川本3姉妹、二階堂、島田八段、林田先生…周りの人々の温かさに少しずつ心溶かされ、学校生活・棋士生活の両面で前を向き始める零。そんな中、明るいひなたの心に影をおとす出来事が…。悲しみと悔しさと強さを宿すひなたの泣き顔に、零はある誓いをたてる。様々な人間が、何かを取り戻していく優しい物語です。
桐山零は島田が宗谷名人との対局に少しでもいい状態で挑めるよう島田の身の回りの世話をかってでます。そして、気づくことがたくさんありました。
零は二年に進級してもやはりクラスに馴染めず、孤立していたので、林田先生が将棋部を作ってどうかと零にすすめます。
状況を変えなくてはと感じていた零は将棋部を作ることに応じます。しかし、人数が集まらず将棋部は作ることができませんでした。
ちょうど、零が進級するための単位の埋め合わせに協力してくれた放課後理科クラブが先輩の卒業によって部を存続できなくなってしまい困っていました。
林田先生は将棋部と放課後理科クラブを合体させて、放課後将棋科学部を作ろうといい、零も放課後理科クラブの部長野口も賛成し、部が設立されます。
零は部活というもの中で、学校で同年代の人たちと笑い、おしゃべりし、高校生がごく普通に特に気負うことなく経験します。知りたくて知ることができなかった零にとって、貴重で胸がいっぱいになる時間でした。
第69期名人戦、宗谷名人と隈倉健吾九段の対局です。
控え室で観戦している他の棋士たちの様子が面白かったです。
控え室に後藤が現れ、場の空気を凍りつかせてしまいます。義姉香子のことで後藤とひと悶着あった零は、控え室に入ってきた後藤にピリッとしたけれど、後藤が島田に対して言った言葉にいくつか思い直すべきところがありそうだと考えます。
宗谷名人に負けた隈倉健吾。追うほうの必死、追われるほうの必死が伝わってくる対局でした。観戦していた誰も見えていなかった宗谷名人の一手。ゾクッとします。
隈倉のコメントは感情を一切出すことなく、潔く負けを認めました。スミスや松本一砂が言うように、なかなかできることではありません。
しかし、負けがくやしくないはずはありません。翌日発覚した出来事は誰にもぶつけられないくやしさがよくわかりました。
川本家の次女ひなた(ヒナ)が元気がありません。
夕食の誘いのメールを受け、零が川本家を訪れると、あかりとモモだけでした。
玄関の戸が開く音がします。
ヒナが帰ってきました。
いつもはヒナのただいまという明るい声がひびくのに、その日はきこえてきません。家の中に入ってくる気配もありません。
気になってあかりが玄関に行くと、ヒナが立っていました。足元は右足は上履き、左足はスリッパで、歯を食いしばって涙を流して立っていました。
ヒナの話はこうでした。
突然でした。
ヒナのずっと仲良しだった友達ひなちゃんがなんの理由もなくいじめられてしまいました。
ちほちゃんが仲良くしていたグループは自分たちに被害が及ぶことを恐れ、ちほちゃんと距離を置いてしまいます。
ヒナはそんなことはせず、ちほちゃんとこれまで通り仲良くしていました。
ちほちゃんへのいじめはエスカレートしていきます。ちほちゃんは学校を休みがちになりました。
担任の先生もクラスメイトも見て見ぬフリをし、とうとうちほちゃんは転校してしまいました。
ヒナには誰がいじめの主犯かはわかっています。
くやしさのあまり、主犯の生徒につかみかかります。
その日を境にいじめの矛先がヒナに向けられてしまいました。
どうすればよかったのかと、泣きながらヒナは言います。みんなに、
「ちほちゃんをかばうとあなたもやられるよ」
と言われ、その通りになってしまいました。
ひとりぼっちになるのがこわい。
でも、後悔なんてしない。
私のした事はぜったいにまちがってなんかない。
ヒナは泣きながら零にこみあげてくる思いをうったえます。
零はヒナの様子が、幼い日の記憶と重なります。
そして自然と言葉が出てきます。
「ひなちゃん ありがとう 君はぼくの恩人だ 約束する 僕がついてる 一生かかってでも 僕は君に恩を返すよ」
どういう出来事があって、零はひなたにこういったのでしょうか。
続きます。
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