戦国時代、女子でありながら足軽として戦に参加し、若君を守ろうとする物語……。かと思っていたらそうではありませんでした。
主人公の速川唯は現代の高校生です。弟の尊(たける)が発明したタイムマシーンのスイッチを知らずに押してしまい、戦国時代にタイムスリップします。
唯はそこで出会った若君、羽木九八郎忠清に一目惚れします。
唯はなんとか元の時代に戻ります。しかし、唯は現代に戻っても若君のことが忘れることのできない存在なってしまいます。
学校の歴史の先生に訊くと、唯が行ったその年に羽木家は戦に負け、滅亡してしまうことを知ります。
過去の出来事なのにいてもたってもいられなくなる唯は、若君の笑った顔がもう一度見たくて、出来ることなら、歴史を変えてでも自分自身で若君を守りたいと、もう一度戦国時代にタイムスリップします。
唯は若君を守ることが出来るのか、まずどうやって若君に会うことが叶うのか、今後が楽しみです。
速川唯は16歳の高校生。平成生まれのまるでやる気のない女子高生です。そんな唯がおそろしいほどやる気満々、成り上がる気満々になる物語です。
唯は歴史の授業など完全に爆睡していてきいていなし、遅刻、忘れ物、居眠りの常習犯。勉強はやる気はこれっぽっちもありません。
特に熱くなれるものがなく、友達との会話もどこか自分とは違うことのように感じているます。
おしゃれや流行にもまるで関心なし。
食欲はあってよく食べます。大きな保温弁当箱を愛用しています。
恋愛にも関心がなく、好きな男の子もいません。
特技は走ること。足だけはものすごく速いです。見ている人が感心するほど速く、体力もあります。だからといって部活に燃えているわけではありません。
まるでやる気がなく、何の目標もなく、ただなんとなく毎日を過ごしています。だけど心のどこかで自分のすべてをかけられる「何か」を見つけたいようです。
唯はそんな女子高生です。
唯は部活を終え帰宅すると、夕食はステーキが待っていました。唯は部活でヘトヘトになるまで走ったから空腹で、たぶん部活がなくても空腹で、すぐにでも目の前の肉を食べたいようです。しかし、母親に制され、弟の尊(たける)を呼んでくるよう言われます。
尊は自宅の庭にある物置を研究室として使っていて、ほとんどの時間を物置の中で過ごしています。
唯は食べたいのを我慢して尊を呼びに行きます。
物置の戸を開けると、尊が目を閉じて正座しています。膝下には懐剣が置かれ、まるで今から切腹をするかのような姿です。
唯は事態が飲み込めず、懐剣を取り上げ、尊を説得しようとします。
尊は落ち着いて唯に事情を説明します。
尊はタイムスリップを実現する発明に成功したというのです。
唯は弟の話が何を言っているかわからないから、ぼんやり聞いています。
尊は本当に成功したか確かめるため、自ら実験台になって試そうとしていたところだと言うのです。
そんな尊の話を聞きながら、唯は手に取った短刀を鞘から抜きます。
尊はあわてて唯に、
「何やってんの!! 出しちゃダメだよ!! それはっ タイムマシンの起動スイッチだ!!」
と叫びます。
唯に姿は次第に薄くなり、消えてしまいます。
唯は気を失っていたようで、目が覚めると山中にいました。
見上げた空にはとても美しい満月が浮かんでいます。
足音が聞こえ、唯は
「ん?尊?」
と目を向けると、
「こりゃっ ここで寝るなと言うたじゃろーが!!」
甲冑を着たむさくるしい男が立っています。
唯は慌てて起き上がり状況を把握しようと周囲を見回すとあちらこちらに甲冑を着た男がいます。
唯は大河ドラマで見たことがある足軽だと思いました。
尊との会話を思い出します。
(「タイムマシンが完成したんだ」)
(「計算では戦国時代まで約20秒で移動できる」)
(「いざとなったら戦国の世で生き延びる自信がなくて--」)
唯は何を言っているんだ尊は。と思っていたのに、本当に戦国時代に来てしまったのだと考えにいたるのです。
唯は懐剣を見つめ、
「それはっ タイムマシンの起動スイッチだ!!」
と尊が言ったのを思い出します。
懐剣を鞘から抜いてタイムスリップしたのだから、元に戻せば現世に戻れるはずだと刃を戻してみます。
尊のいた実験室には戻れません。
それじゃあ、懐剣をもう一度鞘から抜けばいいのでは? と唯は再び抜いてみます。
現代に戻れません。
唯は何度試してみてもダメでした。
唯は学校から帰ってきた制服のまま戦国時代にタイムスリップしてしまったのに、暗がりということもあり、足軽の集団は誰一人唯の格好の不自然さに気がつきません。
どうしていいかわからないので、唯は足軽の集団に紛れてついて行こうとします。
起動スイッチの懐剣を手につっかけで他の足軽と同じように歩く唯の姿は笑ってしまいます。
唯は甲冑を手に入れ、それなりに足軽集団の仲間に混じります。
誰にもバレずにすむかと思っていたのに足軽たちが唯を見たことがないと怪しまれ騒ぎになってしまいます。
唯は問いつめられ適当に「唯之助」とかいうそれっぽい名を名乗ります。足軽の一人がそれっぽい名をぼんやり記憶していて、孫兵衛のせがれじゃな?という話になり、なんとかその場をしのぎます。
山を出て城が見えてきます。なんとか戻ることができて皆安堵しています。
唯は嘘がバレてしまうのを恐れて、見計らって集団から逃げ出します。
唯は夕食を食べず一晩中歩いていたから、空腹で走ることができず、その場にうずくまってしまいます。視界に、地面に生えているキノコを見つけます。
すこしまっ赤で、いいえ、かなりまっ赤で、白い模様のある、唯が考えるにはしいたけ、パッと見ただけで確実に毒キノコだとわかるキノコです。
食べられるしいたけのはずだと言い聞かせ、毒じゃない、毒じゃない、と一口かじろうとしようとしたその時、
「毒じゃ」
と声がきこえ、振りむくと、綺麗な男の人が唯の横で寝そべって唯の様子を伺っています。
唯はひと目その男の人を見るなり、
「しっ…しし 心の…臓がっ… ば…爆発しそうなんですけどっっ」
と一瞬で恋に落ちてしまいました。
唯はお腹ペッコペコなはずなのに、何にも情熱を傾けられないのに、若君をひと目見た途端に身体の内側が爆発しそうなくらい夢中になってしまいます。
若君は唯がいた足軽集団に合流し、城までやって来ます。
唯は大切なことを忘れてしまっていました。
どうして足軽集団から逃げたのか。正体がバレたらただじゃすまないからです。
さきほどの孫兵衛の家族が迎えに来ていて、足軽の一人が唯に、
「おーい 唯之助! おふくろ様じゃ! 迎えに出てくれたぞ」
と対面させたのです。
おふくろ様は機転の効く女性で、唯は孫兵衛の家に厄介になります。
唯はするすると馴染んでいける能力というか特技、優しくしてもらえる運を備えています。
ずっと世話になるわけには行かず、唯は城に行き、若君に会い、何か働けるところをみつけようとします。
そんな簡単に城の中に入ることはできず、唯は門番にあしらわれてしまいます。
うまくいかず山道をとぼとぼ歩いていると、唯は城を見下ろせる場所で立ち止まります。
若君に会えない。
唯は満月をぼんやり眺めながらひとりで恋い焦がれています。
満月をぼんやり見ていたら、唯は忘れていた大切なことを思い出します。
(「このタイムマシンは満月の日に一回だけ片道しか移動できないんだ」)
(「だから一度行ったら次の満月の日まで--」)
懐剣を取り出し、満月の今夜、元の世界に帰れることを思い出します。
世話になった、戦国の世のおふくろ様、三之助、孫四郎に感謝しつつ、若君様にもう一度逢うことができなかったことを心残りに思いつつ、
「若君様ァァァァ!!!」
と叫びながら、懐剣を鞘から抜きます。
唯の目の前を若君が馬で通ります。
もう会うことなんてできないと決めつけていたのに、唯はひと目もう一度会うことができました。
姿が消える前に、気持ちを伝えたくて若君の元へ走っていきます。
起動スイッチはすでに入っているので、ゆるやかに唯の姿は消え、現世に戻ってしまいます。
研究室の尊は姉の唯の姿に驚いています。
唯は尊が目の前にいることで現世に戻れたと思い、1ヶ月も家を留守にしていたため、両親が心配しているだろうと尊の制止をふりきって家に駆け出していきます。
ひと月ぶりの再会なので唯の感情は昂ぶっています。
しかし、唯のテンションとは裏腹に両親は平静であまりにいつもどおりです。
唯はわからずにいると、母親が、
「それより早く食べなさい。せっかくのステーキが冷めちゃったよ」
とテーブルの上にあるステーキをみます。
唯が食べ損なって、戦国の世で毎晩食べたくて食べたくて夢に見たステーキがテーブルの上にあります。食べてみるとステーキはまだほんのり温かいです。
口一杯にステーキを頬張りながら唯は尊に目で問いかけます。
唯は食事の後、尊に説明してもらいます。
唯に起こった30日間の出来事は尊以外誰も知りません。
唯にいつもの日常が戻ってきました。
再び唯は戦国時代の若君の元に行く決意をします。
唯が行った時代のその年に羽木家が滅亡するという歴史の事実を知り、いてもたってもいられなくなったのです。
いままで見向きもしなかった近所にある石垣は黒羽城の石垣で、羽木家はずっとずっと昔に滅亡しています。
唯は羽木家の若君に確かに会い、話し、身体中が熱くなる初めての感覚を体験しました。
若君が戦に敗れて殺されてしまう。唯はいてもたってもいられません。
尊は唯が戦がどういうものか分かっていないことを心配しています。
どうやって唯は若君にもう一度会って、若君を守ることができるのか展開に期待です。
唯にそんなことができちゃうのかな?
唯は再び戦国時代にやって来ました。
リュックにはおふくろ様にお米と三之助、孫四郎にお菓子とゲームをつめて孫四郎の家族のもとに向かいます。
おふくろ様はたくさん持ってきたお米は自分たちは一食分のみ取り、残りを村の人達に分けてあげます。唯は十分な食べものがないこの家族のためにお米を持ってきたのに、惜しげもなく分け与える様子に初めは理解できずにいました。
すこしすると唯はおふくろ様の行いに感心していきます。
唯の住む村に回状が回ってきました。
戦のため村の男は足軽として出陣せよというものです。
「戦が始まる」
唯は若君に会えると支度を整えます。
続きます。
森本梢子 アシガール 1巻
(アマゾンのサイトに移動します)
●関連リンク
集英社 アシガール
0 件のコメント:
コメントを投稿