売れっ子作家と作家の自宅に住み込みで家政婦として働く高校生の話です。
大野ふみは高校生です。父親と二人暮らしで日々節約に努め家計を引き受けています。
ふみは夕食の準備を終え、父親の帰宅を待っています。
帰ってきた父親は浮かない表情で玄関に立っています。
父親は友人の連帯保証人になっていて、借金を肩代わりしなくてはならなくなり、返済のためにすぐにでもお金が必要でまぐろの遠洋漁業船に乗ることになった。そして、いま住んでいる部屋も引き払わなくてはならなくなった、というのです。
ふみは住む家を失います。
父親はツテを頼り、紹介されたのが作家の家の住み込みの家政婦でした。
ふみは紙に書かれた住所に行きます。出てきたのは無愛想な男性で、ふみはその男性が作家の木曳野暁(きびきのあかつき)だと知り驚きます。
木曳野暁は無愛想で、不規則なリズムで生活しています。
ふみが夕食を作っても、
「いらない」
といい、積極的に話しかけても相手にされず、一緒に暮らしていけるか自信がなくなりかけてしまいます。
ふみは住んでいた元のアパートの前で佇んでいます。
木曳野暁はふみを紹介してくれた出版社の担当編集であり、幼馴染である金石悟郎(かねいしごろう)からふみの身の上を聞かされます。
木曳野暁はふみを雑に扱いすぎたと思い、ふみを迎えに行きます。
木曳野暁と大野ふみのふたりの生活が始まります。
ふみにとって、木曳野暁は捉え所のない、気難しい人です。
木曳野暁は朝食を不機嫌な表情で食べ、ふみが話しかけても黙々と食べ続けます。食べていたかと思うと急に立ち上がり、
「籠る」
とだけ言い、仕事場に入っていきます。
ふみはこの家で自分は邪魔な存在なのではないかと思ってしまいます。
ふみは掃除をしていると、木曳野暁の本を見つけます。先生の本を読んだことがなく、ペラペラページをめくっていくと、いつの間にか物語に没頭してしまいます。
ふみは木曳野暁があまりに面白い物語を書くのですこし見直します。
担当編集の金石悟郎がやって来て、ふみは木曳野暁が打ち合わせしている所に居合わせます。
金石は〆切に間に合わせるために、今回は妥協して、次にいい引きを持ってきてはどうかと提案します。
木曳野は妥協はしたくない、自分の中で納得のいかないモノを通したくない、〆切は守るからもう少し考えさせてほしいと、譲れないところをはっきりと主張します。
金石も木曳野のそういう姿勢を知っているので余計なことを言ったかもしれないと木曳野の思うようにやらせようとします。
ふみは二人のやり取りの中で、木曳野の言ったことが格好良いと思います。作家としてそういう思いがあるんだと感心していると、木曳野に呼ばれ、物語で行き詰まっているところを打開するヒントのようなものを求められます。
木曳野から出された問に、ふみはなんとか返答します。
木曳野の表情が険しくなります。朝食のときと同じ表情です。そして、ブツブツとひとりごとを言い、何かがつながったようで、ふみの両肩に手を添え、
「でかしたぞ 娘!!」
と爽やかな笑顔で言います。
ふみは問われてた答えに対して怒られると思っていたのに、自分の言ったことが何らかの手助けになったようだと思い、ホッとします。
金石はふみに、
「変わった奴で 時々 理解し難い時もあるけど 根は単純でただの仕事バカだから まあ よろしくね」
と言います。
木曳野の朝の険しい表情やブツブツ言うひとりごとは、ただ物語を面白く、納得いくものにするため、真剣に考えている時の証拠だったのです。
ふみは自分のことが邪魔だとかいうことではなくてよかったと思います。
木曳野は仕事を終え、居間に来ると、遅い時間なのにふみが起きています。ふみが自分の作品を読んできます。
ふみが物語の感想を言うと、木曳野は少し照れます。
ふみは木曳野がそんな反応をすると思わなかったので、また違った一面をのぞけたことで、この生活が楽しいものになりそうだと予感します。
ふみは洗濯物を取り込もうと庭に行くと、見知らぬ男が立っているのを見つけます。男はふみの下着を盗ろうとしています。下着ドロボーです。
なんとかしようと、角材を手にドロボーを追っ払おうとします。
ところが、ドロボーは恐れることなく、か弱そうなふみに近づき、腕をつかみます。
ふみは怖くて声も出せなくなります。助けてと心の中で叫んだその時に木曳野がふみとドロボーの間に割って入り引き離します。
ドロボーは男が出てきたので、分が悪いと逃げ出します。
木曳野は新聞の勧誘だと勘違いしています。
ふみがドロボーだというと、木曳野は追いかけていき、こてんぱんにやっつけてしまいます。
木曳野はふみに言います。
「オレが守ってやる 頼れ」
ふみはこれまで感じたことがないくらい安心感を感じます。
生まれてはじめて男の人に守られたという経験でふみは木曳野に対して恥ずかしそうです。
ふみの恥ずかしいという気持ちが木曳野との関係をギクシャクさせ、その気持は次第にドキドキするものに変わっていきます。
ふみは初めはこれから一緒にやっていける気がしなかったのに、ぶっきらぼうな木曳野暁のふとしたときに見せる優しさに表現し難い気持ちになり、それが何なのかわからず戸惑ってしまいます。
フキダシの心の声と絵から受け取れる感情の変化を想像するのが楽しい作品です。
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