2015年7月26日日曜日

新川直司 四月は君の嘘 8巻

有馬公生(ありまこうせい)は音楽科のある高校に進むことを決めました。自宅から通えないので家を出ると澤部椿(さわべつばき)に告げます。これからは隣にいられないかもしれない。椿は動揺します。
椿は公生が元気になってくれるなら嫌いなピアノを弾いてくれていいと思っていたのに、ピアノで公生が元気になってくると、幼い時にピアノのせいで公生と遊べなかった記憶とともに、ピアノがあるから、音楽なんてあるから、公生が自分から遠ざかると感じます。
音楽を嫌い続けてきた思いがよみがえり、今度また音楽が公生を自分から遠いところへ連れて行ってしまうと感じ、椿は公生のことをどう思っているか気づきます。
動き出した時間はもう止まることはありません。
椿は公生なんかどこかへ行ってしまえ、どこでも好きなところへ行ってしまえ、公生にピアノを教える先生も、公生がピアノを弾くきっかけになった宮園かをり(みやぞのかをり)にもおさえようのない思いがわいてきます。
まわりの人たちは何かを求めて前に進み始めている。椿は今のこの時間がいつまでも続いてほしいと望む一方で、このままではいられないこともわかっていて、それじゃあ自分はどうしたらいいか、答えがでてきません。


二学期になりました。
宮園かをりの姿はまだ学校にありません。
公生はお見舞いに行きたいけれど、かをりにとって友人Aがどんな接し方をすればいいかわからなくて悩んでいます。
公生はお見舞いに行く理由、かをりに会う理由、行かなかった行けなかった理由を探し、病院の前まで行って足が止まってしまいます。
公生は病院の前まで来て、かをりのお見舞いには行かず、重い足取りで瀬戸紘子の家に向かう途中、一人の女の子に出会います。
その女の子は木の上で公生を待ち伏せていました。木から落っこちて気を失い、公生に助けられます。
公生は女の子を紘子の家まで連れて行きます。女の子が意識を取り戻し、目の前にいる人が瀬戸紘子だということがわかると、自己紹介もそこそこに弟子にしてくれと頼みこみます。
女の子は藍里凪(あいざとなぎ)といい、音楽系の名門、胡桃ヶ丘中学校音楽科1年生です。
紘子は凪にピアニストならピアノで私をその気にさせてみて、と何か弾いてみるよう促します。
凪は公生が毎報音楽コンクールで弾いた曲、エチュードのOp.25-5を弾きます。
凪のピアノはなかなかのもので、紘子はレッスンを許可します。


紘子は凪の資料を取り寄せて、凪の素性を知ります。
資料を見てる紘子のそばで娘の小麦がつみ木で遊んでいます。小麦は球の上につみ木を乗せようと頑張っています。
どんなに慎重につみ木を重ねようとしてみてもうまいくいかないのになと思ってこのコマを見ていておかしくなりました。


凪のレッスンが始まります。
紘子は凪のレッスンを公生に任せます。公生の指摘は細かくて、紘子も苦い顔をするほどでした。
凪は公生に対して納得のいかないことは反論します。凪は勝つためのレッスンを望んでいます。
公生は譜面は神じゃないよ、完璧でもない、人間が生み落としたとても感情的なものだ、楽譜の指示通り絶対に守れってことじゃないと凪に言います。
公生と凪の主張が混ざり合ってどんな音楽になっていくのか楽しみです。


藍里凪はくじけるという経験がなく、コンクールでは優勝、指導者からはほめられ、他の演奏者からは求愛、デートの申し込みが途絶えたことがない人気者です。
凪自身かなりのものだという自信もあるようです。
そんな凪を、公生は遠慮することなく、ただピアノの演奏に関して徹底的に悪い点を指摘し続けます。レッスンはけっして手加減しません。
レッスンを終え、肩を落として帰る凪の後ろ姿をみると、公生はすこし厳しすぎたかもしれないと反省し、紘子に相談してみます。紘子は公生にこのままでいいと言います。
凪は怒られることに慣れていません。公生の細かすぎる指導についに頭がパンクし、紘子の家を飛び出してしまいます。
厳しい指導も、弟子のケアも公生の役目です。
凪をケアしているつもりが公生もまたケアされている、神社での二人の会話が好きです。


公生は今度こそお見舞いに行こう、カヌレを持って。そう決心します。
お見舞いの品も買ったし、かをりの伴奏者なんだし、と自然に、特別な気持ちではなく、お見舞いに行くのは当然のことだと、かをりに会う理由を何度もくり返し自分に問いかけます。
公生はかをりが入院している部屋の前まで来ました。ノックしようとすると、中から声が聞こえてきます。渡がお見舞いに来ていました。
会話が盛り上がり楽しそうな空気が伝わってきます。公生は二人の間に入るなんてできません。
公生はかをりの顔を見ることなく、病院から出てきてしまいました。お見舞いに買ったカヌレを自分で食べながら帰ります。

かをりの両親は洋菓子屋なのでカヌレなんて買ってしまって、友達を好きな女の子を好きになるなんて、と公生の気持ちは沈んでいきます。
携帯に知らない番号の着信がありました。公生はおそるおそる通話ボタンを押すと、相手はかをりでした。
公生があきらめなくちゃと思うと、近くに現れ、近づこうとすると、プイッ遠くに行ってしまう。傷つけばその痛みを分ち合おうとするようにすぐ近くで勇気をくれる。公生はそんなかをりの姿さえ愛おしく感じています。


かをりの病気は悪いようです。ガラコンサート前日、もしくは当日にかをりに起こったことが描かれています。もう戻ってこれないと感じさせる展開です。あまりに冷静なかをりが不安な気持ちにさせます。
かをりが元気な女の子で、どんなふうに公生との関係を築いていくのかなと思い読んでいたのに、かをりのヴァイオリンと公生のピアノの共演はもう聴けないんじゃないかと思えてきました。この展開イヤだな。


ある日の午後。ふいに公生はかをりの声が聞きたくなりました。病院に行こうか。それとも電話しようか。つらつら思いながら学校を出ると、公生の目の前にかをりが立っていました。
かをりは公生にまた渡の代役を頼みます。
今回は食べ物ではなく、買い物につきあうことになりました。見るものすべて購入し、公生の役割は荷物持ちです。
公生はかをりがとても元気に見え、ホッとします。
今日から学校に通えるようになったんだと思っていたのに、違っていました。かをりは公生に一日だけ外出の許可をもらえたのだと言いました。
公生はせっかくの一日だけの外出を渡ではなく、自分に使わせてしまったことをかをりにあやまります。
かをりは今日のことを忘れない、と言います。
やっぱり君でよかった、と言います。
無理して一日外出したのは、渡に会うためじゃなく、お見舞いに来てくれない公生に会いたかったからなんだと思いました。
帰り道、どうしてかをりは泣いていたんだろう。


渡、椿、柏木、公生とそろってかをりのお見舞いにやって来ました。かをりは元気そうで、公生が約束したカヌレを買ってきてくれなかったことに文句を言っています。
柏木が小さな爆弾を放り込みます。
「中学1年の女の子にピアノを教えているんだって」
渡、椿、かをりが知らない情報で、それぞれ思い思いの言い分を公生にぶつけます。
かをり
「なめとんかー」
「女にうつつをぬかして約束ホゴか!?」
「見損なったぞ 友達だと思ってたのに!! 紹介しろ!!」
椿
「なんで? なんで柏木がそんなの知ってんの!?」
責められる公生にさらに不幸がふりかかります。公生のソデにくっきりとキスマークがついていました。
柏木の小さな爆弾に公生がこてんぱんにやられてしまいます。
かをりが続けます。
「人に教えてる暇なんか 君にあるの?」
公生と言い合いになります。
もっと練習しなきゃ。時間がない。
かをりの様子は鬼気迫るものでした。
公生はかをりの様子があまりにも母の最後に似ていたので不安になります。


夜、公生は一人でかをりの病室を訪れます。
母とは似ていないことを確認するためです。
かをりのベッドの横には車椅子が置いてありました。車椅子の座面には一冊の小説が置かれています。三田誠広の「いちご同盟」です。
かをりは不安な表情を隠せない公生に言います。
「あたしと心中しない?」
続きます。


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