2017年10月24日火曜日

森本梢子 アシガール 5巻

唯は羽木家の殿に拝謁が許されます。粗相のないようにと天野様に忠告されたのに、殿の前で、

「お殿様 お目通り叶いまして きゅーちゃくしごくに存じまする」

多分、耳で音で言葉をぼんやり覚えたんだと思います。もしくは天野様の発音が聞き取りにくかったのかなと思います。唯は粗相のないようにといわれたので大きな声ではっきりと言います。

さらに、

「皆々様にも きゅーちゃくしごくに存じまする」

と一所懸命に間違えています。

唯は殿からの何かしらの褒美を楽しみにしています。

殿は唯に苗字を許すと言います。唯には事態が飲み込めません。

「今日より 林勝馬と名乗るがよい」

唯はそれのどこが褒美なのかわからないといった様子です。何だかわからないまま殿に、ありがとうございます、とお礼を言います。

唯のわからなさを理解しているのは若君ただひとりだけです。

若君は小さく笑い、

「よかったの 勝馬」

と唯に言います。



殿は、めでたい、と唯にひとさし舞えと言います。

唯は踊れと言っていることがわかり、これなら得意だというとっておきのダンスを披露します。唯のダンスにみな静まり返ります。見たこともない動きに驚いています。

この時代の人たちには早すぎで先取りしすぎです。

若君は唯のダンスに笑いをこらえています。



若君は天野信近に唯とおふくろ様と三之助、孫四郎が不自由なく暮らせるようにしてくれと頼みます。

信近はおふくろ様(吉野殿)に恋心があるため、張り切って若君に、唯をひとかどの武将に育ててみせると意気込みを表明します。

若君は、いや、ひとかどの武将に育てるとかではなく、暮らしに困らないようにと言葉を添えたつもりが、いらない言葉を発してしまったと困り顔です。

若君の表情から唯もよからぬことが起こりそうだと感じ取ります。



唯に小平太と剣術の修行が始まります。唯は厳しすぎて若君に泣きつきます。

若君は、

「…いっそのこと 女子であると明らかにして奥に入って暮らすか?」

とからかいます。

唯がドキドキしていると、小平太がやってきて邪魔が入ります。

小平太に見つからないように逃げよううとする唯に若君は、

「明日も参られよ 馬で遠乗りに出よう」

と誘います。

唯が立ち去ろうとする時、世話役が若君に文を持ってきます。

鐘ヶ江の姫からの文だと聞こえ、唯は、奥のどこかに鐘ヶ江の姫がいたことを思い出します。唯にとってはすっかり忘れていた未解決の問題です。

若君は、

「今宵参る そう伝えよ」

と言います。

若君の言葉を聞いた唯は半泣きです。



鐘ヶ江の娘ふきの若君に対する一方通行の思い、若君の現代で知った感覚を胸中で明かすところが面白いです。




唯は眠れぬ夜を過ごします。城の中に入ることができないので城門の前で知った顔が出てくるのを待っています。

小平太が出てきて、唯は若君の昨夜の様子をたずねます。教えてくれるわけもなく、唯は途方に暮れます。

唯は部屋の中でくさくさするしかすることがなく、おふくろ様に諭されても全く気分は晴れません。

おふくろ様はそろそろ梅谷村に帰るといいます。

唯もここにいても若君を独り占めできるわけがないし、他の姫のことを考えると落ち込むだけなので、おふくろ様と一緒に梅谷村に帰ろうかなといいます。

おふくろ様は、

「何を申す お前は若君にお仕えするのではないのか」

と残るように言います。



夜になっても唯はまたヘコんでいます。ぼんやり庭を眺めていると何か話し声が聞こえてきたので、誘われるように行ってみると、グイッと手を引かれ、尻もちをついてしまいます。

唯の手を握ったのは若君で、唯に、

「静かに」

といい、口をふさぎます。

唯は状況にドキドキします。そして、若君がどうして庭に隠れているんだろう?と思っていると、

「見つかるとうるさいことになる 信近がおる」

と若君が唯に言います。

見てみると、天野のおやじ様(信近)とおふくろ様がふたりで何か話しています。

おふくろ様が梅谷村に帰ると聞いて、信近がおふくろ様を引き止めています。

さらに聞いてみると、信近が求婚し、おふくろ様が即断っています。

信近は考えてみてくれと言い、立ち去ります。

一部始終を見ていた若君は、信近の性格を知っているので笑っています。

楽しそうな若君を見て、唯もときめいています。

目と目が合い、

「ところで唯 今日は何故来なかった?」

と若君が唯に聞きます。

若君は唯に会うために来て、信近の場面に遭遇したみたいです。

若君は遠乗りに出ると言ったのに来ないから具合が悪いのかと思って来たと言います。

唯は若君を見つめ、コロコロ表情を変えながら、言葉にできない思いを心の中で爆発させています。

若君はそんな唯の様子が変なので帰ろうとします。

唯は勇気を振りしぼって、

「私っ… 若君が鐘ヶ江の所に行くのが嫌だ- 嫌なのだー」

と涙を流しながら若君に訴えます。

唯の様子がおかしい理由が腹を立てていたんだと若君にもようやくわかります。

若君は昨夜、鐘ヶ江の所に行った理由を唯に話します。

唯は若君が言う人違いだというのがどういうことなのか、いまいち理解できません。

どういうこと? と聞こうとすると同時に屋敷の方から緊迫した声が聞こえてきます。

「城よりお召がかかってござる!!」

「小垣より早馬が参っております」

「また戦になるやもしれません」

唯の顔つきが先程までとガラリと変わります。

今日は永禄二年十一月一日。あと二か月で永禄二年が終わります。唯はなんとしても羽木家の滅亡を食い止めたいと思っています。

若君は唯に、

「案ずるな 大丈夫じゃ」

優しく言います。



小垣城の政秀からの報告によると、高山は戦の準備をしているといいます。

殿は報告を受け、季節を考え、すぐには攻めて来ないだろうと言います。

反対に、若君はすぐにでも攻めて来ると言います。若君はこの戦の結果を知っています。

小垣には若君自身が出陣すると言います。

成之が入ってきて、殿に小垣への出陣は自分に命じてくれと言います。

殿は小垣への出陣は成之に命じます。



天野じいに話を聞いた唯は若君のもとに走ります。



若君は小平太に備えるように命じます。

小間使いが若君に文が届いていると言います。若君はまた鐘ヶ江の娘かと思っていると唯が書いたものです。

会って話がしたいという内容の手紙です。



唯は若君と会った時のことを考えながら歩いていると、

「おうい 唯之助」

と声をかけられ、返事をすると、みぞおちを殴られてしまい気絶してしまいます。

成之のところの坊主の仕業で、また唯は連れ去られてしまいます。



唯は成之の屋敷に連れて行かれてしまいます。

成之は唯に媚薬を使います。媚薬が本当に効いてしまうと大変なことになってしまいます。



若君は唯の手紙に書いてあるとおり、唯に会いに来ますがどこにも唯の姿がありません。

若君は小平太を呼びつけ、唯之助がどこに行ったか聞きます。

小平太は若君が唯之助に会いに来たというのがわかりません。

唯之助を見たという者が、成之のところの坊主如古坊に担がれてどこかへ行ったと言います。

若君は兄上の名が出てきて胸騒ぎを覚えます。急いで成之の屋敷に向かいます。



成之の屋敷では、唯が目を覚まします。

媚薬が効いているのか、唯は成之を若君だと思い違いしています。

「近う寄れ」

という成之の言葉に素直に従う唯は、小垣の寺で若君に言われた時のように、ぴったりと寄りそいます。



若君が成之の屋敷に到着し、中に入ると、唯が成之を見つめているのを目撃します。

若君は成之が唯を抱き寄せようとすると、少しムッとして、唯の腕をつかみ、グッと自分の方に引き寄せ唯を抱えます。

若君は成之に唯を連れて帰る了解をとると、成之の屋敷をあとにします。



唯は目の前にいた人が若君だと思っていたのに、腕を引っぱられ、抱きしめられた人の顔を見るとまた若君なのにびっくりしています。

若君に手を引かれ、どういうことかわからない唯は、正気に戻ります。

唯は若君に言うつもりだった大事な話をしようすると、若君から、

「たわけ!!」

と怒鳴られてしまいます。

唯はびっくりします。唯には若君が何で怒っているのかわかりません。




数日が過ぎます。

若君はぼんやりしています。

天野のじいが若君の様子を伺いに来ます。酒でもと若君にすすめます。

若君は酒をみつめ、小垣の寺でのことを思い出します。唯が酒を飲めないことを思い出します。

若君は小平太を呼び、成之の側にいる坊主如古坊をつれて参れと命じます。



唯はまだ若君が怒っている理由がわかりません。泣きながら庭でしょんぼりしています。

孫四郎がかまってほしくて、唯の背中によじのぼってきます。

唯はそれどころじゃないのにと言いながら、仕方なく立ち上がろうとします。

背中にいた孫四郎の重みが急になくなり、唯は振り返って見ると若君が孫四郎を肩車して立っています。

若君は唯にあやまります。呼びつけた如古坊から何もかも聞き出したのです。

若君は唯に少しだけ自分の気持ちをもらします。

明日は満月です。唯が現代に帰る日です。

若君は唯を見送ると言います。唯はすぐに戻ってくるのに、と言います。

すこし間を置いて、若君は唯に小垣の寺で会ったときの姿になってほしいと言います。

唯はオシャレしてデートだと、先程まで悲しみに暮れていたのがウソのように喜んでいます。




若君は成之の屋敷を訪れます。

成之は謀り事のすべてを若君に知られて、観念した様子です。

若君は頼みごとがあって来たと言います。小垣への先陣の役目を譲ってほしいと言います。

成之は羽木家を裏切った自分に殿が任せるはずがないと言います。

若君は今度の戦に勝ち、羽木家が生き残り、新しい年を迎えることができたら、羽木家の跡目を成之に譲りたいと父上に言上すると言います。

成之の顔色が変わります。信じられないと言い放ちます。

若君は静かに出陣する、この城と父上を頼みますと言い席を立ちます。

成之は若君を引き止め、なぜだと尋ねます。

若君はもう戦はしたくない。戦に出ぬ大将など無用でしょうと言い、去っていきます。




唯は城下の市場の北にある猿楽一座「一笠座」の娘あやめに会いに行きます。あやめに小垣の夜のようにまた女の装いにしてほしいと頼みます。



夜になり、唯は若君を待ちます。あやめに言われた通り女らしい振る舞いに気をつけています。

若君がやって来て、唯の姿を見ると、

「ハハハハ 確かにあの時のふくじゃ」

と笑います。唯は着物を着て女らしくしているから、そういう反応はおかしいんじゃない? と心の中で思います。

若君は人目についてはやっかいだというので、峠まで行こうといいます。

唯は若君の愛馬吹雪の引き手綱を持ち、駆けていきます。

若君はしばらく沈黙して唯が走っている様子を見ていると、

「待て待て これではあまりに様にならん」

と、唯の手をつかみ、持ち上げ、自分の前に座らせます。

唯は興奮しています。夢に見ていた状況なのかもしれません。



若君は峠までの道のりで、今度の戦の先陣を務めることになったこと、戦で必ず敵を止めて守り通し、生きて新年を迎え運命を変えてみせると言います。若君が歴史を変えることができたかどうか、唯に現代に戻って見ていてほしいと言います。

唯は若君の言い方に不自然さを感じます。唯は戦には自分も一緒に行くのに何を言っているんですかと返します。

若君には唯の言葉が何よりうれしそうです。

唯は、

「絶対若君を守ってみせます。そのために来たんですから」

顔を赤らめて、拳をにぎり、言います。



そろそろ時間です。

先に馬から降りた若君は唯をじっと見つめながらそっと抱きかかえるようにして降ろします。

唯は若君があまりに見つめるのでここでも何かおかしいなと感じます。

若君は唯が怪しんで現代に戻るのを拒むと困るから、

「戻って来る時は 今度こそ 腹を決めて参れよ」

と名残惜しさと本心を隠そうとします。

若君は唯にむこうに帰ってから読んでくれと文を渡します。

唯はラブレターだと信じ、むこうに行ってじっくり読もうと、懐剣を抜きます。

若君は用意していた言葉があったみたいで、唯が何のためらいもなく懐剣を抜いたので、慌てて言います。

若君の前から唯の姿が消えます。




現代では尊と両親が若君を戦国時代に送ってすぐ唯が戻ってくることになります。

唯はあやめに着物を着せてもらい、カツラをかぶせてもらったので、戻ってすぐに家族は唯かどうかはわからなかったようで、振り向いて唯の顔を見てようやく安堵します。



唯は家族に来月戦国時代に行ったらもう帰らないからと言います。

尊は来月はもう戦国時代に行けない、燃料がからっぽで今回戻ってくるのが最後なんだと言います。

尊は唯に若君には説明したのに聞かなかったの?と聞き返します。

唯は唖然とし、驚き、怒り、青ざめます。

唯は若君からもらった手紙を思い出し、読もうとします。しかし、昔の字体で書かれている文字は唯には読めません。

お隣の向坂先生が尊の実験室に入ってきます。

向坂先生は大学の名誉教授で専門は日本古典文学なので若君の文を読むことができます。

尊は向坂さんが若君が羽木九八郎忠清なのではないかと思っていたことに驚いています。

唯は若君がじいと呼んだ人物がお隣の口うるさい向坂さんのことだと判り、若君の文を早速読んでもらいます。

文の内容は、唯が現代に帰る直前に若君に感じた不自然さが全部理解できるものです。

唯はもう二度と若君に会うことができない悲しみで泣き崩れます。




翌日、唯は学校に行きます。友達は唯が学校に1か月ぶりに登校してきて体調を心配しています。

唯は悲しみを引きずっていて魂が抜けた状態です。

友達は唯のしおらしい様子に病気だったんだと納得します。



唯にいないひと月の間にいろいろ変わっています。

席替えがあり、転校生がやって来ています。

唯の席の隣に転校生がいて、転校生が唯に挨拶してきます。

転校生は高木邦彦という男の子です。彼は唯に興味があるみたいで話しかけます。

唯は相槌を打つだけで、高木に関心がありません。

唯は部活には行かず、まっすぐ黒羽城跡に向かい、石垣を見つめ若君を思います。

唯は高木から声をかけられます。

高木はなぜかはわからないけれど黒羽城跡が好きだといいます。

唯は高木がもしかしたら若君の生まれ変わりなのではと考えます。




唯は帰宅し尊に若君の生まれ変わりを見つけたと言います。

話を聞いて尊は唯に若君の生まれ変わりだと決めつけるには材料が足りなすぎると言おうとするのを遮って、母親が、

「早く見つかってよかったね」

と言います。母親は唯が若君のことを何かでまぎらわせるなら、今は何だっていいと思っています。




翌日、唯は友達に高木に告白すると言い出します。

友達は1か月ぶりに学校に来た唯が以前とは様子が違うことを心配しているのに、次は告白すると言い出し、別人ぶりに驚きます。

唯は高木を若君の生まれ変わりだと思いこんで、若君に会えない辛さをまぎらわせようとするけど、若君の生まれ変わりだと思い込める大前提の根拠がなくなり告白をやめにします。



唯は帰り道、唯がいなかった1か月の間に若君に一目惚れした女の子に出会います。

女の子は唯を姉か妹だと勘違いして、忠清さんにケーキを作ったのでみなさんで食べて下さいと気合の入ったケーキを唯に手渡します。

唯は家で手渡されたケーキを見ると、豪華なケーキでどうしたらこんなケーキを渡さるのかと想像すると怒りがこみ上げてきています。

唯は若君がいなかった戦国時代での1か月の大変さを思い出し、もう怒ることのできない若君に激怒しています。

唯は尊が若君は全く興味なさそうだったよと言っても、唯が見た女の子が可愛い感じの子だったので、若君は少しくらいは興味があったはずだと尊の言うことを否定します。

尊が若君と交わした話をして、ようやく唯の期限は直ります。

よく考えてみると唯は若君にもう会えないのだから、若君のことで機嫌を悪くしても仕方ないと、気分を上げ下げしている自分を反省します。

唯はふとあることが頭に浮かびます。燃料切れと言ったタイムマシンの燃料って何? ということです。燃料が溜まればまた若君のところに行けるんじゃないの? と尊に聞きます。

尊は燃料ができるのは3年後だと言います。

唯はそれまで待ってる、燃料ができたらすぐ戦国時代に行くと言いいます。

唯の決意に尊は燃料が完成して戦国時代に行っても若君がもういないかもしれないと言おうとしたら、母親が入ってきて、尊の代わりに若君の身に起こるかもしれないことをはっきり唯に言い、燃料が完成しても戦国時代には行ってはいけないと言います。



新しい年を迎えます。

唯は初日の出に若君の無事を祈ります。

唯は若君が、

「必ず生き抜く 見ていてくれ」

と言ったことを考えます。

どうすれば見ることができるか考えます。

唯は若君の無事は、学校で歴史の木村先生から知らされます。

羽木家は滅亡せず、永禄三年を迎えたというのです。

若君は歴史を変えたのです。証拠というのが、松丸義秀から羽木忠高に宛てた手紙だと言います。

手紙の日付が永禄三年の四月。この新たな発見はまるで歴史が変わったみたいだと木村先生は言います。

唯は若君が約束したとおり運命を変えたことに喜びます。

喜んだのもつかの間、唯は手紙の内容にひっかかります。

縁組という言葉です。分からず木村先生に聞くと、羽木忠清と松丸家の姫との結婚話だと言います。

唯はおふくろ様が言っていたことを思い出します。

「若君様は松丸家の阿湖姫様とご婚約されておったが 羽木家と高山の間で戦が起こった時 ご縁組の話もなくなったそうじゃ」

唯は松丸阿湖という姫がいたことを思い出します。

歴史が変わったということは、なくなった話が復活するということです。

鐘ヶ江の娘ばかりに気を取られていて、すっかり松丸阿湖のことを忘れていた唯は、最大の危機になんとしても早く戦国時代に行かなくてはとあわてます。

続きます。



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