2023年4月4日火曜日

音久無 黒伯爵は星を愛でる 1巻

舞台は19世紀ロンドン。

人間、吸血鬼、そして人間と吸血鬼の混血が登場する優しい物語です。

エスターの純粋すぎる優しさ、レオンのエスターへの歪んだ優しさが面白いです。

物語がどういう方向に進むかわかりません。人を襲う吸血鬼をやっつけながら、エスターが会いたい双子の兄アルジャーノンがどんな風に登場するのかが楽しみです。




主人公はエスター・メイフィールドという女の子です。

エスターは吸血鬼の父と人間の母を持つ混血です。

双子の兄アルジャーノンと母メグの3人で下町で暮らしていました。

半年ほど前に母が天国に、それから一ヶ月後にアルジャーノンは貴族の養子になると言い残しエスターの元を去りました。

エスターは花を売りながら下町で一人で生活をしています。

エスターは幽霊が見えるという人と異なった能力を持っています。近くに幽霊がいると頭の中でキーンと耳鳴りのような音が響きます。その音が頭の中で響くことで幽霊の存在に気づきます。

母親からは幽霊を見つけたら、幽霊に気付いたことを悟られないように距離を取り、相手に死角に入ったら、振り返らず全速力で走ること! と教えられていました。



日が暮れ、エスターは家に帰ろうと急いでいると、幽霊を見つけてしまいます。相手に気づかれないようにうつむき加減で離れたら走って逃げます。

エスターが幽霊に気がつき、そっと離れて逃げ出す様子を隠れて見ている紳士がいます。

その紳士はエスターが幽霊だと警戒した人物の後を追いかけます。幽霊は女性を誘い路地に入ります。紳士もその路地に入り幽霊を剣で斬ります。


紳士の名はレオン・J・ウィンターソン(ヴァレンタイン伯爵)。ウィンターソン家の当主です。ウィンターソン家は人間を襲う吸血鬼を狩る一族です。



翌日、いつものようにエスターは街角で花を売っています。

近所の友人のポールと話していると、エスターの前に麗しい紳士が現れます。昨日の紳士です。

紳士はレオン・J・ウィンターソン、ヴァレンタイン伯爵と名乗ります。

自己紹介もそこそこにレオンはエスターに、

「あなたは今日から私の花嫁です」

と告げ、そのまま自分の邸に連れ帰ります。



馬車に乗せられ、エスターは何がなんだか状況が理解できず混乱しています。

だた、冷静な部分もあります。エスターは花嫁と言われても、なぜ自分なのか、自分と伯爵とではとても釣り合わないと言います。

すると伯爵は、笑っていたからあなたを選んだ、と答えます。

エスターの母はいつも、

「たくさん笑ったら きっとたくさんいいことがあるわ」

と言っていました。エスターはその母の言葉を思い出します。



伯爵の邸はエスターにとって宮殿と呼べるものでした。

邸には執事(ノア・フェリス)がいて、エスターは別世界に連れてこられて興奮気味です。目もくらむような上等なドレスに着替えさせられ、レオンの前にやって来ます。

エスターはめまぐるしく急激に展開する事態についていけず、戸惑います。戸惑いながらもレオンに結婚はもう少し待って欲しいと勇気を出して言います。

レオンはソファから立ち上がり、壁かかってある剣を手に取り、エスターに向けます。

「それは出来ない相談だな 逃がさんぞ ダンピール」

とレオンはエスターにはわからないことを言います。

レオンは剣の腹をエスターの頬に当てます。

「この銀製の剣に触れても平気か 目覚めたりはしていないようだな」

と言い、エスターは状況が飲み込めません。

「あ… あの… ダンピール……ってなんですか?」

レオンに質問します。

「ああ… あなたは何も聞かされていないのだったか」

とレオンは息を吐きます。レオンはエスターについて何か知っているような言い回しで説明します。人間と吸血鬼の混血をダンピールと呼び、父を吸血鬼に、母を人間に持つ、エスターのような者をそう呼ぶと言います。

エスターは、

「え…ええ!? 違います そんな… たまに幽霊が見えたりするだけで… 私たち兄妹はフツ―の人間ですっ」

と反論します。

レオンはエスターが見る幽霊というのが吸血鬼で、吸血鬼を見分けられる能力を欲していると言います。そのためにエスターは妻としてあらゆる場所に同行し、その力で協力して欲しいと言います。まずは、社交界に出るために下町訛りを直し、立ち居振る舞い、教養、マナーをしっかり身につけてもらわなければいけないと言います。

エスターは自分が貴族の世界に入るなんて無理だと拒もうとします。しかし、貴族の世界にいたら、もしかしたら、双子の兄アルジャーノンに会えるかもしれない、と思い直します。ならば、レオンの条件を飲んで、お互いの利益の為に夫婦の体をとり、役に立つように頑張ろうと決心します。

この時点ですでにレオンとエスターの間にズレが生じているのが面白いです。レオンはエスターを連れてきた本当の理由を明かさず、エスターの能力が必要だからと言い、エスターは必要とされているので、アルジャーノンを見つけるための手段としてレオンの申し出を受けているというズレはどんなかたちで修正されていくのでしょうか、楽しみです。




エスターは伯爵夫人に相応しい淑女になるためのレッスンが始まります。

なんだかんだとレオンはエスターのレッスンに顔を出します。レオンはエスターの全てが愛しいようです。しかし、エスターはレオンはレッスン中にやって来ていじめると受け取っているようです。


ある日、リチャードというレオンの叔父であり後見人である人物が邸にやって来ます。

リチャードは一族がしかもウィンターソン家の当主が吸血鬼の娘と一緒に暮らすことに激怒しています。吸血鬼の娘の会わせろと言います。

リチャードの前に現れたエスターは、リチャードが想像していた吸血鬼とかけ離れていたようで、怒りの方向を見失います。なんとか、吸血鬼の危険性をレオンに言って聞かせようとします。

レオンはエスターに十字架や、銀製の短剣を肌に当てたり、聖水を口に含ませたりして、何も変化が起こらないことをリチャードに説明します。

リチャードは納得せず、メイドを捕まえて、

「その娘をこのメイドと共にひと晩地下牢に閉じ込めておくのはどうだ?」

とレオンに朝になってもメイドが無事ならば納得すると言います。

レオンは条件を飲み、エスターとメイドは地下牢に閉じ込められます。

エスターはレオンの冷たい態度に驚いています。

ジニーという客間メイドと一緒に入れられた地下牢は少し肌寒いようで、エスターはジニーを気遣い、布団に一緒にくるまって冷えないようにしようとします。

ジニーは、使用人を甘やかしてはいけないと言います。

エスターはどんな身分でも風邪を引いたら辛いからと笑顔で答えます。

ジニーはエスターの人柄にレオンの変化の理由を察知します。ジニーはレオンがエスターが邸に来てから毎日のように声を上げて愉しそうに笑われていると話し、レオンの柔らかさを引き出しているのはエスター自身なのだと話します。

エスターはレオンが笑うのは珍しい反応をするのが原因だと捻じ曲げてジニーの話を理解します。いきなり伯爵家の邸に住まわされ、淑女のなるレッスンをさせられるのだからこう理解するのは仕方ない事なのかもしれません。



エスターとジニーが楽しく話していると、レオンが食事を運んできます。

レオンは牢の中に入って来て、ジニーは戻って食事をとるよう言います。

レオンはジニーの代わりに地下牢でエスターと朝まで過ごすつもりのようです。

レオンは運んできた食事をエスターに食べさせ、身体が冷えないように温めて眠りにつかせます。



翌朝、リチャードが地下牢にやって来て、牢の中にエスターとレオンがいると、レオンになぜここにお前がいるのだと、言います。

レオンは、朝までエスターと一緒にいたのに何もなかったと笑顔で答えます。そして、さっと表情を変え、威圧するようにリチャードにエスターを受け入れるよう迫ります。

リチャードはレオンの迫力に押され、引き下がります。


エスターはようやく目覚め、レオンの膝枕で眠っていたことに慌てて謝ります。

レオンは、許さない、仕置きに語学の課外授業を受けてもらう、来週オペラを観に行くから、当日までに歩き方と所作を体に叩き込むよう言います。

エスターはオペラ鑑賞と聞き、こみ上げてくるうれしさを抑えきれないようです。

エスターはうれしさと興奮を抑えながら、リチャードの見送りをしようと玄関まで行くと、レオンとリチャードの会話を聞いてしまいます。胸いっぱいに広がったうれしさが一瞬でしぼんでしまい、涙がこぼれます。




オペラ鑑賞当日。

レオンは劇場で会う約束をいていた、レニー卿にエスターを紹介します。

エスターはレッスンした成果を披露します。

レオンとレニー卿が話していると、エスターは頭に耳鳴りを感じます。近くに吸血鬼がいることがわかり、そっと二人から離れ、吸血鬼を探します。すぐに吸血鬼は見つかります。しかし、エスターは何の用意もしていないので、吸血鬼に捕まり、血を吸われそうになります。

ナイフが飛んできます。吸血鬼は顎元を切ってしまいます。ナイフを投げた人物を見るとレオンです。

レオンはぶち切れています。ピストルを取りだし吸血鬼を撃ち抜きます。弾は銀製で吸血鬼は跡形もなく消えてしまいます。


レオンは執事のノアと共に劇場を出ます。

エスターはレオンを怒らせてしまったと気を落とします。

ノアがエスターに話しかけます。

「エスター様 あまりお気になさらず レオン様は拗ねているだけです」

と言います。

エスターは状況が飲み込めないでいます。

レオンは、エスターにあまり心配を掛けてくれるなと言います。

エスターは先日、レオンとリチャードとの会話を聞いていたので問いただします。

「私は伯爵にとって ただの吸血鬼を狩るための道具ではなかったのですか!?」

と尋ねると、レオンは呆気にとられた表情をします。

「誰がそんな世迷言を!?」

レオンがエスターに尋ねます。レオンは邸でリチャードに言っていたことをエスターが聞いていたと知り、

「あんなものは あの人を黙らせる為の詭弁だ 忘れろ」

と言います。

エスターは思いもかけないことを言われて言葉が出ません。

レオンはエスターの機嫌が悪かった理由がわかり、

「あんなものより あなた自身への言葉を信じて欲しいものだな あの街でひとり 毎日朝から晩まで 頼りない姿で必死に立って笑っていた そんなあなたが欲しいと思った この手で守ってやりたくなった そんなあなただからだ エスター」

と言い、エスターを抱きしめます。

エスターもレオンへの誤解が解け、泣きながら、

「あんなに意地悪されたら わかりませんっ」

とようやく寂しい思いをしなくてもいいという安堵がこみ上げてきます。


馬車に乗り、レオンはアルジャーノンの行方の手がかりになる貴族のリストをエスターに手渡します。

後日、レッスンを受けている先生からもレオンの話を聞かされ、エスターは何か心に温かいものがこみ上げてきます。




最後に、サリヴァン子爵の邸に招かれ、吸血鬼退治をします。

レオンはエスターが名前で呼んでくれず伯爵と言うのが気に入らないようです。

エスターが他の人のことは名前で呼ぶので、レオンの嫉妬が爆発しそうになるところが面白いです。

エスターが不意にレオンと名を呼び、レオンの満足そうな表情も面白かったです。

続きます。







音久無 黒伯爵は星を愛でる 1巻
(アマゾンのサイトに移動します)

0 件のコメント:

コメントを投稿