2015年7月2日木曜日

新川直司 四月は君の嘘 1巻

 主人公の目の前に現れた女の子。すべてが自分とは正反対の女の子の影響で、主人公有馬公生(ありまこうせい)のモノトーンだった日常が色彩豊かに色づいた日々に変わっていく物語です。




主人公は有馬公生(ありまこうせい)という男の子。

スポーツができるわけでも、勉強ができるわけでもありません。唯一誇れることはピアノを演奏することです。神童といわれていました。



ところが、11歳の秋のピアノコンクールを最後にピアノの音だけが聴こえなくなり、以来、弾けなくなってしまいました。



澤部椿(さわべつばき)は公生の隣に住む幼馴染です。元気で活発な女の子です。公生が11歳の秋にピアノを弾かなくなってからずっと公生を気にかけています。公生にとってピアノは逃れたいものだけど、しがみつくのはピアノしかないということを幼いころからずっと見てきたからです。



椿は公生がピアノにもう一度向き合うか、ピアノと決別して心から楽しめる何かを見つけてほしいと願っています。でも椿はそういう心の内を公生に見せることはなく、幼い時からずっと続けてきた関係をずっと続けていました。



渡亮太(わたりりょうた)はスポーツ万能で、サッカー部のキャプテン。学校の人気者です。

三人はとても仲良しです。



公生にとって、椿、渡の目は輝いていて、その目に映るものはすべてがカラフルに見えていて、自分はすべてがモノトーンに見える、自分と二人は大きく違うと感じています。



ある日、椿がクラスの女の子から渡を紹介してほしいと頼まれます。椿と女の子、渡の3人だとうまくいったら椿ひとり居づらいし、数のバランスが悪いからと椿は公生に一緒に来てほしいと誘います。

その女の子はバイオリンを弾いていて、椿はもし会話がつまったとき、音楽という共通の話題があれば何とかなりそうだと考えたみたいです。

椿はもうピアノはやめたと暗い表情をする公生に複雑な気持ちになります。



公生の自宅には数々のトロフィーや賞状、公生に関する新聞の切り抜き、付箋が貼られた楽譜などが無造作に置かれています。

公生の母親はすでに亡くなっていて、公生は音楽教室を営んでいた母からピアノのレッスンを受けていました。

レッスンは一日の休みもなく、毎日何時間も行われました。叩かれ、怒鳴られることもあり、公生が泣いても許してはもらえませんでした。



公生は病気になった母が喜んでくれるなら、元気になってくれるならとピアノを引き続けました。いよいよヨーロッパのコンクールを視野にというところで公生の母親は亡くなってしまいました。

公生にとってピアノは嫌いなもの。でも、ピアノがないとからっぽで不細工な余韻しか残らないから、ピアノにしがみつくしかないものとなっています。



約束の日、時間より前に待ち合わせの公園に来たのは公生だけでした。

どこからかピアニカの音が聞こえてきて、その音をたどって歩いて行くと、ひとりの女の子が遊具の上に立ってピアニカを演奏していました。

女の子のピアニカの演奏を三人の小学生が楽しそうに聴いていました。

公生がその光景を眺めていると、ピアニカを演奏していた女の子が公生の視線に気づきます。

女の子は瞳に涙を浮かべて公生を見つめています。女の子は椿が渡に紹介するために待ち合わせていたクラスメイトの宮園かをり(みやぞのかをり)でした。



公園のすぐ近くにある藤和ホールでバイオリンのコンクールがあって、宮園かをりは演奏することになっていて、四人で急いで向かいます。

公生は会場に入ることに体のこわばりを感じています。椿が仕掛けたことで、公生をこの会場にどうしても連れて来たかったのでした。

ピアノを遠ざけようとしている公生に、

「やっぱりピアノはイヤな感じしかしない?」

と椿は問いかけます。

公生は応えません。

それでも公生は演奏には耳をしっかり集中し、自然と指が動いて音を頭の中で鳴らしています。椿はそんな公生を見て顔がほころびます。



宮園かをりの出番です。

会場の席に座るなり、一瞬で眠りに落ちていた渡はかをりが舞台に登場すると、マナーもわきまえず、大声と間の手でかをりに声援を送ります。



私の音楽 届くかな…



かをりは圧倒的な個性で課題曲ベートーヴェンのクロイツェルを演奏します。面白みのない退屈なコンクール会場の空気が一変します。

椿はコンクールなのに自分の解釈でしかも楽しそうに演奏するかをりを公生が見て、何か感じるところがあったと手応えのようなものを感じることができて、連れて来てよかったをいう表情を浮かべています。



三人の元に戻ってきたかをりは小さな子供に花を贈られます。

スタッフから結果が張り出されるからと言われるとかをりは、

「気にしないでください。そういうの私 興味ないですから」

かをりの言葉は公生にとって、トップ以外意味のない世界だと信じていたので、ドキッとするものでした。これまでの信念が覆される言葉でした。



公生は宮園かをりのことが気になります。

かをりが駆けよって行くのは公生ではなく渡です。公生にはかをりと渡の二人の姿は映画のワンシーンを切り取ったように見え、とてもお似合いだと感じます。



かをりは渡との会話の後、公生にヴァイオリンの演奏の感想を求めます。公生は正直にコンクールという場においての率直な自分の考えを言うつもりでいました。しかし、公生はかをりの緊張で小刻みに震える手に気づきます。かをりは懸命に平静を保とうとしていたのでした。かをりにとって、公生の感想を聞くのがコンクールの評価よりも緊張することだったのです。



かをりは公生ではなく渡を見ている。かをりにとって公生は渡の友人Aである。それでも公生はかをりに特別な気持ちを抱きます。公生はかをりが気になる存在であっても、渡の友人だという立場を超えることはない、かをりへの感情は絶対に実らないものだと自分に言いきかせます。



藤和ホールでのかをりの演奏は公生のこれまでの概念をくつがえすもので、何をしていてもその光景が公生の頭から離れることはありません。

母が教えてくれた演奏するということ。かをりがみせた音楽。公生はかをりの音楽に気持ちが傾く度、母の残したものが散っていくようで、いたたまれない気持ちになります。

かをりの演奏する音は母から教わったものが無駄なことのように思わせます。もう一度聴きたい。聴いてしまうと、かをりに引っ張られてしまうから聴きたくない。会いたい。会いたくない。公生の気持ちは交錯します。



公生はかをりの存在がますます気になり、モヤモヤした気持ちが大きくなります。公生の前に現れた宮園かをりは公生からすれば、



春の中にいる



そう感じる存在です。



放課後、帰ろうとする公生はかをりを見つけます。かをりは渡を待っていました。渡が忙しいことを知ると、かをりはずっと気になっていたというワッフルを食べに行きたいと公生を誘います。公生は渡の代わりにかをりにつきあわされることになります。



楽器を持たないかをりはどこからどう見ても普通の女の子でした。

公生は楽しい時間を過ごせました。

ワッフルがおいしいというお店にはピアノが置いてあります。子供たちがキラキラ星を弾いて遊んでいます。かをりは公生に子供たちに弾いてあげてと言います。公生は渋々ピアノを弾きます。

公生がピアノを弾き始めると、店内にいた誰もが、店員は動きを止め、客は会話が途切れ、ピアノに意識を奪われます。

かをりは公生のピアノを聴いて公生のピアノは人を幸せにすると確信します。

皆が公生のピアノの音色に浸っていて気持ちのいいところでピアノの音は突然止まってしまいます。公生の手が震えています。



店を出て、公園で公生はかをりに訊ねます。

「やっぱり君は僕を知ってるの」

かをりは公生を、演奏家としての公生をよく知っていました。ワッフルのお店で公生にピアノを演奏させたのはかをりがどうしても弾いて欲しかったからなのでした。

「君は私達の憧れだもの」

かをりは続けます。

「どうして やめちゃったの?」

公生は、

「ピアノの音が聴こえないんだ ありがちな話でしょ」

かをりにとって想像していない応えでした。そんな理由を聞いたら、普通なら慰めるとか、同情しそうなものなのに、かをりの反応は違っていました。

「甘ったれんな!! 弾けなくても弾け 悲しくてもボロボロでもどん底にいても弾かなきゃ ダメなの そうやって私達は生きてゆく人種なの」

力強く言うかをりに、

「うん 君はそうかもしれない」

と公生は悲しみを含んだ笑みをこぼしつつ言います。



何を思ったのか、かをりは自分のヴァイオリンの伴奏者を公生にやってもらうという突拍子もないことをこの場で決めてしまいます。

公生は驚きですぐに拒むことができませんでした。

次の日から、逃げる公正、追いかけるかをりという不思議な関係が始まります。

公生とかをりがドタバタしているのを椿が見かけ、事情を知ると、椿は目を輝かせてかをりに協力しようとします。椿がかをりに協力した理由を打ち明けるバスの場面では、椿が公生のことを本当に心配しているが伝わってきます。



藤和音楽コンクール予選当日。

公生は会場にいません。学校の屋上でひとり、サンドウィッチを食べていました。

息を切らして走ってきたかをりが公生を見つけます。

公生は吐き出すようにかをりに心情を打ち明けます。

公生はコンクールでひとりぼっちになるあの気持ちをまた繰り返すかもしれないと思うと怖くて仕方ないと漏らします

「私がいるじゃん」

かをりは言います。公生のすべてを知ったうえで、それでもなお公生に伴奏者として、私と舞台に立ってほしい、くじけそうになる私を支えてください、と泣きじゃくりながらかをりは公生にお願います。



聴いてくれた人が私を忘れないように、その人の心にずっと住めるように。



これがかをりのあるべき理由です。そうなるように公生に自分を支えてほしいとかをりは言います。

ここまでの気持ちを前に、演奏にここままでの覚悟を決めている人に支えてくれと言われて断ることなんてできません。公生の心が動きます。

「…やるよ 君の伴奏 どーなっても知らないからな」

急いで会場に向かいます。

続きます。



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