●コダマの谷
とある王国の王立大学が舞台の物語です。
目的があまり明らかにならず、それぞれの事情と人間模様が描いています。
ライダーやアーサー、ユリウス、学院長といった男たちよりも、自分のことをおれという女の子のマージとアーナスタ家の姫ウーナの思いや行動が面白かったです。
●忘れている事、思い出したこと
ニール・ライダーは入試をトップで通過したのに、それ以降の成績は進級に差し支えないギリギリのラインを保ち、卒業を拒んでいるちょっと変わった男です。
何か目的があって大学に残っているようです。
もしもライダーが、
「何か大事なことを忘れている」
ことを忘れていたら、マージはどんな反応をしていただろう。
ただ黙ってがっかりしていたのかな。
●天上からの来訪者
近い将来やってくることへの備えのため、手を回して学院にもぐりこんだ王国の王子アーサー。
切れ者なのか未熟なのかわかりにくい人物です。
ライダーがどういう人物が興味があってつながりを持つため彼の住む部屋の屋根裏を寝床にしていたのに、初対面は散々なものになってしまいました。
ライダーは一体何をしているんだろう(明かされることはありませんでした)。
●やることがあるんだ
兄のユリウスを負かしたライダーと婚約相手のアーサーに興味があり、ふたりがいる学院に女は入学できないのに偽って入学したウーナ。
彼女の立ち位置が面白いです。
変装したウーナを容易に女性だと見抜くアーサー。
男の子の格好で自分を「おれ」というマージも即女の子だと見抜いてしまいます。
「あんまりからかうんじゃねえよ」
と、マージをアーサーから遠ざけようと、マージの背後から手を回し軽く抱きしめる格好になり、ライダーを背中に感じちょっと頬を赤らめたマージがかわいらしいです。
●利得と動揺
理想の女性像とぴったりと思った人が、国王の決めた相手だと知ったときのアーサー。
直球の求愛行動が可笑しかったです。
●駈け引き
マージがアーサーに言った、
「吸わないってまえ言ったよ」
というセリフがものすごく好きです。
●最終話
アーサーの会話を偶然立ち聞きしてしまうウーナ。
これほどまでにまっすぐに想われていることを知るとどういう気持ちになるだろう。
●After the Echo Valley
マージが「おれ」から「あたし」に変えるところを描いて欲しかったです。
一つひとつの話の終わりに描かれている挿絵が楽しかったです。
●フクちゃん旅また旅
父親と旅をしていろんな経験をするフクちゃんのショートストーリーです。
迷子になって知らないヒトに連れられて、頭ん中が不安と恐怖でいっぱいなったり、滅亡した国の幼い王様を説得したり、野宿で食べ物がなく乾パンを独り占めしたい気持ちを抑えたり、稲荷神社のキツネにからかわれたり、一目ぼれしたり、奇跡が起こったり、空想したり、似た男の子と入れ替わったり、宿屋のお嬢ちゃんに優しくされたり、知らない間に誰かを勇気付けていたりします。
入江亜季 コダマの谷 王立大学騒乱劇
(アマゾンのサイトに移動します)
0 件のコメント:
コメントを投稿