2015年7月30日木曜日

新川直司 四月は君の嘘 9巻

藍里凪(あいざとなぎ)は相座武士(あいざたけし)の妹でした。
武士は毎報音楽コンクールで公生が弾いたピアノによって、自分の進むべき道を見失ってい、スランプに陥っていました。
凪としてはどうにかして兄武士にエールを送りたくて有馬公生(ありまこうせい)のまわりをうろうろ偵察し、瀬戸紘子(せとひろこ)の弟子となって、兄の力になろうとしていました。


宮園かをり(みやぞのかをり)の放った一言は公生に相当な傷を負わせてしまいました。公生はなにも身に入らず、うつむいてばかりです。
澤部椿(さわべつばき)は公生とかをりの事情を知らないので複雑な思いを抱えています。
渡亮太(わたりりょうた)は公生にかをりのお見舞いに行こうと誘います。公生からはそっけない返事しか返ってきません。
「行かない」
渡は何度も公生を誘います。
「行かないってば!!」
公生が強い口調で誘いを拒むと、渡が公生を追いつめようとします。
公生はしゃがみこみ、両手で顔を覆いながら、先日の夜、かをりと交わした会話の一部始終を渡に打ち明けます。
「僕は何も言えなかった どんな言葉をかけたらいい?」
渡はここ数日、公生の様子がおかしいと感じていました。ようやく公生の抱える苦しみを知った渡は、やさしく自分の考えを伝えます。
公生は一人でカヌレを持ってかをりの病室にやって来ました。何を話せばいいか、言葉がでません。ただ、かをりの問いかけに短い返事で返すだけです。
公生にとってかをりの言葉は胸をしめつけられるほどつらいものでした。
公生はかをりに忘れることなんてできるわけがない、いろんな景色を見せてもらいました。なのに、かをりはすべて忘れちゃえばいいんだよと公生に言います。
公生にとって大事なかをりと見た景色を忘れろと簡単に言われたことは、動揺を通り越し、怒りに変わっていきました。
弱気になったかをりに、買ってきたカヌレを公生自身が平らげてしまい、
「いじけた奴に喰わすか カヌレがかわいそうだ!!」
「君は無責任だ そんな奴もう知らん!!」
公生は言いたいことを言って、病室から出て行きました。
かをりにとって、お見舞いにやって来る人は優しく励ましてくれる人ばかりだったと思います。
かをりは突然怒って言いたいだけ言って帰ってしまうお見舞いなんてみたことがなかっただろうから、公生の意外な行動に吹き出して、弱気だった心がいくぶん元気になったと思います。


公生はたくさんのものをくれたかをりに何かしてあげたいと、あることを思いつきます。
公生は凪に彼女の通う中学校の学祭「くる学祭」に自分を出してほしいと頼みます。
凪は公生の申し出に驚きはするものの、すんなり承諾します。


その日から凪の生活は一変します。目標ができてレッスンにも力が入ります。演奏する曲目が決まり、くる学祭に向けて猛練習の日々です。


公生の音が日を追うごとに変わっていき、凪は公生の音にふさわしい音を出せるよう必死で追いかけます。技術が足りなくて、開いていく差を縮めることができません。
凪は耐え切れなくなり、紘子に家でこらえていたものがあふれだし、トイレにこもってしまいます。
紘子は公生のときと同じ失敗をくり返してしまったと悔やみます。紘子は凪を説得して抱きしめます。紘子は凪に演奏家なら誰もが感じる怖さ、怖さを乗り越えた先に待ってるもの、努力が報われる瞬間があることを話します。


「くる学祭」当日。
緊張する凪とそれをほぐそうとする公生の場面がとてもいいです。
公生が凪に「くる学祭」に出してほしいと頼んだ理由はかをりのためでした。
凪は公生の覚悟に何か変わるかもしれないと信じ始めます。
出番がやってきます。
出だしは最高の入りで、凪は安堵します。公生はすでにいつもと違っていて、ピアノの音が聴こえてくることにすら、自分の集中が足りていないと感じ、より集中を高めようとします。
公生の音が変わります。
いつも公生の音を近くで聴いていた凪でさえも背筋に緊張が走るほどの変わり様でした。
凪は公生の音にすくんでしまいそうになります。
くる学祭での主役は凪で、公生はあくまでサポートという位置づけなのに、公生の音は凪にガンガン圧をかけてきます。
必死に練習した日々は無駄にはなりませんでした。練習のときとの違いに圧倒されそうになりながら、凪は一歩踏み出します。


ありったけの君で 真摯に弾けばいい


凪は直前に公生に言われたとおり、ありったけで弾く覚悟を決めます。
必死に公生の音に喰らいついていきます。
凪を知る人は皆、驚きを隠せません。
凪自身も感じています。必死になってピアノと向き合った時間は無駄ではなかった。すべての時間が生きている。
凪は兄の武士から聞いていた公生というピアニストに抱く印象が変化します。
会場にいる観客が完全に二人の音に支配されています。
凪にとって公生との演奏は兄武士への思いが込められています。今では、陳腐ですと言っていた公生の言葉を信じています。
武士は観客席から凪の演奏を眺めている自分に問いかけます。武士はピアニストがいるべき場所を凪に教えられました。
演奏が終わり、凪はやり遂げた手応えを感じます。公生にあいさつだよとうながされるまで、その感覚を全身で感じているようです。
立ち上がり、観客のほうを向くと、歓声と悲鳴が巻き起こり、これまでに見たことのない風景が凪を待っていました。
凪は紘子の言うチャラになる瞬間というものを体験しました。
凪の公生を見つめる表情が笑顔でよかったです。


公生はこの演奏を渡に、携帯でかをりに聴かせてほしいと頼んでいました。
病室で受話器越しに聴こえてくる公生のピアノ。かをりは静かにベッドで聴いていました。
公生の音が変わり、それに触発されるかのようにかをりは立ち上がり、ヴァイオリンを構える姿勢をとり、頭の中に音をイメージして指を動かし始めました。


公生のピアノはかをりを動かしました。
武士も立ち止まることをやめ、あがいてみる決意をしました。


後日談が面白かったです。
ガラコンサートで公生のピアノに刺激を受けたヴァイオリニストの三池俊也は、凪と同じ中学校の生徒で、くる学祭の公生と凪の演奏を当然彼も観ていました。
三池と凪はこれまで接触することはありませんでした。突然三池から凪を呼び止め、公生との関係を探ってきます。
凪にとってはもう当たり前のことが、三池にとって羨ましくてたまらない。くやしい思いを凪にぶつける三池が面白かったです。


病院の屋上での公生とかをりの会話は、ここでも公生はかをりとは音楽だけでしかつながっていないと思っているみたいだと思えました。


未練が生まれたのは君のせいだ
かをりの思いは不安にしかさせません。
続きます。


新川直司 四月は君の嘘 9巻
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2015年7月28日火曜日

青木琴美 カノジョは嘘を愛しすぎてる 6巻

リコ(小枝理子)、ソーちゃん(山崎蒼太)、ユウちゃん(君嶋祐一)の三人のデビューが決まります。
バンド名も曲も自分たちのアイデアは却下され、大人たちだけで物事が進んでいき、三人はおいてけぼりを食ったような気持ちになります。


リコに歌詞を書かせるのは誰のためなんだろう? リコのため? 歌を聴いたアキを刺激するため? 高樹に導かれているなと思います。
続きます。





青木琴美 カノジョは嘘を愛しすぎてる 6巻
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2015年7月26日日曜日

新川直司 四月は君の嘘 8巻

有馬公生(ありまこうせい)は音楽科のある高校に進むことを決めました。自宅から通えないので家を出ると澤部椿(さわべつばき)に告げます。これからは隣にいられないかもしれない。椿は動揺します。
椿は公生が元気になってくれるなら嫌いなピアノを弾いてくれていいと思っていたのに、ピアノで公生が元気になってくると、幼い時にピアノのせいで公生と遊べなかった記憶とともに、ピアノがあるから、音楽なんてあるから、公生が自分から遠ざかると感じます。
音楽を嫌い続けてきた思いがよみがえり、今度また音楽が公生を自分から遠いところへ連れて行ってしまうと感じ、椿は公生のことをどう思っているか気づきます。
動き出した時間はもう止まることはありません。
椿は公生なんかどこかへ行ってしまえ、どこでも好きなところへ行ってしまえ、公生にピアノを教える先生も、公生がピアノを弾くきっかけになった宮園かをり(みやぞのかをり)にもおさえようのない思いがわいてきます。
まわりの人たちは何かを求めて前に進み始めている。椿は今のこの時間がいつまでも続いてほしいと望む一方で、このままではいられないこともわかっていて、それじゃあ自分はどうしたらいいか、答えがでてきません。


二学期になりました。
宮園かをりの姿はまだ学校にありません。
公生はお見舞いに行きたいけれど、かをりにとって友人Aがどんな接し方をすればいいかわからなくて悩んでいます。
公生はお見舞いに行く理由、かをりに会う理由、行かなかった行けなかった理由を探し、病院の前まで行って足が止まってしまいます。
公生は病院の前まで来て、かをりのお見舞いには行かず、重い足取りで瀬戸紘子の家に向かう途中、一人の女の子に出会います。
その女の子は木の上で公生を待ち伏せていました。木から落っこちて気を失い、公生に助けられます。
公生は女の子を紘子の家まで連れて行きます。女の子が意識を取り戻し、目の前にいる人が瀬戸紘子だということがわかると、自己紹介もそこそこに弟子にしてくれと頼みこみます。
女の子は藍里凪(あいざとなぎ)といい、音楽系の名門、胡桃ヶ丘中学校音楽科1年生です。
紘子は凪にピアニストならピアノで私をその気にさせてみて、と何か弾いてみるよう促します。
凪は公生が毎報音楽コンクールで弾いた曲、エチュードのOp.25-5を弾きます。
凪のピアノはなかなかのもので、紘子はレッスンを許可します。


紘子は凪の資料を取り寄せて、凪の素性を知ります。
資料を見てる紘子のそばで娘の小麦がつみ木で遊んでいます。小麦は球の上につみ木を乗せようと頑張っています。
どんなに慎重につみ木を重ねようとしてみてもうまいくいかないのになと思ってこのコマを見ていておかしくなりました。


凪のレッスンが始まります。
紘子は凪のレッスンを公生に任せます。公生の指摘は細かくて、紘子も苦い顔をするほどでした。
凪は公生に対して納得のいかないことは反論します。凪は勝つためのレッスンを望んでいます。
公生は譜面は神じゃないよ、完璧でもない、人間が生み落としたとても感情的なものだ、楽譜の指示通り絶対に守れってことじゃないと凪に言います。
公生と凪の主張が混ざり合ってどんな音楽になっていくのか楽しみです。


藍里凪はくじけるという経験がなく、コンクールでは優勝、指導者からはほめられ、他の演奏者からは求愛、デートの申し込みが途絶えたことがない人気者です。
凪自身かなりのものだという自信もあるようです。
そんな凪を、公生は遠慮することなく、ただピアノの演奏に関して徹底的に悪い点を指摘し続けます。レッスンはけっして手加減しません。
レッスンを終え、肩を落として帰る凪の後ろ姿をみると、公生はすこし厳しすぎたかもしれないと反省し、紘子に相談してみます。紘子は公生にこのままでいいと言います。
凪は怒られることに慣れていません。公生の細かすぎる指導についに頭がパンクし、紘子の家を飛び出してしまいます。
厳しい指導も、弟子のケアも公生の役目です。
凪をケアしているつもりが公生もまたケアされている、神社での二人の会話が好きです。


公生は今度こそお見舞いに行こう、カヌレを持って。そう決心します。
お見舞いの品も買ったし、かをりの伴奏者なんだし、と自然に、特別な気持ちではなく、お見舞いに行くのは当然のことだと、かをりに会う理由を何度もくり返し自分に問いかけます。
公生はかをりが入院している部屋の前まで来ました。ノックしようとすると、中から声が聞こえてきます。渡がお見舞いに来ていました。
会話が盛り上がり楽しそうな空気が伝わってきます。公生は二人の間に入るなんてできません。
公生はかをりの顔を見ることなく、病院から出てきてしまいました。お見舞いに買ったカヌレを自分で食べながら帰ります。

かをりの両親は洋菓子屋なのでカヌレなんて買ってしまって、友達を好きな女の子を好きになるなんて、と公生の気持ちは沈んでいきます。
携帯に知らない番号の着信がありました。公生はおそるおそる通話ボタンを押すと、相手はかをりでした。
公生があきらめなくちゃと思うと、近くに現れ、近づこうとすると、プイッ遠くに行ってしまう。傷つけばその痛みを分ち合おうとするようにすぐ近くで勇気をくれる。公生はそんなかをりの姿さえ愛おしく感じています。


かをりの病気は悪いようです。ガラコンサート前日、もしくは当日にかをりに起こったことが描かれています。もう戻ってこれないと感じさせる展開です。あまりに冷静なかをりが不安な気持ちにさせます。
かをりが元気な女の子で、どんなふうに公生との関係を築いていくのかなと思い読んでいたのに、かをりのヴァイオリンと公生のピアノの共演はもう聴けないんじゃないかと思えてきました。この展開イヤだな。


ある日の午後。ふいに公生はかをりの声が聞きたくなりました。病院に行こうか。それとも電話しようか。つらつら思いながら学校を出ると、公生の目の前にかをりが立っていました。
かをりは公生にまた渡の代役を頼みます。
今回は食べ物ではなく、買い物につきあうことになりました。見るものすべて購入し、公生の役割は荷物持ちです。
公生はかをりがとても元気に見え、ホッとします。
今日から学校に通えるようになったんだと思っていたのに、違っていました。かをりは公生に一日だけ外出の許可をもらえたのだと言いました。
公生はせっかくの一日だけの外出を渡ではなく、自分に使わせてしまったことをかをりにあやまります。
かをりは今日のことを忘れない、と言います。
やっぱり君でよかった、と言います。
無理して一日外出したのは、渡に会うためじゃなく、お見舞いに来てくれない公生に会いたかったからなんだと思いました。
帰り道、どうしてかをりは泣いていたんだろう。


渡、椿、柏木、公生とそろってかをりのお見舞いにやって来ました。かをりは元気そうで、公生が約束したカヌレを買ってきてくれなかったことに文句を言っています。
柏木が小さな爆弾を放り込みます。
「中学1年の女の子にピアノを教えているんだって」
渡、椿、かをりが知らない情報で、それぞれ思い思いの言い分を公生にぶつけます。
かをり
「なめとんかー」
「女にうつつをぬかして約束ホゴか!?」
「見損なったぞ 友達だと思ってたのに!! 紹介しろ!!」
椿
「なんで? なんで柏木がそんなの知ってんの!?」
責められる公生にさらに不幸がふりかかります。公生のソデにくっきりとキスマークがついていました。
柏木の小さな爆弾に公生がこてんぱんにやられてしまいます。
かをりが続けます。
「人に教えてる暇なんか 君にあるの?」
公生と言い合いになります。
もっと練習しなきゃ。時間がない。
かをりの様子は鬼気迫るものでした。
公生はかをりの様子があまりにも母の最後に似ていたので不安になります。


夜、公生は一人でかをりの病室を訪れます。
母とは似ていないことを確認するためです。
かをりのベッドの横には車椅子が置いてありました。車椅子の座面には一冊の小説が置かれています。三田誠広の「いちご同盟」です。
かをりは不安な表情を隠せない公生に言います。
「あたしと心中しない?」
続きます。


新川直司 四月は君の嘘 8巻
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2015年7月24日金曜日

青木琴美 カノジョは嘘を愛しすぎてる 5巻

高樹総一郎(クリプレのプロデューサー)はアキ(小笠原秋)を育てるためには、何を犠牲にしてもいいとさえ思っているように見えます。


アキのリコ(小枝理子)に打ち明ける場面がよかったです。アキと知り合って少ししか経っていない時間の中で、思い出すアキの言葉。守ってあげるといったこと。そして、アキの過去。


その脇のほうでユウちゃん(君嶋祐一)が嫉妬しています。すべてが手遅れ過ぎます。
続きます。


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2015年7月22日水曜日

新川直司 四月は君の嘘 7巻

宮園かをり(みやぞのかをり)のいないガラコンサートの舞台で伴奏者である有馬公生(ありまこうせい)が一人でピアノを演奏しています。
公生のピアノの演奏は演奏家をも刺激します。
この日の主役、三池俊也(みいけとしや)も公生のピアノに迷いや不安を感じてしまいます。


演奏中、公生は様々な感情が込み上がってきて、音に感情が伝達していきます。どうして公生の母が公生にピアノに関して厳しかったか、子供に伝わらなかった母の思いが、公生と瀬戸紘子(せとひろこ)の回想によって明らかになっていきます。
公生はすべてが母の愛情だったことを知ります。公生はようやく母に別れを告げ、自らの足で歩き出す決意ができました。


公生の演奏は三池俊也に影響を与えます。三池俊也は周囲が自分ではなく宮園かをりの演奏を期待するので、すこしひねくれていました。かをりへの嫉妬が公生のとんでもない演奏につながり、三池俊也をも成長させます。覚悟して舞台に立ち演奏する姿がかっこいいです。


ガラコンサートに来られなかったかをりは病院に入院していました。公生はかをりの姿と母の姿が重なって不安になります。


井川絵見(いかわえみ)はガラコンサートでの公生のピアノを聴きに来ていました。彼女も公生に影響され、さらに表現の幅が広がり、演奏家として着実に成長をみせます。


相座武士(あいざたけし)は公生のピアノで信じてきたスタイルに自信が崩れていきます。


澤部椿(さわべつばき)は演奏を終えた公生の姿が演奏前とは違って男らしくなったような気がして照れてうまくしゃべれません。椿が公生を意識し始め、どういう存在なのか考え始めます。
椿にとって公生は隣に住む同じ年の男の子。幼い時は遊びたいときにピアノのレッスンで遊べない男の子。近くにいることがあたりまえだと思っていたのに、存在がどこか遠くに感じることが増え、そのことで公生のことをずっとそばにいてほしい人だと思えるようになりました。
「いつか取り返しがつかなくなるんだからな」
なんのことか分からなかった友人の柏木の言葉がようやく実感できるようになりました。
続きます。


新川直司 四月は君の嘘 7巻
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2015年7月20日月曜日

青木琴美 カノジョは嘘を愛しすぎてる 4巻

クリプレ(CRUDE PLAY、クリュプレ)プロデビューのいきさつ、心也のリコ(小枝理子)に賭ける思いが描かれています。


心也がリコの声をどんどん好きになって、この声で自分もクリプレの代演という立場から脱却したいという力強い目標を持ったようです。


心也にリコを渡してしまった焦りから、アキ(小笠原秋)はリコを自宅に招きます。本当のことを言うつもりのようです。リコのことを本当に好きになり、リコに他の誰よりも好かれたいという思いが強くなります。


名前は小笠原シンヤではなく、小笠原秋といい、クリプレのアキだと打ち明けるのに、とてもまわりくどい方法からはじめます。


テレビから流れるクリプレの新曲のメロディはリコにとってどこかで聴いたことのある旋律でした。どこだったか思い出せず、その音をハミングするリコの声に、ようやくアキは気づきます。
心也に渡さなきゃよかった。
続きます。


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2015年7月18日土曜日

新川直司 四月は君の嘘  6巻

 ガラコンサートで演奏する曲目、クライスラー「愛の悲しみ」は有馬公生(ありまこうせい)にとって近づきたくない曲でした。

宮園かをり(みやぞのかをり)が「愛の悲しみ」を選んだのは、川に飛び込んで、ずぶ濡れになったとき、公生の自宅の練習部屋でレコードを見つけたからでした。



「愛の悲しみ」は公生の母が好きでよく弾いていた曲です。公生にとってはどうしたって母を思い出してしまう曲なのでした。

だから、公生はこの曲を演奏するのに躊躇してしまいます。



ガラコンサート当日。宮園かをりの演奏を楽しみにしている観客がたくさん来ていました。かをりの伴奏をする公生に期待する観客もいました。

公生もかをりとの演奏を楽しみしていました。しかし、会場にかをりの姿はありません。連絡もつきません。

かをりの居場所がわからないまま、公生たちの順番がやってきてしまいました。

舞台には公生一人が出てきました。ヴァイオリンの演奏会で公生一人がピアノで演奏します。



公生は初めて、「自分を見ろ」と意識した演奏をします。かをりのすごさを見せつけるためです。

怒りにまかせた、鍵盤をたたきつけるような音から始まります。集中し公生の耳にピアノの音が聴こえてこなくなると、自分の指が鍵盤をあまりにも強く、乱暴に弾いていることに気づきます。

母ならこの曲をどう弾いたかな、こんなだったかな? と不確かな記憶をたぐり、指先にそれを再現しようとします。

音が変わっていきます。

公生の中にある音を指に伝えると、公生の弾く音を聴くすべての人の心が変化していきます。

続きます。



新川直司 四月は君の嘘 6巻
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2015年7月16日木曜日

青木琴美 カノジョは嘘を愛しすぎてる 3巻

「音楽で食ってくってことは 上手い下手じゃねーんだよ」
CRUDE PLAY(クリュプレ、クリプレ)のプロデューサー高樹総一郎にデビュー決定を告げられ、クリプレの真実知り、リコ(小枝理子)、ソーちゃん(山崎蒼太)、ユウちゃん(君嶋祐一)はショックを受けてしまいます。


高樹総一郎の手法に悔しい思いをしているのは、リコ達だけではありません。
クリプレのメンバー、ヴォーカルの瞬も同じ思いでいます。アキ(小笠原秋)の曲を自分たちで演奏したい。その思いは届きません。高樹の意図が気になります。


高樹は三人の楽曲はアキにプロデュースさせようと計画していました。しかし、アキはプロデュースを断り、高樹とアキの会話に口を挟んだのはクリプレのベーシスト心也でした。


ソーちゃんだけクリプレのアキの正体を知ります。ソーちゃんの口からリコがデビューすることを知ったアキ。プロデュースを断ったことを悔やみ始めます。


アキは心也に劣等感を感じていました。自分が頭に思い描くベースの音を表現して見せられたことで、プライドがズタズタに引き裂かれてしまったのでした。


もしかして、これも高樹の計算? だとしたら、この人物のプロデュース能力はずば抜けています。
続きます。


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2015年7月14日火曜日

新川直司 四月は君の嘘 5巻

 コンクール。有馬公生(ありまこうせい)の演奏です。

演奏中、母との記憶がよみがえります。何かが変わるかもしれないと思い、コンクールの出場を決めたのに、母の思い出は変わろうとする公生を否定します。耐え切れなくなり、公生は演奏を途中でやめてしまいます。



演奏を途中でやめてしまい、うつむいている公生は、宮園かをり(みやぞのかをり)と舞台に立った光景を思い出します。あの時のかをりの途中であきらめることをゆるしてくれなかった後姿が、いま自分の目の前にいるような気がします。

公生はダメにしてしまったコンクールを捨て、たったひとりの、かをりのためにピアノを弾こうと決め、弾き直します。



弾き直した公生の音色は次第に感情を帯びていき、聴く人の心を揺さぶります。

公生のピアノは以前のような正確無比な演奏ではなく、聴く者の胸を打つ、そして誰かのことを思わずにはいられなくなるような音でした。

昔の公生のことを知る人たちにとっては驚きでした。

公生の演奏は私的で特定の一人の人に捧げた思いのようでした。

受け取った人は涙をこらえきれず、包まれるような優しさに陶酔します。

譜面に書かれた音符と指示を忠実に従う公生の姿はありません。

音に思いを乗せて、語るように、ささやくように紡いでいきます。



相座武士(あいざたけし)は公生のピアノに機械のような完璧さを求めていたので、公生の音を聴いて、武士がこれまで追求してきた自分の音に自信を失ってしまいます。



井川絵見(いがわえみ)は公生の音に季節を感じます。絵見にとっても公生の音は驚きだったに違いありません。公生が感情を音に込める演奏家ではなかったからです。



同じ演奏家でありながら公生に心奪われたピアニスト。新たな旅が始まります。



観客、審査員、公生の演奏を聴いたすべての人が、失格した公生の話でもちきりです。公生のピアノが感情を持ち始めました。



コンクールの会場には公生の母の友人で、公生をピアニストにしよう言った瀬戸紘子(せとひろこ)が公生の演奏を聴きにきていました。瀬戸紘子は日本屈指のピアニストです。公生とは二年ぶり、久しぶりの再会でした。紘子は公生の音をすぐに理解し、公生を冷やかします。公生は紘子にピアノを指導されることになりました。



公生の止まっていた時間がふたたび動き出します。



かをりの元に一通の招待状が送られてきました。ガラコンサートの招待状です。かをりと公生のコンビがもう一度見られます。

かをりはガラコンサートでクライスラーの愛の悲しみを演奏することを公生に伝えます。

続きます。



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2015年7月12日日曜日

青木琴美 カノジョは嘘を愛しすぎてる 2巻

公園で白い鳩の群れが飛び立つのを見たリコ(小枝理子)。
つい、その光景からある会社のCMのテーマソングを歌います。
♪ロートせーいやーくぅー♪
歌っているとリコの横に並んで、男性が一緒にハモッてきます。
誰?と顔を向けるリコ。
リコの歌声に反応する男性。
「どうしよう 俺 天才見つけちゃった」
リコはその場でスカウトされてしまいます。


男性はCRUDE PLAY(クリュードプレイ、クリプレ)のプロデューサー、高樹総一郎なのでした。
名刺をもらって帰宅し、リコ、リコの父親、ソーちゃん、ソーちゃんの父親、ユウちゃんで、名刺を眺めて大盛り上がり。デビューできるんじゃない?というほのかな期待が膨らみます。


期待は、リコ、ソーちゃん、ユウちゃんの三人で高樹総一郎に会いに行ったとき、衝撃へと変わります。
続きます。


青木琴美 カノジョは嘘を愛しすぎてる 2巻
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2015年7月10日金曜日

新川直司 四月は君の嘘 4巻

相座武士(あいざたけし)の演奏です。彼の演奏するショパンは強靭な意思、根底にそびえる揺るぎない幹を感じさせます。


相座武士は満足のいく演奏をし、井川絵見(いがわえみ)はこれまでにない豊かな表現で演奏を終えました。
武士は公生の機械のように正確な音に憧れ、絵見は公生の聴く者が自分の感情をコントロールできなくなるような演奏に憧れ、今日のコンクールで精一杯公生に自分の演奏を伝えようとしました。


期待が膨らむ公生の演奏はドラマチックです。


公生は母に音に感情を込めることを否定され続けてきました。演奏中、公生は母との記憶が頭を駆け巡ります。母に抱いた憎悪という感情が込み上げてきます。
続きます。


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2015年7月8日水曜日

青木琴美 カノジョは嘘を愛しすぎてる 1巻

歌うことが好きな小枝理子(リコ)と、音楽ビジネスの世界で表現したい音楽と求められる音楽に大きな隔たりを感じ始め、音楽の世界から離れた自分の居場所が欲しくなる小笠原秋(アキ)の物語です。


人気バンドCRUDE PLAY(クリュードプレイ、クリプレ)の大ファンの女の子小枝理子(リコ)。
新譜を購入するお小遣いがなくて、CDショップで視聴しまくるほど彼らの楽曲が好きなようです。
幼馴染のソーちゃん(山崎蒼太)、友人のユウちゃんの三人で行動するのが日常で、リコから始まるクリプレのメンバーの話題で話は尽きません。


クリプレは、ヴォーカルの瞬、ギターの薫、ベースの心也、ドラムの哲平の4人バンドです。すべての楽曲はアキという元クリプレのベーシストが書いています。
心也を除く3人とアキは学生時代からの友人で、アキがクリプレプロデビュー直前で脱退してしまい、心也がアキの代わりにクリプレに加入し、現在のかたちで活動が続いています。
クリプレの楽曲を書くアキとクリプレの大ファンであるリコが出会います。
ふたりが出会ったのは、アキが新しいメロディを口ずさんでいて、リコが家の八百屋の手伝いで配達の途中にアキの鼻歌が耳に入って来たときでした。
アキがリコに、
「一目惚れって信じますか?」
となんとなく声をかけ、鼻歌に一目惚れしたというリコは付き合うことになります。
このときのアキはただ逃げ場所が欲しいと理由でリコと付き合うことになるのですが、どういう展開になるのでしょうか。
続きます。


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2015年7月6日月曜日

新川直司 四月は君の嘘 3巻

 有馬公生(ありまこうせい)は毎報音楽コンクールに出場することになりました。公生とピアノ。2人きりの時間がまた始まります。



もう一度公生がピアノと向き合ってほしい。

そう思いつつも澤部椿(さわべつばき)は宮園かをり(みやぞのかをり)と公生を見ていると隔たりを感じてしまいます。演奏家どうししかわからない感覚にさみしさを感じ、ジレンマを抱えています。

そんな目でかをりを見ないで。椿は公生にこう言ってやりたいのにできません。公生の目が語る感情をわかりたくない。自分から離れていくさみしさを感じています。

かをりの横に立つ公生は、いつもと違って少し遠くに感じて、長い間一緒にいたことや、たくさんの思い出は簡単になくなってしまいそうに思えてきます。

渡もサッカーで活躍して何かから取り残されまいとしています。残念ながら、渡は結果を残せずくやしい思いのまま中学のサッカー生活が終わります。



曲の解釈。イメージするもの。どう弾きたいのか。公生はこれまで考えもしなかったことを考え始めます。まとまらないまま時間が迫ってきます。

そんな中、

「君の人生で ありったけの君で 真摯に弾けばいいんだよ」

かをりは言い、公生は音楽の力を信じてみようと思い始めます。



公生のピアノコンクール出場を心待ちにしている人たちが他にもいます。

公生を待っていた同じ演奏家がいます。相座武士(あいざたけし)と井川絵見(いがわえみ)です。

二人は公生を目標で、ライバルで常に意識しています。

相座武士は寸分狂いなく鳴らされる音を追い続けてきたピアニストです。井川絵見は幅広い表現力を持ったピアニストです。

2年ぶりにコンクールに出てきた公生がどんな演奏をするか。相座武士と井川絵見は意識せずにはいられません。



相座武士の演奏が始まります。

井川絵見は公生が自分のピアノに何の興味も示さないのが許せません。公生が反応する音を弾くのが彼女の目標だからです。

2年ぶりに再会した公生は以前と変わったところはないように見受けられました。

井川絵見が武士の演奏をモニタで聴いていたその後ろで公生が武士の演奏を聴いているのに気がついて、何かが変わりつつあるのを感じます。

続きます。



新川直司 四月は君の嘘 3巻
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2015年7月4日土曜日

新川直司 四月は君の嘘 2巻

 宮園かをり(みやぞのかをり)は有馬公生(ありまこうせい)にもう一度ピアノを弾いてほしくて、自分のコンクールに引っぱってきて、どうしても演奏家として舞台から見える光景を公生に感じさせたかっただろうなと思える2巻のお話でした。




澤部椿(さわべつばき)は公生がピアノを弾くことになってうれしそうです。

いよいよ公生が舞台に立ちます。

序盤はうまくいき、このまま無事に終えられるはずでした。かをりが刺激的な音を鳴らしだすと、取り残されまいと公生も応じます。練習不足のためか公生の思い通りに動いてはくれません。なんとか頑張る公生の視界に母の幻影が映ります。母から教わったことは繰り返し繰り返し楽譜を読み込んで、何度も何度も弾き込むこと。譜面の指示通り、作曲家の意図通り、完璧にすること。公生の頭に母がよぎると、とたんに公生に耳からピアノの音が消えてしまい、弾くことをやめてしまいました。

公生のピアノの音がとまるとかをりも演奏をやめてしまいました。

二人の目が合います。

「アゲイン」

かをりは公生にもう一度弾くことを要求します。

かをりのコンクールを自分がダメにしてしまった。公生はうつむいたままです。かをりの瞳の中に宿る決意を思い出します。かをりはどんな姿でヴァイオリンを演奏しているのか。かをりの姿を見て、もう一度弾く覚悟を決めます。

公生の音はバラバラなままです。集中、集中。公生は自分に言いきかせます。公生は記憶をたぐります。ふと母の言葉がよみがえります。音が聞こえないならイメージした音を指先から鍵盤に伝えるように弾こうとします。必死な覚悟が公生の音を変えます。

その音は強く主張しはじめ、ヴァイオリンの伴奏という音ではなくなり、主役のヴァイオリンに取って代わってしまおうとする音に変わっていきます。

公生の音の変化は、観客を、審査員を、かをりを驚かせます。

今度は公生のピアノにヴァイオリンでかをりが応えます。互いの個性のぶつかり合いに会場が観客がのみ込まれていきます。

かをりのヴァイオリン、公生のピアノはコンクールの音ではなく、観客を魅了する音へと変わっていきました。

観客は演奏の素晴らしさを拍手と歓声で讃え、会場は興奮したものとなりました。



かをりは演奏を一度中断してしまったため予選を通過できませんでした。

公生は責任を感じています。



公生はかをりが予選で落ちても自分を責めないのがこたえています。かをりは責めるどころか、

「ピアノは弾いてる?」

とたずね、公生が弾いてないことを知ると、どうしてなのか、そのことについてばかり聞いています。

公生は自分にはピアノしかないことがつらいと言います。しかし、かをりはピアノしかないことはいけないことかと問いかけます。

「二人で演奏したあの時感じた気持ちを忘れられるの?」

とピアノに向かうことをすすめます。



椿はかをりとは違う気持ちを抱いています。

公生がピアノに向かわなくていい理由を挙げようとしてもひとつも出てこなくて、ピアノに向かうことで思い出される苦い記憶が椿を不安にさせます。



演奏を終えると、かをりは舞台の袖で意識を失い倒れてしまいました。

かをりは病院に搬送され、入院してしまいます。

「また 倒れた」

また、とかをりは言いました。かをりは何か秘密を抱えています。



コンクールの予選を通過できなかった負い目もあり、公生はかをりを避けるようにしていました。しかし、公生とかをりの演奏を観た観客の歓声、うねりのような拍手。公生が忘れられるわけがありません。

「君は忘れられるの?」

かをりが公生に言った言葉です。

手ごたえ、観客の反応、自分の音楽が届いたと思えるあの瞬間に感じる興奮。

公生は自らの意志で踏み出し、ピアノコンクールに出場します。

続きます。



新川直司 四月は君の嘘 2巻
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2015年7月2日木曜日

新川直司 四月は君の嘘 1巻

 主人公の目の前に現れた女の子。すべてが自分とは正反対の女の子の影響で、主人公有馬公生(ありまこうせい)のモノトーンだった日常が色彩豊かに色づいた日々に変わっていく物語です。




主人公は有馬公生(ありまこうせい)という男の子。

スポーツができるわけでも、勉強ができるわけでもありません。唯一誇れることはピアノを演奏することです。神童といわれていました。



ところが、11歳の秋のピアノコンクールを最後にピアノの音だけが聴こえなくなり、以来、弾けなくなってしまいました。



澤部椿(さわべつばき)は公生の隣に住む幼馴染です。元気で活発な女の子です。公生が11歳の秋にピアノを弾かなくなってからずっと公生を気にかけています。公生にとってピアノは逃れたいものだけど、しがみつくのはピアノしかないということを幼いころからずっと見てきたからです。



椿は公生がピアノにもう一度向き合うか、ピアノと決別して心から楽しめる何かを見つけてほしいと願っています。でも椿はそういう心の内を公生に見せることはなく、幼い時からずっと続けてきた関係をずっと続けていました。



渡亮太(わたりりょうた)はスポーツ万能で、サッカー部のキャプテン。学校の人気者です。

三人はとても仲良しです。



公生にとって、椿、渡の目は輝いていて、その目に映るものはすべてがカラフルに見えていて、自分はすべてがモノトーンに見える、自分と二人は大きく違うと感じています。



ある日、椿がクラスの女の子から渡を紹介してほしいと頼まれます。椿と女の子、渡の3人だとうまくいったら椿ひとり居づらいし、数のバランスが悪いからと椿は公生に一緒に来てほしいと誘います。

その女の子はバイオリンを弾いていて、椿はもし会話がつまったとき、音楽という共通の話題があれば何とかなりそうだと考えたみたいです。

椿はもうピアノはやめたと暗い表情をする公生に複雑な気持ちになります。



公生の自宅には数々のトロフィーや賞状、公生に関する新聞の切り抜き、付箋が貼られた楽譜などが無造作に置かれています。

公生の母親はすでに亡くなっていて、公生は音楽教室を営んでいた母からピアノのレッスンを受けていました。

レッスンは一日の休みもなく、毎日何時間も行われました。叩かれ、怒鳴られることもあり、公生が泣いても許してはもらえませんでした。



公生は病気になった母が喜んでくれるなら、元気になってくれるならとピアノを引き続けました。いよいよヨーロッパのコンクールを視野にというところで公生の母親は亡くなってしまいました。

公生にとってピアノは嫌いなもの。でも、ピアノがないとからっぽで不細工な余韻しか残らないから、ピアノにしがみつくしかないものとなっています。



約束の日、時間より前に待ち合わせの公園に来たのは公生だけでした。

どこからかピアニカの音が聞こえてきて、その音をたどって歩いて行くと、ひとりの女の子が遊具の上に立ってピアニカを演奏していました。

女の子のピアニカの演奏を三人の小学生が楽しそうに聴いていました。

公生がその光景を眺めていると、ピアニカを演奏していた女の子が公生の視線に気づきます。

女の子は瞳に涙を浮かべて公生を見つめています。女の子は椿が渡に紹介するために待ち合わせていたクラスメイトの宮園かをり(みやぞのかをり)でした。



公園のすぐ近くにある藤和ホールでバイオリンのコンクールがあって、宮園かをりは演奏することになっていて、四人で急いで向かいます。

公生は会場に入ることに体のこわばりを感じています。椿が仕掛けたことで、公生をこの会場にどうしても連れて来たかったのでした。

ピアノを遠ざけようとしている公生に、

「やっぱりピアノはイヤな感じしかしない?」

と椿は問いかけます。

公生は応えません。

それでも公生は演奏には耳をしっかり集中し、自然と指が動いて音を頭の中で鳴らしています。椿はそんな公生を見て顔がほころびます。



宮園かをりの出番です。

会場の席に座るなり、一瞬で眠りに落ちていた渡はかをりが舞台に登場すると、マナーもわきまえず、大声と間の手でかをりに声援を送ります。



私の音楽 届くかな…



かをりは圧倒的な個性で課題曲ベートーヴェンのクロイツェルを演奏します。面白みのない退屈なコンクール会場の空気が一変します。

椿はコンクールなのに自分の解釈でしかも楽しそうに演奏するかをりを公生が見て、何か感じるところがあったと手応えのようなものを感じることができて、連れて来てよかったをいう表情を浮かべています。



三人の元に戻ってきたかをりは小さな子供に花を贈られます。

スタッフから結果が張り出されるからと言われるとかをりは、

「気にしないでください。そういうの私 興味ないですから」

かをりの言葉は公生にとって、トップ以外意味のない世界だと信じていたので、ドキッとするものでした。これまでの信念が覆される言葉でした。



公生は宮園かをりのことが気になります。

かをりが駆けよって行くのは公生ではなく渡です。公生にはかをりと渡の二人の姿は映画のワンシーンを切り取ったように見え、とてもお似合いだと感じます。



かをりは渡との会話の後、公生にヴァイオリンの演奏の感想を求めます。公生は正直にコンクールという場においての率直な自分の考えを言うつもりでいました。しかし、公生はかをりの緊張で小刻みに震える手に気づきます。かをりは懸命に平静を保とうとしていたのでした。かをりにとって、公生の感想を聞くのがコンクールの評価よりも緊張することだったのです。



かをりは公生ではなく渡を見ている。かをりにとって公生は渡の友人Aである。それでも公生はかをりに特別な気持ちを抱きます。公生はかをりが気になる存在であっても、渡の友人だという立場を超えることはない、かをりへの感情は絶対に実らないものだと自分に言いきかせます。



藤和ホールでのかをりの演奏は公生のこれまでの概念をくつがえすもので、何をしていてもその光景が公生の頭から離れることはありません。

母が教えてくれた演奏するということ。かをりがみせた音楽。公生はかをりの音楽に気持ちが傾く度、母の残したものが散っていくようで、いたたまれない気持ちになります。

かをりの演奏する音は母から教わったものが無駄なことのように思わせます。もう一度聴きたい。聴いてしまうと、かをりに引っ張られてしまうから聴きたくない。会いたい。会いたくない。公生の気持ちは交錯します。



公生はかをりの存在がますます気になり、モヤモヤした気持ちが大きくなります。公生の前に現れた宮園かをりは公生からすれば、



春の中にいる



そう感じる存在です。



放課後、帰ろうとする公生はかをりを見つけます。かをりは渡を待っていました。渡が忙しいことを知ると、かをりはずっと気になっていたというワッフルを食べに行きたいと公生を誘います。公生は渡の代わりにかをりにつきあわされることになります。



楽器を持たないかをりはどこからどう見ても普通の女の子でした。

公生は楽しい時間を過ごせました。

ワッフルがおいしいというお店にはピアノが置いてあります。子供たちがキラキラ星を弾いて遊んでいます。かをりは公生に子供たちに弾いてあげてと言います。公生は渋々ピアノを弾きます。

公生がピアノを弾き始めると、店内にいた誰もが、店員は動きを止め、客は会話が途切れ、ピアノに意識を奪われます。

かをりは公生のピアノを聴いて公生のピアノは人を幸せにすると確信します。

皆が公生のピアノの音色に浸っていて気持ちのいいところでピアノの音は突然止まってしまいます。公生の手が震えています。



店を出て、公園で公生はかをりに訊ねます。

「やっぱり君は僕を知ってるの」

かをりは公生を、演奏家としての公生をよく知っていました。ワッフルのお店で公生にピアノを演奏させたのはかをりがどうしても弾いて欲しかったからなのでした。

「君は私達の憧れだもの」

かをりは続けます。

「どうして やめちゃったの?」

公生は、

「ピアノの音が聴こえないんだ ありがちな話でしょ」

かをりにとって想像していない応えでした。そんな理由を聞いたら、普通なら慰めるとか、同情しそうなものなのに、かをりの反応は違っていました。

「甘ったれんな!! 弾けなくても弾け 悲しくてもボロボロでもどん底にいても弾かなきゃ ダメなの そうやって私達は生きてゆく人種なの」

力強く言うかをりに、

「うん 君はそうかもしれない」

と公生は悲しみを含んだ笑みをこぼしつつ言います。



何を思ったのか、かをりは自分のヴァイオリンの伴奏者を公生にやってもらうという突拍子もないことをこの場で決めてしまいます。

公生は驚きですぐに拒むことができませんでした。

次の日から、逃げる公正、追いかけるかをりという不思議な関係が始まります。

公生とかをりがドタバタしているのを椿が見かけ、事情を知ると、椿は目を輝かせてかをりに協力しようとします。椿がかをりに協力した理由を打ち明けるバスの場面では、椿が公生のことを本当に心配しているが伝わってきます。



藤和音楽コンクール予選当日。

公生は会場にいません。学校の屋上でひとり、サンドウィッチを食べていました。

息を切らして走ってきたかをりが公生を見つけます。

公生は吐き出すようにかをりに心情を打ち明けます。

公生はコンクールでひとりぼっちになるあの気持ちをまた繰り返すかもしれないと思うと怖くて仕方ないと漏らします

「私がいるじゃん」

かをりは言います。公生のすべてを知ったうえで、それでもなお公生に伴奏者として、私と舞台に立ってほしい、くじけそうになる私を支えてください、と泣きじゃくりながらかをりは公生にお願います。



聴いてくれた人が私を忘れないように、その人の心にずっと住めるように。



これがかをりのあるべき理由です。そうなるように公生に自分を支えてほしいとかをりは言います。

ここまでの気持ちを前に、演奏にここままでの覚悟を決めている人に支えてくれと言われて断ることなんてできません。公生の心が動きます。

「…やるよ 君の伴奏 どーなっても知らないからな」

急いで会場に向かいます。

続きます。



新川直司 四月は君の嘘 1巻
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