2024年5月30日木曜日

新川直司 四月は君の嘘 Coda

有馬公生(ありまこうせい)のピアノに出会い心を打ち抜かれた人たちの短編集です。

それぞれ登場する人物たちがそれぞれの思いで自分い向き合う姿に感動します。

Coda1とCoda2は公生と幼なじみの澤部椿(さわべつばき)のお話しです。

Coda3は公生の演奏会でピアノを聴いて心が揺さぶられて号泣した井川絵見をピアノを弾いている同級生渡部章(わたべあきら)の視点で描いたお話しです。

Coda4はバイオリンを弾く三池俊也(みいけとしや)と伴奏をする茶代恵梨香(ちゃだいえりか)がくる学際の舞台にむけて練習するでお話しです。

Coda5は宮園かをりが公生のピアノに出会いバイオリンを始めるお話です。

どのお話も登場する人物の心情を想像して泣かされました。




●Coda1 夏の夕暮れ

幼少期の有馬公生が初めてピアノの演奏会に出たときのお話です。

公生はお風呂上りにピアノを弾いています。自作の即興曲で歌を歌います。瀬戸紘子が公生の母親に愚痴っている内容を聞き覚えた言葉を歌詞にして歌います。

紘子は公生のピアノを聴いて、

「公生 ピアノの演奏会に出てみない?」

と言います。

公生はピアノの練習を始めます。

紘子は公生ののみこみの早さ、解釈の面白さにただならぬものを感じ、公生を世に出したらきっと凄いことになると確信します。

椿に悲しい出来事が起こり、公生は元気を出してもらうためピアノを頑張ります。

ピアノの演奏会当日、公生は椿に、

「見てて 椿 僕 頑張るから」

と言います。

紘子は公生の姿を見て男の子になったと感じます。



●Coda2 夏のまぼろし

公生は控室に行きます。

控室では舞台に上がるのがこわくて泣きだしている子、奇声を上げる子、神経質に譜面を見ながらぶつぶつ呟いている子などがいます。

記念撮影をしている子もいます。

公生の出番がきて舞台に登場します。緊張しているのか椅子をお尻で倒してしまいます。

椅子に座り、公生は観客席にいる椿を見つけます。椿としっかり目が合ったのを確認して鍵盤に手を置きます。

演奏が始まります。

公生のピアノで寝ていた子が目を覚まします。

観客席の大人は公生の演奏を稚拙だとか粗さが目立つなどと心の中で評価します。しかし、演奏が進むにつれすぐに公生のピアノが歌っていて音がキラキラしていると感じ始めます。

渡亮太も椿も公生の演奏に浸っています。公生のピアノは聴いている人にいろんな情景を思い浮かばせます。

公生は椿に笑っていてほしいという思いを込めてピアノを弾きます。公生のピアノの旋律は椿に語りかけます。

控室のモニターで公生の母親と紘子は公生の演奏を聴いています。

紘子は公生の一番いいところが出ていて満足そうです。

公生の母親は、

「どうしよう 紘子 あの子天才だわ あの才能をキチンと世に出さなきゃ」

と言います。

紘子は不穏な感じを抱きます。

母親が公生を厳しく指導するきっかけはこの演奏からで、紘子が公生にピアノを弾かせなければとよかったと後悔しているのがわかります。

観客の誰もが公生のピアノに浸っています。

最後まで弾き終えると公生は、

「できた!! あっ」

とうまく演奏できたので声を出してしまいます。慌てて口を押さえる仕種がかわいいです。

皆聴き入っていたからか拍手することさえ忘れています。

ひとりの女の子が公生のピアノに感動して声を出して泣き出します。公生の演奏が始まる前は寝ていた女の子で、後の井川絵見です。その隣には宮園かをりがいます。

絵見の泣き声に観客はぷっと吹き出し、それをきっかけに会場が笑い声に包まれてしまいます。

公生は一生懸命弾いたのに笑い声は自分に向けたものだと思ってしまいしょんぼりして舞台を降ります。

でも、公生の椿に笑ってほしいという目的は達成します。椿は公生の思いをピアノを通じて受け取り泣き笑いの表情です。

公生は最初の演奏から誰かのためにピアノを弾いています。誰かのためにというのが公生のピアノの音を色づかせているのだろうなと思います。



●Coda3 秘密結社KKE

ピアノを弾く渡部章から見た井川絵見が描かれています。

中学3年生の絵見は学校で男子たちがファンクラブを作るほど人気があります。

渡部章はファンクラブで絵見を熱く語る男子を冷たい視線で見ています。

渡部の友達は絵見をなんとも思わないのかと言います。

渡部は学校で見かける絵見と別の顔の絵見を知っていてどちらが本当の絵見なのかわからずにいます。

渡部が視聴覚室でピアノの練習をしていると、絵見が話しかけてきます。

渡部は絵見が自分のことなど知らないのだろうなと思いつつ、絵見にどうしてピアノを弾いてるの? と訊きます。

渡部は絵見のピアノが好きではないようです。この頃の絵見のピアノが不機嫌で、けだるそうで、つまらなそうにしていると感じていて、ピアノさえなければ絵見は完璧な人なのにと思っています。

絵見は少しの沈黙の後口を開きます。絵見は渡部を知っています。渡部の問いに、

「君は何故ピアノを弾いてるの? 君は人生を変えられた瞬間がある? 私はあるわ 私はその瞬間を信じたい うん それが私がピアノを弾く理由」

と応えます。

毎報音楽コンクール。

絵見はキョロキョロと何かを探しています。

相座武士は絵見に、

「誰 探してんだよ」

と話しかけます。絵見は誰も探してないと動揺しつつ言います。

二人とも同じ人物がコンクールに戻ってくるのを待ち焦がれています。

ホールの入口から公生が入ってきます。

階段を上る公生の姿を絵見と武士が見つめます。

「あれって」

「うん」

絵見は待ち焦がれていた公生がやって来て武者震いします。

渡部が絵見を見かけます。

公生と絵見と武士が話しています。

渡部は絵見だけを見ています。

話している途中なのに絵見は早々に控室に向かいます。

渡部は絵見の表情を見て肌が粟立ちます。絵見はやる気をみなぎらせた表情です。

毎報音楽コンクールで演奏した絵見のピアノはこれまでとは全く別物でした。渡部はピアノを弾く絵見自身が輝いていているのを初めて目にします。ピアノさえなければと絵見を評価していたのにこの日を境にピアノで表現している時こそが一番輝いていると考えを改めます。

渡部は冷ややかな目で見ていた絵見のファンクラブに入ります。そして、絵見の魅力をふんだんに語ります。

公生のピアノに感動して号泣した絵見は自分も公生のようなピアノを弾けるように努力し、公生の心に何かを残せるようになりたくてピアノを弾いているんだと思うとその純粋な思いに胸が温かくなります。



●Coda4 2年後

本編から2年後、くる学祭でバイオリンを弾く三池俊也と伴奏をする茶代恵梨香の話しです。

茶代はくる学祭で公生と相座凪の連弾を聴いて心を打ち抜かれ、自分もくる学祭の舞台に立ちたいと思っている女の子です。

三池は伴奏をしてくれる人を探しています。しかし、三池の要求に応えられる伴奏を出来る生徒がいなくて、困っています。

三池は茶代に伴奏をしてほしいと誘います。

茶代はどうしてもくる学祭の舞台に立ちたいので引き受けます。

三池は練習中茶代に細かいミスも許さず、徹底的に指摘します。

茶代は心が折れそうになりながら必死に食らいついていくと三池の覚悟を知ります。

くる学祭当日。

相座凪が登場します。大人っぽくなっています。

茶代は憧れの相座凪に話しかけられて嬉しそうです。

相座凪は三池といつものように言い合いをして、客席に公生が来ていることを伝えます。

三池と茶代がステージに向かうところで終わります。

公生のピアノが好きな三池と、公生のよっていくつもの階段を一気に駆け上がった相座凪のピアノが好きな茶代のお話です。音楽に向き合う姿勢がいいなと思いました。



●Coda5 夏のなごり

宮園かをりがこの世に誕生し、すくすく育ち、友達のせっちゃんのピアノの演奏会を観に行ったお話です。

かをりは活発な女の子で興味を持っていろんなことを始めてはすぐ興味を失い他のものに興味を示します。両親も呆れてしまう速度で次々に新しいことを始めます。友人のせっちゃんのピアノの演奏会に行き公生のピアノに出会います。

公生にピアノを弾いてもらいたくてバイオリンを始めます。

かをりが演奏会の会場を出ていく公生を見つめ、君のいる場所に行くからと心に決めて、中学生になり夢が叶います。

公園で公生を見た時かをりが流した涙の理由がわかります。公生のピアノを聴いてから10年くらいの時間の経過があったと思います。その時間ずっと想っていたんだろうなと考えると切なくなります。ずっと想い続けて、すこしの嘘をついてやっと公生の視界に入ることができてどんなに嬉しかっただろうと想像すると泣けてきます。

かをりがせっちゃんと記念撮影をして、後日出来上がった写真を見て公生が写り込んでいたことで大喜びする様子や、写真をずっとずっと大切に持っていて、最終回に公生への手紙に同封した場面を思い起こして視界がボロボロになるほど泣きました。



四月は君の嘘という作品に出会えてよかったです。




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●関連リンク
講談社コミックプラス 四月は君の嘘 Coda

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