2016年6月30日木曜日

入江亜季 群青学舎 1巻

●異界の窓

まぼろしだったの?何だったの?という話でした。

隣りの席に座る山背(やましろ)くんという名前の男の子がいたはず。話しかけられたのも覚えている。だけど、クラスの誰も、先生さえも山背くんのことを知らない。どうも大森くんにだけ見えているようです。

きつねのしっぽに似たものが生えている少年は人間の世界に興味を持ち、からかいに来たもののけの類か。それとも、大森くんだけが見た幻想なのか。一面ツタで覆われた教室は違うのか、違わないのか。物語がもう少し長ければなと思いました。



●とりこの姫

心と態度は裏腹という話でした。

泣かされたと騒ぐ女の子がたくさんいる。

町で見かけるたびに違う女の子を連れている。

学校ではこんな噂で有名なクリス。

マリオンはそんなクリスを、あまりに人気がある彼が一体どんな人なのか気になって、見ているうちに好きになってしまいます。

いいかげんで、気をもたせるばかりなのに、クリスの誘いを断る女の子はいません。それなのに、どうして自分まで他の女の子のようにクリスを好きになってしまったんだろうと、マリオンは許せなさとくやしさとそれでもこみあげる好きだという気持ちがごちゃまぜになっています。

クリスのテンポになんか乗らない。あくまで強気にそして冷静に。言いたいことは言うんだ。と自分に言い聞かせてクリスと友人たちがいるカフェにマリオンは挑んだんだと思います。

クリスの相手を見透かしたような余裕を感じる態度に負けないというマリオンの強い態度気が面白かったです。

彼女の思惑は失敗したかもしれないけれど、いままでにない反応をする女の子に奇妙な感情が生まれ、クリスに変化が起こったので、「after story」以降のクリスとマリオンは学校でも有名なカップルになったんじゃないかなって思います。



●先生、僕は

さえないとか、若くて美人だったら言うこときいてやるのにとか言ってたのに、

「よかった」

と微笑む先生の表情に宇佐美くんがドキッとしまう話。

もう一度先生の微笑んだ表情が見たいと思う宇佐美くんはなんだか大人だなって思いました。



●花と騎士

ユリアナにとってはショックな話です。王族なのに姫なのに下女扱いされ、

「おぬしのことか どうりで」

と、女なのに男だと思われ、頭にきて、自らの手で相手をのしてしまいます。

侍従たちの策略が見事に成功したのに喜べない王女が面白かったです。



●ピンクチョコレート

ほれ薬を発明し、効果を試すため所員の男女がほれ薬を飲むという話。

作ったのはほれ薬ではなく、気持ちが素直になる薬だったのかな。都は何も覚えてないのに、春日くんははっきりと覚えているのは、都にはほれ薬が効いたということなのかなと思いました。



●森へ

静かな森を歩く老婆。自然の恵みをいただき、お地蔵様に感謝しお供えをします。

森が感情を持ったように雨を打ちつけ、雷が響くなか、抗うことなくただじっと待ち続けます。

再び森は静かさを取り戻し、そこに住むいのちが活動を始めます。

歩く老婆。別の場所にお地蔵様を見かけます。

よく見ると、お地蔵様の足元に先ほど老婆が供えたおむすびの笹だけがありました。

口元にはいくつかの米粒がついています。

静かに手を合わせる老婆。

森を守る神々に感謝の気持を捧げます。



●白い火

優等生一条漣子と問題児藤間一彦の話。

人に話せない事情を抱え、たびたび藤間にお金を借りる漣子。

壁をつくるような冷たい漣子の態度に、

「お前俺に会いに来てんの?金借りに来てんの?」

と、隠していることが何なのかわからず、つい、藤間は漣子に訊いてしまいます。

漣子には訊かれたくないこと、いいたくないことがあります。

借りようとしたお金を藤間につき返し、

「なんとかするから大丈夫」

笑顔で告げるが、すぐにどうにもできず藤間に頼ってしまいます。

自分がなんとかしていかなくてはいけない。だけど、誰かに頼りたい。そんな漣子の抱える事情を藤間が知ったときに漣子にいったセリフがよかったです。我慢しなきゃと自分に言い聞かせ、仕方ないとあきらめる。こらえるしか選択肢がないと思っていた漣子のどん底の思いに光がさします。

「なんで言わねえんだ ……お前はもっと賢いと思ってた」

はやく気づいてやれなかった藤間の気持ちが強く握っていた漣子の手首の痕から感じられます。事情を話そうと決意し、藤間の家を訪れ、中から女性が出てきたときのことを思い出す漣子。いろんな感情があふれだし、涙がこぼれます。

感情のままに涙し、甘えることができ、安らげる場所を見つけた漣子。これからずっと幸せでいてくれればいいなと思いました。



●アルベルティーナ

看板娘のわたしに何も感じないなんて許せない!という話。

父娘で営むカフェ、アルベルティーナ。

看板娘ティナはその指先にさえ視線を集めるほどの色気のある美しさで、彼女目当てに連日多くの男性客がこの店に訪れます。

客たちは飲み物を何杯もおかわりし、ティナが近くを通るたびにデートを申し込んだり、すこしだけでもおしゃべりしようと誘うのですが、どれもさらりとかわされてしまいます。

ティナにはひとつ気に食わないことがあります。それは男性客の中のひとり、ブットシュテットという先生のことです。

アルベルティーナにやってくる男性客はほぼティナ目当てでやって来て、ティナの振る舞いひとつひとつにそわそわし、魅了されているのに、ブットシュテット先生だけはティナを気にかける素振りも見せません。

新聞を読み、珈琲を一杯飲み終えると店をあとにします。

ティナのほうから話しかけてみても、素っ気ない短い言葉しか返ってきません。

カフェにやってくるありとあらゆる男性は自分を目当てにやって来ているというのに、ブットシュテットだけはまったく関心を示さないことが許せないティナ。

自分がモテないと店は終わってしまうと断言するティナはブットシュテット先生を自分に振り向かせようとします。

簡単なことだわ。

そう考えていたのに思ったようにいかないティナ。ブットシュテットの無関心な様子に、次第に彼を目で追うようになっていきます。

ブットシュテットの素っ気なさが気に入らないのは、ティナが彼のことを気に入っていたからなんだと思わせる、店にやってくる男性客の数が減っても構わないという、ティナの台詞が大胆でした。

この短編をブットシュテットの視点から想像するのも面白いです。

アルベルティーナは珈琲を飲んで新聞を読むためだけにやって来るにはにぎやか過ぎるはずなのに、常連だとわかるくらい来店しているのは、きっとティナがいるからなんだと思います。

ただ、他の男性客のようにティナに話しかけるのは苦手なようで、黙々と新聞を読んでいます。

いつものように新聞を読んでいる隣にティナが座ったのには驚いたはずです。

記事を追う目は固定して動かなくなり、全神経を隣りに座っているティナに集中していたと思います。

伸びてくる手にすぐ反応できたのもそのせいだと思います。

目が合ったとティナが感じたとき、ブットシュテットも彼女と同じように感じて、気恥ずかしくなってカフェに通うのをためらってしまったのが、ティナには逆の効果があったようです。

店の前を通ることはあるけど、閉店したあとじゃないと使わないことにしていたのか、たまたま忙しい日が続いて、通るときは店が閉まった遅い時間になっていたのか。

ふと振り返ると、傘を持ったティナが立っていたのは意外な出来事だったと思います。

約束を果たすという口実でアルベルティーナにやってきて、いつものように新聞を手にとり、席について広げて読もうとしたら、背中に気配を感じて、肩のあたりから手が伸びてきて新聞を取り上げられ、それだけでもドキッとするのに、その上ドキッとするような格好で話しかけられ、そのことを指摘すると、どぎまぎするようなことを言われるブットシュテット。

一体、なにが起こったんだろう?と思ったにちがいありません。

翌日、ブットシュテット先生はどんな顔でアルベルティーナにやって来るんだろう。面白い物語でした。



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