●45
朝、ゼンは偶然白雪に会ったので、話したくなって薬草園に立ち寄ります。薬草園に入ると、白雪は鼻歌を歌っていてどこか楽しそうな様子です。
白雪はゼンが入口に立っているのに気がつくと、恥ずかしそうにします。
楽しそうなのはこれからリリアスから客人が来るからなのだと言います。
リリアスから鈴とユズリとキリトがやって来ます。
ゼンは執務室でオビに白雪の話をします。
オビはゼンに白雪のことをあまり話さないようです。
ミツヒデは息を切らしてやって来て、木々はまだか? と木々の姿を探しています。執務室に向かう時に、木々の話を耳にしたので早く木々の姿を確認したいようです。
木々は普段と変わらない様子で現れます。
しかし、ゼンとミツヒデとオビは木々の姿に驚きの声を上げます。
木々は三人の反応を気にすることなくいつものように話を始めます。
ゼンが木々の言葉を遮ります。
木々は長い髪を切り、五年前にゼンとミツヒデに出会った頃のような姿になっています。
オビは木々に髪が長い時ほとんど髪を束ねていたから、おろしている姿をもう一回見ておきたかったと言います。
ゼンはオビに薬室の方顔出していいぞ、と言います。
オビは部屋を出ていこうとすると、ミツヒデに呼び止められます。
二人きりになり、ミツヒデはオビに、
「……木々に恋仲なり意中の相手なりがいるの知ってるか」
とたずねます。
オビは一瞬考え、
「俺です」
と答えます。
オビはゼンは白雪のことは自分の口から聞くより、白雪の口から聞くほうがいいし、ミツヒデは木々のことに対しては自分で気づいてほしいと思っているようです。
ミツヒデは気づくことができるのかな。
鈴とユズリとキリトは王城の何もかもが珍しいようです。
鈴はガラクにいつでも訪ねて来なさいって言ってくれたから観光気分でウィスタルに来ています。
白雪は薬室長が今ちょっと… と言葉を濁します。
キリトはリュウに会うのを楽しみにしています。リュウを見かけ、声をかけます。リュウの反応はありません。
キリトは久しぶりの再会に驚いてくれるか、喜んでくれるか、なにかしらの反応があると思っていたのに、リュウは、
「キリト?」
とキリトが急に目の前に立っていることが不思議だというような表情です。
ガラク・ガゼルト薬室長は様子がおかしいです。仕事が次々に入ってきて終わりがなく、ピリピリしています。
キリトはシダンからガラクの様子がおかしいときの対処法を手紙で預かっています。
おいしいお茶を飲むと穏やかになるというので、体にいい成分で配合したオリジナルのお茶を作ろうということになります。リュウが最後の味付けをして満足のいくお茶が完成します。
薬室に来客を知らせるベルがなります。
白雪が行くと、イザナ王子が立っています。
鈴とユズリは、
「ルーエンさん」
とイザナ王子を呼びます。リリアスではイザナ王子をルーエンと呼んでいたのでそう呼びます。
イザナ王子は薬室長からリリアスの薬剤師が城に来ると聞いたので、挨拶に来たと言います。
鈴はリリアスでもイザナ王子のことを、色男風情とか言っていたのに、ここでも、
「ルーエンさん リリアスだと雪をも従える北の騎士みたいな感じだったけど 王城歩いてるのも様になりそうだね―― お茶 ご一緒にどーですか」
と気軽に話しかけます。
イザナ王子は白雪に、
「――そうだな 白雪 後で執務室に運ばせてくれ」
と言い、
「リリアスでは名乗る間も無く失礼したがルーエンは借りた名だ 俺はイザナ・ウィスタリアという 今後とも宜しく頼む」
と言い薬室を去ります。
鈴とユズリはキョトンとし、間を置いて、ウィスタリア? とつぶやき、ようやくクラリネス第一王子イザナ・ウィスタリア殿下の名と一致し驚きます。
ユズリは白雪にリリアスのときから本物の殿下だったの? と興奮気味に聞きます。
キリトはリュウに信じられないというような表情で、今言ったの本当? と確認します。
問題は鈴です。
鈴はリリアスでのこと、今話したこと、記憶を思い返します。まさか王族が自分達と同じ空間にいるだなんて思いもしないだろうし、イザナ殿下だとわかっていれば絶対に言わなかったのにと後悔しているようです。
鈴はオビに、
「……オビ君 俺 投獄かな?」
と問いかけ、オビは、
「残念ながらね」
と答えます。
鈴はどうして白雪とリュウが王族と話せるところにいるのかという疑問には行き着かないようです。
お茶を飲みながら話がはずみます。
白雪とリュウは鈴がシダンの研究を手伝うことを知ります。
ユズリは白雪とリュウにたまに様子を見に来てと言います。
ガラク薬室長が執務室から出てきます。
ガラクはお茶に気がつき飲みます。シダンの手紙に書いてあるとおり本当に穏やかになります。
あっという間に一日が過ぎます。
白雪はオビにゼン達ともお茶を飲んでと一式渡そうとします。
オビはゼン達を呼んでみんなで飲もうと言います。
白雪は用意しながら、ゼンから木々が髪を切ったと知ります。
白雪は、
「そっか… じゃあもう一回髪下ろしてるの見たかったなあ… でも短くてもまたステキな…」
とオビ同様の反応します。
ゼンは白雪の耳飾りに気がつきます。気がついたのに何も言えません。
オビがゼンを察して白雪に似合っていると言い、その後ゼンが発する言葉を待ちます。
ゼンは白雪に何も言ってあげられません。
ゼンとオビの心の声を想像すると、
「主 今言うときですよ」
「なんと言えばいい」
「なんでもいいんですよ 思ったことを言えばいいんですよ」
「…………」
という具合でしょうか。
ゼンはやっぱり白雪に気の利いた事が言えません。
●46
イザナ王子の元にゼンとの見合いの場の催促がうんざりするほど来ています。
ハルカ侯はゼンに見合いのリストを持参します。
ゼンは断ります。
しかし、ハルカ侯はリストの中のどなたか一人だけでも会って、ゼンが婚姻を放棄していない事を示して頂かねばなりません、と譲りません。
ゼンは見合いを了承します。
ゼンは木々と見合いをします。
リストの中に木々の名前が記されていて、ハルカ侯がどなたか一人というので、ゼンは木々に一芝居付き合ってほしいと頼みます。
木々は断れば夜会が開かれて出なくてはならなくなるので、渋々引き受けます。
ゼンは木々に誰にも邪魔されず話せるいい機会になったので、気になっていた先日の父上に言ったという話について聞きます。
ゼンと木々から少し離れたところでミツヒデとオビが二人を見ています。
オビがミツヒデをからかいます。
ミツヒデはオビの手に乗るかと思っているのに、想像してみると冗談に思えなくなってきて表情が険悪になっていきます。
見合いを終え、ゼンはミツヒデと木々とオビに、前から思っていたこと、白雪の立ち位置を明白にしたいという考えを打ち明けます。
ゼンはオビを連れてイザナ王子のもとへ向かいます。
ゼンはイザナ王子に、白雪に自分の名で王宮内に部屋を与えたいと願い出ます。
白雪はゼンからこの話を聞き驚きます。
ゼンはこのことの意味するところを説明し、白雪は、わかった、と返事をします。
夜になり、ゼンたちのところにイザナ王子がやって来ます。
「ゼン お前に王宮の東の一角をやる そこに王城付薬剤師白雪の部屋を置く事を許そう」
イザナ王子はゼンに鍵を手渡します。
●47
城内はゼン殿下が白雪どのを王宮に迎えるという話題で盛り上がります。
ミツヒデは白雪に説明します。
白雪は緊張しています。
周囲の者は白雪に興味津々です。
その視線は白雪をより緊張させます。
王宮での生活が始まります。
朝、白雪はオビと会話していると、ハルカ侯爵が現れます。
ハルカ侯爵はオビにゼン殿下にお渡ししろと書類を手渡します。そして、白雪を見て、小さくため息をつきます。
「………… 殿下の側に名を置くならば、自分の場所だけで殿下に会うな 知らぬ者に何も映らん」
とハルカ侯爵は不本意ながら、イザナ王子の決定ならば、より良い方法で進めていくべきと、白雪に助言します。
オビが行くゼンのいる大部屋に白雪もついて行くことにします。
オビは大部屋には政務官方や貴族が沢山いる場所だから、白雪が行ったらまず間違いなく蜂の巣だね、と注意します。
白雪が大部屋に一歩足を踏み入れると、中にいる全ての人の視線が白雪に注がれます。
全員作業を止め白雪をじっと観察しています。
その中の一人が、
「薬室からはるばる どなたかに御用ですか? 赤髪の方 寝台に腰かけて待っていた方がお早いのでは?」
と白雪に視線を合わせず言います。
大部屋は騒然とします。
オビの目は殺気を帯びます。
白雪はオビにここで待つように言い、男の方に歩いていきます。
「…白雪と申します お名前は」
男は白雪に挑戦的なことを言ったため引かず、
「……… ユウハと申します」
と何を言われるのか身構えています。
白雪はユウハの言葉に対して何も言わず、ゼン王子はどちらに? とだけたずねます。
白雪は堂々としています。
白雪に構えていたユウハは自分が恥ずかしくなります。
大部屋の奥ではザクラが白雪とユウハのやりとりを聞いて笑っています。
ザクラはゼンに今の様子に怒っていないのかとたずねます。
ゼンは白雪の受け流した対応に感心しています。
ユウハはゼンが近くにいるのにどうして白雪になにか一言言ってやろうと思ったのでしょうか。
まずいことになるとは考えなかったのでしょうか。
愚かな人物です。
●48
ゼンは白雪を途中まで送ると大部屋を出て行きます。
ゼンはユウハに声をかけます。
あえて、ユウハどの、というゼンに、ユウハだけでなく周囲の者も表情を青ざめます。
白雪は今後、貴族や政務官に会うたびこういう目に遭いそうです。
白雪が薬室に着くとヒガタが話しかけてきて、白雪への対応を変えるべきか聞いてきます。
薬室長とリュウは平常通りのようです。
白雪は王宮に部屋を与えられたことでずっと気を張っていたようです。
何をしても話題になってしまう白雪はこれから大変です。
●49
夜ご飯を白雪とオビが作ることになります。
白雪は酒場料理を、オビは辛い料理を作ります。
ゼンが食事中、明日兄上に呼ばれていると言います。
翌朝、ゼンがイザナ王子から陛下が王位を渡しに戻られると言われます。
イザナ王子が王位を継承します。
四ヶ月後、戴冠式が執り行われます。
続きます。
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