2016年6月14日火曜日

志村貴子 放浪息子 12巻

多感な少年少女の不安定な気持ちが成長とともに変化していきます。



中学校生活最後の文化祭です。

ちーちゃん(更科千鶴)はお化け屋敷の模擬店で入場者を怖がらせるために張り切ります。巻末のおまけマンガでモモ(白井桃子)とたのしそうに予行演習する風景がちーちゃんってこんな子なんだろうなと思わせてくれます。

3年2組、シュウ(二鳥修一)や高槻くん(高槻よしの)のクラスの出し物はファッションショーです。

男の子の服を着たいという気持ちが薄れたわけではなく、男の子の格好はしたいけれど、男の人から女の子らしいとか、かわいいなと意識されたいと思う一面が芽生えるという変化が生まれました。

そういう自分の感情にすこし戸惑う高槻くん。一度だって女の子の服を着たいだなんて思ったこともなかったのに、気になる人に女の子としてかわいらしい面を見せてどぎまぎさせたいという心が生じたのかもしれません。

シュウは変わりなく、ひたすらにかわいらしい女の子の格好をしてかわいいと、言われたい、思われたい、と、その姿勢は揺らぐことはありません。

3年2組のファッションショーは司会進行を担任の兼田先生が務め、生徒が緊張した面持ちで、男の子たちは恥ずかしそうに、女の子は自信があるのか、華やかさに視線を集中させ、ショーを盛り上げています。

シュウと高槻くんの出番を見ようと駆けつけ、ユキさんとしーちゃんがギリギリ間に合います。スポットライトを浴びたふたりの姿はとても可愛らしく、ユキさんは一瞬言葉を失ったような表情を見せます。 高槻くんと手をつないでステージを歩くシュウは、女の子の格好をしている自分を見られることが気持ちよさそうです。

周囲の音が一切耳に入ってこないこのひとときを楽しんでいるようです。

高槻くんは慣れない化粧もして、注目を浴び、緊張しっぱなしみたいです。自分の思い描くイメージをつくりだせてさおりん(千葉さおり)も満足そうです。

日頃から抱えていた思い、ひどい目にも遭ったけれどファッションショーのステージによってひとつの区切りをつけられたシュウでした。

クリスマス。 昼間はユキさんとしーちゃんとシュウと高槻くんの四人でお祝いします。

ユキさんとしーちゃんからシュウと高槻くんそれぞれへのクリスマスプレゼントに驚きます。

ユキさんたちと別れ、帰り道に兼田先生の家族とばったり出くわすシュウと高槻くん。兼田先生の奥さんが男の子と女の子がふたりで歩いているからてっきりデートだと思い、口にすると、高槻くんは兼田先生に会ってドキドキしているうえに、デートだなんて言われて冷静さを失い、大きくなってしまう声で必死にデートじゃないと否定します。

そのことが余計にデートしているところを見つかってしまって照れているように感じられてしまう兼田先生と奥さんと、高槻くんが兼田先生に誤解されないように弁解しているように感じられるシュウ。高槻くん自身は何にあたふたしているんだと思っているのかもしれません。

ところで、安那ちゃん(末広安那)とシュウはどうなったんだろかと思っていたけれど、なんだか元に戻ったようです。

安那ちゃんは華やかな業界で仕事をしているのに落ち着いているというか、冷静というか、自分の中にしっかりとしたものを持っているなって思わせます。

シュウの自宅ではお父さんがひとり、そわそわと落ち着かない様子です。クリスマスを家族でお祝いするのに真穂(二鳥真穂)の彼氏である瀬谷(瀬谷理久)が来るというので娘の父親として若干緊張しているようなのです。

真穂が瀬谷とふたりでクリスマスを祝うと言ったら、夏の海のときのように反対され、それなら家に連れてくるという話になったんじゃないかと想像します。もしかして、真穂は最初から瀬谷を連れてくる気だったのかもしれません。渋々承諾した父は、この日が来るのがとても憂鬱だったにちがいありません。前々日くらいからため息ばかりついていたんじゃないでしょうか。なのに真穂ときたら、きもいとかゆって。ちょっとかわいそうな二鳥父でした。

さおりんはお母さんとフミヤ(二宮文弥)から誘われた教会のクリスマスミサ会に参加します。フミヤはこの日、大きな決意をしてさおりんを待っていたみたいです。

花束を贈り、受け取ってくれれば、さおりんにクリスマスプレゼントとして用意していた指輪も贈るつもりでいたのでした。

受け取ってもらえる確率なんて絶望的なくらいゼロに近いはずだとわかっていて、それでももし受け取ってもらえたなら、気持ちを伝えようと彼は計画を練っていたんだろうな。フミヤにとって、さおりんの返事は目から涙が溢れるほど嬉しいもので、フミヤにとって最高の聖夜となりました。

年が明け、初詣。 高槻くんはもしかしたら、また偶然出会うかもしれない、と兼田先生の姿を探してしまいます。

ささちゃん(佐々かなこ)に探している様子に気づかれてしまった恥ずかしさから、ささちゃんの気になっている人の名を出してしまうあたり、じゅうぶんに恋する女の子になっています。

ひとり静かに手を合わせているシュウは何を思っているんだろう。

バレンタインデーではシュウの安那ちゃんに対する愛情の表現と安那ちゃんのシュウの言葉に反応するポイントがかわいらしかったです。

入学試験を終え、手応えを感じた人もいれば、結果が出るまでわからないというひともいて、不安な時間を過ごし、結果発表、そして、卒業を迎えます。

シュウだけが叶わず、すべり止めで受けた高校に進学することになります。そのことでやる気を失い、やけになって思いついたのか、いつか挑戦してみたいと思っていたのか、大胆なイメチェンを行います。

シュウの頭を見た真穂のツッコミと涙を流して笑う姿が面白いです。

シュウは赤毛のアンをイメージしてのカラーリングのようです。姉に笑われ、安那ちゃんに笑われ、ユキさんにびっくりされます。シュウのあまりのかっこよさにちーちゃん(更科千鶴)の心にグサッと刺さるような衝撃を与えた中学生最後の集まりは全員の記憶に残っただろうと思います。

初恋らしきものを経験した高槻くんはこれからの人生にどう影響していくんだろう。

カラオケルームでさおりんがシュウと交わした会話は、さおりんはシュウのことをどれくらい覚えているだろう、忘れずにいるだろうと考えてしまいます。

ドライなさおりんが唯一感情を揺さぶられる存在のシュウへの思いがどうなっていくかも楽しみです。

高校生活が始まります。仲の良い友達とは別の高校に通うことになり別れ別れになります。

さおりんは高校入学を機に自身を変えなくては、と思ったようで、積極的にクラスメイトに接しようと頑張っています。

ぱっと見たときの可愛らしさは備えているので、ほんの少しだけ笑顔になるといいよというフミヤの助言は的を得ています。さおりんのことになるとフミヤは優しすぎる存在になっているなと思います。

高槻くんを初めて見た人は、男の子に見えてしまうのかな。以前さおりんの言ったように、ボーイッシュな女の子にしか見えないと思うんだけどな。

シュウは高校入学と同時にバイトを始めるつもりでいたらしく、まず最初にユキさんのところへ行きます。

ユキさんはシュウが自分のところにやって来ることはわかっていたようで、シュウに対して大人の立場で諭します。

シュウはガッツがあるというのか、ダメに違いないけれど挑戦してみようという行動力がたくましいです。女の子の制服での登校や文化祭のファッションショーの経験で吹っ切れたようです。

シュウがバイトを始めるときかされたマコちゃんは、なくてはならないことのように、シュウがバイト先で着用するだろう制服の姿を想像するので、これからどうなっていくんだろうと心配になってきます。

バイト先で、おじいちゃんに手を握られるシュウの表情が面白かったです。うれしそうなおじいちゃん。人は見た目がすべて。なんかそう思ってしまう場面でした。いつまでこのバイトを続けていけるのでしょうか。シュウが喫茶店の看板娘になる、なんてことになりはしないでしょうか。



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