
続きます。
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