泣かせにかかっています。しっかり泣かされました。
ギルモア侯爵(ジェイル)は想像していた人物とは違っていました。
アーサー・マクドナルドを傍に置いていて、人間と共存否定派なのにエスターとアルジャーノンの母メグに恋をしたジェイルは繊細で、口下手な人物でした。
人間と共存を否定する吸血鬼たちの行き場を作ってあげたのかもしれません。
ジェイルは一目惚れしてしまい、自分ではどうすることもできない感情と反発する吸血鬼の間で葛藤し、ジェイルの気持ちをわかってあげられたメグが命の危険もあったので邸を去ったというのが切ないです。
レオンはホテルに戻ってくるとエスターがロンドンに帰っていなかったので怒っています。
「あなたは何故まだここにいるんだ?」
「ごめんなさい でも帰りません 私はあなたの… 吸血鬼ハンターの花嫁になるのですから」
「そうか じゃあ婚約は解消しよう」
「わかりました 婚約は解消でかまいません でも それでも私はついて行きます たとえばこんな人ごみの中でも私ならあなたに近付く吸血鬼に気付くことができます あなたと危険から遠ざけることができます あなたが心配なんです 守りたいんです あなたのことが好きなんです」
「まったく あなたというひとは…」
レオンを守りたいという思いが、レオンを動かします。
ホテルに戻るとレオンはエスターに延泊でとった部屋をキャンセルしたと言います。
「話したいこともある 今夜は一緒に寝よう」
と言います。
エスターはレオンの話したいこととは婚約解消のことなのではないかと心配します。もしかしたら今夜がレオンとの最後の夜になるかもしれないと考えます
レオンが部屋にやって来ます。
エスターは自分から切り出します。レオンの話したいこととはお別れの話なんでしょうと言います。
レオンは、
「ああ そうだった あなたにははっきり言わないとダメなんだった 『あなたの覚悟はよくわかった』 『完敗だ』 一緒に行こう ついて来て欲しい 我が妻よ」
別れの話ではなく一緒に行こうという話なので、エスターの感情は悲しみの涙から嬉しい涙に変わります。
レオンはエスターに話したいと言っていたことを話し始めます。
まずウィンターソン家について。それからレオンの幼少期とクリスとの出会い。続いてクリスマスの惨劇。最後にその後のウィンターソン家と吸血鬼との関係について話します。
レオンはまだロンドンに逃げて命を投げてしまおうと思ったときにエスターの家族に出会ったことは伏せるようです。
雨が降る中、狼の根城へ出発します。
エスターは父親であるギルモア侯爵と初めて会うので人間と共存したいと考えるクリスと反対の立場をとるギルモア侯爵とは一体どんな人なのか、話が通じる人なのか、母親のメグは彼にとって何なのかたくさんの疑問を持っています。
馬車が停まります。
先導しているエヴァが乗った馬車がぬかるみに嵌ってしまったようだとノアがレオンに報告します。
後方から馬車が来ています。
レオンは馬車が停まっている理由を説明するため馬車を降ります。
後方の馬車からも人が降りて来ます。
エスターはレオンを引き留めようとします。後方の馬車から降りて来た人は吸血鬼だからです。
吸血鬼はレオンの馬車まで来てエスターを見ると、
「メグっ」
とエスターを抱きしめます。
レオンは吸血鬼の肩を掴み、
「放せ そのひとは俺の妻だ」
と言います。
吸血鬼は何も言わずエスターを肩に担ぎ前方の馬車に向かいます。
ぬかるみに嵌っている馬車を片手で持ち上げ動かします。
中に乗っていたエヴァが、
「ちょっと! あんたたち もう少し丁寧に…」
と文句を言おうと顔を出します。エヴァがエスターを担いでいる吸血鬼を見ます。
「…なんで あなたがここにいるのよ プリムローズ」
と言います。
エスターがエヴァに誰かと尋ねると、
「その男はジェイル・プリムローズ
ギルモア侯爵よ」
と言います。
ジェイルは担いでいたエスターを馬車に乗せます。レオンを見て、
「貴殿がヴァレンタイン伯爵か
この雨だ挨拶は後回しにして邸に向かおう」
と言います。全員邸に向かいます。
出迎えに出てきたのは子供の吸血鬼(ユアン)です。
ユアンはレオンたちを広間に案内します。
ジェイルが待っていて、席に着きます。レオンは、
「書簡でも申し上げた通り この度は卿のご息女エスターを我が妻に頂きたく こうしてご挨拶に参りました次第です」
と言います。
ジェイルは表情を変えず、
「本題の前に ……少し彼女と話をしたいのだが いいかな」
と言います。
レオンは何も言わず席を立ち壁際に移動します。
エスターは声を掛けられるのを待っています。
沈黙の後、
「エスター もうひとりはアルジャーノンと言ったか あなたたちふたりは似ていると聞いているが 兄も母にそっくりなのか?」
「えっ あっ どうでしょう… でも兄の方が美人なのでお母さんに似ていると思いますが…」
「…そうか」
「はい…」
と会話が弾みません。また沈黙が続きます。
ジェイルは少し身体を強張らせようや切り出します。
「…私に何か恨み言は無いのか 言ってみろ なんでも受け付ける」
と言います。驚いた様子のエスターは、
「えっ!? いえ そんな 恨むことなど…」
と言います。
「メグから私のことを聞いていないのか?」
「? いえ 詳しいことはなにも…」
「そうか…」
というやり取りの後、エスターは、
「…あの教えて頂けませんか ギルモア侯爵は吸血鬼と人間の共存に反対されていると伺っています
そんなギルモア侯爵にとって お母さんはいったいどんな存在だったのか…」
と勇気を出して尋ねます。
「…メグは…」
とだけ口にし、目を閉じます。
「出会いはジェイル様の一目惚れだったんですよ」
と横から口を挟むのはユアンです。エスターにお菓子を差し出しながら、
「ジェイル様は口下手でいらっしゃる 先ほどから話がまったく進みません」
とジェイルと代わりに説明する許可を求めます。ジェイルが渋々認め話し始めます。
最初はジェイルの一目惚れから始まりました。黒薔薇城でメグと出会い、何かと理由をつけて黒薔薇城に通い、互いに思いが通じました。
ジェイルはメグを妻に迎えることを望みます。しかし、ジェイルの配下の吸血鬼が反発します。
ジェイルは王としての立場と愛するひとのはざまで苦悩します。
メグは黒薔薇城から姿を消します。
ジェイルはメグが双子を生み、つい最近天国に行ったことを知ります。深い哀しみの底で生きることを放棄してしまいます。
ジェイルは吸血していません。
ユアンはこのままではどうなってしまうか心配でたまらないようです。
話を聞いていたエスターはジェイルをそっと抱きしめます。そうせずにはいられなかったようです。
ジェイルは、
「メグに… あなたたちに双子に… 私は不幸しか与えてやれなかった…」
と言います。
エスターは、
「不幸だなんて そんなわけないです…
お母さんとアルと3人で過ごした16年間は貧乏だけど幸せでいっぱいでした 私たちはとても幸せでした 親子3人を出会わせて下さったこと感謝しています」
と言います。そして、メグがたまに月を見上げて悲しそうにしていることがあったことを話し、さみしがっていた、できるならもう一度会いたいと願っていたと思うと話します。
「だから…」
と言って、言葉が止まってしまいます。その先を口にするのは、吸血鬼ハンターの妻の立場として矛盾してしまうことになってしまうからです。
言葉を発するかどうか迷っていると、アーサー・マクドナルドが広間に入って来ます。
「お話がひと段落ついたようでしたら 各部屋にご案内させて頂こうかと思いまして」
と言います。
ジェイルもそうだなと言います。
レオンは、
「俺はギルモア侯爵と話の続きをする」
とエスターはノアと護衛と部屋に行くよう言います。
エスターはレオンに広間から出て行くように言われ少ししょげています。
エスターとエヴァとノアは外に出ます。アーサー・マクドナルドもついて来ています。アーサーは、
「気になりますか? 彼らがふたりきりでなんの話をしているのか」
とエスターに尋ねます。
「この旅のあいだずっとレオンはどこか思い詰めた顔をしていました… 私には言えないなにかがある… 心配なんです」
と言います。
アーサーはエスターに言います。、
「昔… ウィンターソン家の惨劇の夜 生き残った邸の者たちの間でまことしやかにうわさが流れたそうです」
ノアとエヴァがアーサーの言葉に反応します。
「襲撃して来た吸血鬼たちの――――」
エヴァが、
「その口を閉じなさい マクドナルド!」
ノアがアーサーにナイフを投げます。
アーサーはエヴァを締め上げ、ノアのナイフを指先で掴みます。そして続けます。
「襲撃して来た吸血鬼たちの話す言葉がスコットランドのしかも高地地方訛りであったという噂です つまりここです きっと今頃伯爵は我が主にこう訊ねているはずですよ 『ウィンターソン家襲撃の首謀者はあなたなのか』」
それを聞いたエスターはレオンの両親を襲ったのは父であるギルモア侯爵である可能性があり、自分には言えないことが何なのかを知り動揺します。
レオンはジェイルと二人きりになって、話を切りだします。確認したいことがあると言います。
「ウィンターソン家襲撃の首謀者はあなたなのか」
と尋ねます。しかし、レオンの中ですでに答えが出ているようです。エスターとジェイルが話している時からレオンはジェイルを観察していたようで、愚かな人物だとは思えない、襲撃する理由もメリットもないと話し、
「あなたは知っているのではないですか 真の首謀者の存在を」
とジェイルに問いかけます。
ジェイルは黙ってユアンが運んできた紅茶を飲んでいます。レオンが問いかけると、動きが止まり、目を大きく開きます。そして急に倒れます。
ちょっと部屋に入って来たメイドがジェイルが倒れるのを見て悲鳴を上げます。
外にいたエスターたちにも悲鳴が聞こえます。広間に行くと、レオンが、
「誰か… 医者を… 吸血鬼の医者のような者はいないのか!?」
とジェイルを抱え慌てています。
アーサーはジェイルが飲んだカップの中に銀の粒を見つけます。
「ミルクティーに銀の粒が仕込まれていたようだ これは困ったことになりましたね」
と言います。悲鳴を聞き他の吸血鬼もやって来ます。アーサーは、我らが王が毒を飲まされた、と言い、
「咎人は我らが仇敵・吸血鬼ハンター レオン・J・ウィンターソン 許すまじ 捕えて 牢に繋げ!」
と実にすらすらと驚く時間さえなくことが運んでいき、レオンは拘束されてしまいます。
アーサー・マクドナルドの筋書き通りにすすんでいるようです。
ユアンはどういう立場なんだろう。レオンたちを出迎えた時の表情が不自然に見えたので少しこわいです。
続きます。
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