2016年1月12日火曜日

星里もちる あっちもこっちも

 ここには笑顔が詰まってる。喜び、嫉妬、安堵、恥じらい、哀しみ…

様々な感情が生んだ「笑顔」たち。短編の名手が二十年に渡り描き続けた物語を一冊にまとめた珠玉の短編集。




いろんなかたちの笑顔が描かれています。

その他に、笑顔になってもらいたくてなんとか事態が良くなるように動いてみても上手くいかなかったという話も描かれています。




●スイーツメモリーズ

作者巻末コメント

すでに次回連載「光速シスター」のネームを完成させ連載のタイミングを待っている状況にあったので、同テイストのSFコメディで行こうという打ち合わせになりました。タイムトラベル物は一度やってみたかったし。「スイーツ」が女性を揶揄する言葉として定着し始めた頃だったのでタイトルはすぐ決定した覚えがあります。何かから捩ったタイトルを付ける事が多いですが、コメディ作品ではよくあることです。



麻丘翔子に別れをきりだしたい原和樹。彼女のいいところ、好きだと思ったところが時間が経つにつれ嫌になったといいます。

話を聞いてくれない彼女になんとか別れ話をしたいと思っているところに、巻き込まれるかたちで、未来からやってきたという男が目的を果たす手助けしてほしいと言われます。

本当に未来から来たのか確かめるために、二人はタイムマシンで希望する時間に行ってみることします。それぞれが記憶に残っている一番の思い出の日に移動し、そのときの自分たちを眺めます。

和樹は自分が記憶している思い出が違っていることに気づきます。自身が変わってしまい、翔子との距離が大きくなってしまったのに、彼女に責任を押しつけて関係を終わらせようとしてしまったことに後ろめたさを感じているように感じました。

翔子はそんな和樹の気持ちに気づいていて、和樹の思うようにしようと言います。 最後に粋な未来人の贈り物。未来の思い出を知ることになり、ふたりで確認するために関係は修復されます。




●道草探検隊

作者巻末コメント

復帰第2作。猫と散歩が好きな私が、猫と散歩をヒントに描きあげた一本。当初ネームは母親と息子設定で描き始めましたが上手く行かず、逆にしてみたらすんなりドラマが出来上がりました。ボケとツッコミを入れ替えたら売れた漫才コンビみたいな。違うか。



友香は七歳。1年ほど前に飼っていた猫ちゃぼが死んでしまい、ママも亡くなってしまって、パパとふたりで暮らしています。ママがいなくなって、父娘の間にはいくつかの約束事をつくりました。

互いに約束を守っていたある日の学校帰り、友香はちゃぼによく似た猫をみかけます。父に、ちゃぼがいた、といってから約束事が徐々に破られてしまいます。

パパもママを思い出してしまうから、ちゃぼやママの話しは楽しかったことだけにするという約束でした。

しかし、七歳の友香には守れそうにない約束でした。その気持ちを察してパパもちゃぼに似た猫がどこの飼い猫か探すのに協力することになります。

知らずにいたママの思い出を知り、写真を撮る側が多かったので、被写体になることが少なかったママの笑顔の写真が見つかり、ちょぼ似の猫を追跡して父娘にとって貴重な思い出が増えました。




●パパと呼ばれたい

作者巻末コメント

「怪獣の家」連載終了後しばらく休載してた時期があり、復帰第1作で執筆したのが本作です。ネームも作画もじっくりじっくり大切に描き上げました。タイトルはドラマ「パパと呼ばないで」から拝借。劇中の「ドリーミィルル」は私がアマチュア時代に描いた漫画作品を転用。元ネタはもちろんアニメ「魔法の天使クリィミーマミ」。

自分のよく知る80年代アニメ業界を再現する作業はとても楽しかったです。



アニメーション制作会社で演出を担当している芝田。二人暮らしの沙織と明菜の母娘に気に入れれて一緒になりたいというお話しです。

もっとがんばって二人のパパになります。 最後のページを見ると、言葉どおり、明菜にとってしばちゃん(芝田)はいい父親になっているようです。




●パパ!あっちもこっちも

作者巻末コメント

「ルナハイツ」連載中に平行してビッグコミック増刊で執筆。実在する(笑)二人の娘をモデルにしてユルく長い連載が続けられればなと思いましたが、大人の事情により4話で終了。今では実在モデルの娘達もすっかり成長して劇中の様なモテモテお父さんはどこにもいなくなりました(笑)。この作品の発展系が月刊COMICリュウ(徳間書店)の「ちゃんと描いてますからっ!」になります。本短編集のタイトル元になりましたし色々実りの多い作品ですね。



秋実(6歳)と小夏(4歳)の姉妹が父にかまってもらいたいと奮闘する様子が描かれています。

父はそう遠くない日に娘たちが自分から離れていくだろうと、現状を楽しみながら、その日が来たときの覚悟は決めているようです。親は大変です。




●最も危険な人事

作者巻末コメント

シリアス作品「本気のしるし」の連載終了直後に描いたため、絵が暗いですね。作品世界には合ってましたが次回連載作「ハルナイツ」では元のコメディ調の絵に戻すのに少し時間がかかりました。



人事異動で小笠原に転勤になることを部長の前畑に告げられる藤木拓郎。同じ会社で働く彼女池田裕子に小笠原に転勤になることを言えず、結婚の申し込みをします。

裕子は話を取り違え、小笠原に転勤するのは藤木ではなく前畑部長だと思い、大喜びします。なぜなら、裕子は前畑の愛人だったからです。藤木は裕子と前畑の関係には知りません。嘘をつけない藤木は裕子を失い、単身小笠原に転勤してしまうのかというお話です。

藤木がバカを見なくてよかったです。




●カントリーロード

作者巻末コメント

ビッグコミックスペリオールで「夢かもしんない」を連載中にスピリッツ増刊で描いた作品。ロードムービー的な事がやりたかった。登場人物の背景の説明を可能な限りオミットしシンプルな物語を心がけました。主人公達が喋ってる言葉は島根弁です。「りびんぐゲーム」のヒロインが島根出身だったにも拘わらず方言にまで気を回せず心残りがあったため、リベンジしたかった。編集部の島根出身の方に翻訳して頂きました。島根弁の響きが気に入り、後の連載作品「オムライス」でも採用する事に。

劇中に公衆電話が出てきますね。ケータイやスマホが普及した現在なら別の展開になってたのでしょうか。「電波が悪い」とか言って車の外に出されたかもしれませんね。そういう事考えるのも楽しいです。



毎年行われている同窓会に参加する上野。8年ぶりに帰郷してみるとガラリと景観が変わっていました。8年という時間に変化することはあっても、前を向いて歩かなきゃいけないと思います。




●朝まで待てない

作者巻末コメント

「りびんぐゲーム」終了後、次の週間連載「結婚しようよ」までの間に描いた作品。サスペンス導入でドラマに転換している構成が気に入ってます。劇中に出てくる「とう道」の資料がなくて担当さんがNTTの内部資料を手に入れてくれました。



ことごとくお見合いに失敗している長谷晴彦32歳。

仕事は忙しく、毎日終電ぎりぎりまで働いています。最寄り駅のタクシー乗り場で見かけた女性が気になっていて、タクシーで後をつけても、いつも同じあたりの場所で彼女を見失ってしまいます。

姿を消してしまう駅で見かける女性に声をかけることができるのかというお話です。

タクシーでの尾行を断念し、彼女を見失う場所でヤケになって酔っ払って座り込むと、思いがけない再開ができて、これも縁があったからなんだろうなと思います。




●テールライト

作者巻末コメント

ビッグコミックスピリッツで「りびんぐゲーム」を週間連載中に描いた作品す。当時スピリッツには週間連載+αくらいの量をこなして普通みたいな雰囲気があって、休載なんて許されない恐ろしい状況でした。しかし私も若かったし違うテイストの作品を描いてみたいという野心もあって、まぁ増刊号連載なら大丈夫かと始めてみました。結果、無理でした。いや、週間+αをこなしてらっしゃる作家さんもたくさんおりますが、それは超人な人が出来るのだと自分の力不足を知る結果になりました。



過疎化の進んだ町、田上市。

畑山はレジャーランド建設委員会事業部から遊園地やレジャーランドを建設するにあたって調査するコンサルタントです。

どう頑張って計画を見積もっても、

「費用構成に難あり」

「建設は実質的に実現不可能」

で、開業してもおそらく1年半でつぶれるという報告書しか書けなくて、部長を困らせています。

炭鉱の閉山と共に産業を失ってしまった町。高度成長から取り残された滅んでゆくだけの町。しかし、畑山はこの町になくなってほしくないもののために全力で町の活性に尽力する話です。

畑山は彼女の笑顔が見たかったんだろうな。彼女がいなくなってしまったこの町を好きになれる他の何かはなさそうです。だけど、好きになれたらいいなと思います。




作者まとめ

コミックス化に当たり、古く作画がアレな原稿を全部描き直したい衝動に駆られましたが、執筆当時の状況をそのまま残す事を優先し修正は最低限に留めました。タイムトラベル物を先頭に過去に遡る構成の掲載順は、このタイミングでの出版だからこそ出来た事なので結果良かったと考えます。いやー、ずいぶんと長いこと漫画家やってますねー(笑)。

最後に、歴代担当編集さん、変わらずお世話になってるデザイナーの関さん。各作品及び短編集の為にご尽力下さった皆様、長く応援いただいてる読者様に感謝です。

2013年1月 星里もちる



星里もちる あっちもこっちも
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