2023年4月28日金曜日

羽海野チカ 3月のライオン 14巻

夏まつり以降、急接近したあかりと島田と林田。

不思議な3人の関係は時にすれ違い、

時に重なり合いながら、

三月町や川本家を舞台に新しい関係が生まれていく。

そして秋も深まる頃、零にとって最後となる

駒橋高校の文化祭を迎えるが、

奇しくも同じ日に開催される職団戦の会場に零はいた。

クラスの出し物に奮闘するひなたと立会人を務める零。

それぞれの場でそれぞれの思いを

抱えながら過ごす秋の一日が始まる――。



桐山零、林田先生、島田八段、川本ひなたの人間模様が面白いです。




●140 ふわふわの宝物

幼稚園の帰り道、川本あかりはよるご飯の献立をかんがえています。

モモは楽しそうに歌をうたっています。

あかりはモモがうたう猫の歌から連想して、猫のいる八百屋が浮かび、そこでトマトを買うことにします。

八百屋にはマニーという名の猫がいて、店の看板猫です。猫好きの三日月町の住人の人気者です。

マニーは偶然なのか商売上手なのか客におすすめをそれとなくすすめます。

愛らしいマニーの仕草は客の心を捕え、その日の献立を変えてしまう力を持っています。

あかりは卵と炒めるつもりでトマトを買いに来たのに、マニーによってトウモロコシに変更になり、天ぷらにしようと決めます。

三日月町の商店街にはマニーをとりまくたくさんの逸話があります。

あかりとひなたはマニーをとりまく商店街の様子におじいちゃんの和菓子店のこれからについて思いを巡らせます。

人が自然と集まり、楽しくて心地良い時間を過ごせる場所。

あかりとひなたはそういう空間を作りたいという夢を抱き始めます。

小さな目標は日々に張り合いを与えます。



●141 なつかしい味 1

あかりとひなたは甘味処にいます。

ちほちゃんに会いに北海道を訪れたとき、仲良くなった台湾出身のリンユーから台湾のスイーツ「豆花(トウファ)」を紹介してもらいました。

豆花が食べられる店が東京にあるというので、訪れています。

豆花に入っている甘いピーナッツが特に気に入って、自分たちでも作れないかと食材屋で生ピーナッツを入手し、翌日、ピーナッツの甘煮に挑戦します。


ネットの情報を頼りに、一晩水にひたしたピーナッツの薄皮を剥こうとします。

しかし、薄皮が簡単に剥けずに苦戦します。

なかなかはかどらず、あかりとひなたは頼りになる助っ人桐山零を呼び出します。

桐山くんは黙々とピーナッツの薄皮を剥いていきます。

桐山くんの助けを借りても買ってきたピーナッツはまだたくさんあります。

桐山くんはさらに助っ人として林田先生と島田さんを呼ぼうとします。

あかりはピーナッツの薄皮を剥くために先生とプロ棋士に手伝ってもらうことが申し訳ないようです。

ひなたがこのままじゃ終わらないというので桐山くんは林田先生と島田さんにメッセージを送ります。



●142 なつかしい味 2

桐山くんが林田先生と島田さんに送ったのは


あかりさんから伝言→「生ピーナッツの皮むきを手伝ってもらえませんか?」との事「お礼に晩ごはんがついてます。今夜は豚コマカレーです」だそうです。


という内容です。


林田先生は桐山くんからのメッセージで慌てて用意し川本家に向かいます。

林田先生は「あかりさん」と言われ冷静になれず、「島田さん」と言われじっとしていられず、島田さんより先に川本家に居なくてはと必死です。


島田さんは残念ながら東京にいなくて、今いる場所洞爺湖の写真を送ります。


グループにしているのか、林田先生にも島田さんのメッセージが送られてきていて、それを読んだ林田先生はホッとします。そして、ホッとした自分に落胆します。


桐山くんはあかりとひなたが考えているであろうこれからのことについて全部応援するつもりでいます。

今日、林田先生を呼んだのは理由があります。

野口先輩が林田先生を心配していて、なんとか手助けをしたいと言うので協力するつもりでいます。



●143 赤い橋のほとりで 1

桐山くんはあかりに何ができるか考えています。信頼している二人、林田先生と島田八段のどちらかがあかりさんを支えることになればいいなと考えています。あかりとのきっかけづくりにとピーナッツの薄皮むきに林田先生と島田さんを呼んだのでした。


桐山くんは島田さんは来られなかったので、夕食を食べている時に話題に出たハゼ釣りを次回の集まるきっかけにしようとします。



●144 赤い橋のほとりで 2

桐山くん、林田先生、島田さんはハゼ釣りの道具を買い、川本三姉妹と合流します。

モモは魚釣りに興奮し、全部自分でやろうとします。

モモが針にエサをつけるところからやりたがるので、島田さんはエサを見せます。

島田さんのの手のひらにはイソメがいて、モモはイソメを目にし、恐ろしさのあまり固まってしまいます。

モモは針にエサをつけるどころか、エサを手に取ることさえ出来なくて、釣りそのものを断念してしまいます。

その様子を見ていた桐山くんは良くない雰囲気に焦ります。

周りを見てみると、父子で釣りを楽しんでいます。

桐山くんは川本三姉妹が父親のことを思い出してしまい、嫌な気持ちにさせてしまうかもしれない、もしかしたら釣りを企画したのは失敗だったのかもと危惧していたら、ひなたに腕をつかまれます。

ひなたは、

「れいちゃん!! ひなもやってみたいっっ」

桐山くんの心配しすぎたのだといくらか安心します。

ひなたは晩ごはんのおかずのためにハゼ釣りをがんばってみるようです。

ひなたはもモモと同じくイソメが苦手のようで、桐山くんに頼ります。

桐山くんは淡々をエサをつけて、釣り竿をひなたに手渡します。

桐山くんもほんとうはイソメのような見た目が苦手なのに、ひなたの前ではなんでもないことのように強がっています。


桐山くんの、笑顔が見られるなら強がってでも叶えてあげたいという気持ちは、ひなへ向ける優しさがとても伝わってきます。


そんな桐山くんとひなたの様子を林田先生と島田さんが眺めています。

二人は桐山くんがひなたの前では少し無理して演じていることを見抜いていて、桐山くんの振る舞いにカチンときています。

島田さんは桐山くんを心配していて度々川本家にお邪魔しているし、林田先生も桐山くんが年相応の楽しいことを体験してほしいのに、自分の心配をしていることにムカムカしています。

林田先生は桐山くんのアシストに感謝しつつも年下であり、生徒であるので、情けなさや気恥ずかしさ、そして何より島田さんと張り合って勝てる勝算はあるのか見込みはあるのか。

いろんな思いが駆け巡り林田先生は島田さんに尋ねます。

「あかりさんの事どう思ってますか」



●145 赤い橋のほとりで 3

島田さんは、

「…わ…わからん…」

と応えます。


島田さんのプロ棋士としての顔が覗けます。

島田さんは自分を的確に分析して、他の天才、秀才、化物と呼ばれる棋士と比較して、どうあるべきなのか、どうありたいかを林田先生に話します。



●146 赤い橋のほとりで 4

あかりは釣った魚を丸揚げにするため下処理しようしたとき、釣るために使った餌のイソメが腹の中にいることをふと冷静になり考えてしまいます。

あかりは足がいっぱいある虫が苦手で、桐山くん、林田先生、島田八段の男たちが代わってハラワタを取ることになります。島田八段がさっそく作業にとりかかるのに対し、桐山くんと林田先生もハラワタを取るのが苦手のようで、島田八段ひとりで魚全部を処理します。

あかりとひなが料理してみんなで頂きます。

あかりが魚のフライを食べるのに躊躇します。あかりの様子を見て島田八段が、

「…大丈夫 ハゼはまだイソメを消化吸収してませんよ」

と言ってあげます。

あかりは島田八段に言い当てられて恥ずかしそうにします。

島田八段とあかりの様子を見て、林田先生はその中に入れずさみしそうです。

あかりは揚げ物ばかりだと食べられないかもしれない島田八段の胃を気遣い、さっぱりとした小鉢を出します。

島田八段は、

「うまい!!」

とあかりに感謝します。

ふたりのやり取りを見て、桐山くんと野口先輩は林田先生の心にピシッと亀裂が入る音が聞こえます。



●147 赤い橋のほとりで 5

食事のあと花火をします。

それぞれの思いが心を温かくさせてくれます。

桐山くんは心の変化を心地いいと感じていて、考えも変化していきます。

林田先生はそんな桐山くんの変化にうれしそうです。島田八段もいまの桐山くんの姿を見られてよかったと言います。

ひなたは桐山くんを違う角度から見ています。男性陣の頭にはてなマークが浮かぶひなの言葉が面白いです。



●148 秋の風景 1

10月に入り、文化祭の準備です。

桐山くんは隠れています。

先生たちが桐山くんを探しています。

桐山くんは高校生活最後の文化祭を生徒として楽しみたいのに、先生たちがゆるしてくれません。

先生たちは文化祭の2日目に、職業団体対抗将棋大会に出場して勝利するため桐山くんを会場に連れて行こうとしています。

先生は桐山くんに頼りきりです。

文化祭1日目は先生たちの将棋の特訓に付き合わされています。

文化祭でのひなの様子が気になる桐山くんはハッと気がつきます。高校に行こうとした理由、高校生活に向き合えている、探していたものに触れられている自分に、間に合ったと気がつきます。



●149 秋の風景 2

桐山くんに頼りっきりの先生たちのたたかいが始まります。



●150 秋の風景 3

桐山くんは先生たちが勝てるように頑張って稽古をつけているのに、桐山くんの姿が見えないと、先生たちは桐山くんを、

「正論ばかり振りかざす… あの… 融通の一切きかない『神の子』になっ」

と才能のかたまりだから自分たちの気持ちが分からないとか、教え方が厳しすぎるとか、助言に文句を言い合っています。

桐山くんがたまたま聞いてしまったところが面白いです。



●151 秋の風景 4

先生たちが対局している間、桐山くんはひなから送られてくるメッセージを見ています。ひなのメッセージのひとつひとつに桐山くんは色んな表情をして読んでいます。



●152 秋の風景 5

桐山くんはずっとひなのことを考えています。この1年のいろんな顔のひなを思い出し学校へ向かいます。

ひなは桐山くんと文化祭を楽しみたかったようで、学校に入ってくる桐山くんを見つけて、大きな声で名前を呼び、高校に入ってから楽しいことばかりの日々をくれた桐山くんに泣きながら感謝の言葉を伝えます。

桐山くんのひなへの思いと、ひなが思うことが重なって、とてもいい場面です。

続きます。



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2023年4月26日水曜日

音久無 黒伯爵は星を愛でる 12巻

最終巻です。

アルジャーノンのエスターに対する優しさが刺さりました。自身の身体に異変を感じたからの選択なのかもしれません。だけど、母メグに代わりに見守るという役割を引き受けたアルジャーノンという人物が好きです。




レオンはエスターを抱えサリンジャー博士の元へ急ぎます。博士に助けて欲しい、

「エスターは俺の命なんだ」

と言います。

エスターを救うため処置が行われます。

何とか止血します。ただ出血がひどかったのでいつどうなるかわからない状態です。

アルジャーノンはエスターに渡したガラスの小瓶を取りだし、博士に、

「博士 これをエスターに売って欲しいんだけど」

と言います。

アルジャーノンは吸血鬼を抑制する薬を完成させていたのでした。

アルジャーノンはレオンに選択を迫ります。

レオンはどんなかたちでもエスターには生きていて欲しいと願っています。しかし、エスターはそうではないので薬を投与することに同意します。


エスターの鼓動は止まってしまいます。

エスターは夢を見ます。ようやく悲しみのあまり消し去ったジョンとの日々と約束の記憶がよみがえります。そして、ジョンがレオンであることがわかります。


エスターの止まった鼓動は、サリンジャー博士の懸命な蘇生措置とレオンの声、エスターの強い意志で再び動き出し、意識が戻ります。



体調が回復し、数カ月が過ぎます。

レオンがエスターに海を見せたいと旅行を計画します。

ゲイリーとレベッカも同行します。

レオンとエスター、ゲイリーとレベッカは仲がどこかぎこちなく、この旅行でなんとか修正したいと考えています。

それぞれが考えを改め、互いの仲はより深まります。


レオンは晩餐会を復活させます。

クリスとジェイルを招待し、楽しいひとときを過ごします。

アルジャーノンもウィンターソン家に来ています。しかし、誰とも会おうとしません。遠くからそっとレオンとエスターを眺めています。

クリスはアルジャーノンに会えばいいのにと言います。

アルジャーノンは確認したいことがあって来たと言います。これからもずっとエスターを見守っていくようです。



ロンドンの街をレオンとエスターが歩いています。

エスターは頭にキンと耳鳴りを感じます。吸血鬼の気配なのかと思い辺りを注意して見てみてもなにもありません。気のせいだといい、レオンとデートを楽しみます。

アーサー・マクドナルドの後ろ姿があります。生きていたようです。

レオンとエスターは幸せを感じながら、これからもいろんなことに巻き込まれていきそうな終わり方です。




吸血鬼の気配に気づいたのなら、能力はまだ消えていないのでアルジャーノンの心配は絶えなさそうです。

優しい物語でした。

終わり。



音久無 黒伯爵は星を愛でる 12巻
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2023年4月24日月曜日

音久無 黒伯爵は星を愛でる 11巻

ダンピール(人間と吸血鬼の混血)はいずれ吸血鬼になる。この事実をアルジャーノン、レオン、クリスはエスターに秘密にしておきたかったのに、予想もしないところからエスターが知ってしまいます。哀しい展開です。




レオンとエスターの新婚生活は穏やかに過ぎていきます。

二人はロンドンへ行き、オペラを鑑賞します。

オペラ歌手のシャロン・ディクソンはレオンの元恋人で、彼女はわざわざやって来てエスターに恋人同士だったことを伝えます。

帰りの馬車でエスターは劣等感でいっぱいになります。レオンの顔を見ると泣いてしまうので見ないようにしています。

レオンは過去の女関係がエスターにバレてエスターの顔を見ることができません。

レオンとエスターのわだかまりはすぐに解決します。



レオンはウィンターソン家の諜報部員ロビンにアルジャーノンの行方を探させています。アルジャーノンが黒薔薇城からいなくなって行方不明なのだと言うのです。

それを聞いたエスターはレオンとともに黒薔薇城のクリスに会いに行きます。

クリスはエスターに怒られます。吸血鬼の王がエスターの迫力に小さくなっています。千年以上生きてきてこの反応が出来るクリスが面白いです。

クリスはアルジャーノンが心臓の病で長くは生きられないと打ち明けます。アルジャーノンの部屋で見つけたメモに元外科医でいまはダンピールの生態の研究をしている人物の名を見つけ、その博士を訪ねようと思っていたと言います。

エスターは一緒に行きたいと言い、レオンも同行します。

列車に乗って南へ向かいます。

博士の名はラルフ・サリンジャーと言います。彼の住む村まで三人旅です。

酒場で食事をしていると、ひとりの女性が入って来ます。

エスターの頭にキンと耳鳴りが響きます。その女性は吸血鬼です。酒場の人に尋ねると、サリンジャーの娘モニカだと言われます。

クリスはサリンジャー博士には子供はいないはずだと言います。彼女は吸血鬼だからと推測をたてます。



エスターとレオンとクリスはラルフ・サリンジャーの邸を訪れます。

応接室に通され、ラルフが入って来ます。

ラルフはエスターを見ると、

「アルジャーノン…?」

と言います。

エスターはサリンジャー博士がアルジャーノンのことを知っていたので、いまどこに、と尋ねると、

「アルジャーノンは1週間前に病で死にました」

とラルフは言います。

エスターはいまどこにともう一度尋ねます。上の階に棺を安置していると言われます。

部屋に入るとアルジャーノンが棺に座っています。

「どういうことだよ クリス どうしてエスターがここにいるの」

と言います。

エスターはアルジャーノンが生きていたので抱きつきます。

エスターの頭にキンと耳鳴りが響きます。

「アル?」

「やはり甦ったねアルジャーノン 吸血鬼として――――」

とサリンジャー博士は言います。

エスターは、

「吸血鬼…? アルが… どうして…」

と混乱しています。。

アルジャーノンが答えます。

「研究の成果だよ 僕は吸血鬼になりたかったんだ 僕のこの美しさを永遠に後世に残せる不老の吸血鬼にね!僕は生ける芸術品になったんだよ!」

なんだかよくわからない説明にエスターはとにかくアルジャーノンが生きていたこと、会うことができたことを喜びます。

クリスはレオンとサリンジャー博士に、

「しばらく ふたりにしてあげようか」

と言い部屋を出ていきます。


庭を歩きながらレオンとクリスは話します。

「茶番だと思うかい?」

「……」

「やはり君は知っていたんだね 彼らのことを それはそうか 君は吸血鬼ハンター一族の当主だ

「知恵としては… だな あれを実際に目の当たりにしたのは初めてだ」

「『エスターには知らせないでおきたい』 それがアルの願いだよ」

「そんなことは俺だって… 俺だって蓋をしておけるのならそうしたい… 永遠に あれを知ったらエスターはまた苦悩する もうこれ以上あのひとを傷つけたくはないんだ…!」

「そうだね 蓋は死守しよう私たち3人で」

サリンジャー博士がやって来てアルジャーノンが研究していることについて話します。

「何か手立てがあるのか!?」

レオンはクリスに尋ねます。


モニカとエスターが話します。

モニカがレオン、クリス、アルジャーノンがエスターに皆んなが伏せたい秘密をおしえてしまいます。

エスターはショックを受けます。

アルジャーノンはモニカを責めます。クリスはそんなアルジャーノンを抑えます。


夜、エスターは嫌な夢を見て気分転換に外に出ます。

レオンは気づかれないよう後を追います。桟橋で佇むエスターに話しかけます。

「真夜中にひとりで出歩いてはいけないよ」

エスターはレオンに胸の内を話します。

「私がいつか死んで吸血鬼になって本能に目覚め あなたやお邸のひとを襲ったりしたら そのときは必ず 私のこの首をあなたの手で刎ねてくださいね」

レオンは切ない表情です。

モニカが来ます。エスターは、

「泣いててもしょうがないです 『そのとき』が来るまで私は私のできることをして 幸せになろうって…」

と言い、モニカはエスターに抱きつきます。

「そうですよ 不幸なことなんてありません」

と言い、

「あなたもすぐに幸せになりましょう」

とエスターの背中をナイフで刺します。

エスターはそのまま倒れてしまいます。




アルジャーノンに責められてもモニカはエスターを吸血鬼にさせたいと思う動機がわかりません。自分の幸福が、他人にとっても幸福だとでも考えているのでしょうか。

続きます。



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2023年4月22日土曜日

音久無 黒伯爵は星を愛でる 10巻


アーサー・マクドナルドによるクーデターはジェイルがアーサーの首を刎ねて終わります。

アーサーの視点でどうしてクーデターという選択をしたのかが描かれます。ジェイルが考えを変えたことから、アーサーはウィンターソン家を襲撃し、エスターの母メグに毒を盛ります。ここまでしたらジェイルは元に戻ると考えていたのに、元に戻るどころか生きることを放棄してしまいます。

アーサーはジェイルが人間を食料として見ていた頃に戻って欲しかっただけのようです。



すべてが終わり、エスターはジェイルの無事を確認すると気を失います。貧血です。エディンバラのホテルで意識が戻り、レオンと穏やかな時間を過ごします。

レオンはエスターに結婚式までスコットランドに滞在してみてはと言います。

エスターはひと月ジェイルと過ごします。

ジェイルは夢を見たのがきっかけなのか昔の記憶を振り返ります。メグとの出会いが描かれます。

エスターとジェイルは母メグとアルジャーノンの話をしたり、メグに見せたかったというスコットランドの景色を二人で見たりします。互いの距離、これまでの空白を埋めていきます。


クリスがエスターとジェイルに会いにハイランドの邸にやって来ます。

エスターはクリスにレオンについて尋ねます。クリスの視点でウィンターソン家襲撃の報告を受けたその後の思いについてを知ります。

クリスはエスターにアリスから結婚祝いだと言って、

「媚薬だそうだ 『お幸せに』と言っていたよ」

とガラスの瓶を渡します。

エスターは

「…アリスはいま幸せでしょうか」

「うん? 結構幸せそうにやってるよ」

「そう… ですか 『ありがとうございます』『どうかお元気で』と彼に伝えてください」

と言います。エスターはアリスの正体に気づいています。ずっと心の中に言わずに抱えていたんだと思います。


クリスは邸に戻るとアルジャーノンにスコットランドでの報告をします。

「いつか君もジェイルに会ってやってくれよ」

「……やだよ めんどくさい」

と返します。そして、

「僕にはもう時間が無いんだ」

と言います。

クリスは曇った表情でアルジャーノンを見つめます。


レオンとエスターの結婚式が行われます。



次はアルジャーノンが話の中心になりそうです。

続きます。



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2023年4月20日木曜日

音久無 黒伯爵は星を愛でる 9巻

アーサー・マクドナルドの企てはエスターの活躍によって失敗します。

エスターはユアンの手引きで牢に入れられたレオンに会い、エスターはアーサーと手を組むと見せかけてギルモア侯爵(ジェイル)を救います。クリスのコウモリに願いを託し、ユアンと準備し、アーサーの計画をめちゃくちゃにしてしまいます。

前巻でユアンが味方しそうにないと思ったので、ユアンがエスターに手を貸したのはビックリしました。エスターを手伝いつつアーサーに報告していたのかなと思いながら読んでいました。

クリスがハイランドにやって来たのは劇的でした。クリスはどこにいたんでしょう。ロンドンにいて、偵察に行かせたコウモリがロンドンとスコットランドを往復するのは大変なのではと思います。コウモリはそんなに速く飛べたかな?と思います。まさか、ロンドンからずっとレオンとエスターについて来ていたりして。

クリスとレオンの会話、クリスとジェイルの会話の場面が面白かったです。

アーサーが吸血鬼ハンターの当主の首を獲るのに長い時間待っていたように、クリスもレオンが成長し真実にたどり着くのを長い時間待っていたと思うと、その優しさに感動します。吸血鬼にとってレオンが成長する十数年など取るに足らない時間だとしても、歴代ウィンターソン家当主の中でも一番心を通わせたレオンとは早く和解したかったのだろうと思います。クリスは人間と共存を思って恐らく1000年くらいは進展しなかったのだろうと思います。もしかしたらクリスにとってのこの十数年は生きて来た中で最もじれったい時間だったのではなかったのかと想像します。




レオンはジェイルに毒を飲ませたという容疑で投獄されてしまいます。

エスターとノアとエヴァとイオンは離れに軟禁されます。

エヴァは閉じ込められて怒っています。状況がわからないので暴れるのは我慢しています。

ジェイルに毒を飲ませたのは誰か。エヴァはエスターに、

「まさか彼のこの旅の目的はハイランドの吸血鬼への復讐だった… とかじゃないでしょうね」

と言います。エスターは、

「レオンはそんなことしません」

と強く否定します。

エヴァはエスターの言葉を聞き、犯人は誰で、レオンとジェイルの二人だけの部屋で何が起きたのか、そして今何が起こっているのか考えます。


牢に入れられたレオンにアーサー・マクドナルドが会いに来ます。

レオンは話すうちに、クリスマスの夜のウィンターソン家襲撃、今回の毒の件の真の首謀者がわかります。


一日が過ぎます。

離れの部屋に軟禁されているエスターたちは食事は届けられていて、ドアの小窓から差し入れられています。

食事が届けられる時間となり、ガチャッという音がしたのでノアが行くと、ドアの鍵が開けられています。

食事のトレーにはメモがあって、

(ひとときだけなら あなたたちを 会わせてあげることができる)

というメッセージと、邸の見取り図、地下の部屋へ行くルートが記されています。

エスターとエヴァは行くしかないと部屋を出て行きます。

記されたルートに従い、歩いているとエスターの頭上からコウモリが落ちてきます。

エヴァはコウモリを見て、

「この子! クリス様だわ 分身よ! クリス様の一部! 偵察に寄越してらしたんだわ!」

と言います。

夜が明けて、弱ってるコウモリに優しく語りかけるエヴァに、エスターはエディンバラのホテルでエヴァが言いかけたことについて話します。アーサー・マクドナルドからクリスマスの夜に襲撃を聞かされても腑に落ちないと言います。エヴァに、クリスマスの夜の襲撃でレオンが炎の中にクリス様を見たと言っていたと話し意見を求めます。

エヴァはありえないと言い切ります。

それを聞いたエスターはペチコートを破り、切れ端にナイフで指を切り血文字でメッセージを書き、クリスのコウモリの足にくくりつけます。そして、コウモリを陽の当らないところに置いてあげ、

「コウモリさん 日が暮れたらこれをクリス様に届けてください お願いします」

と言います。


レオンはひとり、クリスを信じきれず決別したことを悔やみます。扉が開く音がします。足音が近づき、顔を向けると、

「レオン?」

と声をかけられます。エスターです。

エスターは本当にレオンに会うことが出来て、泣いています。

レオンは驚いています。

エスターはジェイルが倒れた時何があったか教えて欲しいと言います。

レオンは、

「今回の事件は ハイランドの吸血鬼の王… 延いては イングランドの吸血鬼の王への叛逆… アーサー・マクドナルドとその一派によるクーデターだということだ」

と説明します。

それを聞いたエスターはみんなで助けますからと言い去ります。


アーサーが軟禁部屋を訪れます。エスターに話があると部屋から連れ出します。

エスターは事態を打破する糸口を見つけようとします。

アーサーはエスターに手を組みませんかと申し出ます。

エスターはレオンを救うためアーサーの申し出を受けます。受ける条件としてレオンの釈放とジェイルを看取らせて欲しいと言います。

アーサーはエスターの要求を認めます。


レオンは牢に外光を取り入れる小窓にコウモリを見つけます。


エスターはジェイルの部屋を訪れます。

部屋の中にはユアンがいます。

エスターはユアンのこれまでの経緯を知ります。そしてユアンがアーサーの指示でミルクティーに銀の粒を入れたことを知ります。

エスターは自分に出来ることを実行します。


レオンはエスターを幸せにすると誓ったからにはどんな方法でもとると決めます。

待っていた人がやって来ます。

レオンの牢にたくさんのコウモリが入って来ます。コウモリの群れは集まって人のかたちを作ったかと思うと本当に人に変わります。クリスです。

「やぁ レオン 今晩は」

「やれやれ 待ちくたびれたぞ ギルバート」

レオンは小窓にいたコウモリに血文字で、

「今すぐ来い」

と書いてリボンを結び付けていました。

クリスはエスターにも、

「レオンを助けてください」

と血文字で書いたメッセージをもらったと言います。

「それで? 君があろうことかこの私を呼び出すだなんて このハイランドでいったい何が起こっているのかな」

とクリスが言うと、レオンは説明します。


ジェイルの意識が戻ります。夢を見ていました。遠い昔クリスと交わした会話の夢です。

ユアンはジェイルにつきっきりだったでの仮眠をとっています。

どうしてこんな夢を、紅茶に毒が入れられていたこと、記憶を探りながら、見た夢について考えたりしていると、気配を感じます。

「なるほど… すぐそこにいたからお前が夢に出てきたというわけなのかな」

クリスはレオンに続いてジェイルに会いに行きます。

「私の夢を見てくれるなんて嬉しいじゃないか 久しぶりだね ジェイル」

「クリス―――――――」

「君もなかなか貴重な眺めだね」

「嗤うがいい この期に及んでなお 未練がましく 生きているこの無様な姿を」

「生きているんじゃない 生かされているんだよ」

「?」

「君にいいことを教えてあげよう」

クリスはジェイルの耳もとで囁きます。ジェイルは、

「なん… だと…?」

クリスから驚きの事実を聞かされます。

クリスは、

「さて これを踏まえた上で 君は私に何をして欲しい? 永い永い付き合いだ お望みとあらば私はいまこの場で君に鎮魂歌を捧げることも厭わないよ」

と言います。

ジェイルは静かに目を閉じます。


アーサーのところに、ジェイルが崩御したという報告が入ります。

アーサーは笑みを浮かべ、ジェイルの部屋に向かいます。

エスターとユアンが泣いています。

アーサーはベッドの上の灰を確認すると、

「陛下が崩御された よって咎人 レオン・J・ウィンターソンの処刑を執り行う 牢から出せ」

エスターが、

「なっ なにを言って… 私が女王になればレオンは釈放してくださるという約束では…」

「約束ぅ? さぁ 覚えていませんね

 皆の前で吸血鬼ハンター一族当主の首を刎ねる…

 我々ハイランド吸血鬼の新たな門出に相応しい素晴らしいイベントになるでしょう!」

といいアーサーは部屋を出て行きます。


ウィンターソン家当主の処刑と新王の戴冠式が執り行われます。

エスターに冠をかぶせます。祝杯が捧げられます。

レオンの処刑が始まります。

執行人が斧を振りかぶったところで、夜空に花火が上がります。コウモリの大群がやって来てひとかたまりとなり地上に降ります。クリスです。疾風のような速さで執行人の斧を切断し、レオンの拘束具を壊します。そしてレオンに銀製の剣を手渡します。

ハイランドの吸血鬼はクリスの登場に驚いています。

アーサーは予定が狂い、衛兵を呼びクリスを捕えようとします。

しかし、衛兵は相手がクリスなので動けません。

「諸君 今宵はいったいなんの宴かな?」

とクリスが声を発すると、アーサー以外の吸血鬼はひざまづきます。

アーサーはエスターが我らの王だと言います。

エヴァとイオンも姿を現わします。

クリスは、

「私に無断でウィンターソン当主の首を刎ねようとは これは私に牙を剥いたと捉えていいのかな?」

と言い、吸血鬼の戦意をくじきます。

アーサーはいよいよ立場が悪くなります。

隠れていたアーサーを崇拝する吸血鬼がエスターを捕まえます。

「動かないでください! 彼女の首をへし折られたくなければね!」

と言います。

アーサーが、

「良くやりましたね」

とエスターの手首を掴みます。

「来い!」

と引っ張ると、手袋が破れます。エスターの腕に咬み痕を見つけます。

アーサーの心臓が大きく跳ねます。

邸のバルコニーからジェイルが姿を見せます。


アーサーは破れかぶれとなり、エスターを八つ裂きにすると叫びます。

エスターは忍ばせていた銀製の短剣をアーサーの腕に突き刺します。

悲鳴を上げるアーサーに、レオンの剣が突き刺さります。

「道を外れた吸血鬼よ 吸血鬼ハンター一族ウィンターソン家が当主レオンの名において あなたを滅する」

続きます。



音久無 黒伯爵は星を愛でる 9巻
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2023年4月18日火曜日

音久無 黒伯爵は星を愛でる 8巻

泣かせにかかっています。しっかり泣かされました。

ギルモア侯爵(ジェイル)は想像していた人物とは違っていました。

アーサー・マクドナルドを傍に置いていて、人間と共存否定派なのにエスターとアルジャーノンの母メグに恋をしたジェイルは繊細で、口下手な人物でした。

人間と共存を否定する吸血鬼たちの行き場を作ってあげたのかもしれません。

ジェイルは一目惚れしてしまい、自分ではどうすることもできない感情と反発する吸血鬼の間で葛藤し、ジェイルの気持ちをわかってあげられたメグが命の危険もあったので邸を去ったというのが切ないです。




レオンはホテルに戻ってくるとエスターがロンドンに帰っていなかったので怒っています。

「あなたは何故まだここにいるんだ?」

「ごめんなさい でも帰りません 私はあなたの… 吸血鬼ハンターの花嫁になるのですから」

「そうか じゃあ婚約は解消しよう」

「わかりました 婚約は解消でかまいません でも それでも私はついて行きます たとえばこんな人ごみの中でも私ならあなたに近付く吸血鬼に気付くことができます あなたと危険から遠ざけることができます あなたが心配なんです 守りたいんです あなたのことが好きなんです」

「まったく あなたというひとは…」


レオンを守りたいという思いが、レオンを動かします。


ホテルに戻るとレオンはエスターに延泊でとった部屋をキャンセルしたと言います。

「話したいこともある 今夜は一緒に寝よう」

と言います。

エスターはレオンの話したいこととは婚約解消のことなのではないかと心配します。もしかしたら今夜がレオンとの最後の夜になるかもしれないと考えます

レオンが部屋にやって来ます。

エスターは自分から切り出します。レオンの話したいこととはお別れの話なんでしょうと言います。

レオンは、

「ああ そうだった あなたにははっきり言わないとダメなんだった 『あなたの覚悟はよくわかった』 『完敗だ』 一緒に行こう ついて来て欲しい 我が妻よ」


別れの話ではなく一緒に行こうという話なので、エスターの感情は悲しみの涙から嬉しい涙に変わります。


レオンはエスターに話したいと言っていたことを話し始めます。

まずウィンターソン家について。それからレオンの幼少期とクリスとの出会い。続いてクリスマスの惨劇。最後にその後のウィンターソン家と吸血鬼との関係について話します。

レオンはまだロンドンに逃げて命を投げてしまおうと思ったときにエスターの家族に出会ったことは伏せるようです。



雨が降る中、狼の根城へ出発します。

エスターは父親であるギルモア侯爵と初めて会うので人間と共存したいと考えるクリスと反対の立場をとるギルモア侯爵とは一体どんな人なのか、話が通じる人なのか、母親のメグは彼にとって何なのかたくさんの疑問を持っています。


馬車が停まります。

先導しているエヴァが乗った馬車がぬかるみに嵌ってしまったようだとノアがレオンに報告します。

後方から馬車が来ています。

レオンは馬車が停まっている理由を説明するため馬車を降ります。

後方の馬車からも人が降りて来ます。

エスターはレオンを引き留めようとします。後方の馬車から降りて来た人は吸血鬼だからです。

吸血鬼はレオンの馬車まで来てエスターを見ると、

「メグっ」

とエスターを抱きしめます。

レオンは吸血鬼の肩を掴み、

「放せ そのひとは俺の妻だ」

と言います。

吸血鬼は何も言わずエスターを肩に担ぎ前方の馬車に向かいます。

ぬかるみに嵌っている馬車を片手で持ち上げ動かします。

中に乗っていたエヴァが、

「ちょっと! あんたたち もう少し丁寧に…」

と文句を言おうと顔を出します。エヴァがエスターを担いでいる吸血鬼を見ます。

「…なんで あなたがここにいるのよ プリムローズ」

と言います。

エスターがエヴァに誰かと尋ねると、

「その男はジェイル・プリムローズ

 ギルモア侯爵よ」

と言います。


ジェイルは担いでいたエスターを馬車に乗せます。レオンを見て、

「貴殿がヴァレンタイン伯爵か

 この雨だ挨拶は後回しにして邸に向かおう」

と言います。全員邸に向かいます。



出迎えに出てきたのは子供の吸血鬼(ユアン)です。

ユアンはレオンたちを広間に案内します。

ジェイルが待っていて、席に着きます。レオンは、

「書簡でも申し上げた通り この度は卿のご息女エスターを我が妻に頂きたく こうしてご挨拶に参りました次第です」

と言います。

ジェイルは表情を変えず、

「本題の前に ……少し彼女と話をしたいのだが いいかな」

と言います。

レオンは何も言わず席を立ち壁際に移動します。

エスターは声を掛けられるのを待っています。

沈黙の後、

「エスター もうひとりはアルジャーノンと言ったか あなたたちふたりは似ていると聞いているが 兄も母にそっくりなのか?」

「えっ あっ どうでしょう… でも兄の方が美人なのでお母さんに似ていると思いますが…」

「…そうか」

「はい…」

と会話が弾みません。また沈黙が続きます。

ジェイルは少し身体を強張らせようや切り出します。

「…私に何か恨み言は無いのか 言ってみろ なんでも受け付ける」

と言います。驚いた様子のエスターは、

「えっ!? いえ そんな 恨むことなど…」

と言います。

「メグから私のことを聞いていないのか?」

「? いえ 詳しいことはなにも…」

「そうか…」

というやり取りの後、エスターは、

「…あの教えて頂けませんか ギルモア侯爵は吸血鬼と人間の共存に反対されていると伺っています

 そんなギルモア侯爵にとって お母さんはいったいどんな存在だったのか…」

と勇気を出して尋ねます。

「…メグは…」

とだけ口にし、目を閉じます。

「出会いはジェイル様の一目惚れだったんですよ」

と横から口を挟むのはユアンです。エスターにお菓子を差し出しながら、

「ジェイル様は口下手でいらっしゃる 先ほどから話がまったく進みません」

とジェイルと代わりに説明する許可を求めます。ジェイルが渋々認め話し始めます。

最初はジェイルの一目惚れから始まりました。黒薔薇城でメグと出会い、何かと理由をつけて黒薔薇城に通い、互いに思いが通じました。

ジェイルはメグを妻に迎えることを望みます。しかし、ジェイルの配下の吸血鬼が反発します。

ジェイルは王としての立場と愛するひとのはざまで苦悩します。

メグは黒薔薇城から姿を消します。

ジェイルはメグが双子を生み、つい最近天国に行ったことを知ります。深い哀しみの底で生きることを放棄してしまいます。

ジェイルは吸血していません。

ユアンはこのままではどうなってしまうか心配でたまらないようです。

話を聞いていたエスターはジェイルをそっと抱きしめます。そうせずにはいられなかったようです。

ジェイルは、

「メグに… あなたたちに双子に… 私は不幸しか与えてやれなかった…」

と言います。

エスターは、

「不幸だなんて そんなわけないです…

 お母さんとアルと3人で過ごした16年間は貧乏だけど幸せでいっぱいでした 私たちはとても幸せでした 親子3人を出会わせて下さったこと感謝しています」

と言います。そして、メグがたまに月を見上げて悲しそうにしていることがあったことを話し、さみしがっていた、できるならもう一度会いたいと願っていたと思うと話します。

「だから…」

と言って、言葉が止まってしまいます。その先を口にするのは、吸血鬼ハンターの妻の立場として矛盾してしまうことになってしまうからです。

言葉を発するかどうか迷っていると、アーサー・マクドナルドが広間に入って来ます。

「お話がひと段落ついたようでしたら 各部屋にご案内させて頂こうかと思いまして」

と言います。

ジェイルもそうだなと言います。

レオンは、

「俺はギルモア侯爵と話の続きをする」

とエスターはノアと護衛と部屋に行くよう言います。

エスターはレオンに広間から出て行くように言われ少ししょげています。


エスターとエヴァとノアは外に出ます。アーサー・マクドナルドもついて来ています。アーサーは、

「気になりますか? 彼らがふたりきりでなんの話をしているのか」

とエスターに尋ねます。

「この旅のあいだずっとレオンはどこか思い詰めた顔をしていました… 私には言えないなにかがある… 心配なんです」

と言います。

アーサーはエスターに言います。、

「昔… ウィンターソン家の惨劇の夜 生き残った邸の者たちの間でまことしやかにうわさが流れたそうです」

ノアとエヴァがアーサーの言葉に反応します。

「襲撃して来た吸血鬼たちの――――」

エヴァが、

「その口を閉じなさい マクドナルド!」

ノアがアーサーにナイフを投げます。

アーサーはエヴァを締め上げ、ノアのナイフを指先で掴みます。そして続けます。

「襲撃して来た吸血鬼たちの話す言葉がスコットランドのしかも高地地方訛りであったという噂です つまりここです きっと今頃伯爵は我が主にこう訊ねているはずですよ 『ウィンターソン家襲撃の首謀者はあなたなのか』」

それを聞いたエスターはレオンの両親を襲ったのは父であるギルモア侯爵である可能性があり、自分には言えないことが何なのかを知り動揺します。


レオンはジェイルと二人きりになって、話を切りだします。確認したいことがあると言います。

「ウィンターソン家襲撃の首謀者はあなたなのか」

と尋ねます。しかし、レオンの中ですでに答えが出ているようです。エスターとジェイルが話している時からレオンはジェイルを観察していたようで、愚かな人物だとは思えない、襲撃する理由もメリットもないと話し、

「あなたは知っているのではないですか 真の首謀者の存在を」

とジェイルに問いかけます。

ジェイルは黙ってユアンが運んできた紅茶を飲んでいます。レオンが問いかけると、動きが止まり、目を大きく開きます。そして急に倒れます。

ちょっと部屋に入って来たメイドがジェイルが倒れるのを見て悲鳴を上げます。


外にいたエスターたちにも悲鳴が聞こえます。広間に行くと、レオンが、

「誰か… 医者を… 吸血鬼の医者のような者はいないのか!?」

とジェイルを抱え慌てています。

アーサーはジェイルが飲んだカップの中に銀の粒を見つけます。

「ミルクティーに銀の粒が仕込まれていたようだ これは困ったことになりましたね」

と言います。悲鳴を聞き他の吸血鬼もやって来ます。アーサーは、我らが王が毒を飲まされた、と言い、

「咎人は我らが仇敵・吸血鬼ハンター レオン・J・ウィンターソン 許すまじ 捕えて 牢に繋げ!」

と実にすらすらと驚く時間さえなくことが運んでいき、レオンは拘束されてしまいます。




アーサー・マクドナルドの筋書き通りにすすんでいるようです。

ユアンはどういう立場なんだろう。レオンたちを出迎えた時の表情が不自然に見えたので少しこわいです。

続きます。



音久無 黒伯爵は星を愛でる 8巻
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2023年4月16日日曜日

音久無 黒伯爵は星を愛でる 7巻

エスターはレオンの役に立ちたい。レオンはおとなしく守られていて欲しい。互いを思う気持ちがうまく重なりません。




レオンとエスターにに舞踏会の招待状がたくさん届きます。

レオンはエスターを婚約を発表したのだから何れお披露目しなくてはいけないのに好奇の目に曝すような真似はしたくないと言います。エスターの存在を公にしたので危険なことがあるかもしれないと護身用にレオンの母が持っていた聖水が入ったガラス瓶と銀製のナイフを贈ります。



舞踏会にレオンとエスターが一緒に出席します。

淑女たちは白薔薇様(レオン)赤薔薇(ゲイリー)青薔薇(レベッカ)の麗しい姿にうっとりしています。

ひとりの淑女が、

「…あら あの女性は?」

とレオンの隣にいるエスターを見つけます。

「ヴァレンタイン伯爵が女性を連れて舞踏会へいらっしゃるなんて…」

「やだ あなたたち まだご存知ないの? 

 あの方はギルモア侯爵令嬢

 先日 ヴァレンタイン伯爵がご婚約を発表されたお相手よ」

それを聞いた淑女たちは、目が点になる者、青ざめる者、失神する者がが続出します。

ゲイリーとレベッカはその様子をお気の毒とでも言いたそうな目で見ています。

レオンは気にする様子もありません。知った顔も舞踏会に出席しています。オペラ観劇のときに会ったレニー卿、サリヴァン子爵の邸で会ったゴドフリー・ハドソンなどと挨拶をします。

エスターに意地悪をする者もいます。わざと聞こえるようにおとしめることを言います。

レオンはエスターに気にするなとは言葉には出さず、ダンスに誘います。

レオンとエスターのダンスは見ている人を魅了します。

ゴドフリーはどこか気に入らないようです。そんなゴドフリーの表情を見つめる淑女がいます。


ゴドフリーは会場の外に出て椅子に腰かけているとその淑女が話しかけて来ます。

「初めてお目にかかりますわね 私はエリザベル・オーウェン」

と自己紹介し、レオンとエスターの仲を引き裂くのに協力しませんかと持ち掛けます。



エスターがレオンの婚約者として舞踏会に出るようになってから数日が過ぎます。

エリザベス嬢はゴドフリーが煮え切らない態度なので、煽るようなことを言い、今夜計画を実行すると言います。



エスターはレベッカと休憩しています。

レベッカが食べ物を取って来ると言い、席を立つと、早速エスターに聞こえるように嫌味を言う淑女が出てきます。

陰口だけならまだましで、

「あら ごめんなさぁい 手元が狂ってしまったわ」

とエスタにワインをかける淑女までいます。


エスターは部屋を出て庭の噴水の水でドレスについたワインを洗い流そうとします。淑女たちの陰口が気にせずにいようとしても頭から離れません。もっと背が高かったら、スタイルがよかったら、もっと美貌があったら、髪が輝く金髪だったならとレオンに釣り合わないと言われ、自分に無いものを並べ、涙ぐみます。

けれども、貴族の世界で生きていくと決めたのと、レオンの、

「あなたはいつもどおり笑っていればいいんだよ」

と言う言葉を思い出し、できることをしっかりやろうと奮い立たせます。

涙を拭き急いでレベッカの所に戻ります。

途中、小姓に呼び止められ、

「こちらの書簡をお預かりいたしました 必ずおひとりでお読みくださいと」

と告げられ書簡を受け取ります。

エスターは目を通すとレベッカの所へ行き、用事が出来たと告げ出て行きます。



レオンはエリザベス嬢呼びだされています。

エリザベス嬢はレオンに自分の気持ちにこたえて欲しいと言います。

レオンは恐ろしく冷たい表情です。

そんな二人の所にゲイリーとレベッカがやって来ます。

「おーい レオン」

「あ いた!」

2人とも焦っています。

ゲイリーは、

「エスターに危機だ!」

と言いレオンに書簡を渡します。

「ゴドフリー・ハドソンとターナー侯爵令嬢を拘束している このままだと命の保証は無い 助けたければ誰にも告げずひとりで庭まで来い 

 あなたの同胞より」

ゲイリーはこの書簡は小姓がエスターに渡したものだと証言をとったと言います。そして、書簡をエスターに渡すように小姓に託した人物がエリザベス嬢だと言います。

ゲイリーの説明を聞いたレオンは怒りを抑えきれないようでエリザベス嬢に何をしたか問い質します。

エリザベス嬢は震えながら、

「ち… ちが… ちがうんです… 私が用意した手紙とは内容が…! 私が書いた手紙は伯爵にお渡ししたものと同じ… ハドソン様がエスター様を外に呼び出すだけのメッセージでした」

と言います。

レオンはエスターを呼び出したのは吸血鬼だとわかり行方を捜します。



エスターは書簡に書かれていた通りひとりで庭にやって来ました。誰もいません。

エスターは小姓から渡された書簡をレベッカと別れた後、わざと落として来ました。レベッカが拾ってくれることを願いながら、ゴドフリーとターナー侯爵令嬢を捜します。

「あなたの同胞より」とあったから、エスターは吸血鬼の気配を感じ取ろうとします。かすかに感じ取った気配を頼りに行ってみると、小屋を見つけます。中に縛られたゴドフリーとターナー侯爵令嬢を見つけます。

エスターは中に入り、二人の縄を切ります。

急いで逃げたいのに、ターナー侯爵令嬢は足を痛めて一人で歩くことができません。

エスターの頭にキンと耳鳴りが響きます。吸血鬼が小屋に向かって歩いて来ます。小屋に入り、

「こちらにいらっしゃいましたか ギルモア侯爵令嬢エスター様 食事の用意をしておりましたゆえ遅れてしまいました 主から手厚くもてなすよう言われておりましたのに 申し訳ない」

エスターは主という言葉に引っ掛かります。

ゴドフリーはエスターを守ろうとシャベルで吸血鬼に殴りかかろうとします。しかし、かわされてしまいます。

吸血鬼は、

「なんの真似だ 殺されたいか人間」

とゴドフリーの頭を鷲掴みします。

エスターはレオンの渡された護身用の聖水を吸血鬼にかけます。聖水は目にかかり焼けただれうずくまります。

その隙にエスターはターナー侯爵令嬢に肩を貸し小屋を出ます。ゴドフリーもターナー侯爵令嬢に肩を貸し協力して邸に戻ります。


エスターは通りかかった小姓にターナー侯爵令嬢を任せ、吸血鬼の狙いは自分だからとターナー侯爵令嬢とゴドフリーから離れます。


ひとりになったエスターはレオンのところに戻ろうとします。しかし、頭にキンと耳鳴りが響きます。吸血鬼が近くまで来ています。どこかに隠れるところを探します。

吸血鬼は聖水をかけられ、頭に血がのぼっています。エスターの血を匂い嗅ぎ分け隠れているエスターを見つけます。

吸血鬼がエスターに襲いかかろうとする寸前でレオンが現れ、銀製の剣で吸血鬼を身体を貫きます。ゴキンと潰し、吸血鬼は砂になります。


エスターはレオンになぜすぐ言わず、危険なところに行くのかと怒られます。

「私はあなたの…吸血鬼ハンターの妻になるのですから」

と頑張った理由を打ち明けます。



エスターは帰りの馬車で、

「私がんばります レオンの隣にいても恥ずかしくない淑女になれるように… だからレオン きらいにならないで…」

と言い、眠りに落ちます。

エスターがレオンの役に立ちたいという思いの根っこの部分がわかる言葉です。




エスターはある目的のため旅に出掛けるレオンのためにパンを作ろうと貸本屋に出掛けます。

パンに関する本を探そうと棚を見ていると封筒が挟まった本を見つけます。中身を見ると本棚の番号と場所が書かれてあります。

エスターはゲームのようだと何が出てくるのか期待して封筒探しを始めます。何度か繰り返し、封筒を開けると文章が書かれてあります。

文章を読んでエスターはレベッカの邸に行きます。

レベッカに封筒の文章の内容を見せます。

「あなたの婚約者レオン・J・ウィンターソン今回の旅で我々の標的となるであろう あなたの同胞より」

と書かれてあり、エスターは舞踏会の時の書簡と似ていると話します。

レベッカはエスターには伏せているレオンの旅の目的を話します。

レオンの今回の旅の目的はエスターの父親であるギルモア侯爵に会いに行くことなのだと教えてくれます。

そうとは知らなかったエスターは邸に戻るとレオンに一緒に連れて行って下さいと言います。

当然レオンは駄目だと、邸の留守を守ってくれと言います。

聞き入れてもらえないエスターはレベッカに、

「…レベッカ 連れて行って頂けないようなので 自分でついて行ってもいいですか!?」

と何が何でもレオンの旅に同行しようとします。



駅でレオンとエスターは睨み合っています。

帰れと言うレオン。引き下がらないエスター。

レオンはエスターのチケットを取りあげ、列車に乗れなくします。そして、エスターを引き寄せ口づけし、

「おとなしく待ってるんだ いいね」

と言い、列車に乗り込みます。

エスターはレオンの背中を見つめ、自分を守ろうとするレオンの気持ちを察しながら、それでも一緒に行こうと行って欲しかったと涙します。

エスターの背後に人影が迫ります。その人物はエスターを担ぎ上げ、列車に乗り込みます。ちょうど列車が発車する時刻で、扉は閉められ、降りられなくなります。

エスターの頭にキンと耳鳴りが響きます。

エスターを担ぎ上げ、列車に乗せたのは吸血鬼でした。

列車は動き始め、個室から逃げられません。

吸血鬼は自己紹介をします。

「私はアーサー・マクドナルド あなたの父君ギルモア侯爵に秘書としてお仕えさせて頂いております」

舞踏会での書簡、貸本屋での封筒は彼の仕業でした。

恐さを抱きながら話していると、列車の屋根を人の歩く音が聞こえてきます。

エスターがいる個室に外から入ってきたのはレオンでした。

レオンはエスターの無事を確認すると、アーサー・マクドナルドに、

「次の停車駅まで私も同席させて頂いても?」

と言います。

「どうぞもちろん」

アーサー・マクドナルドはにこやかに言います。

次の停車駅まで沈黙が続きます。


駅に着くとレオンはアーサー・マクドナルドにエスターの分のチケット代を支払います。そして、自分の個室にエスターを連れて行きます。

執事のノアが表情を変えず淡々とレオンの行動を説明するところが面白いです。


終着駅エディンバラに到着します。

レオンたちは、

「遅かったじゃないの人間 待ちくたびれたわよ!」

と声を掛けられます。吸血鬼です。クリス主催の仮面舞踏会の時にレオンの返り討ちにあったエヴァという吸血鬼とイオンという吸血鬼です。

エスターは、

「なっ なんのご用でしょうか!?」

と警戒します。

レオンが、

「エスター ちがうそうじゃない」

とエスターを落ち着かせようとします。

エヴァは、

「私たちは護衛に来たのよ」

とアーサー・マクドナルドを指差し、

「野蛮きわまりない奴らから あんたたち夫婦を守るよう言われたの」

と言います。何か吸血鬼同士で対立しているようです。

アーサー・マクドナルドは、

「狼の根城にてお待ち申し上げております」

と言い去ります。

レオンたちはホテルに向かいます。ホテルに向かうまでのレオンとエスターのやり取りが面白いです。


食事を終え、レオンはエスターに明日はロンドンに帰るよう言います。

レオンにそう言われ、眠れないエスターは外に出ます。

エヴァがひとりでお茶をしているのを見かけます。二人で話をします。

エヴァはエスターにレオンと幸せになってもらうことが私の幸せにもつながっていることに気がついたから護衛を引き受けたと言います。

エスターは護衛が必要な理由、なぜ吸血鬼同士が啀み合っているのかと尋ねます。

エヴァはエスターが何も知らないことに驚いています。

人間と共存肯定派と共存否定派があって、前者はクリス、後者はエスターの父ギルモア侯爵だと説明します。

エヴァは全てを話すわけにはいかないと言いつつ、

「私と同じように譲れない想いがあるのなら なにを聞いてもなにを見ても へこたれてもらっちゃ困るのよ」

と言います。

エヴァに背中をおされ、エスターは明朝レオンに一緒に居させて欲しいとお願いしようと決めます。



朝、目が覚めるとレオンはエスターに、

「今日は親族のところへ行ってくる あなたはおとなしくロンドンへ帰るように」

という手紙を残し、すでに出掛けてしまっていました。

エスターはレオンと一緒にいるという選択をします。




●番外編

ゲイリーとレベッカが描かれています。

レベッカが男性にあまりモテないのも、付き合ってもすぐに男性が逃げ出してしまうのも、すべてゲイリーが陰で手を廻しているからなのでした。

ゲイリーはどういうかたちを望んでいるのでしょう。

レベッカがゲイリーに恋していると分かるきっかけを描かれるのが楽しみです。




いかにも悪そうなアーサー・マクドナルドは何を企んでいるのでしょう。

ギルモア侯爵の邸でどういう展開になるのか楽しみです。

続きます。



音久無 黒伯爵は星を愛でる 7巻
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2023年4月14日金曜日

音久無 黒伯爵は星を愛でる 6巻

エスターの心を変えたのはレオンでもクリスでもなくアリス(アルジャーノン)でした。

アリスの言葉が母メグ、双子の兄アルジャーノンの言ったことを思い起こさせ、自分の本当に望むことを選びます。




エスターはしゃがみ込み、レオンが吸血鬼の巣窟である黒薔薇城に危険を冒してまで逢いに来てくれたことに嬉しさと会いに来てはいけないという感情で揺れ動きます。



クリスがやって来ます。エスターが額を抑えていたので、

「おでこ どうかした?」

と言います。

エスターは顔を紅くして、

「いっ いいえ なんでも!」

と隠すように大きな声で言います。

クリスは、

「他の男にさわらせてはダメだと言った筈だろう」

と言って、エスターの手を取り、

「謀反者が出てしまったから今夜はもうお開きだ」

と言います。

「君を襲って ウィンターソン当主に返り討ちに逢った彼女だよ」

とエスターに起こった一部始終を知っています。

エスターは彼女(エヴァ)に罰はやめてあげてくださいと言います。

クリスはエスターの願いを聞き入れます。


エヴァは全然反省などしていません。クリスに会い恐ろしい目に会わされるかも知れなかったのに免れたにもかかわらず、レオンやエスターを悪く言います。

イオンという吸血鬼はエヴァを宥めようとします。

エヴァはまた何かしそうです。

イオンはエヴァにダンピール(エスター)がクリス様付きのメイドになるらしいと言います。


クリスは吸血鬼が言うことを聞かないので、エスターをそばに置くことにします。

エスターは不満げです。

クリスはそんなエスターに構うことなく、最初の仕事を言いつけます。

「君の最初の仕事は私に吸血されることだ おいで その覚悟をしてメイドになったのだろう?」

とエスターを試します。

エスターは震えながら差し出されたクリスの手を取ります。

クリスはエスターの首筋に牙を立てます。

エスターは恐怖で涙し、心の中でレオンの名を呼びます。

首に刺さったかと思われた牙が抜かれます。

エスターは何事かとクリスを見ると憐れむような表情をしています。

クリスは震えるエスターに何を思ったのでしょう。

執事のクライヴが部屋に入って来て、

「お戯れも そのあたりに」

と言います。クリスは、

「そうだね 冗談だよ エスター」

と言います。

エスターはクリスにからかわれたのだと分かり、震えが収まります。

クリスはエスターに何か仕事ができるまで隣室で待機するよう言います。

エスターはキッチンに人手が足りないからそちらに行くと言います。

クライヴはエスターが邸をうろうろすると調和が乱れるので控えてと言います。

エスターは邪魔ならこのお邸から出て行きますと立ち上がります。

クリスに腕を掴まれ、引き寄せられると、エスターは唇を奪われます。驚きに目を見開きます。口の中に血の味を感じます。クリスの胸を押して離れます。

「それが君の血の味だ 甘くて美味しいだろう?」

とクリスは言います。

エスターはクリスの頬を打ちます。

クリスはそのダンピールの血の匂いに吸血鬼が色めき立つので、守るために部屋でおとなしくしていてくれと言います。

エスターは、

「…クリス様なんて 嫌いです」

と言い残し隣室に消えます。


翌日エスターはメイドとしてクリスの部屋の掃除や身の回りの準備をします。クリスの邸に居る以上何かしないといけないと考えています。

クリスはエスターの笑顔に笑みをこぼします。



エスターはクリスと共に舞踏会に参加します。

会場ではエスターはギルモア侯爵令嬢として紹介されます。

ギルモア侯爵という名に懐かしさを覚える者、エスターを見て可愛いと言う者、ダンスに誘おうという者様々います。

クリスとエスターがソファーに座っていると、一人の男性が二人の前に歩み出てきます。

「ご機嫌よう 公爵閣下 そしてエスター嬢 私はヴァレンタイン伯爵 レオン・J・ウィンターソンと申します 愛らしいお嬢さん 私と踊って頂けませんか?」

と申し出るのはレオンです。

エスターは王子様が現れたようだとレオンを見ます。

エスターはレオンの申し出を受け、社交界デビューにレオンと踊ります。

エスターにはダンスが一瞬で終わったように感じたようです。音楽が終わると、もう終わってしまった、と物足りなさを感じています。

レオンはエスターの手を取り庭に出ます。エスターを他の男と踊らせたくないからなのとゆっくりとふたりで話をしたいからです。

レオンは名前を呼んでくれないエスターに、

「ねぇ エスター もう一度俺にチャンスをくれないか 今度こそ 正式に 俺の花嫁になって欲しい 帰って来てくれないか エスター」

とひざまづいて求婚します。

エスターは顔を赤らめ言葉が出ません。

クリスがやって来ます。

「こんなところで抜け駆けかい? 妬けるなぁ エスターは私の花嫁候補なんだけどな」

レオンはクリスを睨みます。会話の後、エスターの髪にさした薔薇の花を取り、白い薔薇の花を髪にさします。

「これから毎晩 俺はあなたに逢いに舞踏会へ通う 毎晩口説き倒す あなたも毎晩 その薔薇を挿して来てくれ 俺の本当の花嫁になるかどうか その薔薇が枯れるまでに答えを出して欲しい 待っているよ」

と言います。そして、エスターのダンスカードの全曲に名前を書きます。

レオンはクリスに、

「ごきげんよう公爵閣下 私のエスターが下衆な吸血鬼に襲われないようしっかり護衛して下さいね」

と言い、去ります。



夜、エスターは部屋に戻るとレオンの言った言葉を思い起こします。レオンに答える言葉は決まっています。

「待っているよ」

と言う言葉が胸を締め付けます。



舞踏会でエスターはレオンとだけ踊ります。踊り終えると庭に出ておしゃべりします。

それが連日続きます。


アルジャーノン(アリス)はレオンに進展を期待しているのに変化がないことにうんざりしています。

レオンは毎晩エスターと他愛のない話をして楽しい時間を過ごすことが出来て機嫌がいいです。

アルジャーノンはひとりじれったそうにしています。

レオンは切り札はあると余裕を見せます。

アルジャーノンはそれなら自分のやり方でちょっと突っついてみよかと思うと、何か考えがあるようです。エスターのことを一番知っているからこそやらなきゃいけないことがあると言います。


そろそろレオンがエスターにさした白薔薇が枯れようとしています。

エスターは答えを迫られています。

その日の舞踏会もレオンとエスターは踊った後庭に出ておしゃべりを楽しんでいます。

2人の会話にアリスが入って来ます。後ろからクリスも来ています。

アリスは急にエスターの恋敵を演じ始めます。エスターの心に何かを芽生えさせたいようで、揺さぶりをかけます。

レオンもクリスもアルジャーノンが何をしたいのかわからずハテナマークが浮かんでいます。

アリスはエスターとレオンとクリスからすこし離れて二人で話をします。

アリスはレオンからプロポーズされたと言います。

エスターは驚きます。

アリスはレオンが欲しいのは「ダンピールの女」で自分もエスターと同じダンピールだから当然だと言います。

「レオンは私が貰っておくから じゃあね」

と言ってレオンのところに戻ろうとします。

エスターは、

「レオンを愛していないひとに レオンの花嫁になって欲しくはありません」

とアリスではレオンが幸せになれないと言います。

アリスは、

「私と戦うの? 私に譲るの?」

と言い、

「ねぇ エスター 欲が無い君にひとつ忠告しておく 本当に欲しいものができたなら余計なことは考えず ちゃんと欲しいと言わないとダメだ」

と言います。

エスターはアリスの言葉で母メグや双子の兄アルジャーノンが言ったことを思い出します。


邸に戻り、エスターは答えを出します。クリスの部屋を訪れお暇を頂きたいと言います。

クリスは最後にお茶に付き合ってくれないかと言います。

バルコニーでお茶をし、エスタは以前指の傷の手当てをしてくれた時のリボンのお礼に新しいリボンを贈ります。

クリスは手当てに使ったリボンも返して欲しいと言い、エスターは返します。

話していくとエスターはクリスの年齢が気になります。

クリスはメグのおばあさんのおばあさんよりもずっと長く生きていると言います。

エスターはメグと言われ、クリスに母を知っているのかと尋ねます。

クリスはメグがこの邸でメイドをしていたと言います。

エスターは母が貴族の邸で働いていたのは知っていました。クリスの邸だと知り驚いています。

クリスは昔を懐かしむような表情をし、

「私の好きなひとはみんな私の手をすり抜けてしまう…」

と言い、少し引きとめようとします。

エスターは決めた答えを変えることはせず、すっきりした表情で、

「私はもうここにはいられません 私はクリス様の大切なひとの代わりにはなれません 私にとってレオンの代わりもまたいないように」

と言います。

クリスはエスターを柔らかな表情で見つめます。



翌日の舞踏会。

レオンはエスターを探します。しかし見当たりません。

ひとりの女性がレオンの前に立ちます。エスターです。

「ご機嫌よう ヴァレンタイン伯爵 大切なお話があります お庭でお待ちしております」

と言い、会場を出て行きます。


レオンはすぐ後を追います。庭に出てエスターと名前を呼ぶと、エスターはすぐに来るとは思っていなくて、なんとか心を整理し、話し始めます。

「…頂いたお花… 散ってしまいました だから お約束通り私は『答え』をお伝えしなければ…

―――私はダンピールです 伯爵の妻になったらこれからもきっとウィンターソン家にご迷惑を掛けてしまう… それは絶対にいやなんです だから だから 私は…」

と言うところで、頭にキンと耳鳴りが響きます。吸血鬼です。

エスターは話を止め振り返ります。

「気配が…」

と言います。

レオンがエスターのそばに立ちます。

エスターは吸血鬼の気配を探ります。

「うしろ… 7時の方角です――――!」

レオンは忍ばせていた銃を取りだし、エスターの言う方向に銃口を向け引き金を引きます。後ろにはクリスがいました。

クリスはギリギリで弾をよけます。

「あっ ぶないなぁ もう少しで顔に穴が空くところだったよ」

と言います。

レオンとエスターを吸血鬼が囲います。

「エスター 俺から離れて端に寄っているんだ」

とレオンが言うと、

「いいえ! 私は伯爵の眼です これが私の役目です」

と言い、先程の続きを話し始めます。

「私はきっと ウィンターソン家にご迷惑を掛けてしまう… だから 

それ以上にお役に立つと決めました あなたの妻として胸を張って隣に立ちたいんです ずっとずっと一緒にいたいです だからレオン お願いです 私と結婚して下さい!」

レオンは置かれている状況も忘れ、エスターの言葉に呆然とします。すぐに笑みを浮かべ、

「ああ、喜んで 結婚しよう エスター」

と返します。

2人の話を聞いていたクリスは問題が残っているのではないか、ウィンターソン家が内部分裂してくれるのは吸血鬼としては大歓迎だがね、と言います。

ゲイリーがやって来て、

「そこは ご心配には及びませんよ 公爵閣下」

と言い、ウィンターソン家の長老全員からエスターを妻に迎える許可の念書をもらったと言います。

クリスはおどけたように、吸血鬼ハンターとダンピールの組み合わせは吸血鬼にとって脅威だと言い、引き上げていきます。



エスターはレオンの馬車に乗り邸に戻ります。



翌朝、エスターがそばにいるのでレオンは幸せの絶頂にいるかのようです。

エスターはどこかぎこちない様子で、レオンから目を逸らしがちです。朝食時も役目を果たせるよう頑張るとなぜか妙にやる気を見せます。

レオンはそんなエスターを見てあとで近所の公園に散歩に行こうと誘います。


公園のベンチでレオンはようやくエスターが何を思っているか理解します。

レオンは思いは伝えているつもりなのに、伝わっていなかったことが分かり、はっきりとエスターにわかるように思いを伝えなくてはと、

「あなたが好きだ 愛してるエスター 俺の花嫁になって欲しい」

と誤解しようもないほどまっすぐに思いを伝えます。

エスターとレオンはようやく思いが通じ合います。


夜、レオンは結婚前に行っておかねばならない場所があると言います。

執事のノアも大仕事が控えていると言います。

ふたりが結婚するにはまだ乗り越えなくてはいけない障害があるようです。




クリス(ギルバート公爵)はエスターを守るのと同時にレオンとエスターの関係をより深いものにするため、嫌われ役を買って出たように思えます。アルジャーノンにも気づけないクリスの思いが描かれるといいなと思います。


巻末のレオンの邸の使用人たちがレオンとエスターの恋の行方を気にしているのが面白かったです。シェフですらも気になっていて口には出さないのにお祝いを込めてディナーを豪華にしているのも面白かったです。

続きます。



音久無 黒伯爵は星を愛でる 6巻
(アマゾンのサイトに移動します)

2023年4月12日水曜日

音久無 黒伯爵は星を愛でる 5巻

エスターはギルモア公爵の邸へ連れて来られて、アルジャーノンはレオンの邸へ行きます。

レオンはエスターが自分の意思で戻ってくることを願っています。

エスターがどこで心が変わるのか、それとももう少し時間がかかってしまうのか展開が楽しみです。




エスターはレオンに睡眠薬を飲ませ眠らせて邸の裏口から出ていきます。レオンの叔父リチャードが用意した馬車に乗り、雇ってくれるという商人の家へ移動します。

外は雨が降っています。

エスターはレオンに薬を盛り、何も言わず姿を消してしまうというひどいことをしてしまい、これでレオンとはぜんぶ終わったと感じます。

馬車が揺れ、外が騒がしくなります。

エスターの頭にキンと耳鳴りが響きます。吸血鬼が馬車の外にいます。

ドアから姿を現したのは、ギルバート公爵の執事クライヴです。

「こんばんは お迎えに上がりました エスター様」



朝になりレオンは目を覚まします。

エスターはいません。昨夜の記憶がかすかに残っています。

執事のノアが部屋に入って来ます。昨夜の状況を報告します。邸にはリチャードの息のかかった者がいて今回の計画に加担した使用人がいます。

レオンは報告を聞き苛立ちます。

レオンはエスターの不安を取り除いてあげられなかったから思うようにやらせようと睡眠薬入りのハーブティーを飲んだのでした。

使用人が入って来て、

「失礼します リチャード様がお見えです。」

と言います。

レオンは追い返せと言います。

「いえですが… 急用だそうで とても取り乱したご様子で…」

と言うと、ノアがレオンに代わり応接間で待ってもらうよう指示します。

レオンは渋々着替えてリチャードに会います。


レオンが応接間に入ると、

「おおっ 遅いぞ レオンっ」

と立ち上がり声を発します。

レオンは怒りを隠そうとせず、睨みつけエスターはどこかと迫ります。

リチャードは、

「そんなこと 教えられるか! ふんっ 私にもわからんものがおまえにわかるものか!」

と昨夜馬車が襲撃され、エスターの姿が消えたと言います。

「現場の状況を見る限り、恐らく… 娘は吸血鬼に攫われたのだろうと―――――――」

レオンは衝撃を受けます。



エスターは気を失っていて、目が覚めるとギルバート公爵(クリス)の腕の中にいました。クリスが目の前にいることに驚きます。頭の後ろに痛みを感じます。

クリスは抵抗するエスターを連れてくるのに、クライヴが手荒い真似をしたようだ、きつく言っておいたから許してくれといいます。

エスターはここはどこかと尋ねます。漂う気配で落ち着かないようです。

クリスは、

「私と同胞が肩を寄せ合ってささやかに暮らしていてね 世間では優雅に『黒薔薇城』などと呼ばれているが まぁ 要するに『吸血鬼の巣窟』というわけだよ」

と言います。

エスターは大変なところに来てしまったと声にならない叫びをあげます。

クリスはエスタに連れて来た目的は、

「レオンの妻にならないのならなかった だったら 私のものになればいい ねぇ エスター 私の花嫁にならないかい?」

と言います。



レオンとゲイリーが馬車が襲われた現場に向かいます。

現場は警察が調べています。

レオンとゲイリーは馬車の破損具合などを見てリチャードの言う通り吸血鬼の仕業だと確証を得ます。



エスターはクリスの申し出を、即答で断ります。そして帰るので服を返してと言います。

クリスはどこに帰るの? と聞きます。

エスターはリチャードから雇ってくれる方を紹介してもらったからそこに行くと言います。

「ああ それ その話なら 私がもみ消しておいたよ」

とクリスは笑顔で言います。

「な…っ なんで… そんなことを…!?」

と言うと、

「君はもう侯爵令嬢だ 商人の元で奉公など以ての外だよ」

と言います。

ギルモア公爵令嬢。ギルモア侯爵という人物が誰なのか明らかになります。

「ギルモア侯爵は君の本当の父親だよ エスター」

「私はいま 彼から君を任されているのでね この邸を我が家だと思ってくれていい ここは君の部屋だよ」

と言います。

事実を知り、エスターは急に恐ろしくなります。吸血鬼と人間の混血(ダンピール)。知らされてはいました。しかし、吸血鬼の父親の存在を知ると、本当に自分の身体に吸血鬼の血が流れているんだと考え身体が震えます。

アリス(アルジャーノン)が部屋に入って来ます。クリスがエスターを追いつめるので腹を立てています。

クリスはエスターにアリスもダンピールだよと言います。

エスターはアリスが同じダンピールだと知り、共通の境遇だからか親近感を覚えます。

クリスは食事にしようと言い食堂へ移動します。


テーブルにはエスターにのみ食事の用意がされています。二人に食事はしないのかと尋ねます。

アリスは眠いからいらないと言います。

クリスは、

「じゃあ私は頂こうかな クララ」

一人のメイドを呼びます。メイドはクリスの前に立ち、肩を出します。

クリスはメイドに吸血します

その光景を見たエスターは混乱します。使用人を食料にするのかと聞くと、クリスは血を提供するのは業務に含まれていて、納得した上でこの邸で働いてもらっていることを説明します。そして、エスターをこの邸に招いたのは自分の考えを知って欲しいから、吸血鬼と人間の共存を望んでいるからだと話します。

エスターが吸血鬼と人間が共に暮らすのは難しいのではと言うと、クリスは利害が一致すれば仲良く暮らせると思うと答えます。

エスターは、

「あのっ 結婚はその… 私 好きなひとがいるので… できません すみません」

と言うと、

「はいはい わかってるよ レオンだろう」

とそんなことは分かっている、何を今更と言いたげに返します。

エスターは驚きます。

「え なっ なんで知ってるんですか!? 誰にも言ってないのに…」

と顔を真っ赤にしています。

「? なんでって 口にせずともわかるさ 私と初めて会ったときから 君はレオンに恋をしていたじゃないか」

とクリスが言うと、エスターは自分が自覚するずっと前からレオンを思っていた事を知らされ恥ずかしそうです。

「――まぁ 私はそれも承知で求婚しているのだよ 君はもうこの先レオンに会わないと覚悟をして来たのだろう? ならば いつまでも思い続けているのは不毛というものだ ねぇ だからエスター 彼のことは忘れて 私に恋をしたらいいんだよ」

とエスターの唇を奪おうとします。

「…し しませんっっ」

とエスターはつっぱねます。時間はたっぷりあるから、この邸で生活しながらじっくり考えてみてくれたまえ、と言われ、部屋に戻ります。いろいろ考えを巡らせてみても行きつく先はレオンのことで、レオンを思い涙があふれます。


アリスはクリスの言動に怒っています。

クリスはアリスに謝りつつ、アリスがこれまでどうやってエスターを守って来たかわかると言います。だから、エスターをこの邸に攫ってきたのは正解だったと言います。

アリスはそれでも約束を破ったことには変わりないと言うと、エスターの部屋に向かいます。


アリスがエスターの部屋に行くと、エスターはアリスが思っていた通り泣いていました。

アルジャーノン(アリス)は面倒見のいいお兄さんです。

アルがエスターを大切に思うのは、アル自身もエスターにたくさん助けられたからだと言います。いい場面で泣けてきます。



エスターは目覚めると行動を始めます。



レオンの邸ではレベッカがなぜ早く黒薔薇城行かないのかと急かしています。

レオンはその前にやることがあると言います。

ノアが部屋に入って来て、

「レオン様 お客様がお見えです」

と言います。

客間の前は何人もの使用人が騒がしくしています。

レオンが客間に入ると、

「ただいま レオン」

エスターがソファに座っています。

ゲイリーとレベッカはエスターではあるのにどこか雰囲気が違っていて、何かが変なのに何が変なのか分からないようです。

レオンは歩み寄りエスターの頭を掴み持ち上げると、

「どういうつもりだ アルジャーノン」

と言います。髪はウィッグでエスターに変装したアルジャーノンでした。

「やぁ レオン ひさしぶり」

アルジャーノンはレオンにすぐわかってしまったことは気にすることなく言います。

ゲイリーとレベッカはアルジャーノンがエスターと似すぎて驚いています。

レオンとアルジャーノンはエスターを吸血鬼の危険に巻き込みたくないという同じ思いを認識し合います。



クリスはエスターに今度仮面舞踏会を催すから参加するように言います。



アルジャーノンはレオンにクリスの邸で開かれる仮面舞踏会の招待状を渡します。

レオンはエスターを黒薔薇城から攫うことはしない、エスターの意思を大事にしたいと言います。

それを聞いたアルジャーノンはレオンの痛いところを突きます。ノアでも言わないことです。

炊きつけれれレオンはやる気を見せます。

アルジャーノンはレオンの邸に住むから部屋に案内してと言います。

アルジャーノンはレオンを揺さぶるのが上手です。こんなに振り回されるのはレオンの人生でもそうないことだと思います。



舞踏会当日です。

エスターはスカラリーメイドとして階下で楽しそうに働いています。

執事のクライヴがやって来てエスターに舞踏会の準備を始めると言い連れ出します。


舞踏会の会場は吸血鬼ばかりだと覚悟して臨んだエスターは、少ないながら人間がいる光景を見て不思議に感じています。

クリスはエスターを踊りに誘います。

踊りが始まるとエスターは呼吸が乱れます。周りに吸血鬼がたくさんいて怖くて仕方ないからです。眩暈がして足の力が抜けてしまいます。

クリスはエスターを抱きかかえ、会場を出て吸血鬼がいない静かな部屋に連れて行きます。ダンピールであるエスターには刺激が強すぎることは分かっていたようです。アリスも最初は具合が悪くなっていたと話します。

エスターはアリスは今日出席しているのかと聞きます。

クリスは彼女はいつも欠席してると言います。そして、エスターを舞踏会に出すと言ったら怒って出て行ったと言います。

エスターはアリスを心配します。

クリスは居場所はわかっているから安心していいよと言います。それを聞いてエスターは安心します。

クリスはなにか飲み物を持ってこさせるから少し休みなさいと部屋を出ます。

エスターはソファに身体を預けます。吸血鬼はエスターを怯えさせます。クリスも同様で一人になると体の強張りがほぐれ、眠りに落ちそうになります。

そっと頭を触れられ目を開けます。

レオンが優しい眼差しで立っています。

エスターはレオンだとわかると瞳は涙でいっぱいになります。

ドアがノックされ、レオンは外に通じるドアから出て行きます。

部屋に入ってきたのは女性の吸血鬼です。

吸血鬼はなにやら腹を立てていて、エスターに文句を並べると血を吸おうとします。

部屋の中を見ていたレオンは吸血鬼にナイフを投げます。銀製のナイフが吸血鬼に刺さります。

吸血鬼はレオンに襲いかかります。レオンの方が上手で吸血鬼を倒します。

レオンはエスターの手を取り部屋を出て行きます。

倒された吸血鬼は悔しそうに、エスターの血を吸いつくしてやるとわめいています。

「おやおや 随分物騒なことを言うね」

吸血鬼が振り向くとクリスが立っています。

クリスは冷気を漂わせ、吸血鬼(エヴァ)に詰め寄ります。

エヴァは震えあがります。


レオンに手を引かれたエスターは夢見心地です。

レオンはエスターを抱きしめます。そして、耳もとで、

「…先程のようなことは日常的に? ここでの暮らしは辛くはないですか?」

と囁きます。エスターは、

「…っ …いいえ… いいえ…なにも辛いことなどありません 毎日…っ とても楽しく暮らしています…っ」

と応えます。

レオンはエスターの額に口づけします。

「また会いに来るよ きっとあなたを迎えに来るから そのときはまた俺の名前を呼んで」

と言い、姿を消します。

エスターはレオンの今言った台詞を遠い記憶のどこかで聞いた気がします。すごく大切だったことはわかります。しかし、それが何だったのか思い出すことができません。

レオンはエスターが自分の意思でレオンを選ぶのを待つようです。




●番外編1

主人公はレオンの邸に飼われている犬ジョンです。

ジョンは吸血鬼に襲撃される前からずっとレオンを見て来て、ジョンの目線でレオンとエスターが語られます。

中々進展しないレオンとエスターの仲をのんびり観察していくようです。




●番外編2

レオンはエスターがまったく気持ちを理解してくれなくて、わかってもらうためにもう手段を選ぶつもりはないようです。

それでもエスターに気持ちと思いが通じていることに気づいてもらえず、レオンがいよいよかわいそうになってきました。


続きます。



音久無 黒伯爵は星を愛でる 5巻
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2023年4月10日月曜日

音久無 黒伯爵は星を愛でる 4巻

エスターの社交界デビューとレオンとの別れが描かれています。

レオンにとってエスターは生きる理由と言ってもいいくらいの存在なのに、一族を優先させたい叔父のリチャードはレオンの気持ちを理解してあげられません。

レオンが失意のどん底で何もかも投げてしまったら、リチャードは一族から集中砲火を受けるはずなのに、そこまでは考えていないような人物です。

ギルモア公爵とは誰なんでしょう。レオンは虚を突かれたような表情をし、レベッカや執事のノアは表情を固くします。

エスターは恋をしたという事実が身分が違うという事実を超えられず、レオンの元を去ります。エスターは出来ることはなく、去るという選択肢しかないだろうなと思います。




復活祭。エッグハントでレオンとエスターは邸に来てから一番幸せそうです。

そんな二人の前にレオンの許嫁という女性が現れます。

エスターはレオンにそういう人がいるだろうなということは想像していました。いつでも身を引くつもりでいるようです。

レオンはエスターに彼女は遠縁のレベッカ・ウィンターソンだと説明します。

レオンはレベッカにはエスターがウィンターソン家当主の妻だと説明します。

エスターは婚約者であるレベッカにそんなことを言っていいのかとドキドキします。

叔父のリチャードが現れます。彼がレベッカを連れて来たのでした。

リチャードはエスターを忌まわしいとか穢れたとか言い放ちます。

レオンは怒りに任せて言い返すことなく、エスターを抱き寄せ、

「そうですね 彼女のおかげで俺は変わった 人間らしくなれた気がしますよ」

と受け流します。


エスターは傷ついています。そして、自分の役割をもう一度確認します。いつかお屋敷を去る日が来ると言い聞かせます。そんなことを考えていると自然に涙がこぼれます。

エスターの様子をレオンが見て、懸命に不安をぬぐい去ろうと言葉をかけます。

エスターは思い直して役割を果たすため、レベッカにレディになるためのレッスンをお願いします。

レベッカは引き受けてくれます。



レベッカはデビューに必要な所作を教えます。

レベッカはエスターが身分不相応だと考えていることを見抜いています。レオンの都合かんだから気にすることないと言います。

エスターはレベッカに許嫁なのではないのですかと尋ねます。

レベッカは一族が勝手に決めただけで結婚する気はない、自分は好きな男性と結婚するって決めてる、とレオンではないと言います。

レオンはレベッカがやけにエスターに積極的に絡むので、腹を立てて、ゲイリーを連れてきます。

レベッカはゲイリーを見ると急に態度を変え、緊張して話す言葉もしどろもどろになります。レベッカはゲイリーのことが好きみたいです。本人はゲイリーに恋していることは気づいていないようです。

エスターでもわかるくらい、レベッカの挙動が不審です。

エスターはレオンに、

「レオン レベッカはゲイリーに恋しているんですね?」

「あんなにわかりやすかったら 誰だってわかりますよ」

と言います。

レオンは、嘘だろ? 信じられないという表情でエスターを見ます。

レオンはエスターがレベッカのことが分かるなら、自分の気持ちにも気付いてほしいとつぶやきます。



社交シーズン幕開けです。エスターはロンドンに戻ります。

エスターは準備を整え当日に備えます。そこに、レオンの叔父リチャードがエスターに会いに来ます。

リチャードはエスターにウィンターソンを出て行ってくれないかと言います。レオンに諦めさせるために、エスターが自ら出て行ってくれと言います。

エスターは従います。

エスターは女王陛下に拝謁し、無事デビューを果たします。



拝謁を終え、エスターはレオンのもとに戻ります。

エスターはレオンに拝謁の時名前が違っていたと言います。

レニー公爵の娘とい手筈になっていたのが、ギルモア公爵の娘と言うことになっていたと話します。

レオンは驚いた表情です。レベッカとノアは硬い表情です。

レオンはエスターに、

「この県は一旦俺に預けてくれないか 大丈夫 あなたは何も心配しなくて良い」

と言います。

エスターは教えてくれないのなら知らなくていい、と覚悟を決めています。レベッカに心からお礼を言います。


エスターはリチャードから渡された強力な睡眠薬をレオンに飲ませて、眠らせて、邸を出ていきます。



エスターはようやく安心できる居場所が出来たのに、レオンのそばにいてもいいんだと思いきれず、邸を出てしまうのが切ないです。

続きます。





音久無 黒伯爵は星を愛でる 4巻
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2023年4月8日土曜日

音久無 黒伯爵は星を愛でる 3巻

レオンがようやくエスターとの出会いを説明してくれました。

エスターはレオンとの大切な思い出を忘れてしまっていて、早く思い出してあげてと思うばかりです。

巻末にも描かれているように、レオンは下町の街角でエスターに声を掛けた時、エスターがすぐに誰なのかわかってくれると思っていたに違いありません。そりゃ、覚えていないのならレオンはエスターに意地悪のひとつでもしてやりたくなるというものです。

たまたま街角で見つけたエスターではなく、ずっと探し続けていたエスターだったのだと思うと、レオンのエスターに対する強い思いは理解できます。すごく面白い展開でした。




吸血鬼とのたたかいで負傷したレオンは2日眠り続けました。目が覚めると泣きじゃくったエスターが視界に入ります。

エスターはレオンが目覚めて安堵します。


ウィンターソン家では毎年恒例行事としてクリスマスパーティーが行われます。今年はレオンが負傷しているので、執事のノアが中止すべきと言います。レオンが行うと言うと、エスターは準備は私に任せて欲しい言います。レオンはエスターにクリスマスパーティーの準備を任せます。


クリスマスパーティーの準備とレオンの世話をするエスターは毎日楽しそうです。

レオンも毎日エスターがそばにいてくれるのでご機嫌です。

エスターはパーラーメイドのジニーからハーブティーの淹れ方を教わり、レオンにカップを手渡そうとしたところでよろけて、ハーブティーをレオンにかけてしまします。慌てて火傷してはとレオンの寝具を脱がせようとすると、

「さわるなっ」

とレオンはエスターの手を払います。

エスターはびっくりしてしまいます。何か理由があってレオンには踏み込まれたくないものがあるのか、自分は偽物の妻だからある程度のところまでしか入っていけないと感じてしまいます。



翌日、執事のノアはレオンに届いた手紙を持ってきます。一通気になる手紙があるとレオンに手渡します。

レオンが宛名を見るとエルマーと書かれていて、封蝋印はギルバート公爵の紋章です。

エスターを呼びます。

レオンはギルバート公爵からエスターへ手紙が来たので開封して読んだと言います。

エスターはレオンが勝手に手紙を読んだとこにやりすぎたと言います。

レオンの嫉妬は大きくなります。エスターに詰め寄り、

「あなたは私のものだ」

と言います。

エスターは、

「私は物じゃありません そんなふうに扱われるのはいやです」

とはっきり抗議します。

レオンは、

「あなただけは あんな男に奪わせない」

とエスターに口づけします。

エスターはレオンの頬を打ち、部屋を走って出ていきます。

レオンのギルバート公爵の手紙による動揺は相当なものでした。わかっていても抑えきれない。エスターが部屋を去ったあと、ノアに自分の愚かさを吐きだします。



ノアは外出する準備を整えます。

エスターも外出着に着替えていて、ノアに、

「ロンドンへ行くのですよね? 私もご一緒したいのですが」

と言います。

「ダメですね」

ノアは即答で断ります。

エスターは引き下がらず、懸命にお願いをします。

ノアは折れて、エスターをロンドンに連れて行きます。

ロンドンではクリスマスパーティーの子供たちへの贈り物を購入します。

すべて終わり、ノアは少し休憩しましょうと店に入ります。

エスターはノアにレオンのことを話します。

ノアは余計なことは言わず、それとなくエスターの気持ちを探ります。

話していると、エスターの頭にキンと耳鳴りが響きます。近くに吸血鬼がいるようです。

エスターは気配を探ります。背後に吸血鬼の気配を感じます。吸血鬼は立ち上がり、エスターのほうに歩いて来ます。

「やぁ こんばんは エルマー」

声がして見あげると、ギルバート公爵(クリス)でした。

エスターは焦りを隠し、

「ひっ 人違いでは!? 私は女ですよ」

と言います。

クリスは、ぷっ、と吹き出し、

「また それかいエルマー ああ 今夜は『エスター』か」

と言います。

エスターは全部バレていることに驚きます。

エスターはクリスと話します。クリスは女性を連れていて、エスターは、

「…あの 良いのですか? ご一緒の女性がいらっしゃるのでしょう?」

と尋ねると、クリスは女性をアリスと言いエスターに紹介します。女装したアルジャーノンです。アルジャーノンはクリスにそそのかされて、女装して、エスターに会わされてようです。

クリスはぐいぐいエスターを誘惑します。

エスターは驚きます。

アリス(アルジャーノン)は立ち上がり、大きな声で、

「くだらないこと言ってないで もう帰ろうクリス」

と言います。

クリスのことよりもエスターはアリスの声がアルジャーノンに似ていたので注意がすべてアリスに向きます。

アリスは、エスターに「アル」と呼ばれて、ハッとします。

エスターはアリスに話したそうです。

しかし、アリスはエスターを突き放し、店を出ていきます。

エスターはアリスの言葉をもう一度思い返します。

店の外で悲鳴が上がります。どうやら吸血鬼がでたようでクリスはため息をつきながら現場を見に行きます。



クリスは店に戻ってくると、

「うーん まいったね どうやらまた我が同胞がの仕業のようだ」

と言います。そして、エスターに一緒に犯人の吸血鬼を探そうと誘うと、エスターは当然のように付き合おうとします。

ノアがエスターを引き留めます

エスターは、

「このままじゃまた犠牲者が出るかもしれない… やっぱり見過ごすわけにはいかないわ 私が協力できることならやるべきよ」

クリスと共に犯人捜しを始めます。

エスターは集中して能力が発動するのを待ちます。路地に気配を感じ、エスターが入ると気配は感じるのに吸血鬼がいません。

吸血鬼は隠れていました。エスターを狙っています。エスターに飛びかかろうとする寸前で吸血鬼の首が飛びます。

レオンが吸血鬼をやっつけます。レオンがロンドンに来ていました。

「怪我は無いか? エスター」

と手を差し出します。

「立てるか?」

エスターはレオンの手を取らず、胸に飛び込みます。

路地の入口ではノアがピストル、クリスも同胞を始末する体勢を整えていました。

クリスはレオンが現れて予定外だと言います。

レオンはギルバート公爵(クリス)がロンドンに何故いるのかと言うと倒れてしまいます。

ノアはレオンを支え、

「傷も癒えていないのに、ロンドンまで来て剣を振るなど… エスター様のことは私にお任せ下さいと申し上げた筈」

と小言を言います。

レオンは、

「ずっとベッドの上で退屈だったから気分転換だ たまたまロンドンに来たくなって たまたま通りかかっただけだ 勘違いをするな」

とよく分からないことを言います。

ノアはレオンを馬車に運びます。クリスがレオンに触れようとすると振り払われてしまいます。

その様子を見て、エスターはクリスに何か怒らせるようなことをしたのかと聞きます。

クリスはエスターが思いもしなかったことを言います。



クリスは自分の場所に戻ると、馬車の中にいたアルジャーノンはエスターに言い寄るなと言います。

クリスは、エスターを本気で欲しいと思っていると言います。

アルジャーノンはクリスの胸ぐらを掴み、エスターには手を出さない約束じゃないのかと迫ります。

クリスははぐらかすように、返事を避けます。



レオンは目を覚ますとホテルのベッドにいました。

エスターはレオンが目を覚ましてくれたのでうれしくて涙を流します。

レオンはエスターに手を握っていてくれてとお願いします。

エスターは言われた通り手を握り、再び眠りにつくレオンを見ながら、クリスの言ったことを思い出します。そして、レオンがこれまでどんな思いで吸血鬼と対峙してきたかを想像します。


レオンはエスターの手から伝わるあたたかい感触から、遠い昔の記憶を回想します。

両親が吸血鬼に襲われ、邸は火をかけられ、レオンは肩を火傷しつつも使用人達によってロンドンへ逃れます。馬車も恐れ、ロンドンをあてもなく逃げ回ります。力も尽き、あまりの絶望に命を投げ出そうとしていました。

倒れていたレオンを幼いエスターが見つけ家に運びます。


レオンは両親を襲った吸血鬼の顔を見ています。その吸血鬼はギルバート公爵でした。

レオンは目を覚ますとベッドの上にいます。

エスターとアルジャーノンがレオンをじっと見つめています。

エスターは母メグにレオンが目を覚ましたと伝えます。

レオンは吸血鬼に襲われた日、エスター親子に助けられていたのでした。


エスターはレオンが元気になるように気に掛け、励まします。肩の火傷を見て自分のことのように心配します。震えながらレオンを守ろうとします。

レオンはエスターが雷が恐いのもこの時知ります。

ノアがレオンを迎えに来て別れの時、レオンはエスターに、

「また 会いに来るよ きっと君を迎えに来るから そのときはきっと 俺の本当の名を呼んで」

と言います。


レオンはヴァレンタイン伯爵家を建て直し、エスター親子に会いに行くと、部屋は誰も済んでいなくて、行方が分からなくなってしまいました。捜しても見つからず10年以上過ぎてしまします。ある日知らせが入り下町に向かうと、街角で花を売る成長したエスターを見つけます。調べるとエスターは一人で生活していて、レオンは放っておけなくなり、エスターを邸に連れ帰ります。

レオンはエスターがくれたものを今度はあげたいと思って日々エスターと暮らしています。

エスターはレオンの世話を出来る限り自分がするつもりでいます。レオンの身体を拭くのも自分がすると言います。素肌に触れられたくない理由を知りたいようです。

レオンは内緒にしているわけではない、古傷を見てエスターが恐がるといけないからだと説明します。

エスターはこれも自分のためにしてくれたことなのだと知ります。レオンの古傷は見覚えがあるような気がします。しかし、幼い頃の記憶とつながりませんでした。



レオンの傷は癒え、クリスマスパーティーが催されます。無事に楽しい時間が過ぎていきます。

レオンはエスターに感謝し、互いが喜びをかみしめ口づけをします。

続きます。



音久無 黒伯爵は星を愛でる 3巻
(アマゾンのサイトに移動します)

2023年4月6日木曜日

音久無 黒伯爵は星を愛でる 2巻

レオンの従兄弟ゲイリー(ルーク男爵、赤薔薇)が登場します。
ゲイリーはレオンの叔父リチャードの息子です。父と子で雰囲気が全く違います。
エスターの双子の兄アルジャーノンが登場します。
レオンが探してみても見つからないのは、アルジャーノンが養子となった貴族とは吸血鬼の頂点に立つ、吸血鬼の王と呼ばれる、クリスティアン・V・A・ギルバート(ギルバート公爵)の所へ行ったからなのでした。

クリスティアンを嫌悪するレオンとなぜか気になって目が離せなくなるエスター。
三人を軸に物語が展開していきそうで楽しみです。



レオンの邸にゲイリーがやって来ます。
ゲイリーは見知らぬ女の子が邸にいることに驚きます。
ゲイリーはエスターがダンピール(人間と吸血鬼の混血)の女の子であると知り、レオンとエスターのやりとりを見て、レオンの報われない姿は貴重なので面白がっています。
レオンはエスターにゲイリーを紹介すると、仕事で外出します。
日が暮れ、夕食の時間になってもレオンは戻って来ません。就寝の時間になっても戻ってこず、エスターはレオンの役に立っていないことに気をかけます。
物音がして部屋を出ると、執事のノアがいて、レオンが帰って来た事を知ります。
ノアはレオンはソファで眠っていると言い、エスターはレオンの寝顔を見に行きます。
レオンは人の気配で目を覚まし、エスターだとわかるとそっと引き寄せ、甘い言葉を囁きます。レオンはエスターの手が冷たいので、起きて待っていなくていい、そんな義務はない、睡眠をしっかりとってくれ、と言います。
エスターは、義務、という言葉に引っ掛かりを感じます。務めとして起きていたわけではなく、ただレオンの帰りを待っていたのに、何か心にささくれを感じてしまいます。


翌日もゲイリーはやって来て、養子をとった貴族のリストのうちのひとりに会えるから息子を確認しに行こうと言います。
エスターは養子をとった息子がアルジャーノンかもしれないと期待をふくらませます。
レオンは仕事がつまっていて片付けてから出たいから、エスターに少し待ってくれと言います。
エスターはレオンの仕事の邪魔をしたくなくて、
「いいえっ レオンはどうぞお仕事を!」
と言います。
レオンはエスターの言葉に固まってしまいます。
エスターはゲイリーに、
「私だけ連れて行って貰ってもいいですか?」
と言います。
レオンは不機嫌です。しかし、エスターは、
「ゲイリーも一緒だし ぜんっぜん大丈夫ですっ」
と言います。
レオンは必要とされていない虚しさで少々立腹です。レディーズメイドを同行させることで外出を渋々承諾します。

エスターとゲイリーはロイ男爵主催のバザーに向かいます。
ゲイリーはエスターがレオンと気持ちがうまく通じ合わないことに涙するのを見て、エスターの心情を言葉にしてみせます。
エスターは自分の感情が一体どういうものなのか、わからなかったでのゲイリーの言葉は自分の心情を整理するきっかけとなります。
休憩しようと、ゲイリーはお茶の手配に、エスターとレディーズメイドは四阿に向かいます。
ゲイリーは軽い食事を提供する店を探します。そこでロイ男爵に偶然出くわします。ロイ男爵はゲイリーに新しい息子を紹介します。ゲイリーは探していた息子に会えたのに、アルジャーノンの顔を知らないから、ロイ男爵の息子がアルジャーノンかどうかは判断できません。
ゲイリーはせっかく会えたのに何でもない挨拶をします。
エスターとレディーズメイドは道を間違えたのか、四阿を通り過ぎてしまったのか、旧聖堂に来てしまいました。エスターはせっかくだから礼拝をしようかと中に入ります。
聖堂の中には吸血鬼が潜んでいました。
吸血鬼はエスターとメイドを気絶させます。

意識が戻ったエスターは手足を縛られ、身動きが取れません。
レディーズメイドのアンナはまだ気を失っています。
エスターはなんとかしなくてはと、手首のロープを吸血鬼に気づかれないように切ろうとします。

ゲイリーはお茶の用意を整え、ロイ男爵にも手伝ってもらい、四阿へ向かおうとします。
ゲイリーとロイ男爵がこの辺りは物騒で昔から行方不明事件が頻発していると話していると、会話に入ってくる男性が現れます。

エスターはアンナをかばって吸血鬼に齧られそうになります。その時、聖堂の窓が破られ、扉が蹴り破られます。
レオンとゲイリーが中に入って来ます。ゲイリーとロイ男爵の会話に入ってきたのがレオンでした。旧聖堂の前にエスターのバッグが落ちていたのですぐに事件に巻き込まれてるとわかったようです。
「レオン」
エスターは涙混じりで名を呼びます。
レオンはエスターの手首が縄で縛られているのを見つけます。吸血鬼に対しての怒りの温度が上がります。
破られた窓から陽の光が射しこみ、吸血鬼の肌は光に触れ焼けていきます。
レオンは剣を抜き吸血鬼に迫ります。エスターを縛ったことに激高したレオンは吸血鬼を成敗します。

レオンはエスターを抱きかかえ、四阿へ行き、話しをします。
エスターが話すことにレオンはエスターの思いに変化があったと嬉しそうです。

ロイ男爵の養子はアルジャーノンではありませんでした。
残る一人はシンプソン子爵の養子のみとなりました。シンプソン子爵もロイ男爵主催のバザーに来ていて、エスターは息子を確認出来て、アルジャーノンではないことがわかりました。
リストの中にアルジャーノンはおらず、次の手を考えなくてはいけなくなりました。



エスターは舞踏会に出るためダンス練習に励んでいます。
エスターがアルジャーノンの捜索の手がかりがなくなり、気落ちしているかと、ゲイリーが誘ったのです。
しかし、ゲイリーはエスターに舞踏会当日に着る衣装についてある提案をします。
舞踏会当日。
レオンは仕度が出来たエスターの部屋に行くと驚いてしまいます。
エスターはウィッグをかぶり、男装で立っています。
エスターは鏡で見て、
「なんか… アルにそっくりになりました…」
とつぶやいています。
レオンは不貞腐れています。エスターと舞踏会で踊る気満々だったようです。

舞踏会が開かれる邸に到着します。
レオンとゲイリーはすぐに参加者の目に留まり、各々が賛辞を送っています。
エスターは初めての雰囲気に辺りをキョロキョロ見回しています。
どこからか、
「きゃあっっ 黒薔薇様よ!」
という声が聞こえてきます。レオンの表情は一気に不快になります。
エスターの頭にキーンという耳鳴りが響きます。
現れたのは吸血鬼です。エスターはレオンに知らせようとします。
レオンはわかっていると、エスターを隠すように立ちます。
吸血鬼はまっすぐレオンに向かって歩いて来ます。
レオンは吸血鬼を公爵閣下と呼びます。
吸血鬼はレオンと話したいというより、エスターに興味があるようです。
吸血鬼がエスターに話しかけようとすると、レオンとゲイリーがエスターの前に立ち遮ります。
「ははっ そんなに睨まないでよ じゃ またあとでね」
と言い吸血鬼はその場を去ります。
ゲイリーは大きく息を吐き、レオンに吹っ掛けてくれるな、と言います。
エスターはレオンに吸血鬼なのに放っておくのですかと尋ねます。
レオンは協定があるからと応えます。吸血鬼の名はクリスティアン・V・A・ギルバート(ギルバート公爵)と言います。そして、
「この世に蔓延る吸血鬼の頂点に立つ者… いわば 吸血鬼の王だ」
と説明します。だから無闇に近づくなと言います。
しかし、エスターの視線はギルバート公爵閣下に釘づけです。

ダンスが始まります。
エスターはただ見てるだけで、参加できず、レオンが他の女性と踊るのを見ていると気持ちが滅入ってきて外に出ていきます。
エスターは胸が痛くなるような、苦しいような気持ちになるのかわからなくて落ち込みます。
悲鳴がきこえてきます。聞こえて来た方に行ってみると、ギルバート公爵がいました。


レオンはエスターがいないことに気がつき、ゲイリーとともにエスターを探そうとします。そこに、
「失礼します ヴァレンタイン伯爵 お連れのエルマー様が体調を崩されたご様子でして 只今別室でお休みなのですが…」
と言われ、レオンはエスターのところまで案内するように言います。


エスターはギルバート公爵と話していると、この舞踏会の会場に吸血鬼ハンター一族当主の襲撃計画があると知らされます。
エスターはすぐにレオンを探しに行きます。


案内された部屋は吸血鬼でいっぱいで、レオンとゲイリーは罠にはめられたと気がつきます。


エスターは能力を使って懸命にレオンを探します。
なんとか吸血鬼を探り当て、部屋に入ると、レオンとゲイリーは息が乱れつつも吸血鬼をやっつけていました。
レオンはギルバート公爵に怒りを隠さず罵ります。エスターの無事を確認すると馬車に乗り邸に戻ります。


ギルバート公爵は執事に後の処理を任せ、馬車に戻ります。
馬車の中ではアルジャーノンがギルバートが戻るのを待っていました。


レオンは邸に戻ると、エスターを着替えさせます。
着替えて、レオンのところに行くと、
「私と 踊って頂けませんか?」
とレオンはエスターをダンスに誘います。
エスターはレオンとは上手く踊れません。ギルバート公爵とは上手く踊れたのにどうして? と涙をこぼします。
レオンがエスターを抱きしめ、キスしようと唇が触れる直前で倒れてしまいます。
びっくりするエスターのところに執事のノアがやって来て、
「そろそろ限界のようですね」
と吸血鬼に刺されたことを明かします。
限界のはずなのに、レオンはエスターがギルバート公爵と何をしていたのかまだ聞いていないと意識が途切れないように頑張っています。
続きます。


音久無 黒伯爵は星を愛でる 2巻
(アマゾンのサイトに移動します)

2023年4月4日火曜日

音久無 黒伯爵は星を愛でる 1巻

舞台は19世紀ロンドン。

人間、吸血鬼、そして人間と吸血鬼の混血が登場する優しい物語です。

エスターの純粋すぎる優しさ、レオンのエスターへの歪んだ優しさが面白いです。

物語がどういう方向に進むかわかりません。人を襲う吸血鬼をやっつけながら、エスターが会いたい双子の兄アルジャーノンがどんな風に登場するのかが楽しみです。




主人公はエスター・メイフィールドという女の子です。

エスターは吸血鬼の父と人間の母を持つ混血です。

双子の兄アルジャーノンと母メグの3人で下町で暮らしていました。

半年ほど前に母が天国に、それから一ヶ月後にアルジャーノンは貴族の養子になると言い残しエスターの元を去りました。

エスターは花を売りながら下町で一人で生活をしています。

エスターは幽霊が見えるという人と異なった能力を持っています。近くに幽霊がいると頭の中でキーンと耳鳴りのような音が響きます。その音が頭の中で響くことで幽霊の存在に気づきます。

母親からは幽霊を見つけたら、幽霊に気付いたことを悟られないように距離を取り、相手に死角に入ったら、振り返らず全速力で走ること! と教えられていました。



日が暮れ、エスターは家に帰ろうと急いでいると、幽霊を見つけてしまいます。相手に気づかれないようにうつむき加減で離れたら走って逃げます。

エスターが幽霊に気がつき、そっと離れて逃げ出す様子を隠れて見ている紳士がいます。

その紳士はエスターが幽霊だと警戒した人物の後を追いかけます。幽霊は女性を誘い路地に入ります。紳士もその路地に入り幽霊を剣で斬ります。


紳士の名はレオン・J・ウィンターソン(ヴァレンタイン伯爵)。ウィンターソン家の当主です。ウィンターソン家は人間を襲う吸血鬼を狩る一族です。



翌日、いつものようにエスターは街角で花を売っています。

近所の友人のポールと話していると、エスターの前に麗しい紳士が現れます。昨日の紳士です。

紳士はレオン・J・ウィンターソン、ヴァレンタイン伯爵と名乗ります。

自己紹介もそこそこにレオンはエスターに、

「あなたは今日から私の花嫁です」

と告げ、そのまま自分の邸に連れ帰ります。



馬車に乗せられ、エスターは何がなんだか状況が理解できず混乱しています。

だた、冷静な部分もあります。エスターは花嫁と言われても、なぜ自分なのか、自分と伯爵とではとても釣り合わないと言います。

すると伯爵は、笑っていたからあなたを選んだ、と答えます。

エスターの母はいつも、

「たくさん笑ったら きっとたくさんいいことがあるわ」

と言っていました。エスターはその母の言葉を思い出します。



伯爵の邸はエスターにとって宮殿と呼べるものでした。

邸には執事(ノア・フェリス)がいて、エスターは別世界に連れてこられて興奮気味です。目もくらむような上等なドレスに着替えさせられ、レオンの前にやって来ます。

エスターはめまぐるしく急激に展開する事態についていけず、戸惑います。戸惑いながらもレオンに結婚はもう少し待って欲しいと勇気を出して言います。

レオンはソファから立ち上がり、壁かかってある剣を手に取り、エスターに向けます。

「それは出来ない相談だな 逃がさんぞ ダンピール」

とレオンはエスターにはわからないことを言います。

レオンは剣の腹をエスターの頬に当てます。

「この銀製の剣に触れても平気か 目覚めたりはしていないようだな」

と言い、エスターは状況が飲み込めません。

「あ… あの… ダンピール……ってなんですか?」

レオンに質問します。

「ああ… あなたは何も聞かされていないのだったか」

とレオンは息を吐きます。レオンはエスターについて何か知っているような言い回しで説明します。人間と吸血鬼の混血をダンピールと呼び、父を吸血鬼に、母を人間に持つ、エスターのような者をそう呼ぶと言います。

エスターは、

「え…ええ!? 違います そんな… たまに幽霊が見えたりするだけで… 私たち兄妹はフツ―の人間ですっ」

と反論します。

レオンはエスターが見る幽霊というのが吸血鬼で、吸血鬼を見分けられる能力を欲していると言います。そのためにエスターは妻としてあらゆる場所に同行し、その力で協力して欲しいと言います。まずは、社交界に出るために下町訛りを直し、立ち居振る舞い、教養、マナーをしっかり身につけてもらわなければいけないと言います。

エスターは自分が貴族の世界に入るなんて無理だと拒もうとします。しかし、貴族の世界にいたら、もしかしたら、双子の兄アルジャーノンに会えるかもしれない、と思い直します。ならば、レオンの条件を飲んで、お互いの利益の為に夫婦の体をとり、役に立つように頑張ろうと決心します。

この時点ですでにレオンとエスターの間にズレが生じているのが面白いです。レオンはエスターを連れてきた本当の理由を明かさず、エスターの能力が必要だからと言い、エスターは必要とされているので、アルジャーノンを見つけるための手段としてレオンの申し出を受けているというズレはどんなかたちで修正されていくのでしょうか、楽しみです。




エスターは伯爵夫人に相応しい淑女になるためのレッスンが始まります。

なんだかんだとレオンはエスターのレッスンに顔を出します。レオンはエスターの全てが愛しいようです。しかし、エスターはレオンはレッスン中にやって来ていじめると受け取っているようです。


ある日、リチャードというレオンの叔父であり後見人である人物が邸にやって来ます。

リチャードは一族がしかもウィンターソン家の当主が吸血鬼の娘と一緒に暮らすことに激怒しています。吸血鬼の娘の会わせろと言います。

リチャードの前に現れたエスターは、リチャードが想像していた吸血鬼とかけ離れていたようで、怒りの方向を見失います。なんとか、吸血鬼の危険性をレオンに言って聞かせようとします。

レオンはエスターに十字架や、銀製の短剣を肌に当てたり、聖水を口に含ませたりして、何も変化が起こらないことをリチャードに説明します。

リチャードは納得せず、メイドを捕まえて、

「その娘をこのメイドと共にひと晩地下牢に閉じ込めておくのはどうだ?」

とレオンに朝になってもメイドが無事ならば納得すると言います。

レオンは条件を飲み、エスターとメイドは地下牢に閉じ込められます。

エスターはレオンの冷たい態度に驚いています。

ジニーという客間メイドと一緒に入れられた地下牢は少し肌寒いようで、エスターはジニーを気遣い、布団に一緒にくるまって冷えないようにしようとします。

ジニーは、使用人を甘やかしてはいけないと言います。

エスターはどんな身分でも風邪を引いたら辛いからと笑顔で答えます。

ジニーはエスターの人柄にレオンの変化の理由を察知します。ジニーはレオンがエスターが邸に来てから毎日のように声を上げて愉しそうに笑われていると話し、レオンの柔らかさを引き出しているのはエスター自身なのだと話します。

エスターはレオンが笑うのは珍しい反応をするのが原因だと捻じ曲げてジニーの話を理解します。いきなり伯爵家の邸に住まわされ、淑女のなるレッスンをさせられるのだからこう理解するのは仕方ない事なのかもしれません。



エスターとジニーが楽しく話していると、レオンが食事を運んできます。

レオンは牢の中に入って来て、ジニーは戻って食事をとるよう言います。

レオンはジニーの代わりに地下牢でエスターと朝まで過ごすつもりのようです。

レオンは運んできた食事をエスターに食べさせ、身体が冷えないように温めて眠りにつかせます。



翌朝、リチャードが地下牢にやって来て、牢の中にエスターとレオンがいると、レオンになぜここにお前がいるのだと、言います。

レオンは、朝までエスターと一緒にいたのに何もなかったと笑顔で答えます。そして、さっと表情を変え、威圧するようにリチャードにエスターを受け入れるよう迫ります。

リチャードはレオンの迫力に押され、引き下がります。


エスターはようやく目覚め、レオンの膝枕で眠っていたことに慌てて謝ります。

レオンは、許さない、仕置きに語学の課外授業を受けてもらう、来週オペラを観に行くから、当日までに歩き方と所作を体に叩き込むよう言います。

エスターはオペラ鑑賞と聞き、こみ上げてくるうれしさを抑えきれないようです。

エスターはうれしさと興奮を抑えながら、リチャードの見送りをしようと玄関まで行くと、レオンとリチャードの会話を聞いてしまいます。胸いっぱいに広がったうれしさが一瞬でしぼんでしまい、涙がこぼれます。




オペラ鑑賞当日。

レオンは劇場で会う約束をいていた、レニー卿にエスターを紹介します。

エスターはレッスンした成果を披露します。

レオンとレニー卿が話していると、エスターは頭に耳鳴りを感じます。近くに吸血鬼がいることがわかり、そっと二人から離れ、吸血鬼を探します。すぐに吸血鬼は見つかります。しかし、エスターは何の用意もしていないので、吸血鬼に捕まり、血を吸われそうになります。

ナイフが飛んできます。吸血鬼は顎元を切ってしまいます。ナイフを投げた人物を見るとレオンです。

レオンはぶち切れています。ピストルを取りだし吸血鬼を撃ち抜きます。弾は銀製で吸血鬼は跡形もなく消えてしまいます。


レオンは執事のノアと共に劇場を出ます。

エスターはレオンを怒らせてしまったと気を落とします。

ノアがエスターに話しかけます。

「エスター様 あまりお気になさらず レオン様は拗ねているだけです」

と言います。

エスターは状況が飲み込めないでいます。

レオンは、エスターにあまり心配を掛けてくれるなと言います。

エスターは先日、レオンとリチャードとの会話を聞いていたので問いただします。

「私は伯爵にとって ただの吸血鬼を狩るための道具ではなかったのですか!?」

と尋ねると、レオンは呆気にとられた表情をします。

「誰がそんな世迷言を!?」

レオンがエスターに尋ねます。レオンは邸でリチャードに言っていたことをエスターが聞いていたと知り、

「あんなものは あの人を黙らせる為の詭弁だ 忘れろ」

と言います。

エスターは思いもかけないことを言われて言葉が出ません。

レオンはエスターの機嫌が悪かった理由がわかり、

「あんなものより あなた自身への言葉を信じて欲しいものだな あの街でひとり 毎日朝から晩まで 頼りない姿で必死に立って笑っていた そんなあなたが欲しいと思った この手で守ってやりたくなった そんなあなただからだ エスター」

と言い、エスターを抱きしめます。

エスターもレオンへの誤解が解け、泣きながら、

「あんなに意地悪されたら わかりませんっ」

とようやく寂しい思いをしなくてもいいという安堵がこみ上げてきます。


馬車に乗り、レオンはアルジャーノンの行方の手がかりになる貴族のリストをエスターに手渡します。

後日、レッスンを受けている先生からもレオンの話を聞かされ、エスターは何か心に温かいものがこみ上げてきます。




最後に、サリヴァン子爵の邸に招かれ、吸血鬼退治をします。

レオンはエスターが名前で呼んでくれず伯爵と言うのが気に入らないようです。

エスターが他の人のことは名前で呼ぶので、レオンの嫉妬が爆発しそうになるところが面白いです。

エスターが不意にレオンと名を呼び、レオンの満足そうな表情も面白かったです。

続きます。







音久無 黒伯爵は星を愛でる 1巻
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