2017年11月30日木曜日

あきづき空太 赤髪の白雪姫 7巻

白雪はこの先クラリネス王国でゼンとどうありたいのか。
白雪の心は決まります。



●26話
海の鉤爪を壊滅させ、頭を捕らえ一件落着します。
ようやく白雪が自由になります。
鹿月に背中を押され、山の獅子の頭がゼンに、
「村で休んでいかねえか」
という声に白雪が視線を向けます。
山の獅子の頭を見て白雪が、
「……!!! とっ… 父さん…!?」
と、驚きの声をあげます。
山の獅子の本拠地に到着し、山の獅子の大将武風(ムカゼ)は白雪の父親だということが明らかになります。
まさかの展開です。
たしかに髪の色が白雪と同じっぽいです。

木々がミツヒデに、
「心配 どうもね」
と言います。短い言葉にたくさんの思いがこもっていることがわかります。
ミツヒデと木々の少ないやり取りが好きです。

鹿月が白雪をさらった理由が明らかになります。
鹿月は、
「ここで一緒に暮らすわけにはいかないかな」
白雪は、
「ごめんなさい」
「私は……クラリネスにいたいんだ」
即答で、自分の意志を明確にします。
武風との再会を終えると、白雪はオビを探します・
ゼンと再会し、海の鉤爪を捕えて、一安心した時点からずっと白雪はオビを探していて、みつけられないでいます。
白雪はようやくオビに会えます。
オビの表情はいつになくまじめです。そして、
「ごめん」
2度白雪に言います。
白雪は言葉を遮ろうとしても、オビはそれさえも受け入れることなく、自分の責任だと断固として譲りません。
白雪は何を言ってもだめだというオビに、これからのことを話します。

オビは白雪の、
また次もオビがいい
という言葉に意表を突かれます。
白雪はオビに責任はないよというための最善の方法で、オビの肩から重いものを取り去ったのです。

宴が盛大に行われます。
ゼンと武風が面白い会話をしているのを白雪が聞いてしまいます。
白雪の顔は真っ赤です。

タンバルンの城に着くと、到着を聞きつけたラジ王子は待ちかねていたようで、息を切らして、出迎え、白雪を見てようやく安心した表情になります。

城ではもう一度夜会を開く準備ができて、当初の目的も果たされます。

ラジはもう一度会いたいと素直に言えなくて、白雪に、
「白雪どのの… 髪が伸びたら 見せに来てくれ 今度は切らずに」
と言います。
白雪は、
「ラジ王子が友人として訪ねてきて下さるなら 喜んで」
と返します。
ラジ王子は次に会うまでになんとしても頑張って成長しなくてはと心に誓ったと思います。


●27話
ゼンは城に戻り、イザナ王子に帰還の報告をします。
白雪は薬室長に挨拶し、すぐに通常の業務に戻ります。
リュウは白雪が戻っているのに気づいても、特に反応もなく普段通りです。

数年に一度、市民に王城の一画を開放する行事、王城開放日がやってきます。
ゼンは兵舎を訪れ衛兵たちに声をかけます。衛兵たちはゼン王子が直々に兵舎にやって来て言葉をかけていることに驚きます。
初めて見る王城開放日のにぎやかさに白雪は、城がいつもいる場所ではないように思えています。
白雪がゆっくり歩いていると、衛兵がゼン王子の話をしています。知らない人がゼンの話をしているのも初めて耳にすることです。
白雪は自由にゼンに会いに行ったりすることはできないみたいです。
ゼンは衛兵の格好をして、普段は見られない城内の仕事ぶりや市民の様子を見てまわっています。こうして歩いていると、もしかしたら白雪に会えるのではないかとも考えていて、本当に白雪を見つけ話ができてうれしそうです。
白雪はゼンの言葉に、タンバルンでのことを思い出し顔を赤くします。
白雪はゼンと別れると、オビがやって来て、
「主の出番もうすぐだから」
と白雪を呼びに来たと言います。
オビの案内で連れられて来た場所から、バルコニーに立つゼンがよく見えます。
白雪は民衆の声に応じて、手を振る王族としてのゼンを初めて見ます。
オビは王族のゼンと普段接しているゼンは別人なんじゃないかと言います。
白雪は触れられるところにいるゼンと、本当の自分との距離を感じます。

ゼンは役目が終わると城内を歩くつもりらしく再び護衛服姿に戻ります。
オビはゼンにバルコニーで立っているところを白雪と一緒に見ていたと伝えます。
リュウがやって来ます。白雪を探していると言い、オビが白雪を連れてきます。
リュウは白雪に外から来ている劇団の中で怪我人が出ていて、一緒に来てほしいといいます。ゼンとオビもついていきます。

劇団員の控室に入ると役者二人が足首あたりを痛めたと訴えます。このあとまだ出番があるから痛み止めがほしいと言います。
役者の二人は王城で演じることで広がる可能性を口にします。
リュウは患部を診察すると、舞台に立つのは無理だと判断します。
白雪は処置しようと、かぶっていたフードをとり髪を束ねます。
劇団の人たちは白雪の赤い髪に目がとまります。
役者を手当てしている白雪に劇団の座長が代役として舞台に立ってほしいと頼みます。
白雪は拒みます。
劇団員はあきらめず、矢継ぎ早に白雪にお願いします。
劇団員と白雪のやりとりを見ているオビはゼンに白雪がまだ目立つ場所に出たくないようだと話します。
白雪は髪を隠すことを条件に舞台に立つことを了承します。

演劇をミツヒデと木々が見ています。姫役の芝居を見てぎこちない感じがする、とよく観察してみると役者が白雪であることに気がつきます。
劇団の座長は白雪の赤い髪は、観衆に大きな反響を得られると感じていて、白雪の相手役の演者にヴェールを奪うように指示します。
ゼンは座長の様子に気づき、オビに指示を出します。
ゼンは舞台に立ち、ヴェールをとろうとする役者から白雪を守ります。

舞台を終え、白雪とゼンは二人で話します。
ゼンは白雪が二人でいる時の様子がおかしいことに気づいてます。
白雪はゼンと二人になると、
「惚れてるよ」
と白雪の父武風に言っていた時のことを意識せずにいられない、なんてとても言えません。
白雪はゼンに、タンバルンで助けられたこと、そして、今日また助けてもらったこと、それらに対して何か返したいと思っています。
ゼンはただ白雪が笑顔でいられるようにしていることだ、と言います。
白雪はゼンに感謝の気持ちを伝えたくて、ゼンの左手の甲にくちづけします。
「来てくれて ありがとう」
笑顔でゼンに言います。
ゼンは白雪のぎこちなく伝える気持ちに顔を真っ赤にします。こんなこと誰にもされたことがないので動揺しています。


●28話
ある朝、白雪とオビは歩いていると、ミツヒデに声をかけられます。
ミツヒデはゼンが王城開放日からぼーっとしていることがよくあって気にかかるので、白雪に何か知らないかと尋ねます。
白雪は心当たりがありません。
話していると、メイドが慌ててミツヒデと白雪のところに来て、
「わっ… 私達の不注意でゼン殿下がお怪我を…っ」
と一緒に来てほしいと言います。
白雪はびっくりし、ミツヒデは顔が青ざめています。

ゼンのぼーっとしている原因は白雪です。
白雪がゼンの手の甲にくちづけしたことを何度も思い返しています。
ゼンの頭の中は白雪のことでいっぱいです。何も手につかなくなっています。注意力も落ちていて、メイドが上から落とした布にも気づかず、頭から布をかぶり、首を痛めてしまいます。
ミツヒデは大丈夫たというゼンを疑っています。
ミツヒデは薬室長を呼びに行きます。薬室には誰もいなくて、探していると薬瓶が身体に触れ、割れてしまいます。割れて瓶を片付けていると入っていた液体が発するにおいを吸い込んでしまいます。

ゼンの元に戻ってきたミツヒデの様子が変です。
薬室長はミツヒデが催眠作用のある薬をかいでしまったと言います。
その薬のにおいをかぐと、普段深く持っている一面が助長されて前面に出ている状態になると言います。
ミツヒデはゼンへの忠誠心が特に強くあらわれた状態になっています。
ゼンはその状態のミツヒデが言った言葉に引っかかります。
木々もミツヒデの言葉に反応します。
白雪はゼンにぬり薬をぬって処置します。

夜、白雪はミツヒデがかいだ薬をつきとめるため本を調べます。治療薬をつくる気でいるようです。

翌日、ミツヒデの様子に変化はありません。
ゼンは執務をこなす傍らに控えるミツヒデの様子が気に入らないようです。
夜、ゼンは白雪のところを訪れます。
ゼンは白雪に自分の考えを話します。
白雪はゼンに、ミツヒデは欠くことができない必要なひとなんでしょう、と言います。
ゼンは白雪にミツヒデを直してほしいと頼みます。

ミツヒデは白雪から手渡された薬を飲む前、白雪に自分の思いを話します。
白雪は進むべき方向を決めなくてはいけないと思い始めます。


●29話
タンバルンから使者がやって来ます。
白雪は見習い課程を修了し、正式な宮廷薬剤師となります。
タンバルンからの使者として来たのは巳早と第一王子側近のサカキです。
サカキは白雪に用があって来ています。
白雪は城に行くとゼンが待っています。自分に何の用事があるのかわかりません。
イザナ王子も来ています。
サカキはラジ王子の名代で来たと言い、クラリネス王国白雪どのにタンバルン王国より”王家の友人”の称号を与える、というラジ王子の言葉を伝えます。
なんのことかわからない白雪は、称号という言葉で思い当たることを探します。
白雪が海の鉤爪に捕えられ、船の上でラジ王子が、
「貴様らが手を出した赤髪の娘はこのタンバルンで唯一人 ”王家の友人”の称号を与えられた者だ!!」
と警告を発したことを思い出します。
サカキはラジ王子が白雪をタンバルンの国賓として扱いたい言い、国王が認めたと言います。
サカキが退いた後、イザナ王子は、
「”王家の友人”とはね……」
とつぶやき、声を出して笑います。
イザナ王子はゼンが連れてきた白雪の見せる変化に興味を持ち始めています。
イザナ王子は以前白雪に言ったことを改め、タンバルンが白雪に与えた称号によって、ゼンと友人であると言っても問題はないという姿勢に変わります。そして、白雪にゼンとどうありたいか聞いてみたいと言います。

白雪はミツヒデに言われ、イザナ王子に言われ、この先のことをゼンに告白します。白雪の心は決まります。
ゼンも白雪に自分の思いを伝えようとします。
続きます。


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2017年11月28日火曜日

ななじ眺 ふつうの恋子ちゃん 4巻

夏目恋子はいよいよ気持ちに余裕がなくなってきています。
姉愛子を二宮剣が女の子扱いし、愛子がかすかに反応しているのを恋子は見逃しません。
恋子はとっさに、
「こいつ あげないよ」
と愛子に牽制します。でも自分の口からでた言葉にびっくりもします。
剣は恋子の言葉を頭の中で繰り返して喜んでいます。


恋子はバイトを終え、帰ろうとする恋子を引き止めて、さっき言ったこと忘れて、と言います。
剣は、
「…いいよ 夏目さんので」
と照れながら言います。
もう相手を気持ちはつながっているのも同然なのに、ふたりは核心には触れず、話題を変えます。あと一歩が歩み出せません。


翌日、学校の下足室で二人は会います。
剣はまわりを見渡し、誰もいないのを確認して、恋子に小声で、
「おはよ」
と言います。
恋子はそんなふうにする剣を見るだけでドキドキしています。
「同じクラスなんだから 挨拶ぐらいはもうアリなんじゃないの」
と恋子は剣にまたかわいくない言い方をします。
剣はそれすら楽しそうに、
「あ そか! おはよ」
と言います。
恋子の体温は上がり、朝から大変そうです。
恋子は剣に対して「ふつう」でいられないことを認めてしまいます。


もうすぐ修学旅行です。
先生は自由行動の班決めを行うと言います。
班は好きな者同士で組むのではなく、出席番号順に強制的に決められてしまいます。
幸運にも恋子と剣は同じ班になります。
恋子と剣は心の中で、神様ありがとう、と叫んでいます。
同じ班になった女の子は剣と仲がいいようで、恋子は心がザラザラします。


学校で剣と話さない恋子は、もの足りなさを感じます。もう見てるだけじゃ足りないようで、なにかメッセージを送ろうと考え、桜の写真を送ります。
すぐに剣から、どこ? とメッセージが返ってきます。剣が会いに来てくれます。
恋子はうれしいやら、申し訳ないやらで、ゴニョゴニョ言っていると、剣は、
「なんか 夏目さんが足りなくて」
と言います。
恋子は剣と気持ちが同じだと思い、少し素直に自分の気持を明かします。
他愛ない会話が続きます。どうでもいいことを話しているのがとても楽しそうです。
話していると、剣は呼び方について恋子に言います。
剣は夏目さんじゃなく恋子ちゃんと呼んでみます。
恋子はあんたじゃなく、二宮くんでもなく、剣くんと呼んでみます。
二人は恥ずかしそうに何度も互いの名前を呼び合います。
足りなかったものが満たされただろうなと思います。


恋子は剣のことを学校で何の照れもなく剣くんと呼べるよう練習します。
恋子は眼の前にいると意識しすぎて剣のことを剣くんとは呼べません。
剣も恋子のことを恋子ちゃんとは呼べません。
下の名前で呼べないまま、時間が過ぎていきます。


修学旅行前日、親睦会をしようということで、班になったみんなでお菓子を買いに行きます。
みんなでスーパーに行くと、剣の母親とバッタリ出くわします。
恋子は剣の母親に対して誰よりも緊張しています。
恋子は剣の母親と話せず店を出ます。
帰り道、剣は恋子に、
「…そのうちさ うちにおいで その頃には『彼女の恋子ちゃん』って紹介できたらいいなぁ」
と言います。剣はみんながいなければ、母親に恋子を紹介したかったんだろうな思います。
恋子が剣の母親に紹介される日は来るのかな?


修学旅行です。
新幹線で移動中、恋子と剣は、ほとんど同じような気持ちになっているというのに、なんで私たちは付き合ってないんだ? と思っています。
行く先々でも考えていることは同じです。


お風呂からでると、剣は恋子を先輩に教えてもらった二人きりになれる場所に連れていきます。
恋子と剣はいい雰囲気になるのに、先生に見つかり叱られてしまいます。
剣のファンは剣に恋子との関係を聞きます。
剣は恋子のことを考えて、友達だと弁解します。
恋子は剣の言ったことを否定したくて、みんながいる前で、
「剣くん 付き合ってください」
と勇気を出して言います。
剣はどうするのでしょうか?
続きます。





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2017年11月24日金曜日

羽海野チカ 3月のライオン 13巻

●chapter. 127 遠い花火
林田先生はあかりに一目惚れしています。去年、将科部の夏の自由研究で行った流しそうめんに川本三姉妹を招待してからです。
夏まつりであかりが倒れそうになったのを支えてからは、もう頭の中はあかりのことでいっぱいになっています。
あかりが倒れそうになったのを支えたのは林田先生だけではなくもう一人います。島田です。
島田はあかりが倒れそうになるとき、二の腕をギュッと握って支えたのを林田先生は見ています。
林田先生は島田とあかりを取り合いになれば勝ち目はないと思っています。
林田先生にとって島田はずっとヒーローだったのです。
将棋で島田が勝てば誇らしく思い、負ければ気持ちを切り替える言葉を探したりと、勝手に親近感を覚えています。
島田があかりを狙っているかもしれないし、そうでないかもしれない、どっちかはわかりません。だた、はっきりしているのは、林田先生は何もしなければ、いつか誰かに奪われてしまうということです。
林田先生は勇気を出して、あかりが手伝う、美咲おばさんの銀座の店に行ってみることにします。

林田先生は入口まで来てはみたものの、なかなかドアを開けられません。
「入らないんですか?」
林田先生は声にびっくりします。島田が隣に立っています。
同じ日の、同じ時に、偶然島田と再会したことについて、良かったのか、悪かったのか、林田先生は自分がいないときに、あかりと島田が会って、知らない物語が始まってしまうことを考えたら、勇気を出して銀座に来てよかったと思い直し、店の扉を開けます。


●chapter. 128 銀座
店には美咲と会長がいます。
会長は島田がようやく来たと言い、美咲は林田先生に、
「ホントに来てくださったのね」
と言い、
「あかり~ ご指名よ~」
と言います。
林田先生は、銀座の店でご指名なんて、と気が動転します。
美咲は、
「なぁんてねっ うそうそっ☆ うち そーゆーの無いから 大丈夫 大丈夫」
と林田先生をからかうために言ったのです。美咲おばさんにとって林田先生はからかい甲斐がありそうです。
奥からあかりが出てきます。
「まあっ 先生っ そして 島田さんもっ 来て下さったんですか? 嬉しい この間は本当にありがとうございました」
銀座で見るあかりは普段の姿とは当然違っていて、林田先生はとても自分があかりに似合う男になれそうもない、と傷心したかのような気持ちになってしまいます。
林田先生の記憶はそのあたりから途切れてしまいます。
意識が戻ったのは翌日の昼、島田の家の居間です。
桐山が島田の家に来ていて、林田先生に、
「先生… ぼく 今 猛烈にアキれてますよ?」
と言います。
林田先生は桐山にも銀座に行って酔いつぶれてしまったことを知られてしまいます。とても恥ずかしそうです。


●chapter. 129 風の2万空里 1
8月。新聞社の棋戦、東陽トーナメントが行われます。
持ち時間は1人1時間、使い切った後は1分の秒読みという短い持ち時間が特徴です。
桐山はAブロック、二階堂はBブロックです。二人が当たるのは決勝になります。
二階堂は、
「桐山!! お前 途中で絶対負けんなよ!? 俺たち決勝で絶対会うんだかんな!!」
とやる気に満ちています。
二階堂は櫻井七段との対局に勝つと、次は宗谷名人と当たります。公式戦で宗谷と対局できる可能性がありうれしくてたまらないようです。

林田先生は野口先輩に愚痴を聞いてもらっています。
島田の家で目覚めた林田先生は銀座の店で勘定を支払っていないことに気がついて、島田に幾らでしたか? と聞くと、
「ま、次は先生のおごりって事で」
とかっこよくこたえたことを、野口先輩に言います。
野口先輩は林田先生にとっていちばん大切なこと、あかりさんが酔っ払ってしまった林田先生を見てどう思ったんでしょう、とずばり聞きます。
林田先生は、生徒の野口先輩に、どうしたらいい? と聞いてしまいます。覚えていないだけに、あかりに会いに行きづらいだろうなと思います。


●chapter. 130 真夏の底
あかりは前日美咲の店で片付け終わって、帰宅したのが1時過ぎで、お風呂に入って寝たのが2時半くらいで、朝7時に朝食の用意をして、三日月堂でドラ焼きを包んでいます。
あかりは寝ていません。
おじいちゃんはあかりの体を気づかい、モモのお迎えまで横になるよう言います。
あかりは笑顔で作業しているけれど、睡眠不足のため小さな失敗をたくさんしていたでの、睡眠がとれてホッとしています。
あかりは横になると、夏まつりのことを思い出します。
あかりの記憶がよみがえります。あかりが男性に対してどういう感情を抱いているのか少しわかります。あかりの男性に対する感情は両親が強く影響しています。男性を好きになることは恐怖でしかありません。でも、林田先生と島田に支えられて触れた体温は温かくて、その温かさに支えてもらいたいという気持ちもどこかで抱いています。


●chapter. 131 風の2万空里 2
二階堂は宗谷名人と対局するためには、目の前の相手である櫻井七段に勝たなくてはいけません。
宗谷と対戦する夢を見た二階堂は気力があふれています。ずっと憧れ追いかけてきた人と戦う機会がやって来て、なんとしても、宗谷と対局し、二人だけの時間を体験してみたくてたまらないようです。


●chapter. 132 風の2万空里 3
二階堂は宗谷との対局を実現するため、櫻井七段との対局は作戦を持って挑んでいます。
二階堂の作戦はバッチリはまったようです。

宗谷と対局しているのは田中です。
田中はスミスに心の声で話しかけます。最高の笑顔で、
「全くもって歯が立たん!」
と負けが確定しているようです。

二階堂は形勢が変わることなく、そのまま突き進み、103手で櫻井七段に勝ちます。
いつになく、二階堂は興奮しています。思い通りの将棋ができて興奮しすぎています。
島田は勝ち、桐山は負けてしまいます。
二階堂はいよいよ宗谷と対局です。


●chapter. 133 風の2万空里 4
宗谷は二階堂の一番得意な戦法に誘います。
二階堂は宗谷が自分の得意な戦法をちゃんと調べて来てくれたことに感動し、誘われた通り、得意な戦法で挑みます。
スミスは田中と心の声で会話ができるようになっています。
宗谷も久しぶりに駒音がきこえてきて、二階堂との対局を楽しんでいます。


●chapter. 134 風の2万空里 5
滑川は宗谷の追っかけだということがわかります。
滑川は二階堂と対局する宗谷の表情に顔がほころんでいます。
滑川だけではありません。
桐山もスミスも重田も、対局する宗谷の表情を見て、それを引き出すことができた二階堂に嫉妬しています。
勝ち負けと同じくらい大切なことがある将棋の世界がおもしろいです。

二階堂はこれまでで今一番いいと自身で手ごたえを感じられるほど調子がいいです。
この一番いい場面で宗谷と対局できた喜びをかみしめながら、一手一手最善の手を指していきます。


●chapter. 135 風の2万空里 6
二階堂は格下なのに手加減なく全力で向かってきてくれる宗谷に興奮しています。
二階堂が優勢で、宗谷がなんとかしのいでいるという展開です。
宗谷が指し、二階堂の次の一手で勝ちになりそうだというところで二階堂の動きが止まります。秒読みは30秒、10秒、5秒、4秒とすすみます。二階堂は動きません。
隣で対局する島田が二階堂の異変に気がつきます。
桐山は、
「何やってんだ 指せ 二階堂 お前 今 勝ってんだぞ」
と叫びます。
時間切れになろうかというとき、宗谷は二階堂の肩をたたきます。左肩を、バシッとたたかれた二階堂は右に傾いていきます。
二階堂は気を失っています。椅子から、そのまま倒れていくのを島田と後藤が手を差し出し、背負って病院へ向かいます。
二階堂は途中棄権となり、宗谷の不戦勝となります。
東陽オープントーナメントは宗谷の優勝で幕を閉じます。

二階堂は病院で意識が戻ります。
花岡、島田、桐山はホッとします。
夜に会長が病院にやってきて、二階堂に棋譜を手渡します。
棋譜には二階堂が気を失ったところからの続きが記されています。
棋譜は、この対局は宗谷の勝ち、とく結果が記されていて、島田も桐山も重田も、不利な局面からの見事な逆転劇に驚き、宗谷の知られざる気性を知ります。
二階堂は宗谷からもらった棋譜を見てうれしそうに、書かれていない宗谷からのメッセージを受け取っています。


●chapter. 136 雨の匂い
桐山は自分の世代でいちばん宗谷とつながっているのは自分だと思っていたのに、違っていることに気がつきます。
棋士はみな、誰よりも自分がいちばん宗谷とつながっていると思いたい気持ちがあるということを知ります。
つながるにはどうしたらいいか?
答えは単純です。
とにかく強くなって宗谷の視界に入り続ける、です。
桐山は弱いトコを探して一個ずつ修正していくという、誰にでもできそうで一握りの人にしか継続できない作業をコツコツ繰り返す、将棋が強くなる唯一の方法をやるしかないことを確認します。
そんなことを考えながら桐山は、フラッと川本家に寄り、晩ご飯を食べます。
桐山はひなたを見て、棋士として誰かと比較してしまう自分と、川本家にいて誰と比較しようと思わない自分がいることに驚きます。
零に一人で暮らす部屋と学校と対局だけでは得られないおだやかな気持にさせてくれる場所があってよかったと思います。


●chapter. 137 雨の匂い 河の匂い 1
滑川は二階堂と宗谷の対局後、実家の仕事の手伝いに行きます。
滑川の実家は葬儀屋です。


●chapter. 138 雨の匂い 河の匂い 2
滑川は美しいものが好きです。自分の将棋に、他の人の将棋ほど強い光のようなもの、美しさを感じられずにいます。
家業から、死ぬ時、ああ、生き切った、と思えることが出来るのかをよく考えています。
情熱がないわけではなく、他の人の熱量と自分のを比べて落ち込んでいるようです。
滑川の愚痴を聞くのは弟の要で、滑川はもう一度初心に戻ってみようとしています。


●chapter. 139 目の前に横たわるもの
零の義姉の京子は後藤との終わりが見え始めています。
京子は過去に零にしたことをふり返り後悔します。
京子も自分の場所を見つけられたらいいなと思います。
後藤は京子が支えてくれて本当に感謝していると思います。


続きます。


羽海野チカ 3月のライオン 13巻
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2017年11月20日月曜日

羽海野チカ 3月のライオン 12巻

あかりさんに必要なのは そこに共に入って 彼女を支えてくれる 人生の伴侶だ!!!!
――見えた…… 僕が今やるべき事…!!
桐山零は解った、と身近なところから分析を始めます。


●chapter. 115 およばれ
あかりにふさわしい人物はいるのか。桐山は身近な男性を紙に書き出し分析を始めます。
あかりさんの意思を聞きてみない、というのが零らしいのかもしれません。
桐山は父親のことで解決に尽くしてくれた林田先生と野田先輩を川本家のご飯に招待したときのことを思い出します。
林田先生が思ってもみないところから矢が飛んできて評価を下げてしまった話を思い出し、林田先生があかりにふさわしいか考えてみます。桐山は少し不安が残るなと結論づけます。
しかし、ご飯に招待された帰り道、林田先生があまり空気を読める人ではなく、変な方向にポジティブな人物であることが分かり、少しの不安は大きくなって、桐山の評価は下がってしまいます。
頑張れ、林田先生。まずはあかりの視界に入ることが先決です。


●chapter. 116 忠実なる愛犬エリザベス物語
二階堂家の愛犬エリザベスは主人の春信に忠実な犬です。
エリザベスの頑張りは春信には伝わらなくても、巡り巡って心の安らぎを与えています。


●chapter. 117 薩摩編 1
鹿児島で棋竜戦第三局が行われます。
藤本雷堂棋竜対土橋九段の対局です。藤本棋竜は二敗していて、この対局に負けると、唯一のタイトル「棋竜」を失ってしまいます。
藤本棋竜は絶対に落とせない対局です。
藤本棋竜のタイトルを落とせない理由が笑ってしまいます。女と才能のある人間に弱いところが見た目から想像しにくいです。

指宿には藤本棋竜の招待で桐山、川本三姉妹が来ています。
スミス、松本一砂、横溝も来ています。彼らはあかりのおばさん美咲の銀座の店の常連です。あかりが指宿に来るのを桐山に聞いて来たのか、プールにあかりがいるのを見かけたからか、全員プールサイドであかりに話しかける機会を狙っています。
藤本棋竜はプールにやって来ると、さっそくあかりを見つけます。
あかりを女神だと形容し、誰の女神だと観察していると、桐山が親しそうに接しているのを見ます。藤本棋竜は桐山が言っていた婚約者はこの人なのか、と桐山に嫉妬を覚えます。
桐山が藤本棋竜に気づき、今回の招待に感謝し、あかり、ひなたとモモを紹介します。
あかりとモモが親子だと勘違いしていた藤本棋竜は、二人は姉妹であり、ひなたが桐山の脳内婚約者だと理解します。
理解すると藤本棋竜の動きは速いです。冷静さを取り戻し、あかりに紳士的に話しかけます。藤本棋竜の心の動きが面白いです。
あかりはどこへ出ても注目される女性です。最後のコマの土橋九段も部屋の窓からあかりを見つけ、すごい美しい女性がいる、TVか何かの撮影かな、思うくらいです。あかり自身はどう思っているんだろう。三日月堂の三姉妹のおじいちゃんも言っていたように、あかりの幸せを願います。


●chapter. 118 薩摩編 2
藤本棋竜はあかりとお近づきになりたいようです。話しかけ、会話が続くかに見えた時、左から新地のお姉ちゃん、右から妻と娘に挟まれるという危機に見舞われてしまいます。
藤本棋竜はあかりとの会話を切り上げ、絶体絶命の危機を回避するため、プールに飛び込み姿を消すことを選びます。水の中で、対局に勝たねば、今を維持できないことを確認します。
棋竜戦第三局対局開始です。


●chapter. 119 薩摩編 3
対局中、一体何を考えながら指しているのか。藤本棋竜と土橋九段双方の対局中の思考が描かれていて面白いです。
大盤解説で先輩が前日の酒で立ち上がれず、桐山が代わりに壇上に立ち解説を始めます。
あかり、ひなた、モモは零が棋士として仕事をしているところを初めて見てびっくりします。
一矢報いることができず、藤本棋竜は145手で投了します。
棋竜は土橋九段に渡ってしまいます。


●chapter. 120 薩摩編 4
あかり、ひなた、モモ、零で砂蒸し風呂に来ています。
モモは砂風呂に入る三人を写真に撮っています。砂風呂から出た姿にひなたが放つ悪意のない一言が零の体中の力を失わせます。
ドンマイ、桐山くん。まだまだ長い道のりになりそうです。
いろんな家族のかたちがあります。砂風呂から出て、ラムネを飲みながら、棋竜を失った藤本に家族が言った言葉を思い出して、川本三姉妹は、これでよかったと思えるエンディングを目指して、これからも過ごしていこう心に決めます。


●chapter. 121 ぼんぼりの灯る道 1
今年の夏まつりの三日月堂の売り物を何にするか、おじいちゃんとあかり、ひなたで話しています。
桐山は翌日対局なので家で勉強しています。
順位戦で対局相手は滑川七段です。


●chapter. 122 ぼんぼりの灯る道 2
7月下旬。B級2組順位戦第二局。
スミスは千駄ヶ谷にある将棋会館に着くまでに汗でびっしょりです。
スミスは横溝を見かけ、
「今日2人とも万が一近い時間に終わったら上野のビアホールとか行かね?」
とか、
「そして 桐山を誘って あかりさんの近況とか あかりさんのこの夏の予定とか聞きたいね」
とか、
「あっ そうだ 桐山 今ここにあかりさん誘わね?」
とか言って、まだ対局が始まってもいないのに、対局後の話ばかりして盛り上がります。
気分を上げようとしているのに、目の前に滑川が現れ、どんよりとした空気と雨雲を連れてきます。
汗びっしょりだったスミスは、雨にも降られてしまいます。
桐山零は滑川七段と対局です。先手は滑川です。
滑川は珍しい手を指してきます。桐山はずっと小さい頃にこの手をみたことがあります。研究してきた作戦は見事にハズレてしまい、さて、どうしたものかと席を立ちます。
桐山の隣で対局するスミスは、桐山がどうするのか、自分の対局より関心を持っています。

スミスは以前、横溝が言っていたことを思い出します。
横溝は滑川との対局に苦手意識が植えつけられています。
B級1組順位戦最終局、横溝は滑川と対局し、「勝てば残留」「負ければ降級」というがけっぷりで負けてしまいます。
スミスは横溝のこの負けはあとを引くぞ、来季ボロボロだろうなと思ったことを思い出します。
横溝はスミスの言う通り、滑川が立っている姿を見るだけで負けた最終局面を思い出すと言います。負けてからずっと調子悪いままだと言います。
スミスには横溝の気持ちがわかります。
スミス自身4年前、B1に手が届きそうになった最終局で滑川と対局しています。滑川にとっては消化試合なのに、ものすごい粘着力で巻きつかれて阻止されてしまいます。
スミスはそこから4年、停滞しています。

そんなことを思いながらスミスは桐山を見ています。スミスは桐山がもし忘れられない負け方をしたら、自分や横溝のように、桐山の記憶にも傷がつくのか? と桐山がどうするのか見つめています。

桐山は間を置いて席に戻ります。
隣で対局しているスミスも田中も、桐山が次の一手をどう指すのか、手を止めて見ています。
桐山は滑川と同じ手を指します。まったく研究していないところへ進む気です。
桐山は慌てず、動揺も見せず、そういう手で来るならこうしてみる、と当然のように恐さを感じることなく飛び込んでいきます。
平然と指している桐山を見て、スミスは心の強さに感心します。
(桐山なんか負けちゃえ 負けて苦手意識とか植えつけられちゃえ!!
で そこから激しく試行錯誤して 見事立ち上がった暁には そのノウハウを 俺と横溝に懇切丁寧に伝授してよ)
と心の中で叫びます。
桐山には将棋に対して恐さがないようです。


●chapter. 123 ぼんぼりの灯る道 3
桐山と滑川が対局している時の川本家の様子が描かれています。
モモが熱を出して寝ています。
あかりとひなたは夏まつりの準備で話をしています。
ひなたは、忙しくなることは予想できるので、去年のように零に手伝って欲しいけど言うか迷っています。指宿で仕事をしている零を初めて見て、簡単に呼んで手伝ってもらってはいけないのではないかと思いが生まれます。でも、あかりやひなたが零に遠慮して、言いたいことを言わずにいることを零が気づいたとき、何よりも零が淋しい思いをすることもわかっていて、やっぱり今度の夏まつりも零に手伝ってくれるか聞いてみようということに決めます。

桐山は研究していない戦法で始まった対局について考えています。どうして滑川はこの戦法で挑んできたのか。実践で指されていない手をあえて引っぱり出して来たのは、活路を見出したのか、研究されていない場所で戦うと経験値で勝る滑川に分があると踏んだのか、どちらなのか考えています。
将棋に対してはムキになる傾向になりがちな零は、滑川の戦法に挑みます。しかし、ちょっと冷静になり盤面を見つめると、なんだか奇妙なかたちになっていることに気がつきます。


●chapter. 124 ぼんぼりの灯る道 4
川本家のお昼はそうめんです。モモは熱が出ているのに、三人で一袋茹でます。川本家はいつも食べ過ぎです。

桐山は滑川の指す手の意図がわからず苦戦中です。
滑川は桐山が迷っているのに、最善手を指すことに、この対局を心から楽しんでいます。
未踏の地を歩く桐山と滑川の対局の隣で、スミスと田中の将棋は定跡で進みます。

●chapter. 125 ぼんぼりの灯る道 5
桐山は滑川の意図が見えて来ます。振り回された挙句、千日手に持ち込もうとしているのを制するように勝負に出る1手を指します。
桐山は滑川の仕掛けるトラップにも気づき、丁寧に落ち着いて指し171手で勝利します。
スミス、田中、横溝はビアホールに向かおうと将棋会館を出ると、朝のスミスと横溝の会話を聞いていた滑川がタクシーを呼んで待っています。滑川は恐ろしい雰囲気を演出するのがとても上手いです。


●chapter. 126 夏まつりの夜
夏まつりです。
桐山は去年同様の役割を果たします。
ひなたの友達つぐみちゃん、林田先生、野口先輩も手伝いに来ています。
モモは元気がありません。盆踊りにいきたいのに、忙しくて誰も連れて行ってくれる人がいないので、ひとりでしょんぼりしています。
理由がわかった零は、二階堂に連絡します。二階堂が来てモモは大喜びです。
二階堂は夏まつりに、島田をメールで誘っています。
島田はお祭りに来てみたものの、二階堂がつかまらず、探して三日月堂までやって来ます。
あかりが店先に売り子で立ち、島田に、
「おひとついかがですか?」
とすすめます。島田はレモンゼリーを注文し、食べていると、桐山に声をかけられます。
林田先生は島田の大ファンで、目の前に島田がいることに驚いています。
島田はレモンゼリーを食べて久しぶりに胃痛が消えます。ゼリーなのか、あかりの笑顔なのか、島田が緊張をゆるめることができます。
急に雷が鳴り、強い雨が降ってきます。
雨を避けようと急いで走る人が三日月堂の店先に並べたテーブルに体をぶつけ、脚が折れてテーブルが傾き、のせていた白玉の鍋がこぼれそうになります。
あかりは白玉の鍋を守ろうとします。守ろうとして鍋を必死に持とうとして自分の体勢が崩れてしまいます。
鍋を抱えたあかりが倒れそうになるのを、右から林田先生があかりの体に手を回し、左から島田さんがあかりの二の腕をぐっと握り、支えます。
あかりはなんとか倒れずにすみ、白玉の入った鍋もこぼさずにすみます。
みんなであかりが作ったカレーを食べ、夏まつりがそれぞれの記憶の中に素晴らしい一日として残ります。


続きます。


羽海野チカ 3月のライオン 12巻
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2017年11月16日木曜日

あきづき空太 赤髪の白雪姫 6巻

●第22話
巳早はゼンに捕まり、美少年との会話の一部始終を説明します。
ゼンは白雪が危ないと至急手紙を送ります。
そして、ゼンはタンバルン王国に向かいます。

タンバルンではラジ王子が国政の勉強すると言い、城中の者たちがとにかく驚いています。
白雪に会って、ラジ王子は何かが変わってきているようです。
白雪とラジ王子は書庫で過ごしています。
ラジ王子は、
「私はこのタンバルンの王子は私で良かったときみに言わせてやりたいのだ」
と白雪に言います。ラジ王子は生まれて今日まで誰かにこんなふうに思われてみたいと考えてことなどなかったはずです。
ラジ王子はクラリネスの王城で白雪と会い、言われた言葉をどう受け取ったのか、どうして白雪に、「ラジ王子でよかった」と思いつめるほどに言ってもらいたいのか、ラジ王子の心の中はわかりません。
ただ、ラジ王子にそう思わせたのは白雪ただ一人です。
ラジ王子はまだ足りないものがあることは知っていて、どうにかして手に入れようとしています。
白雪は、
「ではこの次―― この次この国に来た時に城下の人達がラジ王子のことを誇らしそうに話しているのを楽しみにしています」
とイザナが言う喝を入れてほしいという言葉を白雪なりのやり方で、本当にそれを楽しみにいているとごく自然な微笑みでラジ王子に言います。

ラジ王子にとって、白雪の笑顔は質の違う笑顔なのかもしれません。王族に対して向けられる笑顔、これまで見てきたどの笑顔とも違う心の底から親しみを感じさせる表情にラジ王子は応えたくて仕方がないように見えます。

夜会当日。
白雪は緊張しつつも何かをものにするため気合をいれて夜会に向かおうとしています。
そこに、クラリネス王国ゼン王子の書状が届きます。
オビが白雪に巳早と美少年の会話を伝えます。
オビは白雪に夜会に出るのはやめたほうがいいと言っているところに美少年が現れます。


●第23話
白雪が美少年にさらわれてしまいます。
オビは美少年の仲間に気絶させられ、意識が戻ると白雪がいなくなったと城中大騒ぎです。ラジ王子は懸命に白雪を探しています。
オビはゼンに自ら
「タンバルンへのお嬢さんの付き人 俺にしてください」
といい、
「あんたが守れない時は俺があんたの代わりに守る」
といったのに、白雪をさらわれてしまったことへの責任を感じています。

ゼンたちがタンバルンに到着します。
ゼンがオビの部屋に行くと誰もいません。オビは白雪を追跡しています。

白雪は睡眠薬で眠らされています。
美少年はあと少しで仲間たちと合流できると喜んでいます。

ゼンはラジ王子と会い、側近のサカキから白雪をさらった者が海の鉤爪という海賊ではないかと当たりをつけ、動く準備に入ります。ゼンはラジ王子と協力し白雪を救い出そうとします。

オビが蹄の跡を追い、美少年と行動していた気絶させられた仲間を見つけ、白雪の居場所を問いつめます。白雪と美少年の姿はありません。美少年の仲間は別の誰かにさらわれてしまったかもしれないから、大将に合流し知らせないといけないと言います。
オビは自分も大将のところへ連れて行くよう迫ります。

白雪が目を覚ました場所は見知らぬ部屋です。ベッドで寝かされていました。背後に人の気配を感じ、勇気を出して振り向くと、美少年が顔を腫らして眠っています。気を失っているのかもしれません。
美少年は気が付くと、
「嘘だろ… なんで…」
と覚束ない様子です。
そこに一人の女が現れます。
白雪は美少年と女の会話を聞いています。しかし、状況が飲み込めません。

白雪は美少年にどういうことなのか説明を求めます。
美少年は白雪をさらい大将に合流するはずが、女とその仲間に襲われ、ここに連れてきたと言います。
白雪はようやく状況が飲み込めました。二重にさらわれてしまったのです。
美少年の名は鹿月。鹿月は白雪に早く逃げないと大変なことになると言います。


●第24話
白雪は鹿月とともに脱出しようとします。閉じ込めらた部屋は船の中の一室で、揺れている様子もなくどこかの船着き場に停泊中だと知ると、船を出ようとします。
船から飛び降りると、鹿月は、
「…だめだ…… 白雪 ここは…」
逃げられないと観念してしまいます。

タンバルンの王城では木々がゼンにオビからの伝言を手渡します。
ゼンはミツヒデと木々と巳早、それに二人タンバルンに連れて来ています。

オビは鹿月と一緒だった仲間イトヤと行動し、大将に合流します。大将は鹿月を救うため人を集め動く準備をします。
ゼンがオビと合流します。
ゼンは白雪に、危険が迫っているので警戒せよと書いた手紙を送った時、キハル・トグリルからの贈り物で胡桃石で作ったアクセサリーを同封していました。
オビは白雪がさらわれた後、白雪宛の小包を開封し、胡桃石のアクセサリーをゼンが送った理由を知り、持って行動していました。
鳥使いが操る鳥は胡桃石で作った笛や鈴の音を聞き分け、音のする方に飛んで行くことができます。
オビが持っていた胡桃石のアクセサリが発する音に向かって、キハル・トグリルの鳥ポポが飛んで行き、オビの居場所が分かりました。
キハルとポポは早速大活躍です。

ゼンはオビに現状の報告を受け、大将と話をし、白雪と鹿月を救出する目的で協力します。
ゼンがしびれるほどかっこいいです。

山の獅子の大将はまず酒場町に行き情報を集めようとします。
どうやら大将の見立ては当たり、海の鉤爪が白雪と鹿月をさらった犯人だと確信します。
ゼンと大将が今後の作戦を練ります。

海の鉤爪に捕まった白雪と鹿月。不安でいっぱいの様子です。
閉じ込められた部屋に新たに捕らえられた人が入ってきます。
白雪は声をかけ、顔をのぞくと木々だったのです。


●第25話
ゼンは、巳早、ラジ王子、山の獅子と連携して、白雪と鹿月を救出する作戦を練ります。
木々が海の鉤爪に潜入し、白雪たちと会うことができます。
白雪は木々の顔を見たとたん涙がこぼれます。
ラジは港で船に協力を求めます。船団を組織し、海の鉤爪を追い込もうとします。
ラジの心に変化があらわれます。
ラジは今回のことでゼンのように機敏に判断や決断ができず、情けないという感情が生まれ、海の鉤爪に対して腹が立ってきたと、側近のサカキに言います。
サカキはラジの意外な変化に好ましいよい兆候だと感じています。

船団の先頭に立つラジは海の鉤爪に警告します。
海の鉤爪たちは動揺します。鹿月が探している赤髪の娘が王族と関係のある人物で国が全力で行方を追っていることを知り、白雪に手を出したことを悔やみます。
海の鉤爪は姿をくらますため、秘密のアジトに逃げます。

今度は、洞窟に連れてこられた白雪、木々、鹿月。
木々が何かを察知し、白雪に奥に走るよう指示します。
白雪は鹿月とともに木々の合図で奥に走ります。
二人を追いかけようとする海賊の前にマントがたちはだかります。
白雪の目の前にゼンが立っています。
ゼンに向かってくる海賊をオビが仕留めます。
海の鉤爪のアジトに山の獅子とゼンたちが先回りしていたのです。

巳早の持っていた情報が白雪の救出に大いに役に立ちます。

山の獅子もゼンたちと海の鉤爪の隠れ家に来ていて、ようやく追い詰めることができやる気満々です。

白雪はゼンの姿を見て、張り詰めていた緊張がほぐれます。声を聞かせてほしいというゼンに白雪は震える声で名前を呼びます。

ゼンの表情に怒りがにじんでいます。
海の鉤爪の終わりが始まります。
続きます。


あきづき空太 赤髪の白雪姫 6巻
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2017年11月14日火曜日

ななじ眺 ふつうの恋子ちゃん 3巻

相手は自分のことをどう思っているんだろう? という手探りの状態がともて面白いです。




夏目恋子と二宮剣はコタツでうたた寝しています。

恋子の母親はそんな二人を微笑ましく見ています。姉の愛子が帰宅し、うたた寝している恋子と剣を見て、「不愉快な光景」と表現します。

母と姉の両極端の性格では同じものを見ても、こうも感じかたが違ってしまいます。

剣が動いて手を動かすと、恋の膝辺りに、とんっ、と触れてしまいます。一瞬で剣は何に触れたのか察知し、恋子は誰に触れられたのかわかります。

剣はすぐにあやまり、恋子は動揺なんてしていない反応をします。

恋子は本当に寝ていたのかな?嘘寝じゃないのかな、なんて思います。



恋子は剣から贈られた髪留めのゴムを見せたかったみたいです。剣が気づいてくれるって分かっているのに、髪留めを見つけてくれると、素直じゃない可愛げのない態度をとります。

恋子は自分らしさはこれだと思っているみたいです。



恋子に何度も剣と自分は両想いなのではと思う出来事が起こります。でも、確信には至りません。両想いだったらいいのにという気持ちが強くなるにつれ、剣への想いがより大きくなっていきます。

剣のほうはどうなんだろう。おかみさんから恋子の気持ちは聞いて知っているのに、なぜか気持ちを伝えようとしません。どうしてだろう?



恋子はバレンタインデー、ホワイトデーと気持ちを伝えるイベントはあったのに、他の子より特別感を感じられるというところまでしか進展していなくて、ついに、恋の達人の母親に、

「どうしたらいいっすかね」

とアドバイスを求めてしまいます。

母親は、

「男に言わせるように持っていく」

と恋子にはとてもできそうにないことを言います。

恋子は告白なんてしたことがありません。したがって、告白は無理です。剣に告白してもらうしかありません。なのに、バイトに来た剣がお客さんとの会話の中で、

「…オレ 言えないかも」

と言うのを、恋子は聞いてしまいます。



勇気を出して、自分から告白する。

恋子も剣もそう思っています。

互いが頑張って伝えようとしている様子がとてもいいです。



新年度に入ります。

恋子と剣は2年になり、同じクラスになります。

始業式が体育館で行われ、新任の教員の紹介が行われます。

姉の愛子が赴任し、恋子と剣は驚きます。

二人だけの会話が、メッセージのやりとりだけだけど、増えてきてる気がします。

恋子と剣は友達としゃべっていても、スマホをずっと手にしていそうです。

続きます。



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2017年11月12日日曜日

あきづき空太 赤髪の白雪姫 5巻

白雪の赤い髪が再び狙われてしまいます。
話の展開が思わぬ方向に向かい、規模が大きくなっていくところや、登場する人物の感情や思惑が交錯して面白いです。



●第18話
クラリネスの近海、船の上で交わされている会話から始まります。
第2話で白雪をさらった男巳早(みはや)は赤い髪の娘を探している美少年がいると、ゼンの元にやって来ます。

巳早は白雪も交えて、赤い髪の娘を探しているという美少年の話をし、少年が白雪を探している理由は、
「その赤髪のお姫様には城なんかよりふさわしい場所があるんだよね」
と言ったというのです。
白雪は自分が誰かに狙われる理由が見つかりません。
オビは巳早を警戒しつつ、冷静に聞いています。
ミツヒデはゼンの様子を気にかけています。
木々は今後備えておくべきことの優先順位を整理しているようです。
ゼンは動揺しています。

問題の起こっている一方で、イザナ殿下の元にタンバルンから書状が届きます。白雪への招待状です。


●第19話
ゼンと白雪は、
「今晩イザナ様の所へ行くようにと伝令があった」
ミツヒデから言われます。
ゼンと白雪はイザナの元に行くと、イザナにタンバルン王国から白雪に招待状が送られてきたと聞かされます。
白雪をタンバルンで行われる夜会に招待したいというのです。
ゼンと白雪は驚きます。
出発は14日後、タンバルン王国での滞在は7日間。イザナは白雪にそれまでに踊れるよう稽古するよう命令します。

白雪を狙う何者かがいて、白雪はイザナの命令でタンバルンへ行く。
なんともやっかいな問題が山積です。

オビは白雪がタンバルンに出発するまでに、白雪を狙う美少年を捕まえようとします。
しかし、何の手掛かりもありません。
白雪がタンバルンへ出発する前日、オビはゼンに白雪の護衛役を任せて欲しいと申し出ます。
ここでのゼンとオビのやりとり、ゼンと白雪の会話はうまく掴みきれませんでした。


●第20話
白雪とオビはタンバルン王国の王城シェナザードに到着し、ラジ王子の側近サカキに出迎えられ、ラジ王子と再会します。
ラジ王子と白雪は滞在中、一緒に過ごしてみようということになります。

美少年はクラリネスの王城の警備が厳重で進入することができず、あきらめてタンバルンに戻ることにします。
白雪と美少年との距離がかなり縮まります。


●第21話
白雪はラジに、一緒にいてみましょう、と言ったものの、いざ一緒にいてみると、会話はぎこちないし、空気はピリピリしているし、緊張感から言葉が自然と出てこなくて、だいぶ苦戦しています。
おまけにいつもどこかから城中の人たちが白雪に興味があって監視? 盗み見しています。
ラジ王子は白雪を気づかい、人の目の届かないところがあると地下通路に連れて行きます。
地下通路があることは知っていても、熟知していないので迷ってしまいます。

ラジ王子は白雪と同様に、二人でいることでなにかを得られるかもしれないと思っています。
あまりに手応えを得ることができなくて、二人でいることで何も得られることなどないかもしれないと思い始めているところで、白雪と話をします。
白雪はラジ王子との関係を変えたいと思うから一緒にいようと言ったといいます。
ラジ王子はどうすべき考え始めます。

巳早は城から抜け出し、美少年と接触します。巳早は美少年に白雪を狙う理由を聞きます。美少年は巳早のように白雪を利用するためにさらおうとしているようではないようです。

美少年が白雪にこだわる理由はなんだろう?
続きます。


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2017年11月10日金曜日

森本梢子 アシガール 9巻

阿湖姫が明日松丸の城に帰ると唯に挨拶に来ます。

阿湖姫は唯のために帰ることになるのに、恨み言ひとつ言わず、危ないところを助けてくれたこと、共に過ごしたことは楽しい思い出だと言い、唯に若君様とのご婚儀まことにお目出度うござりますると言います。

唯はつらそうです。




阿湖姫は屋敷戻る途中、成之と会います。

成之は阿湖姫が明日黒羽城を発つと聞いて、思うところがあって言葉をかけます。

阿湖姫は成之にそんなわかりきったことを言うために参られたかと泣きながら訴えます。

成之は悪気があったわけでなく、言葉が足りなかったと阿湖姫が去ってから悔やみます。



夜、唯は阿湖姫にとって黒羽城での最後の夜になるから、何か楽しいことができればと、阿湖姫の屋敷を訪れます。

唯は阿湖姫を見つけます。阿湖姫は泣いています。阿湖姫が悲しんでいるのは自分に原因があると思い、とにかく謝ります。

阿湖姫は唯が原因で泣いているのではなく、成之様がと言います。

唯は阿湖姫に成之に何か言われたの? と聞きます。

阿湖姫は何でもないと言います。

何かあったのは確かで、唯は、私が仕返ししてやる、と阿湖姫の代わりに成之をこらしめてやろうとします。

阿湖姫は、もうよい、仕返しなどやめてくれと言います。

阿湖姫にそう言われると唯はどうすることもできないと、阿湖姫を見つめています。

外から、

「…阿湖殿 そこにおられますか」

と、声がします。成之です。

いいところに来たと、唯は外に出ていこうとします。阿湖姫が袖をおさえて止めます。

成之は阿湖姫から返事がないので、

「口をきいてはくださらぬか よい このままわしの話をお聞きくだされ」

と、部屋の人の気配を阿湖姫だと思い話します。

言葉の足りなかった部分を補って、阿湖姫に先程どうしてあんなことを言ったのかと説明し、そして、妻として成之のもとへ来てほしいと言います。

阿湖姫と一緒に聞いていた唯は考えもしなかった成之の言葉に阿湖姫のまっ赤になった顔を見てびっくりしています。

阿湖姫は突然の求婚に、

「…………成之様 そ…それは 阿湖を憐れんでのお申し出にござりましょう?」

と尋ねます。

成之は、

「まさか 己を憐れんで生きて参ったわしじゃ 姫を憐れむなど思いもよらぬことじゃ では」

と言い、去ります。

足音が消えると、唯は止めていた息を吐き、阿湖姫に、

「どーするの?」

聞きます。



翌日、阿湖姫は黒羽城を出て松丸家に戻りませんでした。



成之は誰も信じられぬと唯に言っていたくらいだから、今まで他人に本音を語ったことなどなかったんだと思います。

なぜ羽木家に生まれたのか、疎んじられるくらいならこの世に生まれる必要などなかった、と自分の出生を僻んだこともあったと思います。生まれてきた理由を何度も何度も繰り返し自問自答したんだと思います。

若君と唯の無事を祈る阿湖姫を見て、唯を救うため単身で高山家に乗り込むのを見て、若君が高山に降るのを何としても止めようと、命がけで大手山から走ってきた唯を見て、自分も誰かに思われたいという気持ちが芽生えたのではないでしょうか。

成之を変えたのは誰だろう?

阿湖姫なのかな。唯を好む若君かな。大きな影響を与えたのは唯です。唯に影響を受けた人たちを通じて成之は変わったのだと思います。

この三人を見て、自分以外の誰かのために何か力添えをしたい、支えたい、支えられたいと思う気持ちになったのかもしれません。

そして、その人はできることなら、阿湖姫であればいいなと思うようになったのではないでしょうか。

唯が戦国時代にきて、一番変化があったのは成之だと思います。

成之にとって一番悔やまれることは、自分の本心を阿湖姫だけでなく唯に聞かれてしまったことです。この夜唯が一緒にいたことを知ったら、成之はどんな顔をするんだろう? 意外に恥ずかしそうに身を小さくしたら面白いです。



翌日、唯は若君に昨晩の出来事を報告に行きます。

唯は移動する時、ほっかむりをするようになったのは何故だろう?

歴史が変わっていることに、唯は大丈夫ですと言い、若君はすこし間を置いて、そうじゃの、と返します。



婚儀まであと五日です。

唯が気合を入れていると、天野のじいが通りかかります。

天野のじいは唯を見るなり、深く長いため息をつきます。若君の奥方として唯は想像していた女性とかけ離れているからです。

じいはおふくろ様に耳打ちします。

おふくろ様は唯を別室に連れていき、大事な話があると言います。

おふくろ様は唯に実の母御より閨房の心得について聞かされたことはあるかと聞きます。

唯は聞いたことはありませんと答えます。

ないのであれば、唯に心得を教えるのは自分の役目だと、おふくろ様は話をしようとします。

話をしようとするところに若君がやって来ます。

若君がおふくろ様と唯二人きりだったので、取り込み中であったかと聞くと、

「今から おふくろ様から ケイボーのこころえを聞くところなんです」

と唯は若君に元気よくこたえます。

若君は、うっ、間の悪いときにやって来てしまったという顔をします。

おふくろ様はうつむき、目を伏せ、

「どうしてこの子は…」

という表情をしています。

若君は唯に用があり外出することを言いに来たといいます。

どこへ? 何かあったんですか、と聞く唯に、若君は内容ははぐらかし、日暮れまでに戻ると言います。

「それより 唯はおふくろ殿の申されることをしかと聞いておけよ」

と言い、出かけます。


半日くらいすぎます。

おふくろ様の話に唯は赤面するばかりです。

話が終わり、フラフラ歩きながら、若君の屋敷に着きます。

門番に、毎日ご苦労じゃな、と言われ、唯は、若君の屋敷に来るのが日課になっていることに気がつきます。別れたとたんに会いたくなるととても幸せそうです。

バッタリと成之に会います。成之も若君に会いに来ていたようで不在らしく出てきたところを唯に会ったみたいです。

唯は成之から若君が出かけた理由を知ります。

若君は北山にいる野上衆と和平の盟約を結ぼうとしています。

唯は野上衆は危険な相手ではないのか? と成之に聞きます。

そうこうしている内に若君が戻ってきます。

若君はフラフラです。部屋に着くなりバタリと倒れます。

唯が心配して声をかけると、若君は酒を飲んで酔うたと言います。野上衆は酒好きで注がれた酒を飲み干さねば話が進まないのじゃと

言います。どうでしたか? と尋ねる成之に、

「首尾は上々」

とこたえ、野上衆との和睦も相成った、めでたいといいます。

若君は打てる手はすべて打ったはずじゃ、と満足した表情です。



先日、唯が歴史が変わっている、大丈夫と言ったことに、若君はすこし間を置いて、そうじゃの、と返したのは、もうひとつ成し遂げておかなくてはならない問題があるからなんだとここで分かりました。すこし間を置いたことが気になっていたからそういうことなんだと安心しました。



若君が唯によって現代にタイムスリップしたときに、現代の歴史書で知った戦国時代でこれから起こる出来事は羽木家が滅亡するという歴史だけです。このままだと羽木家は滅亡してしまう。そのことが若君の頭にはあったんだと思います。

歴史では羽木家は高山家とは対立したままでした。松丸家との縁組は叶いませんでした。野上衆とも対立したままでした。

羽木家がしなかったことを次々と実現させ、滅亡の歴史とは違う歩みをして、異なる勢力図、ことなる構図を作れば、滅亡を回避できるかもしれないと若君は考えたのだと思います。

「打つ手はずべて打ったはずじゃ」

若君の言葉には明るい未来への思いが込められています。



夜中、若君の元に火急の用にてお目通りを願いたいと、高山宗熊より使者がやって来ます。

使者は若君に宗熊の書状を読んで下さいといいます。

若君は書状に目を通します。

内容は、清洲より相賀一成という織田の武将が宗熊の父宗鶴の元にやってきて、高山家が羽木家を攻めるなら、織田の兵三万、鉄砲三千丁をもって加勢すると申し出てきて、宗鶴は申し出を受け入れ、高山家と羽木家との約定を破ることになります、というものです。

若君は成之を呼び、宗熊からの書状を読ませます。そして、自分はこれから小垣へ行く、成之にはお願いしたいことがあるとこれからのことを話し合います。



唯は何かの前触れを感じてなのか目を覚まします。

部屋を出ると、おふくろ様が唯の元にやって来ます。

おふくろ様は若君が急に来て、これから小垣へ行くことを伝えに来たと言います。

唯は異変を感じとり、寝間着のままで若君を追いかけます。

唯はサンダルでも草履でも足が速いです。吹雪に乗った若君に追いつきます。

唯は若君にどうして急に小垣に行くのかとたずねます。

若君は普段と変わらない表情で、たいしたことではないと言います。

唯は若君の表情が分かるようになってきたらしく、

「ごまかせると思ったら大間違いですから!」

「まーた 自分ひとりで何とかしようと思ってるんでしょ!」

と何か大変なことが起こっていることを察知しています。

若君はすべてを話します。自分の考えを唯に伝えます。そして、唯に黒羽城に残り、手助けをしてほしいと言います。

ぎゅっと唯を抱きしめた若君の表情は最後の別れのようにも見えます。

唯は若君の言う通り、黒羽城に戻ります。



唯はおふくろ様に事情を話します。朝食をとっていると、小平太がやって来ます。

小平太は若君の不在を知り、唯にどこに行ったのかを聞きます。

唯は知らないといいます。

小平太は若君が小垣に向かったことは知っていて、すぐ追いかけると言います。

おふくろ様が機転を利かせます。すると、小平太はしょっぱい顔で唯を見ます。

唯は小平太を簡単にごまかせたと思っています。

おふくろ様は唯が後で気がついたらどうなるやらと思っているようです。



唯は庭を歩いていると頭に枯れ葉が落ちてきて、見上げると、孫四郎が木に登って降りられなくなってベソをかいているの見つけます。すぐに降ろしてあげようと、自ら木に登ろうとすると、

「姉上 やめぬか!!」

と止められます。見てみると三之助です。立派な姿になっています。

唯はおふくろ様から、小平太の口利きで、手習いや剣術のためご城内に通うておると教えてもらいます。

「いつまでも 男子のように木登りなどする故 若君様に疎まれるのじゃ!!」

と三之助は唯に言います。

お城で、若君の不在の原因は、婚礼が嫌で逃げ出されたと人が話していると三之助は言います。

唯は小平太のしょっぱい顔を思い出し、あれは自分を憐れんでいたのかと、誤解されていることに気がつきます。

おふくろ様は唯に高山のことが伏せられているので、今は噂を否定しないほうがいいと助言します。

おふくろ様の言う通り、放っておいたら、あらゆるところからの噂が唯の耳に届いてきます。

唯はちょっと憂鬱になっていると、視線を感じます。見てみると、天野のおやじ様です。小平太以上に憐れみのまなざしで唯を見ています。



若君は小垣に向かっていると、小垣城から黒羽城に向かって走っている味方に出くわします。

小垣の使者は若君に、高山寝返り、川の浅瀬に土俵を敷き詰めて一気に攻め入ろうとしていると伝えます。

兵の数二、三万と聞き、若君は、高山が準備しているという川の浅瀬が見渡せる場所に移動します。

若君が見たのは絶望的な光景です。



唯は庭でじっと黙ってたき火をしています。

阿湖姫がやって来ます。

唯は阿湖姫の表情から噂を聞いて慰めに来たんでしょ、と言います。

阿湖姫はそんな話は聞いていない、疎まれているのは自分のほうだと、すこし前に起こったことを唯に話します。

成之が阿湖姫の元を訪れて、

「まことに勝手ながら 先夜わしが申したことは全てお忘れくだされ」

と、明日にでも松丸家のお父上の元に戻るよう言い、去っていったと言います。

阿湖姫は唯に成之が妻になってほしいといった夜からの心の変化を唯に話します。

阿湖姫の胸の内を聞いた唯は、そうではない、と阿湖姫のために一働きします。

唯は成之をつかまえ、本心を聞き出します。

阿湖姫は隠れて聞いています。

唯の言う通りだったと阿湖姫が嬉しそうにするかと思っていたのに、唯が阿湖姫の隠れている部屋に入ったら、阿湖姫は驚きと恥ずかしさで気絶しそうになっています。

唯は時代に合わないやり方で失敗してしまったと反省しています。

阿湖姫は成之の気持ちが分かり、どうするのでしょう。



夜、唯はおふくろ様に新しい情報が入ったと起こされます。

「旦那様と小平太殿がご登城された」

「高山軍が領内に攻め入った」

「敵はすでに小垣を抜けてここへ向かっておる」

ということを唯に知らせます。

唯は小垣城はどうなったの? とおふくろ様に聞きます。

おふくろ様はわかりませぬと言います。

唯は小垣に行こうとします。

天野のおやじ様が城から戻ります。おふくろ様に出陣となり、戦の準備を頼むと言います。

天野のおやじ様の話を聞いて唯は、小垣に行くに行けなくなります。

唯は若君が心配したとおりになってきたと思い、小垣城に向かうのをあきらめ、黒羽城に急ぎます。



城では成之が殿を必死にとめようとしています。

殿は成之の進言を聞き入れようとしません。敵を蹴散らし、小垣を取り戻すと譲りません。

殿は成之に城の留守居をまかせます。

唯が入ってやって来ます。殿の前に立ち、

「出陣はなりません!!」

と体を張ってとめようとします。

殿の後ろに控えている家臣に、唯は簡単に投げ飛ばされてしまいます。



黒羽城では出陣の準備が整います。

「殿!! しばらく!! なにとぞしばらくお待ち下さい!!」

若君と共に小垣に向かった久六が戻ってきて殿に若君の言葉をそのまま伝えます。最後に、

「若君は『自分の存念は許嫁の唯に申し置いてござれば 唯が申すことお聞き下され』と父上に申し上げよ」

と申されたと言います。

殿は唯を呼べと言います。

唯はすぐ近くに控えています。非常に怒っています。

殿の横に座り、殿と家臣に若君の言葉を伝えます。

殿はいくらか冷静さを取り戻し、出陣は取りやめ、まず敵の情勢を探らせ、城の守りを固め、城下に触れを出し、民、百姓に難を逃れるよう申しわせ、次々に命令を下します。

唯はなんとか出陣をやめることができた、最悪の事態は避けられたと安堵します。



唯は久六から声をかけられます。若君からもう一つ大事な命令を受けてきたと言います。届けてほしいものがあって、何があっても必ず命がけで渡すのじゃとことづかって来たと言います。

久六が懐から取り出したのは懐剣です。唯が池に投げたタイムスリップの起動スイッチの懐剣です。

若君はずっと懐剣を持っていたのです。

「許せ 頼む」

そう申せば唯には伝わろうと若君が言ったと久六は言います。

唯は久六に次の満月はいつかと聞きます。

久六はあと七日か八日で満月だと思うと言います。



唯は満月までの七日間に、戦を止めて、みんなの命を守って、若君に会う、これだけはやりぬかなくてはならないと決意します。

高山の使者が書状を持って来ます。

内容は、城を開け、領内より退却、あるいは、高山の軍門に降る、嫡子忠清を高山家に預け入れるというものです。

若君を人質として高山家に差し出せという文言は唯を戦うしかないと怒らせます。

しかし、その夜、城から見えるのは、四日前若君が見たものと同じ絶望的な光景です。

戦意が喪失していきます。

唯は尊が作ってくれた、まぼ兵くん、金のけむり玉、でんでん丸、起動スイッチ、この四つの道具でなんとかならないかと考えます。

唯は何かいいことを思いついたようです。羽木家の窮地を救えるのでしょうか?

続きます。



森本梢子 アシガール 9巻
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2017年11月8日水曜日

森本梢子 アシガール 8巻

唯が戦国時代に来ていなければ、阿湖姫は刺客に暗殺されたか、捕えられて高山宗熊と縁組が成立して、高山家松丸家連合軍対羽木家で戦になり、羽木家は滅亡していたかもしれません。

唯が阿湖姫の代わりに捕えられて、羽木家と高山家で小競り合いは起こらなかった事実となります。



唯が来たことによって起こる事実は、唯が危険を冒して動いていなければ、若君は高山に降り首を取られていたかもしれないし、この小競り合いの末羽木家は滅亡していたかもしれません。



それ以前に、羽木家は永禄二年を越すことはできなかったので、いずれにしても唯が来たことによって羽木家は滅亡を回避していることになります。



いるはずのない人間がいることによって起こる出来事は歴史にどう影響するのか、歴史の大きな流れには些細な出来事として変わることはないのか、これからどのように描いていくのか楽しみです。




若君たちは麓までおりてきています。川に架かる万代橋を渡ると羽木領に入ることができます。

若君の場所からは、万代橋の橋の上を狙う高山勢の伏兵が見えます。

若君たちは橋を渡ることができずに困っていて、強引にでも渡るべきかどうか決断を迫られています。

奇念が羽木方に動きがあり、万代橋を渡ろうとしていると言います。

若君は万代橋に目を向けると、橋を渡ろうとしている一隊の先頭を進むのは兄の成之だと分かります。

成之の部隊が橋の上を狙う高山勢の伏兵に気づいていないと考える若君は、吹雪に乗り、高山勢の伏兵に向かって駆けていきます。万代橋を渡る味方が気づくよう大声で叫び、派手に駆け降りてきます。

万代橋の上の味方は若君を発見し、高山勢の伏兵を蹴散らします。



若君は成之の無事を確認します。

成之は若君を救出するための作戦であったと言います。

若君は成之の言葉に唯が無事に川を渡ったのだと知ります。

成之は若君をからかいます。唯はあっぱれでございましたと、口にします。

若君の顔色が変わります。

若君の顔色を確認してから、成之は唯が小垣で手当てを受けていると言います。若君で遊んでいます。



若君が本陣に入り指揮をとります。万が一を考え指図すると、その命令はすでに成之から申しつけられてすでに動いていますと言われます。成之が少し変わったと実感します。



木村政秀の妻女は唯が何者かと訝しがっている女官に若君の格別にご寵愛の姫だと言います。

女官は唯を見て、これが? と驚く者、悲しみに沈んでいる者がいます。




唯は黒羽城の奥御殿で目を覚まします。

おふくろ様が唯についていて、眠っている間に起こったことを説明します。

唯はおふくろ様の説明を現代語に翻訳して有頂天になります。

浮かれている唯のところにお殿様のご正室、若君のお母上がやって来ます。

唯は姑との初対面は好印象の手応えを感じます。若君も一緒に黒羽城に戻っていると思っていたのに、まだ小垣で高山勢と戦っていると知ります。急いで小垣の若君のもとに駆けつけなければと立ち上がります。

お方様は唯に行ってはならぬと止めます。



藤尾という奥御殿を取り仕切る者が、唯の身の回りの世話をすることになります。

藤尾は唯が若君の寵愛の姫だと信じたくないようです。もし本当だとしても認めたくないようです。

奥御殿の女中たちも唯を認めたくない者が多くいます。唯に地味な嫌がらせが始まります。唯を見て品定めして、聞こえるように嫌味を言う者、水に塩を混ぜる者、様々です。

唯は居心地の悪い奥御殿を出て、若君のいる小垣に行こうかと考えていると、阿湖姫が唯を訪ねてきます。

阿湖姫は唯に知っている小垣の状況を教えます。



小垣では和議を結ぶことになります。



唯への嫌がらせは激しくなっていきます。

唯は自分のことだけなら我慢しているつもりだったけど、おふくろ様への悪口が聞こえてきたから、腹が立ち、ちょっと驚かしてやろうと思いつきます。

唯は目測を見誤り、襖を派手に壊してしまい、ちょっとやり過ぎてしまったと、仏間の仏様に向かって反省します。

唯の行動は藤尾を驚かせます。

藤尾は唯を若君に近づけさせてはならないと遠くに追いやろうとします。

唯は藤尾の企てを察知し、城を出た後こっそり小垣に走っていこうと考えます。



翌日、唯は目を覚ますと、藤尾が目の前にいてびっくりします。

尼寺へ行けと言いに来たんだと思い、用意しようとします。

藤尾は若君が城に戻ったと唯に言います。

唯は急いで若君がいる部屋に向かいます。

若君は眠っています。唯が若君を見つめていると気配を感じ若君は目を覚まします。唯が来るのを待っていたようです。ようやく再会です。

唯は若君が無事で安心します。

若君と唯の間に誰も入ることができない空気を感じ、藤尾は唯を認めざるを得なくなります。

藤尾は一度さがりますが、襖一枚隔てたところで座っています。そして、咳払いをして、若君に伝言を伝えます。

若君は藤尾にお方様が呼んでいると言われ、仕方な母上の部屋に向かいます。



現代にタイムスリップしても動じることのなかった若君がお母上には簡単に動揺させられています。若君にもこんな面があるのかと思う面白いやりとりです。



藤尾は唯が若君の寵愛の姫であることを信じるしかなくなり、唯を本格的に教育しなくてはとこれまでの姿勢を改めます。まず唯は、お殿様の御前にあがる折の作法を教えてもらいます。




殿は若君の嫁が唯之助だと言われ大笑いしています。唯之助が女子であることがわかると、唯を呼びます。

唯は早速、藤尾の教育の成果を見せる時が来ます。

お方様が、

「近う 参りなされ」

と唯に声をかけます。

唯は藤尾の教育の成果を何も出すことなく、自分の思うように殿に近づいていきます。

唯の様子に、若君は微笑み、お方様は口元を押さえています。

殿だけは、

「断じてならぬ」

と怒り心頭です。



お殿様に認めないと言われて、唯は泣いています。

女官たちはちょっと笑いながら唯を慰めます。

そこに若君がやって来て、唯に心配するな、父上は必ず認めるから大丈夫だといいます。

若君と唯が話していると、お殿様がお呼びです、と難なく唯は認められることになります。

婚儀は来月に決まります。

唯は若君にそれまで天野家に帰り、おふくろ様と過ごすよう言われます。

唯は目標を達成して浮かれています。

しかし、ふと冷静になって考えてみると大事なことを忘れているのに気がつきます。

唯は若君に大事なことを確認しに行きます。

若君はそうならないように、いろいろ策を練り手を打っておるところだと言います。

唯は一応納得し、若君と別れます。天野家に戻る途中、奇念から声をかけられます。

奇念は修行の旅に出ると言います。

唯は僧侶としてあるべき姿を語る奇念に感動しています。

続きます。



森本梢子 アシガール 8巻
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2017年11月6日月曜日

森本梢子 アシガール 7巻

唯が初めて若君と一緒に過ごす時間が持てて、ようやくここまで来たかと展開が楽しいです。

宗熊が面白いです。唯をひと目見てからの宗熊の描かれていない部分を想像して面白がっています。

若君とは正反対すぎて、羽木家は殿の代を耐えられれば、滅亡せずに済むんだろうなと思います。




若君は唯を単身で助けに高山の居城長沢城に行くつもりです。

おふくろ様はそんな若君の胸中を見抜いているようで、悪丸に、

「決して若君の側を離れてはならぬ」

「吹雪には十分に草を食ませ手入れをせよ」

と若君の供をするよう言います。

若君は悪丸を供にして唯救出に向かいます。



唯は高山に捕えられて10日間、外からの情報は一切遮断されています。高山の殿から明日阿湖姫の兄が来るとだけ伝えられています。阿湖姫の兄松丸義次という人物がやって来て唯と対面すれば、阿湖姫でないことがバレて、命がなくなるかもしれないと危惧します。羽木家ではどうなっているのか気になっていて、若君は自分が高山の城長沢城に捕えられていることは知っているのか、明日の運命を心配しています。



若君は長沢城に到着します。

高山の殿は家臣から松丸義次が到着したとの知らせを受け、阿湖姫(唯)に用意が整い次第、会見の間に来るよう言います。

唯は覚悟を決め会見の間に向かいます。怖さしかなく、ずっとうつむいています。顔を見られると阿湖姫ではないことがバレてしまうので、顔をあげることができません。

高山の殿は唯に顔を上げるよう促します。

顔を上げられない唯は、

「久しぶりじゃの 妹よ」

と阿湖姫の兄から声をかけられます。

唯にとって覚えのある声です。

唯は顔を上げて松丸義次を見ると、阿湖姫の兄として座っているのは若君です。若君の顔を見て一気に張りつめていた気持ちが緩みます。

若君と声に出そうになる唯に、若君が、

「元気そうじゃの 阿湖」

と唯に高山方に正体がバレてはいけないから阿湖を演じるのだと合図します。

唯は助けに来てくれた若君の行動に感激します。

高山の殿は若君に今宵、阿湖姫と嫡男宗熊の婚儀を執り行うと言います。

若君は、婚儀の前に妹と二人だけで話をさせてほしいと言います。

高山の殿は婚儀を終え、めでたく二人が夫婦になった後、兄妹二人でゆっくり話せばいいだろうと若君の要求を拒みます。唯を支度のため退出させようとします。

唯は若君に助けを求めると、

「では 後ほど」

と何かあるような表情で若君は唯を見送ります。



羽木家の黒羽城では、仏間で阿湖姫が若君と唯の無事を祈っています。一晩中祈って体力の限界に達し、倒れてしまいます。

成之がたまたま通りかかり、仏間で物音がしたので見てみると阿湖姫が倒れているのを発見します。声をかけ、阿湖姫に何をしているのかと尋ねます。

成之は若君が単身で唯を救うため高山の城に向かったということを知ります。

阿湖姫は成之に若君を救ってほしいと頼みこみます。

成之はそろいもそろって阿呆ばかりじゃと、若君、唯、阿湖姫の行動を理解できないようです。



若君が城にいないことが殿の耳にも入ります。

小平太は殿に若君は唯之助を救うため高山の城に行ったのではないかと言います。

殿は小平太の推測を一蹴します。

小平太は自分の考えに自信があり、すぐにでも高山を攻め若君を救うべきだと譲りません。

成之が現れます。殿に小平太の読みは当たっていると言います。ただし、高山に攻めるのは忠清殿を危地に追い込むことになるから、もっとじっくり考えろと言います。阿湖姫から聞いたことを殿に伝え、小垣城から高山の様子を探らせるのがよいと進言します。

殿は成之、小平太二人を小垣へ向かうよう命じます。



高山家の長沢城では、婚儀の準備がすすんでいます。

唯は女官が着替えさせようとするのと必死で拒んでいます。

唯と女官が争っていると、白い煙が部屋を覆いまったく見えなくなります。

女官は白い煙が充満して混乱しています。

唯はこの煙は尊のつくった金のけむり玉だと分かり、若君が使ったんだと察知します。若君がもうすぐ助けに来てくれるとニヤけています。

しかし、唯の危機は続きます。遠くから不吉な音を立ててジワリジワリと近づいてくる者がいます。宗熊です。

宗熊は部屋に入ってきて、畳を擦りながら唯を探しています。

唯は宗熊が徐々に近づいてきているのが、畳を擦る音で分かります。怯えながらも宗熊が側に来たら、手当たり次第パンチを繰り出すつもりでいます。

唯の肩に手が触れます。

唯は拳を握りしめ、多分いるはずの方向にパンチしようとすると、グッと手を掴まれてしまいます。

「唯 わしじゃ」

唯の耳元で若君がそっとささやきます。

若君の背中におぶさって唯は長沢城を脱出します。

外では、悪丸が吹雪と待機していて、三人とも城門の外まで出ることができ、見事に脱出に成功します。

すぐに門番が今の三人が怪しいことに気づき、後を追いかけてきます。

唯は吹雪の手綱と悪丸の手を引き駆け出します。

道を進めば高山の砦があり、右へ行くと川と、山越えをして小垣を目指ししか逃げ道がありません。



高山の長沢城では殿が、松丸義次と阿湖姫が城から逃げ、牛背山に入ったと知らせを受けます。そして、また別の家臣から報告を受けます。羽木家に送りこんでいた間者によって、捕らえた姫は阿湖姫ではないこと、松丸義次と名乗って長沢城にやって来た者は羽木家嫡男忠清であることを知ります。

高山の殿は衝撃を受けます。宿敵羽木忠高の倅が目の前にいたのにみすみす逃してしまったと悔やみます。忠清を何としても羽木領に帰すな、山狩りをせよと命令を下します。



若君は唯を救出した後、どのようにして羽木領に戻るのか計画しておらず、山中で唯と悪丸に苦労をかけてしまっていることを悔いています。

唯はと言うと、若君とこんなに一緒に居たことはなかったので、状況を楽しんでいます。



山中二日目。

当てにしていた道が滝によって閉ざされ、なかなか勧めません。水しか口にしていません。

唯はそんな時の若君の様子を見て少しだけ若君を振る舞いの土台を知ります。

悪丸が寺を見つけます。

寺を訪れ、和尚から芋粥でもてなされ、湯と一晩の寝床を用意してもらいます。

若君は寺に迷惑がかかるといけないと思い、素性を明らかにします。

事情を知った和尚はそれでも一晩休んでいくようすすめます。



和尚の弟子の一人白念が姿を消します。

白念は高山に召し抱えてもらう目論見で高山軍に密告に走ったようです。

もう一人奇念という弟子がいます。

唯が和尚に奇念ではなく白念ですかを念を押して訊くのが面白いです。

若君、唯、悪丸、和尚と奇念は寺を出て、羽木領を目指します。

歩きながら唯は人は見かけで判断してはいけないと反省します。



和尚が道案内をして進みます。今いる大手山を越えれば小垣が見えると言います。

唯は大手山と聞き、バスハイクで来た山だと気がつき、もし現代で若君に出会っていたらと妄想します。



平地を見下ろせる開けた場所にたどり着くと、奇念が声を上げます。

川を挟んで羽木軍と高山軍がにらみ合っています。

高山軍は伏兵を潜ませています。羽木軍がそのまま進むと全滅してしまう可能性のある布陣です。

若君は両軍を見て、高山に降ると言います。

唯は若君を止めます。

若君はこのままだと羽木軍が全滅してしまう。それを阻止する手立ては他にないと言います。

唯はあることをひらめきます。奇念に今立っている場所からむこうの羽木軍までまっすぐ行けばどのくらいの距離? と聞きます。

奇念は、五、六里だと言います。

唯が計算していると、

「ならぬ」

と若君が言います。

若君は唯の考えた作戦は許さぬと言います。

若君は高山に降るしか手立てはないと和尚に話しています。

再び、唯は若君にすごくいいこと思いついたと言います。

唯は若君が自分に注意を向けている間に、悪丸にでんでん丸を使わせて若君を気絶させてしまいます。

唯は始めに思いついたとおり、羽木軍まで直線で駆けていくことにします。



羽木軍では成之と小平太が言い争っています。

若君が長沢城から脱出したというところまでは情報としてつかんでいます。

大手山のどこかにいるはずだという情報を知り、高山方の兵は若君を高山領から出さないためだと判断し、小平太は一気に攻め若君を救おうとしています。



唯は山を下り、伏兵が待機している麓までたどり着きます。甲冑を奪い、川に向かおうとすると、見覚えのある顔を見かけます。成之のところにいた坊主と密談をしていた高山の使者です。坂口殿と呼ばれ、会話の中で一気に羽木家を攻め滅ぼすと言っているの聞きます。



和尚一行は悪丸が若君をおぶって小垣を目指しています。

若君の意識が戻ります。

若君は唯が悪丸に若君を守るようにと尊の道具を置いていったことを知ります。



唯は羽木軍がすぐ目の前にいる川を挟んだ高山軍の先頭にいます。戦が始まれば止めるのは無理だと思い、イチかバチかで羽木軍に向かって走り出します。

成之が一人高山軍から飛び出して走ってくる兵を見て、足が速く、唯之助ではないかと言います。

一発の弾が唯の肩をかすめます。その衝撃と痛みで唯は倒れてしまいます。

羽木軍はなんとか唯を回収します。



銃声は若君の耳に届きます。不安が頭をよぎります。



羽木軍の本陣では助けられた唯が高山軍の状況を説明します。

成之は作戦を考えます。

唯は成之について行くと言いますが、肩を撃たれて傷口が腫れ、熱が出て倒れてしまいます。

唯之助を手当せよと木村政秀命じると、成之は妻女に言うて奥で唯之助を手当してやれと言います。

木村と小平太は成之がなぜそう言うのかわかりません。

成之は唯之助は女子だと明かします。

木村は成之は思い違いをしている、確かめればわかると唯に近づこうとすると、

「止めたがよい」

と成之は唯之助が若君にとってどんな存在か説明します。

小平太は成之の説明に思い当たることがあると言い、木村は納得し唯之助を奥に連れていき妻女に手当させます。

木村は妻女から唯之助が本当に女子であることを確認し、妻女に唯之助が若君の特別のご寵愛の姫だと言います。

妻女は驚きます。

続きます。



森本梢子 アシガール 7巻
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2017年11月4日土曜日

あきづき空太 赤髪の白雪姫 4巻

●第13話
白雪は見張り台の一番高いところから湖に向かって飛び降ります。
ちょうどそのときオビが見張り台に到着し、兵たちに白雪の居場所を聞くと、白雪は見張り台の一番上にいるというので、見張り台を見上げると、白雪が窓から飛び降りようとする瞬間を目撃します。
オビと兵は湖に向かって落下する白雪を驚きの表情で見ています。
水面に上がってきた白雪はオビに鈴を湖に落としてしまったことを伝えます。オビは状況を把握し、白雪と鈴を探します。

残り時間はあと2分。
木々がボソッと独り言をつぶやき、ミツヒデはありえなくなくもない思い、白雪から遅れて見張り台に向かったオビに託します。
ポポは約束通り、署名入りの文書と鈴を持ってキハル・トグリルの元に戻ってきます。
全ての条件を満たし、キハルの鳥は国の通信手段として導入され、それとともに領内の鳥の保護も約束されます。
鳥のポポは全員の署名と報告書も持って帰ってきました。

報告の内容を読んだゼンは直ちにココクの見張り台に向かいます。
ゼンは怒りが爆発しそうな表情です。

考試に立会ったをザクラはイザナ殿下に報告します。
イザナはこの考試はゼンだけによる判断で行われたものではなく白雪の何かしらの行動が加わって行われたものだと考えているようです。
もうしかしたら、領民と領主の仲裁はイザナがゼンに仕向け、ゼンがどう裁定するのか見てみたかったのかもしれないと思いました。
イザナは今後ゼンをどうしていくのか楽しみです。

ゼンは白雪の言葉がうれしかったようです。
「ゼン殿下が本心で動けない時があるなら自分は殿下をそんな目には遭わせない」
白雪は城の中にいるといっても、そうそうゼンに会える機会はないはずで、ここまでゼンの気持ちがわかっているのは、白雪とゼンは出会わなければならなかったとしか言いようがありません。


●第14話
キハル・トグリルとゼン、ミツヒデ、木々はキハルの領地に向かいます。鳥を国の通信の手段として採用したことを領民と報告し、今後のことを交渉するためです。
交渉時のミツヒデと木々の役割分担が好きです。空気で互いが何を求めているか分かりあえていることが伝わってきます。

夜、ゼンはミツヒデに白雪への思いを打ち明けます。

ゼンとミツヒデと木々は城に戻り、ゼンは白雪と会い、互いの思いを確かめ合います。


●第15話
回想です。
ミツヒデがゼンに初めて会ったときのことが描かれています。


●第16話
回想です。
ゼンが人に対して気持ちを打ち明けることを躊躇する出来事が描かれています。
ゼンとミツヒデの主従が特別なものになったいきさつもわかります。


●第17話
ゼンとミツヒデと木々とオビと白雪でユリカナという街に遊びにいきます。


ゼンと共に歩いていくかたちができました。
続きます。


あきづき空太 赤髪の白雪姫 4巻
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2017年11月2日木曜日

ななじ眺 ふつうの恋子ちゃん 2巻

夏目恋子は二宮剣のことが少し気になって見ていた人から、次第に目で追うようになり、相手も想ってくれていればいいのになと思う存在になっていきます。

恋子にとって剣は「ふつう」という自分で決めた姿勢を捨ててもいいと思える存在のようです。



恋子は剣におでこにキスされて、もう「ふつう」の状態ではいられません。「ふつう」が剣によって乱されてしまいます。意識せずにいようとすればするほど意識してしまいます。

「ふつう」を取り戻したい恋子はこれまでよりも特に注意して「ふつう」に過ごそうとします。だけど、恋子の「ふつう」は剣のなんでもないことで一瞬で崩れてしまいます。



恋子は「ふつう」と取り戻したくて、意識していないということを言葉にするため剣におでこにキスしたことを忘れてと言います。剣は忘れるのは無理だと言います。

「オレ あんなことしたの初めてだもん」

と言われ、恋子は自分も忘れることなんてできなくてさらに「ふつう」から遠ざかってしまいます。



剣の出来事すべてが恋子の心に引っかかりを残します。剣のことを何も知らないのに交わした言葉、表情が何度も何度もよみがえってきます。

恋子は忘れようとすればするほど、しっかり心に残り記憶されます。

佐藤くんには感じることのなかった気持ち、今まで感じたことのない気持ちが、剣とのなんでもないことを含め、グッと感情が動くことに、それが恋なのか? と思い、もしそうなら、「ふつう」でいられなくなると動揺してしまいます。



恋子は恋をして、体温が上がるという恋子の考える「ふつう」ではない状態に落ちつていられません。

剣は恋子にクリスマス予定はある? と誘います。恋子は即答で誘いを断ります。

恋子のクリスマスの予定はないので、なんとか埋めようとします。心当たりのすべてがうまくいかず、空白になります。

恋子はクリスマスに剣と過ごしたい気持ちはあるものの、何かがその気持ちを動かそうとしません。それは「ふつう」でありたいからなのか、剣を意識する気持ちが何なのか気づけていないからなのか、まだわかりません。



恋子は剣へクリスマスのプレゼント買ってしまいます。いつ渡す気なんだろう?

恋子は目で剣を追いかけるようになります。気がついたら存在を探したり、追いかけたりするのはもう「ふつう」ではありません。

ふたりは学校では会話はせず、時々剣から恋子へ携帯にメッセージが送られてきます。恋子はかわいく返信したい気持ちと、「ふつう」が一番だからかわいく演出する自分は「ふつう」ではなくなってしまうという気持ちとで揺れ、結局「ふつう」にとどまることにして、ふつうの短い文を送り返してしまいます。



クリスマスの日。

恋子は結局予定を埋めることはできず、家にいます。

剣はこの日、バイトを入れていて、恋子とバッタリ出会います。友達と予定があるって言ってたのに、どうして家にいるの? と恋子は言われてしまいます。

恋子は言い訳にならない言い訳をし、剣のほうこそクリスマスになんでバイト入れてるの? 聞き返します。

剣は、

「誘った子からは断られてし」

と恋子を見て言います。

恋子と剣の会話を聞いていた母親は、素直じゃない娘のために少し助けてあげます。



二人でクリスマスの夜に歩くことに、剣は、

「ラッキー」

と素直に嬉しさを言葉にします。

一方、恋子は「ふつう」ではないこの状況をうだうだと考えています。恋子は素直じゃないです。それでいて、剣が他の人に取られてしまうかもしれないと感じると、剣との距離が離れるのは嫌だとはっきり主張します。やっかいな子です。



剣は今度は初日の出を見に行こうと誘います。恋子はようやくこれは恋だと認めたらしく、即答で返事します。

これは恋だと認めた恋子は剣に対する想いが同じように、剣も想ってくれてほしいと思い始めます。



恋子は「ふつう」を一旦封印することにしたみたいです。

恋子は「ふつう」でなくなってもいいと思うほど、人を好きになるなんて自分の人生に起こるなんて考えても見なかったと思います。

「ふつう」ではなくなった恋子がこれからどうしていくのか楽しみです。あと、剣は恋子の母親から恋子の気持ちは伝わったので、剣はどうしていくのかというのも楽しみです。

続きます。



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